著者
二木 文明 角田 美穂
出版者
東北文化学園大学医療福祉学部保健福祉学科
雑誌
保健福祉学研究 = Journal of health and social services (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.33-42, 2018-03-31

谷口ジローには"散歩もの"とでも呼びうる漫画がある。たとえば、『歩く人』や『散歩もの』、『ふらり』、『ヴェネツィア』などがそれであり、さらには自然を扱った漫画もこれに含まれるだろう。それら散歩もの漫画の主人公たちは、Balint,M(マイクル・バリント)のいう「フィロバティズム」(散歩などによる、人間不在の広がりへの一体化と充足の志向)の心性を有しているのではないかと考えられるが、作者の谷口自身も同じ心性を持っていたと推測される。しかし、フィロバティズムだけでは人間関係や社会に適応できないため、フィロバット(フィロバティズム的心性の持ち主)は対象や物に対する拘泥という仕方で人生を乗り切っていこうとする。谷口も漫画家となり、当初は細密さと静止性(拘泥の表れ)を特徴とした作品を描き続けていたが、東京郊外への転居をきっかけとして、自らの心の奥に潜む広がりへの志向(フィロバティズム)に気づき、散歩もの漫画を手掛けるようになったことは十分に考えられる。
著者
本田 春彦 仙道 美佳子 高橋 絵理 平田 ちあき 植木 章三
出版者
東北文化学園大学
雑誌
保健福祉学研究 (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.51-61, 2005-03-31
被引用文献数
2

本研究は,身体機能と抑うつとの間にどのような関連があるのかを明らかにするために,宮城県S町に在住する75歳以上の在宅高齢者281人を対象に,面接調査と体力測定を実施した.握力,10M最速歩行時間,UP&GO,開眼片足立,長座位体前屈の体力測定項目や老健式活動能力指標の得点といった身体機能と老年うつ病スケール(Geriatric Depression Scale)の得点に着目し,分析をおこなった結果,抑うつ症状と関連している身体機能は歩行機能であり,また生活機能の低い群は高い群に比べうつ傾向が高いことが明かとなった.また,身体機能の状態を良好に保つことが抑うつ傾向を予防することにつながると考えられた.
著者
西村 愛
出版者
東北文化学園大学
雑誌
保健福祉学研究 = Journal of health and social services (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.71-85, 2006-03-31

近年、知的障害者の自己決定の支援が重要であるという認識がなされている。本稿では、先行研究において、知的障害者にとって自己決定はどのようなものであると定義されているか、その支援方法はどのようなものかをレビューした。また、現場でどのように自己決定が解釈されているかという事例を2つ紹介した。先行研究や事例から明らかにされた問題点は、現在の自己決定支援が障害特性やその結果付随して起こりうる困難を考慮したものではないということである。そのため、援助者と知的障害者との間に権力関係が生み出される危険性があることを指摘した。本稿の結論として、権力関係を打開するためには、援助者が既存の概念を問い直し、自らの障害者観を問うていくことの重要性を示唆した。Recently, We have been recognized that the support of self-determination for the persons with mental retardation is important. This thesis discusses the following development. At first, I reviewed the current thesises of the definition and methods of self-determination for them and introduce the two case of the support. Then I pointed out that the current support is not considered the character of mental retardation. As a result, the power structure is caused between the supporter and persons with mental retardation. To prevent that cases, I suggested that the supporter have to been asked the concept of existing and a view of disabilities on his own.
著者
西村 愛
出版者
東北文化学園大学
雑誌
保健福祉学研究 (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.99-111, 2008

近年、インクルージョンという理念が障害者福祉の分野に浸透しつつある。しかしながら、インクルージョンは具体的などのような実践によって、達成できるのかについて、研究および紹介されたものは少ない。本稿では、インクルージョン実現に向けた「ちょこさぽ」の実践を紹介することにより、知的障害のある人たちが地域で生きるとは何かを考察したものである。「ちょこさぽ」の実践を重ねていくうちに、学生と知的障害者の間に自然な関係ができていった過程を紹介した。知的障害のある本人が参加を希望していても、 「ちょこさぽ」への参加の可否は親に委ねられていることを問題点として指摘した。その課題を解決するためには、知的障害のある子どもの将来の生活について、どのような悩みをもっているかということについて、支援していくべきであると結論づけた。そのような親をサポートするネットワークをつくることは、知的障害のある人たちが親亡き後も地域で生活していくことにつながると思われる。
著者
西村 愛
出版者
東北文化学園大学
雑誌
保健福祉学研究 (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.75-91, 2007

今、知的障害者福祉は大きな変動期にある。1970年代は、大規模入所施設であるコロニーを中心に、全国各地で知的障害者の入所施設が次々と増設されていった施設中心の福祉の時代であった。それから約35年以上経った現在、「重い障害があっても地域で暮らす」というノーマライゼーションの思想がようやく浸透しつつある。しかし、35年前と比較して、地域の基盤整備は整ったものの、親が抱く「親亡き後」の問題は厳然としてある。本稿では、日本全国に入所施設が次々と建設されていった時代から、現在の施設批判および地域生活移行に至るまでの35年間で、「何が変わったのか」「何が変わっていないのか」を明らかにした。そして、未だに家族のケアに依存している問題を指摘し、問題解決に向けて親子を分離して「どのように支援していくか」という視点が重要であると結論づけた。
著者
今城 周造 佐藤 俊彦
出版者
東北文化学園大学
雑誌
保健福祉学研究 (ISSN:13484567)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-11, 2004-03-31

本研究の目的は喫煙行動の規定因の検討であった。計画的行動の理論によれば行動意図は、行動への態度や、主観的規範、統制認知の影響を受ける。本研究では、これらの変数を測定する質問紙調査を行った。対象者は大学生159人(男75、女84)であった。その結果、喫煙への態度には喫煙者と非喫煙者の間に差はなく、両者とも喫煙をむしろ否定的に捉えていた。一方、喫煙者は非喫煙者よりも、重要他者から喫煙を是認されていると感じていた。また喫煙者は喫煙を容易なことと認知するが、非喫煙者はむしろ困難と認知していた。階層的重回帰分析の結果、行動意図と統制認知の間には強い正の相関があった。態度と主観的規範はいずれも行動意図と正の相関を示すが、その関係は弱い。これらの結果は、計画的行動の理論が、喫煙行動の理解と予測に有効な道具となりうることを示す。また喫煙・禁煙に伴う困難さが、分煙・防煙の成否を左右する可能性が示唆された。