著者
小島 宏
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.45-55, 2021 (Released:2021-11-18)
参考文献数
96
著者
伊藤 達也
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.25-33, 1982-05-21 (Released:2017-09-12)

戦後出生児数は,270万から160万の間で大きく増減している。1950年代後半から20年間2前後を推移していた合計特殊出生率は1978年以降再び低下をはじめ1980年に1.74となっている。ところで1970年代の夫婦完結出生児数は2.2児前後で大きな変化がみられなかった。また,出生の先行指数である結婚は,1950年代の出生減少による進学率上昇による前半の初婚確率低下すなわち未婚率の上昇がみられるものの,40歳代の未婚率が5%前後と安定しており,大きな変化がなかった。さらに出生の追加を中断させる離婚の危険も,離婚率上昇を相殺して余りある死亡率低下によって,結婚残存率は15年目で90%弱で安定していた。このように1人1人あるいは夫婦の人口再生産行動に大きな変化がみられないのに,年々の出生児数および合計特殊出生率に大きな変化がみられた原因を人口学的に解明するため夫婦出生率,結婚数(あるいは未婚女子人口と初婚確率),結婚残存率を主な変数とするマクロシミュレーションモデルを用いて,いくつかの計算をおこなった。その結果明らかになったことは次の点である。1)1960年代の出生児数の増加と合計特殊出生率の上昇は,20歳代前半の未婚女子人口の増加による初婚数増加によってもたらされた。2)1970年代の出生児数の減少は,出生児数が少なかった1960年代の女子が結婚と出産の適齢期に致達していることによる。合計特殊出生率低下は,夫婦出生率低下よりも,1950年代の出生減退による進学率上昇によるとみられる20歳代の初婚確率低下による未婚率上昇と有配偶率低下によるものである。3)将来夫婦の完結出生児が2児台,結婚率と結婚残存率が大きく変化しないと仮定すると,過去の出生変動によって,出生児数は80年代減少を続けるが90年代に増加に転じること,合計特殊出生率は1980年初期に上昇に転じ1990年代後半再び低下することがわかった。
著者
福田 節也 余田 翔平 茂木 良平
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
pp.2101001, (Released:2021-07-07)
参考文献数
50

「『誰が誰と』結婚するのか」という問いは,結婚における重要な問題でありながら,日本の人口学における知見は限られている。また,この問題に中心的に取り組んできた階層研究者の間でも,日本における学歴同類婚の趨勢については必ずしも一致した見解が得られてこなかった。本稿においては,1980年から2010年までの国勢調査の個票データを用いることにより,日本における学歴同類婚の趨勢を描き出し,その趨勢の変化と社会的・人口学的な含意について解説を加えた。妻30–39歳の日本人夫婦を対象として,記述統計ならびにログリニア分析を行ったところ,われわれの分析結果は,1)学歴同類婚ならびに女性の学歴上方婚の連関が弱まっていること,そして2)女性の学歴下方婚の連関が強まっていることを示した。また,学歴同類婚の連関の強さを学歴別にも分析したところ,3)大学卒の女性において下方婚の連関が強くなっているという結果を得た。これらの結果は,日本や中・先進諸国における学歴同類婚の世界的な新潮流と一致するものであった。本分析で示された学歴同類婚における変化は,どのように説明することができるのであろうか。本稿では,女性の高学歴化と前後して生じた,①グローバル化による労働市場の二極化(雇用の非正規化)と②ジェンダー革命による女性の経済的役割の変化という2つの社会変動との関連を指摘した。加えて,日本で大卒女性の下方婚がより生じやすくなっていることについては,大卒男性において非正規就業の割合が増えたことに伴い,大卒男性の所得分布が下方に推移し,大卒とそれ以外の学歴の者との経済的な境界が一部曖昧となりつつあることも一因ではないか,との見方も示した。すなわち,これらの社会情勢の変化によって,高学歴女性をはじめとする稼得能力の高い女性の結婚市場における魅力が向上した。また,従来よりも男性の学歴と収入の関係が曖昧となった結果,高学歴の女性の一部においては,結婚相手の学歴にこだわらずに結婚する者が出てきた。そのため,最近の研究にみられるように大学卒女性の婚姻率が上昇し,女性の学歴下方婚,とりわけ大学卒女性の下方婚がより生じやすくなった(Fukuda et al. 2019)。現時点においては仮説にすぎないが,本稿における分析は,このようなシナリオと整合的であった。最後に,本稿における分析が示す社会的含意について述べる。今日,多くの中・高所得国においては,男性よりも女性の大学進学率が高い状況にある。先行研究によると,世界的な傾向として高等教育進学率における男女差が逆転することにより,かつて伝統的なパターンであった女性の学歴上方婚が減少し,学歴下方婚が増加している。日本においては,4年制大学への進学率で見る限り,その差は縮まりつつあるものの,これまでのところ従来の男女差は逆転していない。しかし,われわれの分析結果は,夫妻の学歴選好の面において,すでに日本においても同様の変化が生じつつあることを示した。欧米では高等教育への進学における男女差の逆転により,女性を主な稼ぎ手とする世帯の増加,平等主義的なジェンダー態度の拡散,妻学歴下方婚カップルにおける離婚率の減少といった社会規範の変化がみられるという(Esteve et al. 2016)。女性の高学歴化に加えて,わが国では人口減少局面への転換によって労働力人口が先細りつつあり,主に男性のみが就業して家族を養う性別役割分業モデルは日本のマクロ経済にとって望ましいものではなくなっている。長期的な人口減少のトレンドは,政策(例:女性の活躍推進,保育所定員の拡充等)や人々の経済合理性(例:共働き志向)に作用することによって,ジェンダー規範の変容を今後も不可逆的に推進していく一因となるものと思われる。女性の高学歴化のさらなる進展によって,日本においても欧米と同じような社会規範の変化がみられるのか注視していく必要があるだろう。
著者
廣嶋 清志
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.1-20, 2000-06-01 (Released:2017-09-12)

1970年代半ばからの合計出生率低下の人口学的要因について多くの研究が行われてきたが,一般的に,年齢別有配偶出生率を用いた要因分解の結果に基づき,夫婦出生率が低下に寄与していないと認識されている。本稿は,コーホートの初婚率,出生率を人口動態統計と国勢調査結果に基づきあらためてより厳密に計測し,これを用いて年次別出生率を再現するモデルによってシミュレーションを行うことにより,1970年代半ばからの合計出生率低下に対する結婚と結婚出生率の寄与の大きさを明らかにした。これに必要なコーホートの初婚率と出生率は年次別年齢別の初婚率と出生率から導かれたが,後者は,1947年から1998年まで52年間の人口動態統計による女子の年齢別初婚数と出生数に基づき,今回改めて計算しなおした。コーホートの初婚水準(生涯既婚率),初婚期(平均初婚年齢),既婚出生水準(生涯既婚出生率),既婚出生期(平均初婚出生間年数)の4変数について,それぞれ1933-34年コーホート以後,その値が一定かあるいは現実どおりに変化したかの2種を設定し,16通りのシミュレーションを行った。その結果,1970-2000年の全期間についてみると,合計出生率低下(2.138→1.386)0.748の過半56.7%はコーホートの初婚水準低下(非婚化)によるものであり,13.5%が初婚期の遅れ(晩婚化)による。また,24.5%は既婚出生率水準低下(生涯既婚出生率低下)により,5.3%が既婚出生期の遅れによるものである。したがって,結婚の要因と夫婦出生率の要因の寄与量の比率は7:3である。したがって,少子化対策においては,晩婚化・非婚化に対する対策だけでなく,夫婦の出生率に直接関わる条件についての政策の重要性が改めて明らかにされた。この結果は,Ryderの量指標とテンポ指標による結果ともよく合っており,また,コーホート出生率のテンポの遅れがもたらす年次別合計出生率の低下量についての定量的関係も確認された。
著者
是川 夕
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
pp.1801002, (Released:2018-09-03)
参考文献数
52

日本の移民研究では1990年代以降,外国籍人口の急増に伴い,移民第二世代の教育問題が注目されてきている。これは,社会的統合を重視する欧米の移民研究において特に重視されて来た論点であり,同論点の検証に当たっては,移民第二世代が学校で実際に経験する困難さだけではなく,親の階層的地位や移民の編入様式に注目する「分節化された同化理論」など,広く社会構造との関連を視野に入れた分析枠組みが用いられてきた。しかしながら,日本では移民第二世代の学校文化への適応に焦点を当てた臨床的なアプローチは数多く行われて来たものの,複数の移民集団に横断的な教育達成の状況やその要因についてナショナルレベルのデータから明らかにした研究はまれであった。また,その際,分節化された同化理論が想定するように,親世代の階層的地位や編入様式など,広く社会構造との関係に注目した研究は少なかったといえよう。こうした状況を受け,本研究では国勢調査の個票データを用いて,母親の国籍別に見た子どもの高校在学率に焦点を当てた研究を行うことで,移民第二世代の教育達成の状況とその要因について明らかにする。また,分節化された同化理論に基づくことで,移民第一世代と第二世代の階層的地位の世代間変動に注目した分析を行う。その結果,外国籍の母を持つ子どもの場合,日本人の母を持つ場合と比較してその高校在学率は低い傾向にあるものの,それは移民第二世代一般に見られる傾向であり,親世代での階層的地位と子どもの高校在学との結びつきは相対的に弱いことが示された。つまり,分節化された同化理論は日本には妥当しない可能性が高いといえる。その一方で,移民の低い教育達成は,子ども自身の日本国内での居住期間の長期化に伴う日本社会への適応によって自然と解消する可能性が低いことも示された。これは多言語での情報提供や日本語教室など教育現場に対する今後のより一層の政策的支援の必要性を示すものである。
著者
茂木 暁
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.55-74, 2014-06-30 (Released:2017-09-12)
被引用文献数
3

本稿は,日本女性の結婚への移行について,夫婦がどのようにして出会ったかという「出会い方」の違いに注目しながら分析する。従来の研究では,移行元として未婚という状態から,移行先として既婚という状態への単一の移行を分析対象とする移行像(単一移行)を想定し,移行が起こりやすい年齢と,移行の発生に影響する要因(規定要因)について分析してきた。これに対して本稿では,夫婦の出会い方(以下,「出会い方」)の違いに対応して,移行が起こりやすい年齢と規定要因とが異なる可能性について検証する。具体的には,「仕事・職場」,「友人紹介」,「学校」,「インターネット・携帯」,そして「その他」という5種類の「出会い方」を想定した上で,「出会い方」別の結婚を,競合リスク事象として取り扱い,それぞれの結婚への移行ハザード率を,年齢と,初職属性や学歴などの規定要因によって説明するモデルの推定を行う。『働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査』を利用した分析の結果,上記の可能性を支持する実証結果を得た。第一に,年齢の違いについて,「学校」は,移行が起こりやすい年齢区間が他の「出会い方」と比べて狭くなること,「インターネット・携帯」は,移行が起こりやすい年齢が他の「出会い方」と比べて高くなるという知見を得た。第二に,規定要因の違いについては,初職属性である雇用形態・企業規模・労働時間の3つが「仕事・職場」という「出会い方」での結婚への移行に対してのみ影響するという結果を得た。また,学歴の高さについては,「仕事・職場」や「友人紹介」での結婚を抑制するという結果を得たが,「学校」という「出会い方」についてのみ結婚を促進することが明らかになった。
著者
原 俊彦
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.41-55, 2008-05-31 (Released:2017-09-12)

In Germany,TFR stagnate at below replacement level ranging from 1.3 to 1.6 with some fluctuation for over 30 years.Any arguments and policies to promote births ware tabooed due to nightmare memories about pronatalistic policies,which accompanied racial discrimination under the Nazi regime.For this reason,the basic standpoint for family policy is that the government should be responsible for family according to constitutional prescription but act only in a subsidiary function to marriage and family and avoid any intervention in individual affairs. However, this political attitude began to be revised under the first Schroder SPD government and Renate Schmidt was inaugurated as the federal minister of Families, Seniors,Women and Youth,and it came to emphasize the importance of the family policy which focused on the population problem. This new wave of family policy change was taken over also to a large coalition government with the Christian Democratic Union (CDU) born by the federal elections in 2005, and becomes fruitful as the 7th family report (the rough mapping 2005, definite version 2006)and the new policy measures are beginning to be implemented one after another,such as the revision of the promotion law for construction of childcare centers,the introduction of a parents allowance (Elterngeld), "house of many generations" project, etc.. This paper focuses on this recent drastic change of family policy in Germany.We analyze its demographic backgrounds and show the new policy measures and their expected effects. The important topics of this paper are: 1. As for fertility, in 30 years long stagnation of TFR, Germany became far behind Scandinavian, Anglo-Saxon countries and other EU members. Remarkable recovery of TFR in neighboring-country France is seemed to be especially a big shock for Germany. 2.The childlessness of Germany is increasing and according to the recent research,one per three German women could be childless at a whole life.In addition,the average number of desired children is decreasing to 1.75 in women and 1.59 in men at age 20-49, clearly lower than reproduction level. 3. The 10th population projection of the Federal Statistics Bureau (medium variant) has presupposed that the decrease in total population would be started in 2012 but has been realized since 2003. In Germany,while the number of birth decreases further because of the post baby boomer parents,the increase in the number of death is also expected by the aging society, a long-term population reduction is not avoidable, like Japan. 4. According to the time scenario for TFR in future by Hans Bertram, the leader of the experts team compiled the 7th family report, TFR could be increased from 1.34 in 2003 to 1.64 by 2017 and return to 1.57 by 2037, and go into a stationary state,if the new policy measures could effectively stop the postponement of first birth timing and shift down about one-year earlier.