著者
八木 尚志
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.51-59, 2010-10-31 (Released:2015-04-04)
参考文献数
13

スラッファの体系では,労働量で測定された価格というものを考えることができる.それに対して,産業連関表は金額表であり,その価格は貨幣の単位で測定さ れている.本稿では,第1にスラッファ体系の特徴を不変の価値尺度としての特徴に着目し労働量を単位として測定される価格として説明する.第2に,労働量 での数量把握を行うスラッファ体系と貨幣評価の産業連関表(I-O 表)の関係を説明する.そして最後に,スラッファ体系を用いた労働生産性の測定方法と I-O 表への拡張について説明する.
著者
宍戸 駿太郎
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1-2, pp.24-29, 2010-06-30 (Released:2015-03-28)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

リーマンショックに始まる今回の世界同時不況は,国際的なマクロ経済政策の疾患と経済学自体への重大な不信を招く結果となった.原因は金融工学手法の暴走 や過剰流動性と世界通貨システムの不安定性にとどまらず,各国政府の経済情報システムの根幹となるマクロ計量モデルの基本システムにも問題がなかったか? 主流派のマクロ経済理論に対するマネタリズムの反革命がいかなる効果を及ぼしたのか?など.21世紀の新しい世界環境にふさわしいマクロモデルの供給や技術サイドの構造を重視するレオンチェフ型モデルとの連結の可能性など,今回本学会の代表的メンバーの方々による自由な討論が行われた.その結果を私なりに整理し,所見を述べたものが以下の小論である.広く本学会の方々にこの分野での論争が巻き起こることを期待したい.
著者
木地 孝之 水谷 昌紀 伊澤 岳 植野 利隆 江幡 光範
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.4-16, 2003-06-25 (Released:2015-03-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

プロ野球日本ハムファイターズが本拠地を東京から札幌に移転することになったが,移転成功の条件は何か,成功すればどの程度の経済効果が期待できるのかを,札幌市産業連関表を利用した生産波及分析を交えて検討する.本稿は,慶應大学の学部学生による分析であり,分析手法は基礎的・一般的なものであるが,福岡ダイエー・ホークスとの徹底比較を行うなど,学生らしい楽しい内容となっている.
著者
近藤 里恵
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.3-10, 2007-02-28 (Released:2015-03-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1

消費税は導入当初から効率的な間接税であるという了解があったように思われる.しかし現行の日本の消費税には「輸出のゼロ税率」や「資本形成による消費税の還付」の制度がある.ある産業において他の産業よりも多く投資がなされる場合,多くの還付がなされ,どの課税財に対しても定率の従価税という消費税の性質が保存されない可能性がある.よって消費税の実効税率を求める必要性が発生する.これら還付制度を考慮したとき,消費税は効率的と言えるのであろうか.これを消費税の実効税率を求めることによって明らかにすることを本稿の目的とする.実効税率の導出は,入谷(2004)の課税前価格を産業連関論における価格方程式によって計算する手法でなされている.
著者
石川 良文
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1-2, pp.3-17, 2016-01-31 (Released:2016-03-10)
参考文献数
43
被引用文献数
2 5

我が国で初めて地域産業連関表が作成されてから半世紀以上が経過し,現在では比較的大きなブロック単位から市町村レベルまで数多くの地域産業連関表が整備されるようになった.この状況は地域産業連関分析の発展と実際の政策分析ニーズに応えるために喜ばしい状況であると言える.しかし,今後永続的に地域産業連関表が作成され,各方面で活用されるためには今一度その作成の経緯と実態を明らかにし,今後の産業連関表作成の課題を検討する必要がある.本稿では,全国の都道府県,政令指定都市に対して行った実態調査を踏まえ,地域産業連関表の整備状況を概観すると共に今後の作成上の課題を検討する.
著者
シェフォールト ベルトラム
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.33-50, 2010-10-31 (Released:2015-04-04)

本稿では,生産価格と労働価値との関係がいかにケンブリッジ(カルドア,パシネッティ,ロビンソン)の蓄積論および分配論の基礎となっているかということ が示される.最後に,私見ではあるが,どの点で,ケンブリッジの理論がマルクス経済学の理論をさらに発展させることができ,逆に,どの点でマルクス経済学 の理論が,ケンブリッジの理論を前進させることができるのかが,示唆される.(原著「マルクス経済学とネオ・ケインジアンの蓄積論における価値と価格」*)の序文より)
著者
シェフォールト ベルトラム
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.17-32, 2010-10-31 (Released:2015-04-04)
参考文献数
5

発展した資本主義的諸関係のもとで生産された諸商品の価格は,長期的平均では,これらの商品のうちに技術的生産物として体化した労働時間,つまりそれらの 商品の労働価値に比例するという仮説を,労働価値説と理解するならば,偉大な巨匠であるスミス,リカードウ,マルクスのいずれもが,労働価値説を真とは考 えなかったことになる.その一方,ある商品の長期的平均価格を,その商品のうちに体化した労働時間と数学的に関連づけようとする試みとして,労働価値説を 理解するならば,新古典派の創設者であるマーシャルでさえも,労働価値説の信奉者ということになる.混乱を避けるために,以下で労働価値説という場合に は,たえずマルクスの価値論が念頭に置かれる.そこでは,いわゆる転形問題が関わってくる「量的側面」は,いくつかある側面の1つに過ぎない.本稿では,生産価格と労働価値との関係が,ピエロ・スラッファにならって展開される.(原著「マルクス経済学とネオ・ケインジアンの蓄積論 における価値と価格」*)の序文)
著者
筑井 甚吉
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.58-64, 1991 (Released:2015-08-29)
被引用文献数
1

「2000年の日本」等の政府の長期見通し作業にも使われているターンパイク・モデルは,その基礎理論からモデルの構築と経済念頭庁を中心とした実用化研究に至るまで,わが国で開発された数少ない国産の経済分析手法であるが,その内容は必ずしも一般には知られていない。そこで,本稿ではターンパイク・モデルの意図するところと内容とを簡単な計算例を示して,できるだけ平易に解説することを試みる。
著者
新井 園枝 佐藤 満
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-21, 2011-02-28 (Released:2015-04-04)
参考文献数
4
被引用文献数
2 2

平成17年地域間産業連関表は,公式には平成7年表以来,約10年ぶりの公表となった(平成12年表は試算地域間表として個人作成).地 域産業連関表は地域振興・活性化の定量分析を行う上で欠かせないツールであり,平成17年表についても全都道府県で作成されているが,ここでは経済産業局管区の9地域区分による地域間産業連関表の作成方法と分析事例(ケーススタディ)を紹介 し,より一層の理解と啓蒙の一役を担えれば幸いである.
著者
猿山 純夫
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1-2, pp.53-62, 2010-06-30 (Released:2015-03-28)
参考文献数
11

財政出動は景気底上げにどの程度,寄与するのか.従来,どちらかと言えば懐疑的な見方が増えていた財政政策の効果を,マクロ計量モデルによる「政府支出乗 数」の計測値に着目して考える.内閣府(旧経済企画庁)モデルや,筆者が推計に関わっているマクロモデルを例にとり,現在および過去の乗数がどのように算 出されてきたかを確認,それと日本経済の変化がどのように関係しているか考察する.さらに,財政支出追加を「継続」した場合の3年後,5年後までの中期的な影響についても検討する.それらを踏まえて,財政出動のあり方について私見を交え簡単な整理を試みる.
著者
倉林 義正
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.3-14, 2008-10-31 (Released:2014-10-09)
参考文献数
26

小論は,かつて筆者が国連本部統計局(UNSO)に在勤し,1993SNA の初期段階における作成作業に携わった経験に基づいて,その作成作業の経過を,当時のSNA をめぐる各国の研究状況に照らして考察した回想の記録である.筆者とSNA の関わりを述べる導入(第1節)に続いて,第2節では,1993SNA を作成するためのさまざまな準備作業とその問題点が,また第3節では,具体的な作成作業の展開とそれに伴う問題点が考察される.結びの第4節では,今後の改定作業との関連で発生すると予想される未解決の問題を指摘する.この小論は,図らずも去る10月18日に急逝した(以下の考察でしばしば登場する)Michael Ward 氏との30年に余る交友の思い出と追悼のために捧げられる.
著者
宍戸 駿太郎
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.3-4, 2011-06-30 (Released:2014-08-09)
被引用文献数
1
著者
木地 孝之 水谷 昌紀 伊澤 岳 植野 利隆 江幡 光範
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.4-16, 2003
被引用文献数
1

プロ野球日本ハムファイターズが本拠地を東京から札幌に移転することになったが,移転成功の条件は何か,成功すればどの程度の経済効果が期待できるのかを,札幌市産業連関表を利用した生産波及分析を交えて検討する.本稿は,慶應大学の学部学生による分析であり,分析手法は基礎的・一般的なものであるが,福岡ダイエー・ホークスとの徹底比較を行うなど,学生らしい楽しい内容となっている.
著者
辻村 和佑 辻村 雅子
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.71-80, 2007-06-30 (Released:2015-03-25)
参考文献数
20

レオンティエフによって考案された産業連関表が,国民経済計算体系に推計の基礎を与えていることは良く知られている.これに対して,コープランドが提案したマネーフロー表が,SNA の表象形式に重要な基礎を与えているという事実は,あまり認識されていない.初学者に93SNAの表象形式が一見複雑に見えるのは,これがモノではなくマネーをもとに発想されているからにほかならない.そこで本稿においては,マネーフロー表の構想を特徴づける重要な論点,すなわち制度部門別勘定,バランスステートメントと複々式記帳,現金主義と取得価額主義に焦点をしぼり,この3つの観点から現行の93SNAの表象形式を再検討する.
著者
久保庭 眞彰 志田 仁完
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.14-34, 2016-12-25 (Released:2016-12-27)
参考文献数
16

国際的なサプライチェーン・アウトソーシング・垂直貿易の進展による世界的規模の中間財貿易興隆を背景にして,WTO・OECD等の国際機関はこの数年間に共同してグローバル・バリューチェーン論すなわち付加価値貿易論の急成長を先導してきた.粗産出・粗輸出から付加価値への視点転換は,新たな器のもとに,産業連関分析の世界的なルネッサンスをもたらした.この連載では,付加価値貿易論のABC から進んだ応用にいたるまで順次平易に説明する.付加価値貿易論は,専門家の間でも十分に確立した領域ではないので,解説とはいえ,筆者のレンズを通してみた見取図提供の試論であることをあらかじめお断りしておきたい.
著者
近藤 里恵
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.3-10, 2007

消費税は導入当初から効率的な間接税であるという了解があったように思われる.しかし現行の日本の消費税には「輸出のゼロ税率」や「資本形成による消費税の還付」の制度がある.ある産業において他の産業よりも多く投資がなされる場合,多くの還付がなされ,どの課税財に対しても定率の従価税という消費税の性質が保存されない可能性がある.よって消費税の実効税率を求める必要性が発生する.これら還付制度を考慮したとき,消費税は効率的と言えるのであろうか.これを消費税の実効税率を求めることによって明らかにすることを本稿の目的とする.実効税率の導出は,入谷(2004)の課税前価格を産業連関論における価格方程式によって計算する手法でなされている.
著者
黒瀬 一弘
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.60-74, 2010-10-31 (Released:2015-04-04)
参考文献数
33

ルイジ・パシネッティの構造変化モデルは,スラッファとレオンチェフの静学的モデルを基礎にしている.この2つの静学的モデルが「垂直的統合」を可能にし,新古典派に対する代替的なモデルとしてのパシネッティを基礎づけている.本稿の第1の目的は,パシネッティ による垂直的統合の概念を振り返り,構造変化モデルの概観を示すことにある.第2の目的はパシネッティ・モデルを応用した理論的及び実証的研究例を紹介することにある.それらの応用研究の多くが新古典派的モデルから導出し得ない結果を 導いている.これはパシネッティ・モデルの代替的なモデルとしての可能性を示唆している.
著者
藤川 清史
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.35-42, 2002
被引用文献数
1 5 1

日本は1997 年の地球温暖化防止会議(COP3)の議長国になるなど,地球温暖化問題の解決に積極的に関与してきた。その際交わされた「京都議定書」では,日本は温暖化ガス排出の6%削減を公約した。議定書はその実際の運営方法に関して紛糾したが,昨年秋のマラケシュでようやく最終合意をみた。本年6月に議定書は日本でも批准され,われわれも本格的に温暖化防止対策に取り組まなくてはならない。マラケシュ合意では,二酸化炭素の森林吸収分を多く認めてもらったとはいえ,産業界が推進している「自主行動計画」のみでの公約達成は困難であろうといわれる。このような状況で「炭素税導入やむなし」との空気が醸成されつつあるのだが,問題になるのは新税導入の国民受容性である。炭素税の負担については,国民の属する所得階層や居住する地域によって不公平が生じる可能性があるからである。本稿では,産業連関表と家計調査を用いて,どの程度の負担格差が生じるのかを試算してみた。確かに所得階層別・地域別での炭素税負担の格差は大きく,格差緩和のための何らかの租税政策が採用されるべきであることが示唆される。
著者
倉林 義正
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.3-14, 2008

小論は,かつて筆者が国連本部統計局(UNSO)に在勤し,1993SNA の初期段階における作成作業に携わった経験に基づいて,その作成作業の経過を,当時のSNA をめぐる各国の研究状況に照らして考察した回想の記録である.筆者とSNA の関わりを述べる導入(第1節)に続いて,第2節では,1993SNA を作成するためのさまざまな準備作業とその問題点が,また第3節では,具体的な作成作業の展開とそれに伴う問題点が考察される.結びの第4節では,今後の改定作業との関連で発生すると予想される未解決の問題を指摘する.この小論は,図らずも去る10月18日に急逝した(以下の考察でしばしば登場する)Michael Ward 氏との30年に余る交友の思い出と追悼のために捧げられる.
著者
辻村 雅子
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.88-104, 2009
被引用文献数
2

本稿では,サブプライム問題をバランスシートの視点で整理し,これを一覧する統計資料である米国の資金循環勘定をもとに分析している.併せて産業連関分析の標準的な分析手法となっているレオンティエフ逆行列の,資金循環分析における経済学的意味を再確認することも課題である.米国のサブプライム危機という,当初は局所的な問題であったものが,これを放置することで世界的問題に発展するメカニズムを,既存の金融連関表の乗数分析の枠組みの範疇で,単純化して描写する試みである.