著者
高橋 美由紀
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.41-53, 1998-11-30 (Released:2017-09-12)

本論文では,18世紀後半に主として東北地方や北関東地方で始められた,「赤子養育仕法」という出生児数に応じて金銭などの手当を支給する出産奨励施策と地域人口の変化との関係について観察する。近世東北日本における「堕胎・間引」といった産児制限をとめ,人口増加を図る施策として赤子養育仕法はとられたと言われている。今回の分析対象地域は,現在の福島県郡山市の一部にあたる郡山上町とその周辺地域である。近世に郡山上町が位置していた二本松藩では,人口問題を重要ととらえており,時期により精度や記載様式に若干の差はあるものの,かなり綿密な人口調査が18世紀の始めから明治初期までほぼ同一の形式で行われていた。この人口調査(「人別改帳」を中心とする史料)を用いて近世の人口の様相を探ることができる。赤子養育仕法の内容と変遷,その施行状況をこれらの史料から探り,地域の総人口,出生数,出生率などと仕法の関係とを考える。結論としては,1)合計特殊出生率が低下した後では支給手当が高くなる,2)双子の出生記録は赤子養育仕法の施行と共に増加した,3)仕法は母親が奉公中の出産には,特に手当を与えるなど,領民の実情に応じたきめ細かな手当内容であった,4)二本松藩領内では,19世紀第1四半世紀に入って出生数及び人口増加が始まったと思われ,この頃から赤子養育仕法のに関する記録が少なくなった,ということが見て取れる。
著者
高瀬(勝野) 真人
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.21-34, 1991-05-30 (Released:2017-09-12)

わが国では第1回の国勢調査が行われた1920年(大正9年)以前の死亡統計については,詳細な分析の基礎となる正確な年齢別人口が得られなかったこと,死亡登録の完全性が疑問視されてきたことなどから,これまで充分な解析が行われていない。そこで,国勢調査以前の死亡統計の精度を実証的に評価するとともに,死亡統計の詳細な分析に不可欠な年齢別人口を得ることを目的として,国勢調査人口を基礎におよそ30年分の年齢各歳別(出生年別)死亡統計をもとに1.5%の届出漏れと死亡数の3.5%にのぼる内地外への流出超過を考慮した上で, 1890年(明治23年)首にまで遡る年齢別人口および出生数の推計をおこなった。この推計作業の終着点である1890年前後の本籍人口は,成人の就籍漏れがほとんど解消されていた上,除籍漏れ(主に死亡届漏れ)の蓄積もまだ少なく,内地外への移動も無視できる程度であり,推計人口は年次を遡るにつれて本籍人口との一致度を高めていくものと期待された。その結果,国勢調査から30年余りも隔たった戸籍簿上の年齢別人口である1890年首の本籍人口ならびに30年間の登録出生数が実際に極めて高い精度で復元できることが確認された。一方, 1920年以降の死亡率の傾向から推計された生命表を用いた逆進生残率法による人口推計では,人口の年齢分布や推定される届漏れの改善傾向に疑問があることを示した。これらの結果から,少なくとも明治20年代には,わが国の死亡統計はすでに詳細な分析に耐える信頼性をそなえていたものと推定された。また,わが国では1885年に原因不明の出生率,死亡率の急上昇が認められるが, (1)その死亡数の増加が著しく乳幼児に偏っていること(2)届遅れの出生死亡届出数が同年に明らかなピークをもつこと(3)その前年の明治17年に「墓地及び埋葬取締規則」が公布され,死亡のみならず妊娠第4月というかなり早期の死産にまで届出と埋葬が義務づけられたこと,の3点から特に乳幼児の死亡届出が1885年を境に大きく改善したと考えられることを示した。結論として, 1890〜1920年の公式統計上の死亡率低下の停滞(上昇)は事実を反映したものと考えられ,今回の人口推計結果をもとに死因別年齢別死亡の詳細な分析を進めることが重要であると考えられた。
著者
鬼頭 宏
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.49-57, 1986-05-30 (Released:2017-09-12)

近世日本の農村人口については宗門改帳の利用によってこれまでに多くのことが解明されてきたが,長期にわたって残存する宗門改帳が少いために,都市の歴史入口学的研究はおくれるいるのが実状である。そこで宗門改帳とは別種の史料の利用を開拓することが必要とされる。本稿では,町奉行所から布達された町触の記事を通じて迷子と行方不明に焦点をあて,近世都市における人口現象に接近することを試みた。調査結果はつぎのとおりである。迷子の年齢は2・3歳から8歳まで分布するが,半数が3・4歳に集中する。また迷子の発生件数は米価高騰期に多く,低落期に少い。このことから迷子にはひとり歩きできる年齢の捨子が多く含まれると推定できる。貧しい身成りの子供が多数あることも,この推測を裏付ける。行方不明者の数は15歳以下の年少者が最も多くほぼ3分の1を占める。61歳以上が5分の1を占めてこれに次ぐ。年齢構造を考慮すれば行方不明の発生率は61歳以上高齢者は平均の3倍以上で最も高く,15歳以下と46〜60歳がこれに次ぐ。年少者には奉公人が多数含まれ,ほぼ半数を占める。行方不明者全体の中で傍系親族の割合は低く,1割に満たない。これらの特徴は,都市化が進み,小規模の血縁家族と比較的多数の若年労働力をおく京都の世帯構造をよく反映している。行方不明者には肉体的,精神的に何らかの異常をもつ者が少くない。25歳以下では「生得愚」とされる者,26〜60歳では精神に障害があるとおもわれる者,そして56歳以上では「老耄」と記載された俳徊老人が目につく。迷子と行方不明に対する関心が18世紀になってから高まり,触留に記録されるようになったことは,前世紀からこの時代にかけて人口の成長から停滞への転換が生じたことと関係があると考えられる。人口の停滞はおもに出生力の低下,すなわち子供数の制限によって達成されたとみなされている。捨子は堕胎・間引と並び,確実な方法として採用されたのであろう。また同時に,出生率の低下は人口高齢化をもたらし,老人を取り巻く問題が目立つようになったのである。
著者
阿藤 誠
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.17-24, 1982-05-21 (Released:2017-09-12)

After having maintained about replacement level for some 15 years, Japanese fertility has been declining since 1973. The application of decomposition technique to the decline in the crude birth rate between 1973 and 1980 clarified that 40% of the total change in CBR is explained by changes in age composition, 50% by the decline in proportions of couples married, and 10% by a short-term decline in marital fertility. The change in age composition in this period refers to the abrupt shrinkage of the younger cohort, which is most exposed to the prospect of marriage: those aged in then 20's. This is, in turn, an echo of the precipitous decline in birth just after the short-term "baby boom" in postwar years. If we take into account the historical steadiness of marriage throughout Japan, the decline in the proportions of those married would seem to be the postponement of marriage without any rise in the celibacy rate. Several factors are presumably conducive to the recent marriage squeeze, but the recent rise in high school and college enrollment rates for both men and women appears to be most responsible for it. It remains to be studied whether the disequilibration of the sex ratio among marriageable cohorts due to the abrupt change of the cohort size, the decline in substantive wage rates since the oil crisis of 1973, or changes in the social mechanism for selecting spouses (i. e., the decrease in arranged marriages), is causally relevent to the marriage squeeze. The cause for the short-term decline in marital fertility is difficult to discern. According to several recent fertility surveys of married women, there has been little change in completed fertility, fertility goals (measured by the total intended number of children), and fertility control behavior (which is measured by the proportion of contraceptive usage or induced abortion, the timing in the initiation of contraceptive usage, and the contraceptive methods used). Thus, the short-term decline in marital fertility, if any, is inferred to be temporary.
著者
岡田 実
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.18-23, 1980-04-21 (Released:2017-09-12)

Although the origin and causes of birth control of France in the 18th century have been the subject of discussion as long as 200 years, yet there are no satisfactory explanastions presented. This regrettable situation of the subject may be in part explained from that the problems belong to pre-statistic period and thre was a few vital statistics officially published on which rely the true affairs. As for causes of birth control, we may point out the diversity of the explanations of it. But the incessant, laborious researches into the concerned subject made by I.N.E.D., some results of which appeared as "La prevention des naissances dans la famille, ses origines dans les temps modernes", and the analysis by the method of family reconstitution exploited by Louis Henry and others, contributed to throw light upon the subject. In spite of many monographs and diverse explanations the results are far from the settlement of problems, and we are requested further researches. One of the direction of investigations is without doubt that of historical demography, but as A. Sauvy pointed out, a further research into the documents of penitence reserved at churches and also into the private correspondences as those of Mme Sevigne may be useful.
著者
大山 昌子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.45-58, 2004-11-30 (Released:2017-09-12)
被引用文献数
1

In this paper, the effect of the cost of raising children on fertility rate is estimated in order to test the hypothesis that this cost caused the recent fertility decline in Japan. Two measures of the cost of raising children were used. One measure was the cost on the Rothbarth model of equivalence scale, and the other was monthly expenditure on children (per child). Since the cost of raising children is an endogenous variable, instrument variable estimations were made. In the estimation in which the number of children is used as the dependent variable, the cost of children showed statistically significant negative effects on fertility. Thus, an implication for policy is that decreasing the cost of raising children is likely to have a positive affect on the fertility rate. Examples of such policies are extensions of the subsidies for education or medical expenses of young children.
著者
黒須 里美
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.61-66, 2009-11-30 (Released:2017-09-12)

私たちのまわりには,今も昔も,さまざまな「危機」が存在している。金融危機,食物価格の変動,凶作,政変,戦争などによって生じる社会的,政治的,経済的変化,そして津波,洪水,台風,地震などの自然災害。このような多岐にわたる急激な変化には,ある程度予測可能なものもあれば,不可能なものもあり,それにたいする人々の人口学的行動も様々である。麗澤大学において2009年5月21〜23日に開催された国際人口学会(IUSSP)セミナーとそれに続く公開シンポジウムでは,多岐にわたる危機と人口学的動向の関係をめぐる,長期的・比較的視野に立った最新の研究成果が報告・議論された。新型インフルエンザに対する脅威が高まりはじめ,日本政府が海外からの感染を防ぐ水際対策に躍起になっていた5月である。シンポジウムにおいて「スペイン・インフルエンザ」の報告を全員がマスクをつけて聞くという想定のもと,その準備もされていたがそれは避けられた。しかし組織者の予想以上にタイムリーな研究テーマとなった。本稿ではIUSSPセミナーとシンポジウムについて,その経緯と内容を報告する。
著者
坂爪 聡子 川口 章
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1-15, 2007

育児休業制度が出産確率を上昇させるか否かを理論と実証の両面から分析する。育児休業制度を明示的に取り入れたモデルを用いて,育児休業制度が出産確率に与える影響を分析し,プロビット・モデルを用いてそれを検証する。モデル分析から得られる推論と実証分析の結果は,以下の2点において整合的である。第1に,育児休業制度の導入は出産確率を上昇させる。ただし,第2に,通常の労働時間が非常に長い場合は,その効果は小さい。なぜなら,労働時間が長い場合,育児休業制度があっても,女性は出産退職や出産しないことを選択する可能性が高いからである。このことから,育児休業制度の取得率と出生率を上昇させるためには,制度の導入と同時に通常の労働時間を短縮するか,少なくとも育児休業後の労働時間を短縮することが必要であるといえる。
著者
若林 敬子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.9, pp.59-69, 1986-05-30

中国の人口政策,第1の人口の量をめぐる政策は,晩婚,晩産,少生,稀(出産間隔をあけること)である。今世紀末人口を12億にとどめる目標を目指して,いわゆる"1人っ子政策"が進められ,計画外第2子の出産,多子(第3子以上)率の根絶が当面の課題となっている。1984年春以降,第2子出産の条件が"緩和・拡大"され,1985年9月の第7次5カ年計画および「2000年の中国と就業」研究小組では,2000年の人口を12.5億人前後という"修正"がなされている。第2は,優生をめぐる問題であり,いとこ同士の結婚・ハンセン氏病患者の結婚を禁止している(80年婚姻法)。第3は,農業余剰労働力が今世紀末までは2.5億人以上にもおよぶとされ,"離農不離郷"(離農はしたが離村せず)の新しいタイプの労働者を誕生させつつある。第4は,人口高齢化と年金改革等の問題である。年金・賃金・福祉をトータルに把握し,全国的なあるべき社会保障制度の検討が初められだした。以上のように,本小稿は,中国の最近の人口政策を量,質,移動・分布,高齢化の視点から検討し,かつ各省市の計画出産条例の内容を紹介する。
著者
西本 真弓 七條 達弘
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.40, pp.37-49, 2007-05

我が国では,近年,未婚化や晩婚化,非婚化の進行が大きな社会問題となってきている。しかし,「一生結婚するつもりはない」と考えている未婚者はそれほど増加していないことから,未婚者の結婚意欲の変化が未婚化,晩婚化,非婚化の主たる要因とはいえない。そこで本稿では特に男性に注目し,結婚確率に影響を与える要因を明らかにすることを分析目的とする。推定には,総務省統計局が1986年,1991年,1996年に実施した『社会生活基本調査』の個票データを用いている。被説明変数に,既婚を1,未婚を0とする結婚ダミーを用い,プロビット分析を行った。推定結果から,非就業男性は,大企業の事務職と比較して結婚確率が50%以上減少することが明らかとなった。我が国の未婚男性における完全失業者やニートは増加傾向にあることから,結婚確率を上昇させるためには,失業者やニートを減少させるような対策が必要といえる。また,会社団体役員,管理職,そして商店主,工場主,サービス・その他の事業主,保安職は結婚確率が高いという結果が得られた。こうした収入が高く,安定している職業では結婚確率が高くなることが示されたといえる。
著者
友部 謙一
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.14, pp.p35-47, 1991-05
被引用文献数
4

本稿は近世日本農村における全国および地域別の婚姻出生力を「自然出生力分析」を通じて再考察したものである。自然出生力はフランスの人口学者ルイ・アンリにより考案された概念であるが,ヨーロッパの出生力低下を考察するなかで,多くの研究者がその重要性に言及するようになった。なかでもコール&トラッセルモデルは自然出生力水準(M)と出生制限指標(m)を推計する計量モデルであり,修正と開発を繰り返すなかで出生力分析に不可欠な実証的手段となった。本稿はこのモデルを中心に近世日本農村におけるM値とm値を推計している。分析を通じて明らかになったことは,第一に出生制限指標(m)から判断するかぎり,近世日本農村では出生制限を実行していた可能性は低く,その意味で, 17世紀後半以降の近世日本農村は「自然出生力レジーム」にあったこと,第二に出生制限の程度にかんしては,同時に地域差および村落差も大きく,「自然出生力レジーム」とはいえ,その成果としての婚姻出生力の動向には短期的な時間軸や地域特性を考慮した解釈が必要になること,第三に近世日本農村の自然出生力水準は,西欧のなかでも低い水準で知られるイングランドと比較して20%近く低く,日本のなかでもっとも低い水準の関東・東北では,実にイングランドの70%程度でしかなかったことなどである。分析対象とした村数やその地域的分布を考慮すると,本稿の結果は中間的かつ暫定的なものと考えるべきであろう。また,それはサイズだけの問題ではなく,出生制限の有無はモデル指標値の大きさとともに,ミクロデモグラフィーを駆使した出生力分析との対話のもとに探究されるべきである。本稿では西欧の研究成果を紹介しながら,近世日本農村というコンテクストのなかでその方向性を探究している。