著者
藤川 清史
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.35-42, 2002
被引用文献数
1 5 1

日本は1997 年の地球温暖化防止会議(COP3)の議長国になるなど,地球温暖化問題の解決に積極的に関与してきた。その際交わされた「京都議定書」では,日本は温暖化ガス排出の6%削減を公約した。議定書はその実際の運営方法に関して紛糾したが,昨年秋のマラケシュでようやく最終合意をみた。本年6月に議定書は日本でも批准され,われわれも本格的に温暖化防止対策に取り組まなくてはならない。マラケシュ合意では,二酸化炭素の森林吸収分を多く認めてもらったとはいえ,産業界が推進している「自主行動計画」のみでの公約達成は困難であろうといわれる。このような状況で「炭素税導入やむなし」との空気が醸成されつつあるのだが,問題になるのは新税導入の国民受容性である。炭素税の負担については,国民の属する所得階層や居住する地域によって不公平が生じる可能性があるからである。本稿では,産業連関表と家計調査を用いて,どの程度の負担格差が生じるのかを試算してみた。確かに所得階層別・地域別での炭素税負担の格差は大きく,格差緩和のための何らかの租税政策が採用されるべきであることが示唆される。
著者
藤川 清史 川村 匡
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.39-52, 2021 (Released:2021-09-15)
参考文献数
24
被引用文献数
1

近年欧米では文化芸術が成長産業の1つとみなされるようになった.日本でも「未来投資戦略2017」において,文化芸術による付加価値を拡大する方針が示された.また2017年には「文化芸術基本法」が成立するとともに「文化経済戦略」が策定された.これらが日本での文化の経済的評価の契機となり,文化庁内に「文化GDPの推計のための調査研究会議」が設置された.本報告では,UNESCOの文化GDPの推計基準を紹介するとともに,それに基づいた上記会議による日本の文化GDPの推計を紹介する.日本の文化GDPは10兆5,385億円でGDP総額の約1.9%となった.このシェアは米国や英国と比較するとやや小さい,今後は文化GDPの推計法を改善するとともに,文化雇用者や文化商品の輸出入を含めた文化サテライト勘定を推計することにしたい.
著者
森 晶寿 藤川 清史 伴 ひかり 堀井 伸浩 TRENCHER GREGORY 馬奈木 俊介 渡邉 隆俊 王 嘉陽 居 乂義 稲澤 泉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

石炭投融資撤退は,気候変動対策を金融面から推進する手段として世界的に推進されている.従来の研究では,その投資行動変容やCO2排出削減への効果は限定的と評価してきた.ところが石炭火力発電を志向するアジアでは,中国の石炭火力発電投融資を増やし,温室効果ガス排出と中国への経済的従属を増やすことが想定される.同時に,ホスト国が適切な政策対応を取れば,こうした悪影響を抑制しつつ持続可能なエネルギーシステムへの転換を図る機会とできる.この中で本研究は,投資国・ホスト国の金融機関・電力関連産業の行動変容,及び付加価値分配の変化を分析し,石炭投融資撤退のアジアの持続可能性への移行への効果を検証する.
著者
藤川 清史 渡邉 隆俊
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.31-44, 2003-02-28 (Released:2015-06-19)

近年,東アジア地域での自由貿易協定(FTA)を研究する機運が高まっている.そうした状況を背景として,本稿では次の2 つを主な目的としている.1 つは近年注目されているGTAP モデルの概要を紹介することである.自由貿易の経済効果を分析するためには多国間モデルが必要であるが,従来はそうしたモデルの開発には多くの時間と費用をかけねばならなかった.機動的対応のできるモデルがあれば使いたいという,かねてからあった要請に応えるために開発されたものがGTAP モデルである.もう1 つは,このGTAP モデルを用いて,東アジア地域で自由貿易協定が締結された場合を想定して,その経済的効果を予測することである.本稿では関税撤廃の直接効果のみに焦点をあて,FTA 後に予想される生産性上昇効果や資本蓄積促進効果は扱わなかった.そのために,予測される経済効果は大きくはないが,それでも,FTA 締結はグループからもれた域外国の経済厚生を低下させる傾向があること,また,FTA 締結国の数が拡大するほど世界全体の経済厚生も高まることが確認された.
著者
横山 彰 藤川 清史 植田 和弘
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、地球的規模のインフラストラクチャーである地球環境に焦点をあてつつ、環境に負荷を及ぼす人間の諸活動の制御はいかなる経済システムの下で可能になるのかについて考察し、経済システムの中に環境保全のルールを組み込んだ「環境保全型経済システム」を構築するための政策のあり方を明らかにすることである。平成11年度は、本研究組織全員による共同論文"Green Tax Reform : Converting Implicit Carbon Taxes to a Pure Carbon Tax"を完成させ、平成12年8月28-31日スペインのセビリアで開催された甲際財政学会で報告した。この研究では、現行の化石燃料諸税を潜在的炭素税と認識した上で、新たに推計した各化石燃料の需要の価格弾力性に基づき、その税収を変えることなく炭素含有量に応じて課税する純粋炭素税に税率を改変することによって、約1,833万トン炭素を削減できる点を提示した。さらに、税制のグリーン化及び環境・エネルギー関連税制を中心とした環境保全型経済システムの構築において国と地方政府の役割分担を検討し、地方環境税と地方環境保全対策のあり方を考察し、地方環境税の意義を明らかにした。平成13年度は、本研究の最終年度であり、環境・エネルギー関連税制を中心とした環境保全型経済システムの構築を具体化するための研究を取りまとめた。研究代表者の横山と研究分担者の植田は、本年度までの本研究成果を基礎にし、自治総合センター「地方における環境関連税制のあり方に関する研究会」と環境省中央環境審議会「地球温暖化対策税制専門委員会」などの公的な政策現場においても委員として専門的発言をしてきた。また研究分担者の藤川は、産業連関分析による産業構造変化の検討を通して、日本の経済発展と環境負荷について論文をまとめた。