著者
大村 雅章 江藤 望
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.113-120, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
38

本研究は,イタリア・ルネサンス期に活躍した,カルロ・クリヴェッリのテンペラ画に多用された石膏地盛り上げ技法について,実証実験を通して明らかにするものである。これまで,フラ・アンジェリコが描いたフィレンツェのサン・マルコ修道院のフレスコ壁画,『受胎告知』と『磔と聖人たち』の円光について,チェンニーノ・チェンニーニの技法書「絵画術の書」に則って実証実験を行ったところ,板絵テンペラ画の円光技法を転用したことが解明できた。次に,調査をルネサンス期前後におけるテンペラ画の工芸的装飾技法に拡大したところ,カルロ・クリヴェッリの傑作である『マグラダのマリア』(アムステルダム国立美術館所蔵)の石膏地盛り上げ技法に特異性が見られた。あえてルネサンス盛期に伝統的な板絵テンペラ画にこだわり,採用された彼の石膏地盛り上げ技法の再現と検証を行う。
著者
秋山 道広 初田 隆
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.25-32, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
9

本研究では,図画工作科における,子ども・教師・保護者間での児童絵画に対する見方(評価)の共通性や差異性に着目し,調査を基に比較検討することによって,今日の絵画教育の問題点や課題の鮮明化を試みた。結果,教師と保護者の見方(評価)には強い相関性が確認された。1年生では子どもと保護者・教師との相関性は低く,3年生から6年生になるに従い一定の相関性が認められるようになっていく。教師と保護者が写実を基礎とした絵画の価値方向を子どもに示すことで,次第に子どもの価値意識が教師・保護者の共有する児童画イメージに接近してゆくという関係性が認められた。また,得手不得手の判断基準を,写実的・再現的な絵画の評価観に置く教師の中には,絵画指導に対して苦手意識を持つものも多く,それらを補完するために定型的な指導がなされている可能性が示唆された。
著者
深澤 悠里亜
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.337-344, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
5

近年,鑑賞教育の必要性の高まりにより,学校と美術館の連携事業が注目されている。本研究では,鑑賞の導入に最適なものとして,遊びながら能動的に鑑賞をする姿勢を引き出すアートカードの使用を提案する。現在,アートカードを制作した美術館は増えているが,学校現場で多く使用されているとは言い難い。そこで本論では,まずアートカードの実態を探るため,日本全国のアートカードの調査から,制作年や特徴を比較し,教育的意義を5つにまとめた。その結果,初めのアートカードは手作りであったが,近年は補助ツールが豊富になり,その使用法にも展開が見られることが分かった。更に,鑑賞支援教材として,更なる可能性を確認するため,新たな遊び方の開発を行った。以上の考察に基づきアートカードは,その効果から,子どもだけではなく大人にも鑑賞の導入として使用できる可能性を示唆する。
著者
松實 輝彦
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.377-384, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
16

嶋本昭三(1928–2013)は前衛美術グループ「具体美術協会」の中心メンバーとして活躍し,世界的に評価された美術家であった。本研究では,嶋本のさまざまな活動から,教育者としての姿に注目した。とりわけ彼の芸術教育活動のなかに一貫してみられる「アール・ブリュット」への関心に焦点を合わせ,アプローチを試みた。最初に新人教師時代の嶋本に大きな影響を与えた,教育活動の指導者である曾根靖雅との関係について検討した。そして嶋本が関わったふたりのアール・ブリュットの表現者である友原康博と藤山晃代について,その活動を初期の段階から振り返って考察した。友原は中学生の時に,特異で個性的な試作品を大量に創作した。藤山は高校生の時に始めたさをり織りを主体に,旺盛に造形活動を展開した。彼らの活動を通して,嶋本が自身の創作活動と併行しながら実践した芸術教育活動の意義を明らかにした。
著者
新井 馨
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.17-24, 2017

<p>アール・ブリュットを基軸に現在の美術・美術史を改めて振り返ることで,芸術,美術をどのように捉えるのか,といった問いが浮かび上がる。そして,この問いは,美術教育が指す「美術」の捉え方にも繋がる問題であると考えられる。これまでの考察で,正規の美術史とは交わらないもう一つの「人間の造形」なる一群があることを示してきた。制度化した近代以降の「美術」は,造形物に「美術」「非美術」と想定することで,「美術」なる概念の定まり方をつくってきた。交わることのなかった並行する二つの線は,「美術」が「人間の造形」を取り入れ「美術」としたことで,「美術」そのものの矛盾と乖離が生まれたのである。本論では,これまでの成果を踏まえ,アール・ブリュットを通して,制度としての「美術」を総合的・俯瞰的に考察を深めたものである。そして,これは美術教育が考えるべき問題と同根のものである,との考えのもと考察を進めている。</p>
著者
田畑 理恵
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.249-256, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
10

書道教育における鑑賞教育には,「目習い」という言葉が象徴するように,表現を前提にした性格があることは否めない。書道を学ぶなかでの批評について考えると,書塾だけでなく高等学校芸術科書道においても,批評には指導者主導で行われる判定的な性質に偏ったところがあると言える。書道教育における鑑賞と表現の関係も,批評のこのような実際も,書道の学習が芸道の学びを源としている一面があることが理由であるとも考えられる。学校教育における書道の批評のあり方を考えるとき,美術教育における試みの盲目的な追従ではなく,書道の芸術の特性を考慮することは不可欠である。そのような考慮のもと,美術教育における批評の位置付けと内容についての考察と,書道教育における批評の現状とを比較することで,書道教育における鑑賞という視点からの批評の意味とあり方を導き出せると考える。さらには,鑑賞教育における批評の意味について考察したい。
著者
齋藤 亜紀
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.169-176, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
22

本稿は佐藤忠良の教育について再考するために,佐藤の造形指導の意図がどのように授受されたのか,インタビューをもとに検討したものである。インタビューは東京造形大学の草創期に佐藤の教育を受け,後に彫刻家となった5人に協力を依頼した。佐藤は,この大学は具象を学ぶ学校であることを明言し,教育の目標を「高度な精神と技術1」を備えた自律した人間形成と考えていた。表現を試行するために身体を鍛えること,〈自然〉を自分の目と手で捉える訓練をさせることが第一義であると考えた。建学当初,この意図は学生と共に大学の歴史を作って行こうとする情熱によって様々に試行される。しかし,人体像を通して写実を学ぶことと〈佐藤の造形〉は混同され,造形指導の本来の意図とは異なり,齟齬を生じさせていった。〈佐藤の造形〉という表層的な問題と佐藤の造形指導の真の意図から,その授受を検討した。
著者
松浦 藍
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.313-320, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
8

本研究は,絵画作品鑑賞において,色彩の感情効果学習が生徒の絵画作品鑑賞に与える影響を考察したものである。筆者が指導する生徒308名が,9週にわたり授業開始10分間,週1作品の郷土作家絵画作品を鑑賞した。その上で生徒が絵画作品の題名とその根拠を思考し,作品の主題を予想した。郷土作家絵画鑑賞のワークシートの中から,生徒が記述した造形要素に関する単語数をカウントした。10分以降の授業において,9週の内4週を色彩の感情を考える表現活動や鑑賞活動に充て,造形要素等の記述に見られる傾向の推移について考察を行った。その結果,色彩の感情効果学習を経ることで,生徒が絵画から受け取る主題の根拠として挙げた造形要素やイメージの広がりを示す記述が増えていた。このことから,絵画からイメージすることに課題がある生徒が,自分の考えをまとめ表現する手立てとして色彩の感情効果学習が期待できることが分かった。
著者
大平 修也
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.113-120, 2016

本論は,表現活動全般を含む人間の種々の活動をコトバとして捉える〈言分け〉構造,及び人間が先天的に有する身体を自然的要因として捉える〈身分け〉構造を手掛かりに,筆者の美術・図画工作科における造形活動の経験をきっかけとすることで,つくることに対する苦手意識の形成過程を明らかにし,筆者の今後の研究活動の土台を築くものである。これを基に,子どもたち一人ひとりが造形活動を介して,どのようにして素材や道具などの物的環境,及び教師や他の学習者などの人的環境と身体的に関わり,自らの想像の世界を広げていくのか,その在りようを見出したい。本論の構成は,美術・図画工作科における筆者の造形活動の経験,筆者の幼児期及び児童期以降の2つの造形活動にみる〈言分け〉・〈身分け〉構造,造形活動を介して形成され得る自己と学びの場への示唆としたが,本論の検証に関しては今後の研究課題としたい。
著者
根山 梓
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.281-288, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
37

本稿は繁野三郎(1894–1986)の図画教育に注目し,自由画運動が北海道の小学校教師に与えた影響について報告し,考察するものである。繁野は大正4年(1915)に札幌師範学校を卒業後,大正9年(1920)まで栗山尋常高等小学校(現在の夕張郡栗山町内)に勤務し,その後昭和5年(1930)まで札幌北九条尋常高等小学校に勤務した。大正5年(1916)から翌年にかけて繁野が教育雑誌に投稿した「現代的毛筆画帖取扱案」と,教育雑誌が伝える昭和2年(1927)の繁野による図画の研究授業,同年に札幌市役所から発行された『図画教育の理論と実際』における繁野の執筆箇所を分析した結果,資料に示される繁野の考え方が二つの時期において異なることが確認された。約10年間の繁野の取り組みを探るなかで大正後期に発行された『北海タイムス』を調査した結果,繁野の勤務校をはじめとする札幌市内の学校が自由画展覧会に熱心に応募していたことが確認された。
著者
根山 梓
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.265-272, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
24

本論文は,現在の北海道新聞社の前身である北海タイムス社が発行した『北海タイムス』に掲載される記事に基づき,大正10年(1921)における同社による自由画教育に関する取り組みを明らかにするものである。北海タイムス社で美術部員であった澤枝重雄は,大正10年のはじめ頃に紙上で「自由画私見」を発表し,7月から紙上で児童自由画の講評を行うことをはじめ,11月に同社がはじめて主催した児童自由画展覧会においては,札幌の小学校教員とともに講演を行い,展示作品の講評を行うなど,中心的な役割を担った。大正10年に紙上に掲載される図画教育に関する一連の記事からは,当時,澤枝が図画教育に対する小学校教員の意識に働きかけることを重視し,札幌の小学校教員との関わりのなかで,指導者としての立場で発言していたこと,また,当時,札幌の小学校教育現場において,自由画教育に対する関心が高まっていたことが確認される。
著者
工藤 彰 八桁 健 小澤 基弘 岡田 猛 萩生田 伸子
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.145-151, 2017

<p>本研究は総合大学のドローイング授業で継続的に実施された省察の効果を検討することを目的とした。表現力や創造力に繋がる能力を獲得するためには,学生が積極的に自己表現を探索することが重要である。このような観点から自己発見を促すと考えられる主観的素描(ドローイング)を取り入れ,毎週教師との対話を通して表現主題や意図等を言葉にする省察的授業を行った。本研究では,学生が自分と他者のドローイングについて記述した授業感想文をテキストマイニングすることにより,表現方法や芸術表現の捉え方などの芸術創作プロセスに対する学生のイメージや態度の変化を検討した。その結果,授業後半で他の学生の表現方法に目を向けることや,他者の感想文の中でも自分と比較しながら振り返りが行われていることが示唆された。以上より,テキストマイニングが授業感想文にも適用できるものとして,その方法論の有効性を論じた。</p>
著者
横地 早和子 八桁 健 小澤 基弘 岡田 猛
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.409-416, 2016

本研究は,美術科系の教師を目指す学生の絵画教育の授業において学生が制作したドローイングを他者が評定を行い,授業効果を検討することを目的とした。子どもの表現力や創造力の伸長を支援する能力を獲得するためには,学生自身が積極的に自己表現の探索を行うことが必要である。こうした観点に基づき,自己発見を促すと考えられるドローイングを毎日制作し,それを毎週教員らに説明するという省察的な授業を行った。本研究では,制作されたドローイングを初期,中期,後期に分け,表現主題の自覚と技能を他者が評定し,その変化を検討した。結果,主題と技能に変化は認められなかったものの,100枚以上ドローイングを制作した学生とそうでない学生とでは,100枚以上制作した学生の主題の自覚性が高いことが分かった。こうした違いについて両者の授業中の発話についても比較検討し,考察を行った。
著者
淺海 真弓 初田 隆 磯村 知賢
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.17-24, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
9

本研究では,図式期における特徴的な表現形式である「基底線」に着目し,描画と立体表現の比較実験を通して考察した。立体表現における基底線意識の有無を確認するとともに,造形(描画・立体表現)発達上の「基底線」の意味や意義を改めて検討することが目的である。なお,山の稜線に対して垂直方向に木を描くといった「基底線に依存した表現」を手掛かりに,実験結果の分析を行った。結果,立体表現においても基底線もしくは「基底線に準じる規準系」が意識されていることが確認できた。特に図式期の立体表現では,立体を立面図的に捉えることで空間を秩序づけていると考えられる。また,基底線に依存した表現の多くは,原初的な方向判断(既存の形態に対して新たな形態を描き加えるとき,最も明瞭に対立する方向へ向かう)が基底線を基準に発現した結果である可能性が高い。