著者
坂井 明澄 鳥居 春己
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.27-34, 2014-03-20

2011年4月から2012年1月にかけて奈良公園で死亡した18頭のニホンジカ(Cervus nippon)の死体から頭部の皮を剥ぎ取り,表皮よりマダニ類を捕獲した.マダニ科Ixodidae に属する2属4種(フタトゲチマダニHaemaphysalis longicornis,キチマダニH. flava,オオトゲチマダニH. megaspinosa,タカサゴキララマダニAmblyomma tetsudina)を同定した.ニホンジカ頭部に付着していたマダニの棲息密度は,奈良公園の平坦部で採取されたニホンジカよりも山麓部で採取されたニホンジカで高かった.これはニホンジカが棲息していた植生がニホンジカ頭部に棲息するマダニ類棲息密度の違いをもたらしていたことを示唆した.
著者
小林 朋子 鳥居 春己 川渕 貴子 辻 正義 谷山 弘行 遠藤 大二 板垣 匡 浅川 満彦
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-8, 2011-03-01

2005年と2006年に奈良公園およびその周辺地域に生息する天然記念物ニホンジカ(Cervus nippn,以後,シカとする)における,人獣共通寄生虫の感染状況,感染個体の栄養状態に関する調査を実施した.奈良公園内のシカ15頭の第四胃から結腸までの消化管内寄生蠕虫検査では,日本の他地域に生息するシカから得られた寄生虫と同属種が検出された.また,奈良公園内において40頭のシカの排泄直後に採取した糞における吸虫卵調査では,87.5%の個体から肝蛭卵が検出された.また,14頭のシカの剖検において肝蛭の虫体が見つかった8頭の病理学的検査と寄生状況の調査では,肝臓表面に赤紫の小斑点あるいは蛇行状の病巣などが観察され,割面では胆管の拡張,壁の肥厚がみられた.得られた肝蛭のNADH脱水素酵素サブユニット遺伝子(ND1)およびチトクロームcオキシダーゼサブユニットI遺伝子(COⅠ)の配列はFasciola hepaticaと97%(ND1)と99%(COⅠ)一致し,F.giganticaと95%(ND1)と100%(COⅠ)一致した.1976年の調査でも奈良公園の肝蛭による汚染が指摘されていたが,シカ個体数が約300頭増加した今日も大幅な寄生率の変化はなく高度な汚染が維持されていることが明らかとなった.シカから排泄された肝蛭虫卵はメタセルカリアとなり,ヒトや家畜への感染源になり得ることをふまえて,早急に充分な対策を講じる必要があろう.
著者
鳥居 春己 高野 彩子
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要
巻号頁・発行日
vol.16, pp.37-43, 2015-03-20

ニホンジカが高密度に棲息する奈良公園において、移動式シカ柵を用いてシバ地の生産量を推定した。5 基の柵を2007年4月から翌年4月まで設置し、1ヶ月間隔で移動し、柵内の10 cm四方の区画それぞれ3カ所から伸張した植物を採取し、乾燥重量を計量した。冬期間の生産量はなく、春には急激に増加し、秋まで安定して生産され、年間に2,895 kg/haとなり、この量は奈良公園と同様に高密度に棲息する宮城県金華山島の結果と類似したものであった。その生産量から公園平坦部で養うことのできるシカ個体数はほぼ730 頭と推定された。
著者
鳥居 春己 高野 彩子
出版者
奈良教育大学教育学部附属自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学附属自然環境教育センター紀要 (ISSN:1347362X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.5-9, 2009-02-28

Fat contents of femur marrow by dry weight method and Riney's kidney fat index were assessed from 147 carcasses of sika deer dead in and around Nara park, Nara prefecture, central Japan. Femur marrow was categorized into five by color and texture, and these were arranged three by fat contents, such as malnutrition, ordinary and healthy. This classification is available for the management of Nara deer.
著者
鈴木 圭 鳥居 春己
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.199-205, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
29

本報では静岡県浜松市における,2種の外来リス(クリハラリスCallosciurus erythraeusおよびフィンレイソンリスC. finlaysonii)の分布拡大状況を報告する.これまで浜松市では,これらの外来リスの分布域は東名高速道路の南側の緑地に接しており,東名高速道路が外来リスの分布拡大を遅らせる障壁となっていると考えられていた.しかし本調査の結果,外来リスの分布域はすでに東名高速道路を越えて北側まで広がっていることがわかった.その分布域は東名高速道路から北側に約2 km離れた緑地にまで拡大していた.本調査で明らかにされた分布の最前線から連続した山塊まではわずか7 kmしか離れておらず,それらの間に緑地や小さな林が点在していることから,外来リスの分布域は容易に拡大しそうであり,今後山塊に到達する可能性が高い.山塊における外来リスの根絶は困難になることが予測されるため,分布域がこれ以上広がる前に早急な対応が必要である.
著者
鳥居 春己 高野 彩子 村上 興正 白子 智康
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
野生生物と社会 (ISSN:24240877)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.43-50, 2022 (Released:2022-10-25)
参考文献数
35

The stomach contents of six adult female nutrias captured in June 2021 were analyzed using DNA metabarcoding to confirm foraging of Unionoid mussel and other invertebrate animal taxa in the Shirokita cove in the lower reaches of the Yodogawa River, Osaka prefecture. Nodularia douglasiae, N. nipponensis, Sinanodonta calipygos, S. sp., Beringiana japonica, Corbicula fluminea or C.leana. were detected in three nutrias. In particular, N. douglasiae was the dominant on the number of read. Ladybug beetles Propylea japonica or P. quatuordecimpunctata and whitefly (Aleurochiton sp.) were also observed, but these are thought to have been taken in along with plants. N. nipponensis has not been found in the Yodogawa river system, and Corbicula spp. have not been found in the midden of dead shell caused by nutria feeding, which was previously reported. This is the first record of the nutria preying on N. nipponensis, S. calipygos, B. fukuharai, but Lanceolaria oxyrhyncha which was previously reported was not detected. These results indicate that DNA metabarcoding is available for further analysis to clarify the nutria feeding habit including aquatic and terrestrial plants and impact on the ecosystems.
著者
鳥居 春己 角坂 照貴
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.51-54, 2015-03-20

静岡県内で主に1970年代に狩猟や交通事故での死亡したニホンノウサギ等7種からマダニ類を採集した。マダニ属ヤマトマダニ、タネガタマダニ、タヌキマダニ、チマダニ属キチマダニ、オオトゲチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトチマダニの2属7種のマダニを確認することができた。
著者
鳥居 春己 高野 彩子
出版者
奈良教育大学教育学部附属自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学附属自然環境教育センター紀要 (ISSN:1347362X)
巻号頁・発行日
no.9, pp.5-9, 2009-02
被引用文献数
1

Fat contents of femur marrow by dry weight method and Riney's kidney fat index were assessed from 147 carcasses of sika deer dead in and around Nara park, Nara prefecture, central Japan. Femur marrow was categorized into five by color and texture, and these were arranged three by fat contents, such as malnutrition, ordinary and healthy. This classification is available for the management of Nara deer.
著者
山中 康彰 辻野 亮 鳥居 春己
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.21-30, 2021-03-31

春日山原始林 (奈良県奈良市) において哺乳類相とニホンジカCervus nippon の生息密度を明らかにするために、スポットライトセンサス法とカメラトラップ法、糞粒法の3種を用いて野外調査を行った。スポットライトセンサス調査を2009年11月~2010年12月に56回、カメラトラップ調査を2009年12月~2010年12月に行い、ニホンジカ、イノシシSus scrofa、ムササビPetaurista leucogenys をはじめとした哺乳類14種が確認できた。スポットライトセンサス法と糞粒法によるニホンジカの推定生息密度は、それぞれ28.5頭/km2と66.6 頭/km2 (2010年12月)であった。ニホンジカの推定生息密度と撮影頻度指数は冬期の1月が最も高く (2010年1月、推定生息密度50.0 頭/km2、撮影頻度指数105.5)、その他の季節は低かった (平均推定生息密度24.6頭/km2、平均撮影頻度指数12.2)。ニホンジカの推定生息密度と撮影頻度指数には有意な正の相関が見られた(ρ= 0.795、p= 0.012、N= 13)。
著者
鳥居 春己
出版者
奈良教育大学
雑誌
奈良教育大学紀要. 自然科学 (ISSN:05472407)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.15-19, 2010-11-30

Reproductive traits of the Japanese hare, Lepus brachyurus, were investigated with 196 hares killed either by hunting, pest control or traffic accidents in Shizuoka Prefecture from 1984 to 1993. Average weight of testis started increasing from November, and reached the peak on March, then declined gradually from March to October, and the spermatogenesis ceased both September and October. Although the average weight of ovaries showed similar changes, the change started one month later than the testis. Detectable embryo were found in the samples from February to October. Assuming that breeding season was from first copulation to the last parturition, determined by the age of leverets captured in the wild, in which the whole ages were estimated by the body weight, the duration of the breeding season could be estimated to be 276 days. Embryo size ranged from single to triplets with an average of 1.6 ±0.7. Calculated average annual reproductive potential was 10.1 young per female.
著者
木村 友紀 辻野 亮 鳥居 春己
出版者
奈良教育大学教育学部自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
no.18, pp.31-36, 2017-03

東京都伊豆大島において、動物園から逸出して野生化しているキョン(偶蹄目反芻亜目シカ科)の繊毛虫種構成を明らかにするために、個体数管理のために捕獲された8頭の第一胃内容物を調査したところ、1属6種(Entodiniumdubardi,Ent.simplex,Ent.exiguum,Ent.ovinum,Ent.nanellum,Ent.parvum)の繊毛虫が検出され、これらの繊毛虫が伊豆大島のキョンに広く分布していることが示唆された。しかし、台湾での先行研究で見られたIsotrichidaeと中型のOphryoscolecidaeに属する種は見られなかった。これらのことは、伊豆大島では、動物園から逸出したキョンが十数頭であったために、創始者効果によってキョンの繊毛虫種構成が限定されたことを示していた。
著者
中川 尚史 後藤 俊二 清野 紘典 森光 由樹 和 秀雄 大沢 秀行 川本 芳 室山 泰之 岡野 美佐夫 奥村 忠誠 吉田 敦久 横山 典子 鳥居 春己 前川 慎吾 他和歌山タイワンザルワーキンググループ メンバー
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.21, pp.22, 2005

本発表では,和歌山市周辺タイワンザル交雑群の第5回個体数調査の際に試みた無人ビデオ撮影による群れの個体数カウントの成功例について報告する。<br> カウントの対象となった沖野々2群は,オトナ雄1頭,オトナ雌2頭に発信器が装着され群れの追跡が可能であった。またこれまでの調査からこの群れは,小池峠のやや東よりの車道を南北に横切ることが分かっていた。<br> 今回の調査3日目の2004年9月22日にも,一部の個体が道を横切るのを確認できた。しかし,カウントの体制を整えると道のすぐ脇まで来ていてもなかなか渡らない個体が大勢おり,フルカウントは叶わなかった。この警戒性の高まりは,2003年3月から始まった大量捕獲によるものと考えられる。翌23日も夕刻になって群れが同じ場所に接近しつつあったのでカウントの体制をとり,最後は道の北側から群れを追い落として強制的に道を渡らせようと試みたが,失敗に終わった。<br> そこで,24日には無人ビデオ撮影によるカウントを試みることにした。無人といってもテープの巻き戻しやバッテリー交換をせねばならない。また,群れが道を横切る場所はほぼ決まっているとはいえ,群れの動きに合わせてある程度のカメラ設置場所の移動は必要であった。そして,最終的に同日16時から35分間に渡って27頭の個体が道を横切る様子が撮影できた。映像からもサルの警戒性が非常に高いことがうかがわれた。<br> こうした成功例から,無人ビデオ撮影は,目視によるカウントが困難なほど警戒性の高い群れの個体数を数えるための有効な手段となりうることが分かる。ただし,比較的見通しのよい特定の場所を頻繁に群れが通過することがわかっており,かつテレメーター等を利用して群れ位置のモニタリングができる,という条件が備わっていることがその成功率を高める必要条件である。
著者
鳥居 春己
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.417-420, 1989-10-01 (Released:2008-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
2

The food habits of the Japanese black bear, Selenarctos thibetanus, were studied by scat content analysis in the headwaters of the Ohwi River in Shizuoka Prefecture, central Japan. Fifty scats were collected from May to December from 1981 to 1984 in the low mountainous zone (about 1, 000_??_1, 600m in altitude). The contents were classified into six categories: namely, seeds and fruits, leaves, branches and wood fragments, other vegetable matter, insects, and the other items. The black bear was omnivorous mainly depending on vegetable foods; it amounted to 98.5% of the total dry weight of the contents. Seeds and fruits were detected in summer through fall, and buna (Fagus crenata) and mizunara (Quercus mongolica) were staples of the diet in the period before hibernation. Most of leaves were detected in spring and summer. Branches and wood fragments were detected in all seasons. Other vegetable matters were small both in amount and frequency. All animal matter consisted of adult insects were of some importance in the diet during summer and fall. The nests of Hymenoptera sp. were detected in summer.