著者
樋口 貞行 角田 元成
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
日本家畜臨床学会誌 (ISSN:13468464)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.51-55, 2007-10-30 (Released:2009-04-22)
参考文献数
5
被引用文献数
2 1

重篤な下痢症に罹患した子牛の救命率を向上させるには下痢症に伴って生ずる電解質・酸塩基平衡異常の改善が重要であるが、黒毛和種子牛に関するこれらの情報は極めて少ない。今回、携帯型の血液ガス分析装置を供試して、生後30日以下の黒毛和種子牛および下痢に罹患している子牛の静脈血の血液ガスおよび血液生化学成分の諸成分を測定した。その結果、健康な子牛では、pHv7.35±0.09、炭酸ガス分圧(PvCO2)60.5±12.5mmHg、総炭酸ガス濃度(tCO2)33.5±3.5mEq/l、重炭酸(vHCO3-)32.5±3.5mEq/l、Na+136.5±2.5mEq/l、K+4.75±0.65mEq/l、Cl-99.5±3.5mEq/l、過剰塩基(Base Excess;BE)7±4mEq/l、アニオンギャップ(Anion Gap;AG)9.35±2.65mEq/l、BUN9±6mg/dl、血糖114.5±29.5mg/dl、ヘマトクリット(Ht)27.55±10.25%、ヘモグロビン(Hb)9.15±3.35g/dlであった。健康な子牛における血液ガスおよびその関連血液成分の測定値は、下痢症に伴う代謝性アシドーシスに陥った子牛の多くの血液成分値との間に明確な相違を示した。子牛の救急診療あるいは日常診療における静脈血液の血液ガス分析は、臨床的な意義が大きく、また本研究における健康な子牛の血.液ガス諸相の測定値は、黒毛和種子牛における静脈血液の基準値になり得るものと考える。
著者
三浦 萌 福田 稔彦 植木 淳史 池ヶ谷 あすか 池田 亜耶 阿南 智顕 竹鼻 一也 山口 英一郎 金 檀一 佐藤 繁 山岸 則夫
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
日本家畜臨床学会誌 (ISSN:13468464)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.8-11, 2009-04-30 (Released:2013-05-16)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

4ヵ月齢の黒毛和種牛が、2ヵ月齢時より発症した左後肢の跛行を主訴に来院した。症例は患肢を後方に過伸展し、蹄を着地せずに振り子状に動かす特徴的な歩様を呈していたが、疼痛反応はなく、X線所見においても異常は見られなかった。以上の所見から痙攣性不全麻痺を疑い、脛骨神経切除術を行ったところ、速やかに症状の改善が見られ、その後再発もなく治癒に至った。
著者
小川 秀治 伊藤 隆 佐藤 行 鎌田 久祥 安田 有 渡部 満
出版者
日本家畜臨床学会
雑誌
日本家畜臨床学会誌 (ISSN:13468464)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-5, 2006

分娩後における乳清及び血清中免疫グロブリンG(IgG)濃度、豚萎縮性鼻炎(AR)、豚丹毒(SE)凝集抗体価の経時的推移を、母豚24頭を用いて調査した。乳清中IgGは、分娩0日が最も高く、42.5mg/mlと血清IgGの約3倍の値を示した。この後16日までは血清と同レベルで推移し、以降低下し20日で血清の半分になった。乳清中のAR抗体およびSE抗体は、それぞれ分娩後20日、分娩後10日まで検出可能であった。豚オーエスキー病ラテックス凝集抗体を、ワクチン接種豚の乳清38検体、未接種豚の乳清23検体を用いて調査した。ワクチン接種豚の乳清中抗体は分娩0日の9検体全てが陽性を示し、10日後の2検体も陽性を示した。酵素抗体法(ELISA)検査では、凝集抗体陽性の検体は全例ワクチン抗体と判断された。未接種豚の乳清23検体は全て抗体陰性であった。なお、野外抗体陽性6例の検査では、乳清中の抗体は血清と同じく野外抗体と判断された。<BR>初乳は血清と同様の抗体検査が可能であり、初乳を用いた抗体検査は繁殖母豚群の抗体スクリーニングや疾病清浄化に向けて有効な方法と考えられた。
著者
渡辺 大作 阿部 省吾 植松 正巳 阿部 榮 遠藤 祥子 後藤 浩人 小林 隆之 藤倉 尚士 小形 芳美 伴 顕 平野 貴 杉本 喜憲 斎藤 博水
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
日本家畜臨床学会誌 (ISSN:13468464)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.41-45, 2004-11-10 (Released:2009-04-22)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

牛クローディン-16(CL-16)欠損症19頭およびそれ以外の腎不全黒毛和種牛2頭におけるビタミンA(VA)とレチノール結合蛋白質(RBP)の動態および過長蹄の発現について調査した。CL-16欠損症では、1-6ヶ月齢の子牛3頭を除き84%で過長蹄がみられた。CL-16欠損症を過長蹄群と正常蹄群にわけて正常黒毛和種子牛群36頭と比較したところ、過長蹄群ではRBP、VA、尿素窒素(UN)およびクレアチニン(Cre)の有意な増加がみられ、正常蹄群ではVAのみ有意な増加がみられた。RBPはVA、UN、およびCreと有意な正の相関を示し、VAはVA添加飼料が給与される5-13ヶ月齢で著しい高値を示した。腎不全牛2頭(腎盂腎炎、腎低形成症)でも過長蹄がみられ、VAおよびRBPは高値を示した。CL-16欠損症で正常蹄の牛は、若齢または軽度の腎障害であったことから、過長蹄はCL-16欠損症に特異な症状ではなく、重度の腎機能障害の持続により発現すると考えられた。
著者
及川 正明 久保 理江 大浪 洋二
出版者
日本家畜臨床学会
雑誌
日本家畜臨床学会誌 (ISSN:13468464)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.165-168, 2008

極限のスピードを求められるサラブレッド種の競走馬にとって、骨折はレースを続けるかぎり不可避ともいえる職業病と看做されている。事実、日本中央競馬会(JRA)から毎年発行されている競走馬保健衛生年報によると、JRAに所属する競走馬における骨折の発生率は年度は異なっていても、レース中が約2%、調教中が約0.1%の割合で毎年推移していることは、職業病とも呼ばれる所以となっている。またレース中および調教中に発生した全骨折例の中で最も高率な発症部位は手根関節構成骨であった。その内訳は橈骨遠位端、第3手根骨、橈側手根骨の順に多く発症していた。また、手根関節構成骨の骨折の多くは、骨体より小さな骨軟骨片として骨体より離断するタイプの骨折、すなわち剥離骨折であった。我が国において日常的に行われている関節鏡手術の一例、すなわち右橈骨遠位端にチップフラクチャーを発症し、関節鏡による骨片摘出術が行われた一例の経過と予後について紹介したい。
著者
山岸 則夫 入江 陽一 能登 はる菜 浪岡 徹 岡田 啓司 大澤 健司 内藤 善久
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
日本家畜臨床学会誌 (ISSN:13468464)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.16-19, 2006-06-10 (Released:2009-04-22)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

30日齢のホルスタイン種子牛1頭(雄)が、急性に落ち着きなく寝起きを繰り返し、起立時には腹部を蹴り上げるなどの疝痛症状を示した。排便量は少なく、腹部は進行性に膨満し振盪にて拍水音が聴取された。血液一般検査では、白血球数の著しい増加が顕著であった。腹部X線検査では、ガスが膨満しループ状になった小腸が腹腔内全域に観察された。右〓部切開による試験的開腹では、ガスで膨満した小腸が腹腔内に充満していた。触診にて腸問膜根の約180°反時計方向への捻転を確認し、これを用手的に整復した。術後、症例は速やかに回復した。