著者
川越 聡一郎 森 英一朗 齋尾 智英
出版者
Japanese Society for Thermal Medicine
雑誌
Thermal Medicine (ISSN:18822576)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.31-44, 2021-07-05 (Released:2021-08-05)
参考文献数
71

これまで分子シャペロンは,タンパク質フォールディングや品質管理を担う因子として研究されてきたが,最近は液–液相分離(liquid-liquid phase separation: LLPS)の制御因子としても注目を集めている.本総説では,LLPS制御における分子シャペロンの関与についての最近の報告をまとめるとともに,フォールディング制御因子としての分子シャペロンの作用機序について解説する.物理化学的手法を用いた解析や構造解析によって明らかにされたフォールディング制御メカニズムは,分子シャペロンによるLLPS制御メカニズムを理解する上でも重要な知見を与えると期待される.
著者
黒田 輝 国領 大介 熊本 悦子 ロハス ジョナタン 岡田 篤哉 村上 卓道
出版者
Japanese Society for Thermal Medicine
雑誌
日本ハイパーサーミア学会誌 = Japanese journal of hyperthermic oncology (ISSN:18822576)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.181-193, 2007-12-20
被引用文献数
3

本研究の狙いは, 呼吸性の移動・変形をする肝臓内に設定した治療目標部位に対して, 治療用超音波の焦点をガイドするための磁気共鳴技術の開発である. ここに提案する我々の方法では血管を肝組織の追尾に使うこととした. 自由呼吸下における肝の矢状面におけるシネ画像をフィルタリングすることによって血管断面の重心を求め, それを解析することにより肝組織の並進距離と伸縮距離を解析した. 超音波焦点を置くべき治療目標点を, 血管の瞬時位置に基づいて推定した. 2名の健常ボランティアに対する実験において血管輪郭を描くためには, 空間マトリクスの大きさとして128×128が必要であった. 肝の並進距離は頭尾方向において19.6±3.6 mm, 腹背方向において3.1±1.4 mmであった. 伸縮距離は頭尾方向において3.7±1.1 mm, 腹背方向において3.0±1.2 mmであった. 検討に用いた血管の組み合わせでは, 目標点の実測位置と推定位置のずれが, 頭尾方向で0.7±0.5 mm, 腹背方向で0.6±0.4, 直線距離にして1.0±0.5 mmであった. 生体熱伝導方程式によって温度上昇をシミュレートした結果, 完全に息止めをした場合に較べて, 焦点周囲における肝組織の温度上昇のロスは20%程度であった. これらの結果は, 血管重心位置の実測に基づく提案法が臓器内の特定部位の動的な捕捉と, 加温領域をカバーする温度分布撮像面の追尾に, 十分な能力を有することを示した.
著者
金森 昌彦 佐藤 勉 島 友子 齋藤 淳一 Gabor Andocs 近藤 隆
出版者
Japanese Society for Thermal Medicine
雑誌
Thermal Medicine (ISSN:18822576)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-14, 2021-03-31 (Released:2021-05-06)
参考文献数
40

Modulated electro-hyperthermia(略称mEHT),別名“オンコサーミア”は癌温熱療法における新たな治療法である.mEHTは腫瘍の温度上昇を治療に利用する点は通常のハイパーサーミア(癌温熱療法)と同様であるが,幾つかの異なる特長を有する.例えば,正確なインピーダンスマッチングを図る点,振幅変調した13.56 MHzラジオ波(RF)を用いた容量結合型加温である点,腫瘍内温度はいわゆる“マイルドハイパーサーミア”水準の<42 ℃に維持される点,腫瘍細胞膜に連続的な温度勾配を生じさせる点,等である.これによる細胞膜の不均一かつ非平衡な加温は腫瘍細胞のプログラム細胞死(アポトーシス)を誘発するとされる.また低出力のRFを用いるため火傷等の副作用も少ない.従って,mEHTの治療効果を考える場合には,熱作用のみならず,非熱作用(温度上昇に依存しない)の生物効果を考慮することが臨床的にも重要である.サース教授による“Oncothermia: Principles and Practices”が出版された後にも基礎,前臨床研究および臨床結果が数多く報告された.この総説では,最近の知見をまとめ,mEHTの課題と将来に向けたさらなる臨床応用の可能性について考察する.
著者
高橋 健夫
出版者
日本ハイパーサーミア学会
雑誌
Thermal Medicine (ISSN:18822576)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.171-179, 2007-12-20 (Released:2008-02-13)
参考文献数
42
被引用文献数
2

温熱療法 (hyperthermia) は以前から癌治療の3本柱である外科治療, 放射線治療ならびに化学療法についで直接的な殺細胞効果を持つ治療に位置づけられてきた. 通常43°C以上の加温が実現できるとin vitro, in vivoのいずれにおいても強い抗腫瘍効果を引き起こす. 43°C以上の加温では, 細胞致死に関与する不活性化エネルギーが異なっていることが知られている. 43°C以下での加温, mild hyperthermia単独では細胞致死効果は軽微であるものの, 抗癌剤 (anti-cancer drug) やサイトカイン (cytokine) ならびに低線量率放射線 (low dose-rate irradiation) との併用効果により顕著な増感効果を示す場合が多い. またmild hyperthermiaは局所的に用いても免疫能を高め, 免疫による細胞致死効果を増強させることが明らかになりつつある. 温熱療法の機構は温熱耐性 (thermoresistance) に関わるとされてきた分子シャペロンであるheat shock protein (HSP) が, 実は免疫能を高める役割を果たしていることも明らかにされつつある. 一時は低迷していた免疫療法ならびに温熱療法が, それぞれの組み合わせにより従来考えられていた以上の効果を発揮する治療へと変貌を遂げる可能性を秘めている. また遺伝子学的にも温熱療法のメカニズムが解明されつつあり, 標的遺伝子をターゲットにした温熱併用の分子標的治療の可能性も模索され始めている. 今回は, これらについての現状を解説する.
著者
大栗 隆行
出版者
日本ハイパーサーミア学会
雑誌
Thermal Medicine (ISSN:18822576)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.5-12, 2015-06-30 (Released:2015-09-04)
参考文献数
43
被引用文献数
1 5

本邦では1990年より放射線治療併用時にのみ電磁波温熱療法は健康保険適応となり, 1996年以降は保険適応の拡大により全面収載された. 以降, 改定なく浅在性悪性腫瘍または深在性悪性腫瘍に対する一連の加温につき保険点数が設定されている. しかしながら, 電磁波温熱療法は週に1~2回の治療を何度も継続することで効果が発現されることが多く, 経済的・運営面の悪さから本療法が敬遠され普及が阻まれているものと思われる.メタアナリシスまたはランダム化比較試験に基づくレベルIエビデンスとして, 放射線治療との併用で頭頸部癌, 乳癌, 悪性黒色腫, 非小細胞肺癌, 食道癌, 子宮頸癌, 直腸癌, 膀胱癌と多くの疾患群において局所制御率や腫瘍完全消失率の有意な改善が確認されている. 化学療法との併用では, 高悪性度軟部肉腫や肝臓癌においてレベル Iエビデンスが認められる. 全生存率までの有意な改善は, 子宮頸癌と直腸癌では放射線治療との併用において, 高悪性度軟部肉腫では化学療法との併用, 食道癌では化学放射線療法との併用において得られている. 近年, 他の癌腫においても有望なPhase II studyの結果が, 温熱化学療法や温熱化学放射線療法において報告されている.本稿では, 診療報酬改定の根拠となりうる上述の温熱療法の臨床試験の概要や, 現在進行中の温熱療法の臨床試験に関し概説する.
著者
武田 力 高橋 徹 山本 五郎 長谷川 武夫 武田 和 武田 寛子
出版者
日本ハイパーサーミア学会
雑誌
Thermal Medicine (ISSN:18822576)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.11-16, 2012-03-20 (Released:2012-05-21)
参考文献数
9
被引用文献数
2

第28回日本ハイパーサーミア学会大会においてシンポジウム, 温熱の免疫科学 (基礎と臨床) が開かれた. その内容をもとにまとめられた4論文の一つである. 臨床 : 6年間に1,386例の進行再発癌患者に温熱または免疫療法を行った. ハイパーサーミアを1,307例に, 活性化リンパ球を995例に, 樹状細胞を689例に施行した. 評価可能な1,307例のうち臨床的有効例 (CR+PR+longSD) は188例 (14.0%) で完治例は35例であった. 免疫療法の臨床的有効率は, ハイパーサーミアを併用することにより8.1%から17.9%にあがった. もっとも効果のあったのは樹状細胞療法と活性化リンパ球とハイパーサーミアを併用した群で20.5%であった. 基礎 : マウスにLLC腫瘍を移植したのちハイパーサーミアと活性化リンパ球とその双方で治療する3群で腫瘍の増殖と肺転移数を比較したところ, ハイパーサーミアと活性化リンパ球単独でも抑制されるが双方を併用した群では相乗的な抑制がみとめられた. 次に同じ実験系で分子標的治療物質 (erlotinibとsorafenib) を与える群とハイパーサーミア群で比較したところ, 腫瘍増殖および肺転移数いずれにおいても, 分子標的治療物質単独群とハイパーサーミア単独群より, 両者を併用した群で抑制が強かった. また同時にアポトーシスの誘導も併用群で増強していた. 臨床データおよび基礎実験において温熱療法が癌に対する免疫療法を増強することが示された.