著者
岩田 あゆ実 岡崎 渉
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.21-38, 2023-12-31 (Released:2023-12-31)
参考文献数
13

役割語は、第二言語として日本語を学ぶ学習者にとって、言語表現のバリエーションとその象徴的意味を学ぶ上で有効な題材になると言われており、実際に日本語教育での授業実践も行われている。だが、国語科教育において役割語を題材とした授業実践は見当たらない。役割語は、ことばを深く理解し、主体的な言語使用者を目指す上で、母語話者にとっても有効な題材になり得ると考える。そこで筆者は高校国語科において、役割語を通してことばが与えるステレオタイプやバイアスについて学ぶ授業実践を行った。高校1年生の5クラスに対し、各2時間の授業を行った結果、生徒はおおむねことばが与える人物像や印象についての認識が得られ、一人称や方言など、自分の普段の言葉遣いをふり返ってみることもできた。こういったことから役割語は、生徒がことばの学習をする上で有効な題材になり得ると言える。
著者
小林 美恵子
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-38, 2021-12-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
11

映画『何者』などで男子大学生どうしの親密さを表すものとして、中性化しないいわば「男性特有」の話し方(形式)が存在する。このような話し方が自然談話ではどのように現れるかを『談話資料・日常生活のことば』において検討した。その結果、全体では1/5程度の男性話者がこのような話し方をしていること、特に20代と60・70代にめだつことがわかった。その理由は対話の相手との関係(親しさなど)によると考えられる。また、特に高年代では使用のバリエーションや現れ方が多様で、映画に現れる高年代の男性のことばや話し方とは必ずしも同じようではないということもわかった。
著者
遠藤 織枝
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.251-268, 2021-12-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
8

2019年秋に借用できた寿岳章子さんの9冊の日記帳について、その文章面での特徴と女子専門学校(以下「女専」)時代の日記の内容を報告する。文章は初期の長文のものから簡潔なものに移り、自然描写は美しく、社会・世相は躍動的に描かれる。比喩、オノマトペなど自由闊達な表現が各所にみられる。女専時代の日記からは、読書の考察の深さ、本人が後に言う「言葉も出なくなる程」凄絶だった受験勉強の実際、女学生時代とは変化した戦争観などが読み取れる。
著者
れいのるず秋葉 かつえ
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.124-143, 2017-12-31 (Released:2018-01-12)
参考文献数
27

一人称詞は、日本語人がかかえたどうしようもない問題である。どうして日本語にはこうも数多い自称詞があるのか。どうして主要な男性自称詞が漢語由来の「僕」なのか。過去においてあきれるほど多くの自称詞が大陸言語から借用された。欧米の言語学では、人称代名詞はもっとも安定した言語カテゴリーで、めったに他言語から借用されないものだ、と理解されている。では、日本語はなぜ常に不安定なままに続いてきたのか。説明されねばならない。この研究は、歌舞伎脚本の自称詞を歴史社会言語学的に分析し、次のような仮説をたてる。(i)原日本語は、一・二人称を区別しない「前人称」言語であった。(ii)「私」のような疑いもなく一人称詞であるものは大陸言語との接触以降イノヴェートされた。(iii)江戸前期、大量の漢語自称詞・対称詞が借用された。(iv)近代化のなかで多くの漢語自称詞が衰退したが、一人称詞は今も複数であり、不安定である。
著者
遠藤 織枝
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.105-123, 2018-12-31 (Released:2018-12-31)
参考文献数
19

明治期の介護・看護を表す語としては、「看護」「看侍」「介輔」「介抱」「看病」「介助」「みとり」「介護」が使われた。この中で、「看侍」「介輔」は教科書で多く使われたが、一般の用語としてはほとんど使われなかった。「介助」が教科書で1例のみ、「介護」は看護関連の書籍には登場せず、恩給の法律の中では使われていて、国語辞書に採録されたのは1970年代である。介護・看護をする人の呼称としては、「看護人」「看護者」「看護婦」「看病人」「看病婦」「介抱人」の6語が抽出できた。明治初期は「看護人」「看護者」「看病人」「看病婦」が使われ、「看護婦」の語の登場はこれらより遅い。中期以降は「看病婦」と「看護婦」が並行して使われ、明治期後半からは「看護婦」に集約された。
著者
金 玉英
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.71-88, 2020-12-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
26

現代日本語行為要求表現の分類と枠組みにおいて、従来の研究では「行為者」「決定権者」「受益者」という三つの要素を軸にしている。本稿では「行為者」という基準は枠組みを捉えるに当たって(分類全体を左右するような)決定的な意味を持たないこと、「受益者」という概念は有効ではあるが、有効範囲が先行研究の捉え方より狭く、意味を持つのは「依頼」だけであり、ローカルなものに過ぎないことを論じる。そして、各機能(特に「依頼」と「勧め」)の定義を捉え直し、「聞き手意志配慮」「共同意志形成」という観点を取り入れ、各機能の定義に基づいた新しい枠組みを提案する。「命令」は話し手が聞き手の意志を配慮せず、直接的・積極的に行為を要求する「-配慮」の行為要求表現であり、「依頼」「勧め」「勧誘」はどちらも聞き手意志を配慮した「+配慮」の行為要求表現であるが、それぞれ「配慮の仕方」が異なることを主張する。
著者
馬 雯雯
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.90-105, 2019

<p>本研究は「女子力」を巡る記述における言語標識に焦点を当て、「女子力」ということばを考察するものである。分析に際し、まず、「女性」「女子」「女の子」に接尾辞の「らしい」「っぽい」が結び付いた言語標識を軸に、「女子力」にみられるジェンダーの要素の分析を試みた。そして、「できる」「優れている」「得意」「上手」といった動詞および形容詞を軸に、「女子力」にみられる能力の要素を探ってみた。その上で、「女子力」の使用の様相について男女別に分析を試みた。「女子力」は「女性らしさ」を構築する動的なプロセスを可視化し、「女性らしさ」のありかを示していることばである一方、「能力」としてその形式の「女子」に表われるジェンダーの境界線を越え、「男性」のジェンダー領域にも入っていることばであること、「女子力」の使用において、女性はそれを「ほめ」の効果のあることばとして同性に使うが、男性はそれを「冗談としてのほめ」の効果のあることばとして同性に使うことを明らかにした。</p>
著者
馬 雯雯
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.39-52, 2020

<p>本研究は馬(2019)の後続研究として、「聞き手」の視点に着目して、「女子力」がどのように使われるのかを分析したものである。馬(2019)が明らかにした「話し手」の視点からみた「女子力」の使用の様相と対照しながら、「女子力」を使用した具体的な表現、意図およびそれに対する「聞き手」の反応を分析した。「女子力」が「ほめ」の効果のあることばとして使われることは、「話し手」と「聞き手」のどちらからみても、観察されたところである。一方、「女子力」は「からかい」「忠告」「批判」の効果のあることばとして使われることが女性の「聞き手」の視点からの分析で浮き彫りになった。女性も男性も「女子力」を肯定的に使ったり、受け取ったりしているが、女性の場合は「女子力」を否定的に使われたり、受け取ったりすることが特徴的である。このことは、「女子力」の揺らぎを示している。</p>
著者
小林 美恵子
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.3-20, 2020-12-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
16

映画『何者』などにみられた若い女性のことばの中性化の傾向が、自然談話ではどのように現れているのかを比較検討した。その結果、若い世代のことばの中性化は『何者』ほど極端ではないものの同様に進んでいること、高年代では女性形式、中性形式、男性形式にまたがる多様な形式を使用する話者がいることが分かった。高年代の多様化については、「女性語」話者の高齢化、役割語としての「おばあさん」語の影響などが考えられる。
著者
熊谷 滋子
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.21-38, 2020

<p>メディアが「地方」やその方言をめぐるイメージをいかにステレオタイプ化して再生産しているのかを、東日本大震災後のテレビの娯楽番組から検証した。番組では、都会代表の司会者と東北代表のゲストたちが、東北をめぐる事柄について語り合いながら、期待にそった東北像を作り上げていく。具体的には、「忍耐強い」「努力家」「働き者」「寡黙」といった東北人気質、東北方言への思い、上京時の田舎者体験などである。東京一極集中が拡大深化する現代の日本において、特に在京30年をこえる50代以上のゲストたちが、戦後の高度経済成長期、上京したての若い頃に味わった田舎者としての体験を面白おかしく語り合うことが、結果的に東京を中心にすえ、東北を周縁においやり、相変わらずの「東北像」を再生産するものとなっている。</p>
著者
熊谷 滋子
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.21-38, 2020-12-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
14

メディアが「地方」やその方言をめぐるイメージをいかにステレオタイプ化して再生産しているのかを、東日本大震災後のテレビの娯楽番組から検証した。番組では、都会代表の司会者と東北代表のゲストたちが、東北をめぐる事柄について語り合いながら、期待にそった東北像を作り上げていく。具体的には、「忍耐強い」「努力家」「働き者」「寡黙」といった東北人気質、東北方言への思い、上京時の田舎者体験などである。東京一極集中が拡大深化する現代の日本において、特に在京30年をこえる50代以上のゲストたちが、戦後の高度経済成長期、上京したての若い頃に味わった田舎者としての体験を面白おかしく語り合うことが、結果的に東京を中心にすえ、東北を周縁においやり、相変わらずの「東北像」を再生産するものとなっている。
著者
方 敏
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.89-105, 2020-12-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
10

初対面や親しくない人と何を話せばいいか分からないという悩みを抱えている人が多い。この問題を解消するために、本研究では、日本人女子学生による初対面から4回目までの会話をもとに、初対面以降の会話における話題選択及びその変化を解明した。分析の結果、(1)初対面会話では、会話参加者の個性や組み合わせには関わらず、話題選択に高い共通性があった。(2)2回目以降の会話の話題選択は、初対面と比べ、会話参加者の関心に応じて多様性が見られた。また、初対面で回避されるプライバシーに関わる話題が取り上げられることも明らかになった。
著者
れいのるず秋葉 かつえ
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.178-195, 2019

<p>明治維新は、社会組織の基盤をひっくり返すような革命的な変革であった。階層や職業によって人がタテに配置されその上下関係の価値だけがことさらに強調される歴史のなかで発達した言語は、自由と平等の民主主義を理念とする欧米型の近代社会では機能しない。英語を国語にしようという考えが持ち出されるほど、日本語は混乱した。日本語をどうするか? それが維新の子供たち―維新を担った武士たちの子供の世代に属する文学者たち―にとっての第一の課題であった。</p><p>欧米のような近代文学の伝統をつくりあげるために、言文一致運動がはじまった。幕末の勤王運動の思想的リーダー、吉田松陰を維新の子供の一人夏目漱石と比較すると、連帯原理の自称詞「僕」が、漱石時代の自称詞の主流になり、そこを定点に「言文一致体」が出来上がったことがわかる。Auto/Biographical Researchの考え方にしたがって漱石の書簡の文体を観察していくと、漱石がイギリス留学に際して「言文一致の会話体」を宣言し、実践した事実が見えてくる。</p>
著者
佐々木 恵理
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.17-35, 2018

<p>女性への性暴力への抗議と性被害を告発する「#MeToo」運動をきっかけとして、日本でもセクシュアルハラスメント(セクハラ)の議論が活発になっている。報道の姿勢や世論の反応から、セクシュアルハラスメントは重大な人権侵害であるという認識が浸透していることがわかる。一方、セクシュアルハラスメントが正しく理解されているとは言いがたい状況もある。セクシュアルハラスメントは、職場や労働の場で権力関係を背景に起きると定義されるが、日常で起きる性暴力や性被害を「セクハラ」と表現したり、性的な発言や身体接触の様子を象徴的に「セクハラ」と描写したり、ふざけたりからかったりする意図で「セクハラ」が使われたりしている。本論では、まずセクシュアルハラスメントの定義を確認し、次に、さまざまな場面での誤用・誤解例を示す。さらに、こうしたことばの混乱が起きた源泉を探り、セクシュアルハラスメントの問題解決のためのよりよい表現を考えたい。</p>
著者
熊谷 滋子
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.11-28, 2017

<p>方言ブーム、方言尊重とうたわれている今日、日本語社会は依然として標準語を基本とし、方言を周縁に位置づける社会であることを、東北と関西を舞台としたテレビドラマから検証する。ドラマでは、東北は東京と対極に位置する田舎であり、自然あふれる童話の世界として描かれる。東北方言は若い女性、知的な男性には合わないイメージが反映され、より強く周縁化されている。一方、関西は東京を意識しない、国際的な都市のイメージを押し出し、「お笑い」や「けんか」が活発に展開される場として描かれる。関西方言は基本的に登場人物全員が使用できるため、それほど周縁化されていないように思われる。が、あらたまった場面や外国語の翻訳では標準語が用いられるため、ソフトに周縁化されている。田中(2016)が実施した方言イメージの調査結果、「東北=素朴、温かい」「大阪=おもしろい、怖い」にぴったりなドラマとなっている。メディアは、このようなイメージを再生産している。</p>
著者
れいのるず秋葉 かつえ
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.124-143, 2017

<p>一人称詞は、日本語人がかかえたどうしようもない問題である。どうして日本語にはこうも数多い自称詞があるのか。どうして主要な男性自称詞が漢語由来の「僕」なのか。過去においてあきれるほど多くの自称詞が大陸言語から借用された。欧米の言語学では、人称代名詞はもっとも安定した言語カテゴリーで、めったに他言語から借用されないものだ、と理解されている。では、日本語はなぜ常に不安定なままに続いてきたのか。説明されねばならない。この研究は、歌舞伎脚本の自称詞を歴史社会言語学的に分析し、次のような仮説をたてる。(i)原日本語は、一・二人称を区別しない「前人称」言語であった。(ii)「私」のような疑いもなく一人称詞であるものは大陸言語との接触以降イノヴェートされた。(iii)江戸前期、大量の漢語自称詞・対称詞が借用された。(iv)近代化のなかで多くの漢語自称詞が衰退したが、一人称詞は今も複数であり、不安定である。</p>
著者
髙橋 美奈子 谷部 弘子 本田 明子
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.72-89, 2019

<p>日本語が「第三者言語」として使用される機会が増えている現在、第三者言語接触場面における実証的な研究の必要性は高い。本稿では、実態と意識との乖離が指摘されているジェンダー規範を取り上げ、日本語学習者がどのようなジェンダー規範意識をもっているのかについて、相手言語接触場面と第三者言語接触場面を比較し明らかにする。分析に使用したデータは、留学生の日常談話データおよび意識を明らかにするための半構造化インタビューである。結果として、学習者は来日前から日本語のジェンダー規範についての知識があり、規範を肯定的にとらえていた。しかし、実際の言語使用においては、意識と異なり、規範にとらわれない自由な言語使用がみられた。中には、第三者言語接触場面より相手言語接触場面での方が日本語のジェンダー規範を順守しようとする言語使用もあった。学習者のもつ規範意識と実際の言語使用との複層性にどう向き合うか、日本語の教育に携わる者の意識が問われている。</p>
著者
ヒダシ ユディット
出版者
現代日本語研究会
雑誌
ことば (ISSN:03894878)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.155-162, 2017-12-31 (Released:2018-01-12)
参考文献数
4

ウィメノミクスとは、日本経済の活性化を目指す安倍晋三政権の経済改革の要素の一つで、日本経済を刺激するプロセスの中に女性の労働力、すなわち女性の潜在能力を集中的に組み込むことを目的としている。これらの刺激策が社会に及ぼす影響には、問題がないわけではない。本稿は、ウィメノミクスの行動計画のポイントに沿って政策の実施状況を明らかにするとともに、懸念される点も指摘するものである。