著者
戒能 民江
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.18, pp.9-25, 2011-10

生活社会科学研究会・ジェンダー研究センター・花経会共催 2011年度 生活社会科学研究会シンポジウム(2011年6月4日開催)戒能民江先生講演
著者
鈴木 亜矢子
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.22, pp.65-77, 2015-11

本稿では,職場で旧姓通称使用する女性20 人への半構造化面接による聞き\取り調査を基に,近年の夫婦別姓の位相の一端を明らかにする.選択的夫婦別\姓制度の法制化が実現しない一方,職場での旧姓通称使用が拡大している.当\事者への調査により,対象者は社会規範に沿う形で結婚改姓し,職場の慣習に\倣う形で旧姓通称使用することで,意図せずして二つの姓を持つに至っている\ことが明らかになった.別姓実践者の社会的承認のために,選択的夫婦別姓制\度が導入されるべきであることは言うまでもないが,同時にジェンダー不平等\な法制度一般を改革していくことが重要である.
著者
大山 彩子
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.22, pp.79-88, 2015-11

ヨーロッパにおいて「多文化主義は失敗であった」という声が高まっている\が,多文化主義に関する議論は現在も続いており,現代社会において文化的多\様性をどう受け入れていくかを検討することはますます重要になってきてい\る.本論の目的は,欧米で出現し発展してきた多文化主義のコンセプトを概観\し,多文化主義的政策の動向を探ることである.多文化主義は文化的多様性へ\の社会的・政治的姿勢を示すものであり,使われている文脈ごとに理解するこ\とが重要なコンセプトである.それゆえ本論は,イギリスにおける多文化主義\と多文化主義的政策の動向について注目した.\ イギリスの多文化主義は,戦後の旧植民地からの大量の移民流入により急速\に広まった人種差別を減らす解決策として導入された.しかし,イギリス国内\で異なる民族間の衝突が引き金となって起こった2001 年の暴動と,欧米での\相次ぐテロ攻撃を契機に,非難の対象へと変化した.「多文化主義は失敗であっ\た」という批判言説が形成されたが,「イギリスの多文化主義」が明確に定義\されてきていないこと,多文化主義的政策が社会問題をつくりだしたという証\拠がないことなどから,この批判言説に異を唱える学者もいる.\ イギリスの多文化主義議論の中心となるマイノリティグループは,戦後の旧\植民地からの移民と彼らのイギリス生まれの子孫で形成された「エスニック\マイノリティ」である.多文化主義への懸念が高まっているが,イギリス政府\は「人種関係アプローチ」を基盤とした多文化主義的な政策から撤退すること\なく,そうした政策に加える形で,民族間で分断されてしまっているコミュニ\ティ間のつながりや新規移民を主流社会に統合させることを重視する「市民統\合」アプローチをすすめている.\ 人種問題と密接に関係しているイギリスの多文化主義や,その他の国々にお\ける多文化主義から学びつつ,「日本の多文化主義」を考えていくことが重要\である.また,イギリスを含むヨーロッパの多文化主義にとって最も難しい課\題の一つはイスラム教徒への対応だと言われている.異なった文化や価値観を\持つ人々と一緒に暮らしていくよりよい方法を考えていくために,さらなる研\究が求められている.
著者
安藤 藍
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.23, pp.17-30, 2016-11

本稿は,里親が通常18歳までの満期措置委託期間を過ぎた元里子との関係を\いかに再編・調整し,意味づけているのか,その経験的世界から明らかにする\ことを目的とした.分析には,元里父母10名を対象とした半構造化インタビュー\調査による語りをもちいた.分析の結果,措置委託解除には,責任の終わる区\切りと捉えられる場合がある一方,基本的には今後の関係継続を見越した通過\点という見方がなされていた.本調査において元里親は,元里子との関係調整\にあたり,子どもの経済的・生活や精神的自立を主に基準としており,元里親\たちはそれに至るまで可能な限りの支援をおこなっていた.元里子の現状はさ\まざまであり,元里親子の意向があわず再編のすすまないケースもあった.し\かし元里子の現況にかかわらず,元里親たちは子どもとの間になんらかのつな\がりを感じており,独自の意味づけがみられることを確認した.
著者
小檜山 希 KOBIYAMA Nozomi
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.19, pp.25-33, 2012-10

子育てへの時間配分が大きいと考えられる12歳以下の子どもを持つ25歳から45歳の有業有配偶女性を対象として収入と就業形態を分析し,特に無職経験が\あっても収入を高める要因を考察した.\無職経験をもつものは約8割が非正規であり,年収も7割弱が130万円以下であった.また,無職年数が増えるに従い,正社員割合,大学・大学院卒割合は減少していた.\年収関数の推計を行ったところ,正社員となることが年収を高める大きな効果となっていた.無職経験者を分析すると,無職期間の長期化は年収の引き下\げ効果を持っていた.また,勤続年数が長いことは年収を増加させる効果をもっていた.このため無職経験者の収入向上には,正社員として勤務すること.途切れた場合は無職期間を短くし勤続を伸ばすことが有効と考えられる.
著者
大山 彩子
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.19, pp.15-24, 2012-10-31

急速な高齢化と経済的な側面から,外国人労働者への門戸を広げ始めている日本にとって,移民受け入れ国として長い歴史を持っている英国の移民政策は\参考にすべき事例の一つである.そこで本稿では,英国における移民と移民政策の動向を概観し,英国政府が移民にどう対応してきたかを明らかにした.\EU 市民の出入国・就労が基本的に自由であり,多様な人種や民族を抱える英国では「移民」の定義が文脈によって異なり,外国人と日本人の線引きが比\較的はっきりしている日本と比較するのは難しい.英国内で移民政策を論じる上で必ず使われるのは,一年以上住む予定で入国する移民の数であり,出国移民を差し引いた「純移民」は1年間で約25万2,000人(2010年)である.1日あたり約690人の居住者が増えている計算になり,その多さに英国で大きな社会問題になっている.また,移民の多くが英国籍を取得していると考えられている英国では,国内に居住している移民数を「外国籍の者」ではなく「外国生まれの者」の数であらわしており,全人口の1割を超えていると推定されている.\英国の移民政策は主に政治的議論の中で展開してきており,この20年間で入\国管理の焦点は難民認定申請者の制限から高技能労働者の受け入れへと変化し\た.現連立政権(2010年~)は労働・留学・家族を理由とした移民の分類すべてにおいて,非ヨーロッパ国出身の移民の入国規制を実施している.また,61万8,000人(2007年)の非正規の移民が英国にいると推定されており,国民の政府への不信感につながっている.人の国際移動が世界的現象となっている現在,入国規制ばかりでなく,どのように移民を社会で受け入れていくかを含めて移民政策を論じていくことが重要である.まだ議論は始まったばかりであり,今後の展開が注目される.
著者
橋本 嘉代
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.19, pp.1-14, 2012-10

日本では1990年代後半に少子化が社会問題となり,政府は父親・母親が育児に共同参画すべきという啓発・広報活動に力を入れ始めた.その後,2005年か\ら2006年に,育児期の男性を対象とする雑誌の創刊ブームが起こった.仕事中心の生活をしてきた自らの父親とは異なり,私的領域を充実させるという新たな生き方を求められ始めた男性たちに向けて,それらの雑誌では,父親が家族と過ごす休日を楽しむための情報や家族関係,子どもの教育などの情報が提供されている.これは出版産業において父親という新たなオーディエンスが出現したということといえる.父親たちはメディアサービスの消費者であるが,それと同時に,出版社によってその属性が細かく把握され,広告主に売り渡される「商品」でもある.\本研究では,現在,育児期の男性を対象とする雑誌でどのような言説が商品として流通し,また,どのような父親像がオーディエンスとして商品化してい\るかを,4つの雑誌の編集方針と2007年・2009年・2011年に発行された号を対象とする言説分析を通じ,明らかにしようと試みた.その結果,これらの雑誌の言及分野は「教育・しつけ」と「消費・遊び」に二分化され,「教育熱心な父親」「消費を楽しむ父親」がオーディエンスとして商品化される傾向が強いことが明らかになった.\しかしながら,父親たちは,「娯楽サービスの消費者かつ広告主に売られる商品」というだけではなく,育児に関与したり父親としてライフスタイルを楽しむという文化生産活動を行う主体でもある.日本の男性の育児休業取得率は国際的にみれば低水準であるが,2011年度は2.63%と少ないながらも過去最高値を示している.また,できれば育児休業を取得したいと希望する父親が多いという調査結果もある.理想と現実のギャップを埋めるのには時間がかかるかもしれないが,メディアが文化レベルで「育児する父親」のロールモデルを描き続けることが,父親たちの行動を後押しすることにつながると思われる.In the late 1990s, with Japan's declining birth rate becoming problematic, the Ministry\of Health, Labour and Welfare conducted a PR program to change public sentiment on parental responsibilities and began to promote a philosophy that embraced cooperation\and equality of responsibility. Then, from 2005 to 2006, a variety of new magazines\targeted at men raising children appeared in response to a new trend of focus on work-life\balance. In contrast to the situation of their forefathers, who were tied up with work, this new generation of men found enrichment in their personal lives and came to follow the lifestyles and emulate the role models presented in such magazines and other publications. In this way, fathers became a new audience created by media companies. Readers of these magazines became media service consumers and a commodity among primarily advertising-funded media.\In this research, I analyzed articles from four magazines on fatherhood aimed at men\with children to determine what kind of role models the media presents to males of this\generation, who are redefining themselves in today's modern era. In previous research, it\was discovered that the main focus of modern fatherhood in the media seemed to be on\magazines specializing in education at home. However, the results of this analysis showed\that other topics, such as leisure-time fashion for young fathers and information about playing with children are now given increasing focus. This audience as a media-created commodity is thus divided into two patterns ‒ fathers enthusiastic about education for their kids, and fathers who enjoy leisure-time consumption with their families. Although fathers are not the only commodity audience, they can enjoy leisure time with their families and relish childrearing.\The percentage of men taking paternity leave in Japan reached a record high in 2011 -\although this "high" was only 2.63 percent. According to an NPO survey, many fathers\would like to take longer periods of such leave. Against this background, it can be said\that the media is capable of bringing about a change in the actual activities of fathers by\presenting role models of those who value their families at a certain level of culture.
著者
中川 まり
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.25, pp.65-74, 2018-10

本研究の目的は,日本における未就学児をもつ妻を対象に,IT を利用した夫との子育てに関するコミュニケーションや情報検索が,子どもの教育に関する意思決定にどのような影響をもたらしているかについて,韓国・米国との3 か国比較を通じて明らかにすることである.方法はインターネット調査であり,対象となった妻は,日本1194名,韓国1021名,アメリカ1001名である.パスモデルによる多母集団分析の結果,日本の妻は,夫との子育てに関するメール・SNS でのIT コミュニケーションが多いほど,子どもの教育に関する意思決定を夫もより多く行うが,この結果は韓国と米国でも同様であった.また子どもの教育の意思決定は,日本だけが約6 割以上の夫婦で主に妻が行い,韓国と米国では日本より夫も意思決定を行っている.そして日本と米国では,収入が多い妻は,IT を仕事と子育ての両立のための道具としていることも明らかになった.本研究から日本の妻は,意思決定を含め,夫が子育てにより参加するようにIT を活用していることが示唆された.This study examines how wives' use of IT for the purpose of communication with theirhusbands and information gathering purposes is related to couples' decision-making about childrearingacross three countries; Japan, South Korea and the United States. The data werecollected from web questionnaire in 2016- 2017. As a result of the path analysis, wives' use of IT,through smart-phones, cell-phones and personal computers, can influence couples' decision-makingabout their children's education in Japan, South Korea and the United States. Especially over 60%of Japanese wives with preschoolers mainly make decision about child-rearing and only 30% ofU.S. wives make decision about it. It is speculated that wives in Japan use IT to make theirhusbands participate in child-rearing.
著者
市川 恭子
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究 (ISSN:13410385)
巻号頁・発行日
no.22, pp.31-46, 2015-11

本稿では,若年大卒女性の早期離職に就業上の学歴ミスマッチが影響し\ているのではないかとの問題意識のもと,Research into Employment and\Professional Flexibility(REFLEX)調査の個票データを用いて 比例ハザー\ドモデルによる実証分析を行った.学歴ミスマッチは,個人が達成した学歴\(S)と従事する仕事にふさわしい学歴(R) を比較して,S=R であればexact\match,S>R であればovereducation,S<R であればundereducation と定義\される.2000 年度に大学・大学院を卒業し,正社員として就職した初職の在\職期間を被説明変数とし,説明変数にovereducation/undereducation 等学歴\ミスマッチ変数,有効求人倍率(時間依存変数)等を入れて推計したところ,\以下のことが分かった.① overeducation は離職ハザードを引き上げる,②\overeducation の離職ハザード引上げ効果に男女差はない,③大卒女性につい\ては卒業前の就職活動期間が長い(短い)と離職ハザードを引き下げる(上げ\る).ただし,②は大卒男性もovereducation で離職が促進されるが,男性は\overeducation であっても大学の専攻関連の仕事に就くことが多く,その場合\離職は抑制され,結果として男性の離職率の方が女性より低い.③は長い就職\活動を経て就職した大卒女性の離職確率が低いことは一見好ましいようにも\思えるが,そうした若年大卒女性の職場環境は収入も低く,満足度も低い.\ これらのことから,若年大卒女性の早期離職については,正社員であったと\しても大卒レベルの仕事に就けずovereducation であると離職する.また,若\年期には離職確率を抑制しているが長い就職活動を経て就職した若年大卒女\性は厳しい職場環境により中長期的な離職予備軍となる可能性,短期間の就職\活動で就職したものの離職した場合,その後成功している訳でもないため,若\年大卒女性の適切な配置・処遇及びマッチング機能の強化が必要である. This paper analyzes the question whether educational qualification mismatch between attained\and required for the job causes on early job turnover of young females with university degree or not.\Employing person unit data of" Research into Employment and Professional Flexibility( REFLEX)",\we utilize Cox's proportional hazard model. The educational qualification mismatch is defined as\follows:" exact match" if attained educational qualification(S) = required educational qualification for\the job( R)," overeducation" if S > R," undereducation" if S < R. We employe the job tenure of the\first permanent job after university graduation as a dependent variable and educational qualification\mismatch variables including overeducation/undereducation , jobs to applicants ratios as independent\variables. We find that overeducation increases job turnover hazards. This effect causes both for\males and females, then there is no gender gap. In case of male's overeducation, however, they tend to\find jobs which relate to their university's major. Turnover is braked in such cases, male's turnover\hazard is lower than female's one as a result. We also find that female's longer job search terms\before university graduation decreases job turnover hazards. It might be preferable at first glance,\however, wages and job satisfaction of young female university graduates with longer job search terms\are low. These findings conclude that overeducation causes the early job turnover of young females\with university degree. Young females who experienced longer job search terms could turnover in the\future due to low wages and job satisfaction. It is necessary to encourage appropriate personal division\of females and enhance job matching mechanism.