著者
岡崎 重史 辻野 亮
出版者
奈良教育大学教育学部自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
no.18, pp.45-54, 2017-03

奈良市に位置する奈良公園では1,200頭を超えるニホンジカが草地や林、裸地などの植生に生息して、観光客が給餌する鹿せんべいやシバ(Zoysiajaponica)、落葉、どんぐりなどを採食している。本研究では、奈良公園におけるニホンジカの空間分布と行動の季節変化を明らかにするために、2016年3月から2017年2月にかけて毎月ニホンジカのいた地点と性年齢クラス、行動をセンサスした。合計24回の調査(延べ1,452ha)で15,491頭を観察し、センサス面積当たりの生息密度は1,089頭/km2であった。ニホンジカの空間分布と行動は季節的に大きな変化を示した。草地利用は5月と6月で大きな割合を占めていて(43.3%;年平均31.2%)、4月~9月に草の採食行動が多く観察され(14.4%;年平均8.2%)、シバ生産量の季節変動と対応していた。林冠下利用は5月~7月に利用が減少し(24.5%;年平均27.8%)、逆に10月~12月においては林冠下での落葉とドングリを主としたリターの採食行動が多く見られた(9.3%;年平均5.2%)。観光客などから給餌されやすい非生産土地の利用は年間を通して高かったが(24.3%)、草やリターの採食行動と比べると人由来の採食行動(年平均2.1%)は年間を通して低く、季節変動も少なかった。以上から、奈良公園に生息するニホンジカの日中の空間分布と行動は、シバや落葉、どんぐりなどの食物資源の季節変動に大きく依存していることが示された。
著者
坂井 明澄 鳥居 春己
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.27-34, 2014-03-20

2011年4月から2012年1月にかけて奈良公園で死亡した18頭のニホンジカ(Cervus nippon)の死体から頭部の皮を剥ぎ取り,表皮よりマダニ類を捕獲した.マダニ科Ixodidae に属する2属4種(フタトゲチマダニHaemaphysalis longicornis,キチマダニH. flava,オオトゲチマダニH. megaspinosa,タカサゴキララマダニAmblyomma tetsudina)を同定した.ニホンジカ頭部に付着していたマダニの棲息密度は,奈良公園の平坦部で採取されたニホンジカよりも山麓部で採取されたニホンジカで高かった.これはニホンジカが棲息していた植生がニホンジカ頭部に棲息するマダニ類棲息密度の違いをもたらしていたことを示唆した.
著者
西田 宗太郎 辻野 亮
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
no.17, pp.59-67, 2016-03

本研究では、カラス類によるゴミの食い荒らしの現状とゴミ回収の時間帯でのゴミ回収場所周辺のカラス類の出現数がどのような要因によって変化するかを明らかにするために、奈良市において燃やせるゴミ(生ごみを含む) の回収曜日が異なる2つの市街地において食い荒らしの生起頻度調査とカラス類出現数のスポットセンサスを行い、カラス類の出現数とゴミ回収区分、集積様式、調査サイトの相関関係を解析した。10月~12月の非繁殖期の燃やせるゴミの日に400分間、燃やせないゴミの日に400分間の観察によって、燃やせるゴミの日にのべ82羽、燃やせないゴミの日にのべ92羽のカラス類を記録した。また、2015年12月の非繁殖期の燃やせるゴミの日に200か所、燃やせないゴミの日に200か所のゴミ回収場所を観察した結果、燃やせるゴミの日に2か所、燃やせないゴミの日に3か所の食い荒らしを記録した。カラス類の出現数とゴミ回収区分、集積様式、調査サイトについて一般化線形混合モデルによって解析したところ、カラス類の出現数は燃やせないゴミの日に多くなることがわかったが、燃やせるゴミの日との差は小さかった。カラス類対策がある程度された現状では、ゴミ回収の時間帯にゴミ回収場所周辺でカラス類はあまり出現せず、カラス類はゴミを主要な餌資源とできない可能性が示唆された。The aims of this study are to clarify the present status of garbage scavenging by crows, and the relationship between crow occurrences and garbage collection in the non-breeding season. In the current study, the garbage collection sites, scavenged by crows, were counted and the spot censuses were conducted during garbage collecting time at two sites of urban area in Nara city. The relationships between the number of crow occurrence and either types of garbage (burnable/non-burnable garbage), type of protection at garbage collection site (no guard, by a net, and by a temporary box), or study sites. In December 2015, a non-breeding season, 2015, Two out of 200 sites were scavenged by crows on the day for collecting burnable garbage, three out of 200 sites were scavenged by crows on the day for collecting non-burnable garbage. FromOctober to December 2015 (non-breeding season), 82 corws were recorded in the total of 400 min. of census effort on the burnable garbage day and 92 crows were counted during a total of 400 min. of census effort on the non-burnable garbage day. The generalized liner mixed model analysis showed the number of crow occurrence increased on the non-burnable garbage day. However there was less difference in the number of crow occurrence between the non-burnable garbage day and the burnable garbage day. Since crow-repellent measures are effective these days, the number of crow occurrence around garbage collection sites, and the number of crow-scavenged case during the census effort were small. These suggest that the crow does notscavenge garbage as a main food resource.
著者
小林 朋子 鳥居 春己 川渕 貴子 辻 正義 谷山 弘行 遠藤 大二 板垣 匡 浅川 満彦
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-8, 2011-03-01

2005年と2006年に奈良公園およびその周辺地域に生息する天然記念物ニホンジカ(Cervus nippn,以後,シカとする)における,人獣共通寄生虫の感染状況,感染個体の栄養状態に関する調査を実施した.奈良公園内のシカ15頭の第四胃から結腸までの消化管内寄生蠕虫検査では,日本の他地域に生息するシカから得られた寄生虫と同属種が検出された.また,奈良公園内において40頭のシカの排泄直後に採取した糞における吸虫卵調査では,87.5%の個体から肝蛭卵が検出された.また,14頭のシカの剖検において肝蛭の虫体が見つかった8頭の病理学的検査と寄生状況の調査では,肝臓表面に赤紫の小斑点あるいは蛇行状の病巣などが観察され,割面では胆管の拡張,壁の肥厚がみられた.得られた肝蛭のNADH脱水素酵素サブユニット遺伝子(ND1)およびチトクロームcオキシダーゼサブユニットI遺伝子(COⅠ)の配列はFasciola hepaticaと97%(ND1)と99%(COⅠ)一致し,F.giganticaと95%(ND1)と100%(COⅠ)一致した.1976年の調査でも奈良公園の肝蛭による汚染が指摘されていたが,シカ個体数が約300頭増加した今日も大幅な寄生率の変化はなく高度な汚染が維持されていることが明らかとなった.シカから排泄された肝蛭虫卵はメタセルカリアとなり,ヒトや家畜への感染源になり得ることをふまえて,早急に充分な対策を講じる必要があろう.
著者
前田 夏実 松井 淳 宮﨑 勝己
出版者
奈良教育大学教育学部自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
no.18, pp.9-19, 2017-03

"太平洋に面した紀伊半島南西部に位置する田辺湾岸において、2015年9月と12月にウミグモ類を調査した。干潮を挟んだ前後1~2時間程度かけて潮間帯にある転石裏面や海藻に付着するウミグモ類を探索した。田辺湾の北浜、南浜、江津良、阪田、鳥の巣、天神崎の6地点のうち、鳥の巣を除く5地点から2科3属7種(うち1種は同定疑問種)48個体のウミグモ類が採集された。すなわち、ホソウミグモ科からヒメツマリウミグモAnoplodactyluscarnatus(和歌山県新記録かつ種南限記録)、ズングリツマリウミグモAnoplodactyluscrassus(和歌山県新記録)、Anoplodactyluserectus?(同定疑問種)、ソコウミグモAnoplodactylusgestiens、ツマリソコウミグモAnoplodactyluspycnosomaの5種と、イソウミグモ科からフタイボイソウミグモAcheliabituberculata、フタツメイソウミグモAmmothellabiunguiculataの2種である。今回の現地調査と文献調査の結果を合わせると和歌山県産ウミグモ類は10科20属50種に達し、そのうち田辺湾からは3科5属9種が確認されたことになる。今回の調査は採集時期と方法が限定的であるので、和歌山県ないし田辺湾ウミグモ相の解明にはより詳細な調査が必要である。"
著者
辻野 亮
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.45-50, 2015-03-20

現地踏査と航空写真解析によって、奈良公園平坦部と若草山における地表植生図を作成した。公園地の平坦部と近接する緑地におけるニホンジカの採食場所として有効と考えられる草地の面積は32.2 haであり、若草山の草地面積は28.2 haであった。
著者
鳥居 春己 角坂 照貴
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.51-54, 2015-03-20

静岡県内で主に1970年代に狩猟や交通事故での死亡したニホンノウサギ等7種からマダニ類を採集した。マダニ属ヤマトマダニ、タネガタマダニ、タヌキマダニ、チマダニ属キチマダニ、オオトゲチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトチマダニの2属7種のマダニを確認することができた。
著者
﨑山 威 辻野 亮
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-7, 2020-03-31

奈良県吉野郡の大峯山系大普賢岳と和佐又山周辺の2調査地で、中・大型哺乳類相と特に優占種と予想されるニホンジカCervus nipponの出現季節変化を明らかにした。大普賢岳地域は2018年5月から2019年8月までの16ヶ月間、和佐又山地域は2018年5月から2019年7月までの15ヶ月間、赤外線センサー付き自動撮影カメラを使用したカメラトラップ法を用いて調査したところ、大普賢岳地域では、2,564日の延べカメラ稼働日数で、ニホンジカ1,535頭 (79.7%) をはじめ11種1,927頭が撮影され、和佐又山地域では、1,030日の延べカメラ稼働日数で、ニホンジカ343頭 (58.8%) をはじめ10種583頭が撮影された。優占していたニホンジカの季節変動を見ると、大普賢岳地域では5月から8月まで撮影頻度指標 (RAI:Relative Abundance Index) が高くてそれ以外の月は低く、和佐又山地域では9月と10月にRAI が高く、それ以外の月では低かった。ニホンジカは、高標高での積雪や堅果などの果実類の利用可能量に合わせて標高間を移動していることが示唆された。
著者
山中 康彰 辻野 亮 鳥居 春己
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.21-30, 2021-03-31

春日山原始林 (奈良県奈良市) において哺乳類相とニホンジカCervus nippon の生息密度を明らかにするために、スポットライトセンサス法とカメラトラップ法、糞粒法の3種を用いて野外調査を行った。スポットライトセンサス調査を2009年11月~2010年12月に56回、カメラトラップ調査を2009年12月~2010年12月に行い、ニホンジカ、イノシシSus scrofa、ムササビPetaurista leucogenys をはじめとした哺乳類14種が確認できた。スポットライトセンサス法と糞粒法によるニホンジカの推定生息密度は、それぞれ28.5頭/km2と66.6 頭/km2 (2010年12月)であった。ニホンジカの推定生息密度と撮影頻度指数は冬期の1月が最も高く (2010年1月、推定生息密度50.0 頭/km2、撮影頻度指数105.5)、その他の季節は低かった (平均推定生息密度24.6頭/km2、平均撮影頻度指数12.2)。ニホンジカの推定生息密度と撮影頻度指数には有意な正の相関が見られた(ρ= 0.795、p= 0.012、N= 13)。
著者
岡崎 重史 辻野 亮
出版者
奈良教育大学教育学部自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
no.18, pp.45-54, 2017-03

奈良市に位置する奈良公園では1,200頭を超えるニホンジカが草地や林、裸地などの植生に生息して、観光客が給餌する鹿せんべいやシバ(Zoysiajaponica)、落葉、どんぐりなどを採食している。本研究では、奈良公園におけるニホンジカの空間分布と行動の季節変化を明らかにするために、2016年3月から2017年2月にかけて毎月ニホンジカのいた地点と性年齢クラス、行動をセンサスした。合計24回の調査(延べ1,452ha)で15,491頭を観察し、センサス面積当たりの生息密度は1,089頭/km2であった。ニホンジカの空間分布と行動は季節的に大きな変化を示した。草地利用は5月と6月で大きな割合を占めていて(43.3%;年平均31.2%)、4月~9月に草の採食行動が多く観察され(14.4%;年平均8.2%)、シバ生産量の季節変動と対応していた。林冠下利用は5月~7月に利用が減少し(24.5%;年平均27.8%)、逆に10月~12月においては林冠下での落葉とドングリを主としたリターの採食行動が多く見られた(9.3%;年平均5.2%)。観光客などから給餌されやすい非生産土地の利用は年間を通して高かったが(24.3%)、草やリターの採食行動と比べると人由来の採食行動(年平均2.1%)は年間を通して低く、季節変動も少なかった。以上から、奈良公園に生息するニホンジカの日中の空間分布と行動は、シバや落葉、どんぐりなどの食物資源の季節変動に大きく依存していることが示された。
著者
木村 友紀 辻野 亮 鳥居 春己
出版者
奈良教育大学教育学部自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
no.18, pp.31-36, 2017-03

東京都伊豆大島において、動物園から逸出して野生化しているキョン(偶蹄目反芻亜目シカ科)の繊毛虫種構成を明らかにするために、個体数管理のために捕獲された8頭の第一胃内容物を調査したところ、1属6種(Entodiniumdubardi,Ent.simplex,Ent.exiguum,Ent.ovinum,Ent.nanellum,Ent.parvum)の繊毛虫が検出され、これらの繊毛虫が伊豆大島のキョンに広く分布していることが示唆された。しかし、台湾での先行研究で見られたIsotrichidaeと中型のOphryoscolecidaeに属する種は見られなかった。これらのことは、伊豆大島では、動物園から逸出したキョンが十数頭であったために、創始者効果によってキョンの繊毛虫種構成が限定されたことを示していた。