著者
富田 純一 藤本 隆宏 賀来 高志 宇佐美 直子 菊池 嘉明 石原 弘大 藤田 大樹 吉田 敏
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0200417a, (Released:2020-08-20)
参考文献数
11

本稿の目的は、野村不動産株式会社が手掛けた「Premium Midsize Office」と呼ばれるオフィスビルの開発事例分析を通じて、同社の戦略形成プロセスを検討することにある。同社は、1フロア1テナントという中規模サイズでありながらハイグレードなオフィスビル市場をいち早く開拓した。同社はなぜそうした潜在市場を掘り当てることができたのか。事例分析の結果、同社の創発的な戦略形成プロセスが明らかにされる。
著者
藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.18-28, 2020-06-20 (Released:2020-08-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1

日本の経営学者や経営学界は,米国発のグローバル経営学プラットフォームや論文点数主義にどう向き合うか.私見を述べる.⑴一経営学者の存在理由は「良いメッセージの発信」であり,海外ジャーナルからの発信はその重要な一部だがすべてではない.⑵日本の経営学界は,一方的なローカル路線でもグローバル標準化でもない,グローバル・ローカル混合式へ進み,その一部が有力ジャーナル経由のグローバル発信を目指せばよい.⑶有力ジャーナル挑戦はいわば高峰登頂なので,アタック隊・サポート隊・ベースキャンプなど学界も関与する組織的な仕掛けが必要.また言語の壁,方法論の壁,ローカルデータの壁などに対する周到な対策も大事である.
著者
藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0190416a, (Released:2019-08-08)
参考文献数
42

本稿では、工場、開発拠点、店舗、サービス拠点など、付加価値が流れる場所及びその組織を広義のものづくり現場 (以下「現場」) と規定し、ひとつの現場、たとえばある地域に立地した工場の生成・発展・持続・衰退・消滅などの動態を長期的に分析する「現場史」の可能性を探索的に論じる。まず歴史的分析としての現場史の特徴 (空間的・時間的限定性、多面性、創発性、学際性) を指摘し、それが、必ずしも産業史や企業史 (特に大企業の社史) には還元できない独自の学術的価値を持つ可能性を指摘する。次に、地域に根差す社会的存在でもある現場が、資本主義的な利益最大化企業とは異なる目的関数系を持つ経済主体である可能性を論じ、特に冷戦後のグローバル競争時代において、高賃金先進国である日本の貿易財系の生産子会社や中小企業の多くが、「現場指向企業」として、現場自体の存続と雇用維持を目的とした生産性向上や需要創造の継続的努力を行ってきた歴史的事実を確認する。これは、この時期に一部の大企業が低賃金国への生産シフトを加速化しようとしたのとは対照的な産業行動であった。それを踏まえ、新興国との極端な国際賃金差が存在したポスト冷戦期が終わりつつある2010年代に、冷戦終結後の日本の国内現場あるいは「現場指向企業」を対象とした「現場史」を研究することの意義を強調する。また、現場史の前提となる「現場」の多面性、主体性、能力構築努力、需要開拓努力など、現場の諸特性を論じ、最後に、ポスト冷戦期を含む現場指向企業に関する具体的な略史の事例をいくつか手短かに紹介する。
著者
藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.30-37, 2019-06-20 (Released:2019-10-30)
参考文献数
15
被引用文献数
2

経営学における高質な研究の特徴について考察する.例として,イノベーション研究の初期の代表的成果であるマイヤーズ=マーキス研究(米MIT)とProject SAPPHO(英サセックス大学)を取り上げる.これらは一流学術雑誌論文でもベストセラー書でもないが,一領域を切り開く嚆矢的論文であった.また,多数のケースをコード化して統計分析を行う「中数研究」でもあり,データ収集自体の価値が高いことが1つの特徴であった.
著者
藤本 隆宏 延岡 健太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.43-55, 2006-06-20 (Released:2022-08-05)
参考文献数
30

企業間の競争力差の内実を根本から解明するためには,経営戦略論と技術・生産管理論の連携が望ましいが,現実には空隙が生じている.これを埋める一策として,「組織能力」概念を中核においた「長期継続的なデータ収集に基づく定量的・定性的実証分析」が有効だと論じる.例として,筆者らが20年以上続けてきた「自動車製品開発国際比較調査」を示し,組織能力の具体的中身や発生過程の動態を理解するには,長期間の測定や定点観測が不可欠だと主張する.継続は力である.
著者
藤本 隆宏 前川 諒樹 岩尾 俊兵
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0180315a, (Released:2019-02-15)
参考文献数
36

本稿は、産業競争力の概念を明らかにした上で、生存時間解析のシミュレーションによって、産業競争力の類型と発現過程に関する洞察を得ることを目的とする。ここで競争力とは「選ばれる力」と定義され、「収益力」「表の競争力」「裏の競争力」という多層的な競争力の構造が示される。次に、広義のものづくり論にもとづき、「産業」を同類の設計の製品の集合体、あるいはそれを生産する現場の集合体と規定する。以上の概念規定をおこなった上で、国内・国際競争の軸と競争強度の軸による四つの競争状況についての予想を示し、シミュレーション・モデルによって四つの状況における一定期間競争後の予想生産性分布が再現できることを確認した。さらに、競争強度と現場生存率との間に累積指数分布に近い関係が観察された。また、国際競争における2国の賃金率と現場生存率との関係を調べ、リカード的コスト競争において平均すれば比較劣位な国の現場も「緩やかな競争」では生存可能性が高まるという「越境」現象を確認した。
著者
藤本 隆宏
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.2-19, 2017-02-01 (Released:2022-01-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

本稿では,実態としての産業経済,とくに中小中堅企業を含む戦後日本の製造業において多く観察されてきた「現場指向企業」が,現代の標準的な教科書に登場する利益最大化を目指す資本指向企業とは行動パターンを異にしていることに着目し,企業の「現場指向性」(genba-orientedness)を前提とした簡単な古典派経済学的なモデルでその特性を分析してみる.ここで現場とは付加価値を生む場所であり,地域に埋め込まれ,自らの存続と雇用維持を目指す集団的意思を持ったある種の経済主体である.したがって「現場指向企業」の目的は,利益最大化を指向する教科書的企業の場合とは異なり,①企業の一部としての自らの存続(目標マークアップ率の確保)と,②地域の一部としての雇用量の維持の2つとなる.より具体的には,実際に観察される現場指向企業の行動を抽象化する形で,製品市場と労働市場における価格と数量,すなわち財の価格(P),数量(X),賃金(W),雇用数(N),を4軸とする4象限グラフを作成し.これを「PXNWモデル」と呼ぶ.このモデルは,水平の供給曲線(フルコスト原理を伴う古典派経済学的な生産価格),右下がりの需要曲線(製品差異化を前提とした独占的競争),リカード的な労働投入係数を介したリニアな必要労働力曲線,水平の労働供給曲線,および労働投入係数を介したリニアな賃金・費用曲線が仮定される.次にこのモデルを用いて,現場指向企業が,冷戦期の価格安定状況における生産性向上・賃金向上・有効需要創出を経て,利益率と雇用数という2つの目標を同時に満たすある定常状態から別の定常状態に移行できることを示す.次に,冷戦後のグローバル競争による価格低下状況における現場指向企業も,価格低落・生産性向上・有効需要創出を経て,ある定常状態から別の定常状態に移行できることを示す.要するに,現場指向企業が,一定の利益率と雇用数の確保,及び実質賃金の向上を目指すのであれば,工程イノベーション(物的生産性の向上)と製品イノベーション(有効需要の創出)の両方を行うことが必須であることを,この古典派経済学的モデルは示唆している.すなわち,実際の戦後日本の製造企業の典型的な行動パターンをよりよく描写できているのは,教科書的な利益最大化企業のモデルよりはむしろ,一定の利益率と雇用数を同時に追求する「現場指向企業」モデルである可能性を,本稿は示している.
著者
藤田 康範 藤本 隆宏
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.2-20, 2017-03-01 (Released:2022-01-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本稿では,藤本(2017)が戦後の日本の中小中堅製造業の実態観察に基づいて提起した「現場指向企業」の経済モデルを出発点とし,現場指向企業のうち,生産性向上にも有効需要創出にも能動的に取り組む「積極的現場指向企業」の諸特性を分析する. ここで広義のものづくりの現場(以下「現場」)とは,工場,開発拠点,サービス拠点,店舗など,付加価値が生まれ流れる場所を指し,「現場指向企業(genba-oriented firm)」とは,現場が持つ能力構築能力や存続の意志を重視するゆえに,企業としての目標マークアップ率の確保と,地域の一部である現場の雇用量維持という2つの目標を持つ企業である.そして「積極的現場指向企業(active genba-oriented firm)」とは,現場指向企業のうち,上記の2目標を同時達成するために,能力構築による生産性向上とマーケティングや製品開発による需要創造の両方を積極的に行う企業を指す.こうした現場指向企業の理念型は,戦後日本の中小中堅企業に関する筆者らの長期的観察により導出されたものである. 藤本(2017)は,こうした現場指向企業の行動パターンを描写するために,製品市場および労働市場における財の価格(P),数量(X),賃金(W),雇用数(N)を4軸とする「PXNWモデル」を提示した.このモデルは,水平の供給曲線(フルコスト原理),右下がりの需要曲線(独占的競争),リカード型労働投入係数を介した線形の必要労働力曲線と線形の賃金・費用曲線を前提とする,古典派経済学的・スラッファ的なモデルである(Sraffa 1960). 藤本(2017)はこのモデルを用いて,「現場指向企業が,一定のマークアップ率と目標雇用数を維持しつつ実質賃金の向上を実現するためには,工程イノベーション(物的生産性の向上)と製品イノベーション(有効需要の創出)の両方を行う必要がある」ということを示したが,このモデルにおいては,生産性向上努力と有効需要創出努力は企業の主体性に基づく外生変数であり,したがって,「積極的現場指向企業」と「消極的現場指向企業」の区別についても,生産性向上努力と有効需要創出努力の多寡を指摘するにとどまっていた. そこで本稿では,上記のPXNWモデルを改変し,生産性向上努力と有効需要創出努力を内生化する.具体的には,「積極的現場指向企業は消極的現場指向企業に比べ,利益を有効需要創出や生産性向上のための投資に振り向ける傾向が大きい」という定型的事実に着目し,藤本(2017)では捨象されていた「有効需要創造のための費用」を明示化するとともに,同じく藤本(2017)で外生変数とされていた「マークアップ率の水準」を内生化する方向にPXNWモデルを改変し,現場指向企業によって生産性向上と有効需要創造が同時に行われる条件,すなわち,「積極的現場指向企業」が出現する条件を導出する. この内生化モデルにより新たに得られる主な知見は以下の通りである.(1)「生産数量の増加に伴って賃金率が低下する」という賃金逓減的な状況においては,グローバル競争の激化に伴って,①「労働生産性弾力性がやや高いが一定値以下」という賃金体系の下では積極的現場指向企業が出現し,②「労働生産性弾力性が極端に高い賃金体系の下では一転して消極的現場指向企業が出現する.(2)生産増加に従って賃金率が低下するがそのような賃金逓減の程度が小さい状況,「生産増加に従って賃金率が変わらない」という賃金一定の状況,あるいは,「生産増加に従って賃金率が上昇する」という賃金逓増的な状況においては,積極的現場指向企業は出現しないが,①労働生産性弾力性の非常に低い賃金体系の下では,「生産性は向上するが有効需要創造努力は減少する」という準積極的現場指向企業が出現し,②労働生産性弾力性がやや低いが一定値以上という賃金体系の下では,「生産性は悪化するが有効需要創造努力が増加する」という準積極的現場指向企業が出現する. まず第1節で背景と目的を説明し,第2節では原型のPXNWモデルの概要を示し,マークアップ率と雇用数の目標を同時達成しつつ賃金水準を高めるための必要条件を示す.第2節ではさらに,需要創造努力とマークアップ率の水準を内生変数化した本稿のモデルを提示し,続く第3節では,グローバル競争の激化が生産性と有効需要創造に与える影響を明らかにし,その上で「積極的現場指向企業」が出現する条件を導出する.最後に第4節で,本研究の結論を要約し展望を述べる.
著者
藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.25-35, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
12

東日本大震災によるサプライチェーン寸断に対し,在庫増加,標準部品採用,供給のデュアル化,海外移転などが提案されているが,災害のショックからの心理的過剰反応も目立つ.本稿は,グローバル競争時代の広域大災害に対するサプライチェーン強化策は,競争力(competitiveness)と頑健性(robustness)の両立を目指すべきだと主張する.相対的に小さなコスト負担で,災害からの復旧速度(たとえば2-3週間での全面復旧という目標)を確保する代替的方策として,設計情報の可搬性(design portability)を基礎とした「サプライチェ ーンのバーチャル・デュアル化」を提案する.
著者
西尾 久美子 藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.62-76, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
27

サービスは人工物制御の出力であるとの観点から,接客サービス現場に製造業で発達してきた広義の「ものづくり」分析のフレームワークを応用する.具体的には,競争力を持つ接客サービス業である京都花街の顧客経験(プロセス)分析,お座敷のチーム作業(オペレーション)分析,人材育成分析を試み,京都花街のサービス現場とトヨタ自動車の組立現場に「多能従業員のチームで良い流れを作る」という意外な共通点があることを示す.
著者
藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.11-22, 2003-06-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
28

もの造りの経営学(技術・生産管理論)の立場から,「設計情報」概念を用いたオペレーション・ベースの戦略論の可能性を考察する.まず,もの造り現場の競争力は,もの造りの組織能力とアーキテクチャ(製品・工程の設計思想)の間の相性によって影響されると見る.そして,得意・不得意アーキテクチャの見極めに基づく「両面戦略」を説明する.次に,もの造り現場の競争力を最終利益に結び付ける戦略の枠組を考える.その基本は,「アーキテクチャの位置取り戦略」である.
著者
藤本 隆宏
出版者
日経BP社
雑誌
日経ものづくり (ISSN:13492772)
巻号頁・発行日
no.655, pp.4-6, 2009-04

ふじもと・たかひろ 1955年東京都生まれ。1979年東京大学経済学部卒業,三菱総合研究所入社。1989年米Harvard Business Schoolで博士号取得,同大学の研究員に。1990年東京大学経済学部助教授。1997年Harvard Business School上級研究員。1998年東京大学大学院経済学研究科教授。2004年東京大学ものづくり経営研究センター長。
著者
藤本 隆宏 陳 晋 葛 東昇 福澤 光啓
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.35-46, 2010
参考文献数
14

グローバル化の時代における、微細な産業内貿易、企業の多国籍展開といった現象を説明する一つの論理として、組織能力とアーキテクチャの適合性を重視する設計立地の比較優位論がある。これまで、多くの日本企業が「生産は中国へ移し、設計は日本に残す」という、比較的シンプルな立地方針で日中生産・設計分業を進めてきた。これは、華南の低賃金・単能工・モジュラー生産というモデルを前提にした分業構想である。しかし、中国での賃金は高騰を続けており、東莞や青島などに進出した低賃金のみに依存する外国企業は、中国から撤退を始めているように見受けられる。このように、多国籍企業は、最適立地を見直す必要に迫られている。中国には、産業平均の定着率が比較的良い地域や企業の定着政策次第で、その離職率をさらに下げる余地のある地域がある。その典型例が大連をはじめとした東北地域であり、本研究では、日系企業2社の大連拠点の事例研究を行った。大連をはじめとした東北地域では、華南や長江と比べて賃金が低いことに加えて、賃金水準に対して低い離職率、豊富な設計技術者の供給など、インテグラル型製品に適した労働環境が存在する。そこでは、日本企業は、従来考えられていた日中生産・設計分業とは異なる形での企業内国際分業体制を構築可能である。ものづくり組織能力の偏在とアーキテクチャの適合の観点から中国への国際展開を考えた場合、インテグラル・アーキテクチャ寄りの設計業務の一部を中国で行うことが可能であるということが示唆される。
著者
池渕 浩介 藤本 隆宏 草間 三郎
出版者
日経BP社
雑誌
日経ものづくり (ISSN:13492772)
巻号頁・発行日
no.596, pp.105-109, 2004-05

日本のものづくりをさらに強化していくためには,「人間くさいものづくり」を心掛けなければならない。そのために重要なのが「和と連携」,現場の知恵と技を生かす「現地現物主義」,人間の創意,やる気,活力を高める「人間尊重」の三つだ。人の心を大事にしないと,パフォーマンスは向上しない。だからこそ,人間性を尊重したものづくりが大切なのである。
著者
李 兆華 傅 学保 折橋 伸哉 藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.171-208, 2006-03-25 (Released:2018-03-11)

台湾の自動車産業は、完成車の対中国輸出などが制限される、国内市場が小さい、国内での競争が厳しくシェア変動が大きい、1社当たりの生産量が少ないなど、厳しい制約条件の中での操業を強いられてきた。ところが、その台湾の生産拠点で、非常に高度なものづくり能力の構築が観察されている。例えばトヨタ系の国瑞汽車は、数あるトヨタの海外生産拠点の中においても、トヨタ方式(TPS)が最もよく浸透し、ものづくり能力や改善能力のみならず、進化能力(能力構築能力)が高いことで知られている。しかしながら、台湾拠点の売上高は欧米など海外の主要生産拠点に比べれば小さく、その意味ではトヨタ全体にとって戦略的に最重要な海外拠点とは言い難い。とすれば、同社のグローバル戦略の中では比較的目立たない存在であったこの台湾企業が、創業から20年で、ここまでの能力構築を行うことができた理由と経緯は何か。日本からのトヨタシステムの導入のみならず、同社の進化能力を示唆する国瑞汽車オリジナルの工夫について紹介し、今後の課題についても言及する。
著者
藤本 隆宏 前川 諒樹 岩尾 俊兵
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-40, 2019-02-25 (Released:2019-02-25)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本稿は、産業競争力の概念を明らかにした上で、生存時間解析のシミュレーションによって、産業競争力の類型と発現過程に関する洞察を得ることを目的とする。ここで競争力とは「選ばれる力」と定義され、「収益力」「表の競争力」「裏の競争力」という多層的な競争力の構造が示される。次に、広義のものづくり論にもとづき、「産業」を同類の設計の製品の集合体、あるいはそれを生産する現場の集合体と規定する。以上の概念規定をおこなった上で、国内・国際競争の軸と競争強度の軸による四つの競争状況についての予想を示し、シミュレーション・モデルによって四つの状況における一定期間競争後の予想生産性分布が再現できることを確認した。さらに、競争強度と現場生存率との間に累積指数分布に近い関係が観察された。また、国際競争における2国の賃金率と現場生存率との関係を調べ、リカード的コスト競争において平均すれば比較劣位な国の現場も「緩やかな競争」では生存可能性が高まるという「越境」現象を確認した。