著者
田中 則仁 Tanaka Norihito
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.43, pp.65-75, 2012-03

2011 年は日本企業にとって激動の一年であった。3 月の東日本大震災は、日本企業のみならず、世界経済へも多大な影響と、多くの教訓を残した。さらに、ものづくりの仕組みとして緻密に構築された日本企業の生産体制は、東北地方の生産拠点が影響を受けたこと、その後の復興が思いのほか進まなかったことである。10 月にはタイ中央部での記録的な大洪水で、460 社に上る日系企業が被害を受けて操業が停止した。また国際金融市場では、EU諸国の財政危機に端を発した通貨不安から円買いが進み、2011 年の円平均値は79 円を記録した。この記録的な円高基調は、今後しばらくは続くと考えられ、日本企業にとっては抜本的な国際経営戦略の再構築を迫られている。これらの国際企業環境の変化を考慮しながら、製造業における技術の課題を考察した。特に円高下の日本企業がどのような方向性でものづくりの競争優位を維持していくか、それには技術に込められた匠の技をさらに磨いていくことが必要である。そのための戦略と施策を早急に考察し、官民一体となって取り組むことが急務である。研究論文
著者
小澤 幸夫 Ozawa Yukio
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.39, pp.235-248, 2010-03

ナポレオン支配下のベルリンでフィヒテが1807年12月から1808年3月にかけて行った連続講演『ドイツ国民に告ぐ』は、高校の世界史の教科書などにもしばしば登場する。このため、ともすれば政治的な文章と思われがちだが、実際に読んでみるとそのほとんどが教育に関する内容であり、相前後して書かれた彼の大学論『学術アカデミーとの適切な連携をもったベルリンに創設予定の高等教育施設の演繹的計画』と表裏一体となって、フィヒテの教育論の重要な部分を形作っている。これはフィヒテがドイツの再生は「新しい教育」の導入なくしては不可能であると考えていたことによる。本稿では、時代背景はもとより、『全知識学の基礎』や『現代の根本特徴』といった彼の他の著作、さらにペスタロツチの教育論などとの関係に留意しつつ、主として国民教育論として『ドイツ国民に告ぐ』を読み解いた。
著者
奥野 圭子 Okuno Keiko
出版者
神奈川大学経営学部
雑誌
神奈川大学国際経営論集 = Kanagawa University international management review (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
no.48, pp.157-170, 2014-10

現在、いわゆる世界的な大競争時代であり、世界中の企業が生き残りをかけて基盤、財政力、技術等の国際競争力を拡大しようとしている。これは、わが国の企業も同様であり、市場の低成長下における生き残りをかけた企業戦略の手段としてM&A(Mergers and Acquisitions)も活発化している。 しかし、この活発化にともないインサイダー取引や相場操縦、虚偽記載等のような違反行為も増加した。悪質な場合には、既存の刑事罰で処することができるが、これを科すほどに至らない違反行為が問題となっている。これは、証券市場の公正性と投資者の信頼を著しく害する行為であるにもかかわらず、処分を受けない違反行為者が後をたたないためである。 そこで、国家はこれらの行為を抑止するために、金融商品取引法(以下、金商法)上に行政措置として金銭的な負担を課す課徴金制度を設置し、金融市場、資本市場等の公正性および透明性を確保することとした。これに対し、日本経済団体連合(以下、経団連)等では、課徴金はもともと独占禁止法上で不当利息の剥奪と位置づけられていたため、違反行為抑止を名目に改正毎に厳しくなる当該制度に「かえって萎縮を招く」との批判の声が高まっている。 本件は、金商法の課徴金制度について示された初の司法判断である。このため、本件に関する一連の司法判断を追うことによって、金商法上の課徴金制度の立法目的、目的遂行のための手段等が明確となるであろう。その上で、金商法上の課徴金納付命令の違憲性についての考察を試みる。判例評釈
著者
大田 博樹
出版者
神奈川大学
雑誌
国際経営論集 (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.79-89, 2008-10

本稿では、CSR報告書の保証の現状について調査するとともに、今後の課題について考察することを目的としている。まず、CSR報告書における保証を「自主審査」と「第三者意見」、「第三者審査」に分け、それぞれの特徴について整理した。そして、環境配慮促進法により特定事業者に指定されている独立行政法人の環境報告書の内容と保証の有無について考察した。また、一般企業のCSR報告書では、環境省と財団法人地球・人間環境フォーラムが主催する「環境コミュニケーション大賞」を受賞した報告書の保証の有無と内容について検討した。以上の調査から、CSR報告書における保証システムは報告書の内容の信頼性を高めるレベルには達していないことが明らかとなった。その背景には、まず、報告書の内容が広範に渡っている事が挙げられる。そのため、CSR報告書に対して保証を行う場合には、広範囲な知識が要求されることとなり、報告書全体の保証が難しくなっていると言える。第二に、保証を行うための社会的なシステムが整備されていないことも指摘できる。特に、実務では利害関係者と報告書作成組織、保証付与人との間で合意された基準が必要になるため、今後の議論が必要になると思われる。そして、第三に情報利用者側が求める「保証」と保証付与者の「保証」には少なからずギャップが存在している点が指摘できる。第四には、保証水準の曖昧さがある。CSR報告書の保証について明確な判断基準がないという問題がある。CSR報告書の信頼性を高めるためには、まず統一された報告書を作成することが重要で、その後、第三者意見と第三者審査の違いを理解し、それぞれの強みを生かした保証業務を行っていくことで、保証システムが有効に機能すると考えられる。