著者
府川 哲夫
出版者
Population Association of Japan
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.13-27, 1995-05-31 (Released:2017-09-12)

マイクロ・シミュレーションモデルの1つである「世帯情報解析モデル」INAHSIMは1981〜82年及び1984〜85年にかけて「世帯モデル研究会」によって開発された。INAHSIMは世帯,世帯員(個人),夫婦(配偶関係)の3つの情報単位で実社会の世帯を表現し,基礎率として出生率,死亡率,結婚率,離婚率,単身化率及び復帰率,世帯合併率等を用いて実社会の世帯の変動をシミュレートしている。このモデルから得られる結果は,世帯の種類別世帯数の将来推計の他に,世帯動態,高齢者の世帯状況,ファミリー・ライフサイクルに関する情報,基礎率を変化させた場合の世帯構成への影響評価,等多岐にわたっている。今回, INAHSIMに初期値作成手順の大幅な変更を加え, 1990年を起点として2040年までの50年間のシミュレーションを行った(1994年推計)。1994年推計の初期値は人口1.7万人,世帯数5.5千世帯であった。今回の推計によって,世帯調査から初期値を得られない場合にもINAHSIMによる世帯推計は可能であることが確認された。今回用いた標準基礎率に基づく推計によると,総人口は2010年頃,総世帯数は2010年代にピークを迎え,その後減少し始めるが,単独世帯及び世帯主が65歳以上の世帯の増加が顕著であった。その結果,65歳以上の単独世帯の割合は2000年には19%, 2040年には24%と増加することが見込まれた。世帯動態に関しても,これまでに得られていた結果を拡充する情報が得られた。今回の推計では基礎率の吟味は十分行えなかった。個人セグメントに健康状態の情報を付加すればINAHSIMから介護に関するデータが得られる等,モデルの発展の可能性も議論した。
著者
原 俊彦
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.21-35, 2008-11-30 (Released:2017-09-12)

This paper focuses on the low fertility of Sapporo and considers its demographic features among the designated cities by using Japanese Census and Vital Statistics in 2005. The important findings are as follows. 1. The cluster analysis shows 4 fertility patterns, "Industrial city"," Service industry city", "City with national average fertility" and "City with lowest low fertility" (Sapporo, Tokyo special wards). 2. The factor analysis indicates Sapporo's unique features. The proportion of married women and the marital fertility have almost same weight on low fertility and the catch-up effect realizing postponed marriage and birth by an advanced age does not work. 3. The different net-migration between male and female population causes the lowest sex ratio and the lowest first marriage rate of women in 15 cities at ages 25-29. This results again in the lowest singles sex ratio and the lowest first marriage rate at ages 30-34, so that the catch-up effect doesn't occur. 4. The negative correlation is observed between the mean age of woman at first childbirth and the proportion of the 3rd births in total births.Since the former has highly positive correlations with the mean age at first marriage, the late marriage in Sapporo could cause the late first childbirth and result in giving up to have the 3rd and more children.
著者
清水 昌人
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
2019

<p>東京都の住民登録(基本台帳)人口移動報告により,他の道府県から東京都区部に転入した人の地域分布を出発地別,到着区別に検討した。1960年代後半と2010年代前半の転入数を1㎢あたりの転入数や立地係数など4つの指標で分析したところ,東北・北関東からの転入者と西日本からの転入者の間で,到着地の違いが比較的大きかった。また,埼玉,千葉,神奈川からの転入では,各県に隣接する区およびその周辺部への集中が顕著だった。ただし,出発地ごとの分布のかたよりは2010年代には全体に縮小し,多くの出発地集団で以前よりも似通った分布が観察されるようになった。</p>
著者
藤野 敦子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.19-35, 2002

わが国の少子化の主たる要因として,女性の仕事と育児の両立の困難さが挙げられるが,その背景にわが国の社会システムが依然,性別役割分業を基盤として成り立っていることが指摘できる。また,このようにジェンダー構造が固定されている中で女性達の価値観が大きく変化してきたために出産回避の傾向を生じていると考えられる。そこで,本稿の問題意識は二つある。まず,第一に家計内において夫が家事に協力的である場合や家事育児が可能な働き方をしている場合に,出生行動や妻の就業行動にプラスの効果があるのか,あるいは妻の育児と仕事の両立を可能にするのかということである。次に女性の価値観の変化,すなれち,伝統的な家族観の弱体化,個人主義的な傾向,性別平等意識の浸透が家計の出生行動と既婚女性の就業行動にどのような影響を与えているのかということである。本稿では,民間調査機関が実施した「夫婦の生活意識に関する調査(1994)」による個票データを用いて,(1)出生数関数,(2)妻の就業選択関数,(3)出産育児選択と妻の就業選択の同時推定といった3つの推計モデルにより実証分析を行った。本稿の分析から得られた最も重要な知見は,まず,既婚女性が出産育児と正規就業のトレードオフの中に置かれていること,しかし,夫の帰宅時間が早い場合にはその両立を支援する可能性があるということである。また,性別平等意識を持った女性は正規就業を選択すると同時に出産育児を回避する傾向が見られることである。本稿の分析は,今後,少子化対策が社会全体の性別役割分業の見直しを基本に据え,進められなければならないことを示唆している。
著者
杉田 菜穂
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
2018

<p>戦後日本の政策論議に生産年齢人口の<質>という観点を導入したのは,大来佐武郎(1914-1993)である。官庁エコノミストとして知られる大来は,1961年からの10年間で名目国民所得を倍増させることを目標に掲げた所得倍増計画(1960年)作成の中心人物であった。この計画は,経済的な発展だけでなく福祉や職業訓練,教育といった社会的な発展に対する政府の責任を重視したという点で経済計画におけるひとつの転機となった。その背後には,生産年齢人口増加率の低下という問題意識がある。1961年に『人間能力の開発:現代の国富論』という書名でエリ・ギンズバーグの<i>Human Resources: The Wealth of a Nation</i>の翻訳を出版した大来は,アメリカの人的資源開発をめぐる議論にいち早く注目し,その観点を経済計画作成にも取り入れた。それは,1960年代以降の日本における社会的発展を考慮した経済的発展という政策基調の起点となった。本稿は大来に焦点を当てて,戦後日本におけるマンパワー・ポリシーをめぐる議論の史的経緯を明らかにする。</p>
著者
小西 祥子 佐方 奏夜子 大庭 真梨 オーコナー キャサリン A
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
pp.1801001, (Released:2018-04-01)
参考文献数
30

現代の集団を対象とした先行研究において,受胎確率(受胎する月毎の確率)は20歳代から30歳代前半までの女性で最も高く,年齢を重ねるごとに低下することが報告されている。他の先進諸国と同様に日本においても,結婚年齢および出産年齢の上昇が受胎確率の低下をもたらすことによる不妊の増加が懸念されているものの,関連する学術的な報告は少ない。また受胎確率に影響する年齢以外の要因も日本の低出生力に寄与している可能性もある。本研究は日本における受胎確率の年齢パタンを明らかにすることを目的として,受胎待ち時間を用いて年齢別の受胎確率を推定した。日本全国に居住する20-44歳の女性6,752人を対象として,第1子あるいは現在の妊娠に至った受胎待ち時間(time to pregnancy, TTP; 避妊をやめてから受胎するまでの月数)および基礎的な人口学的属性に関する情報を質問票によって収集した。解析に用いたサンプルは,過去60ヶ月以内に妊娠を希望して避妊をやめた女性1,324人である。内訳は,経産婦816人(グループA),現在妊娠中の未産婦173人(グループB),現在妊娠する可能性のある未産婦335人(グループC)である。TTPの値(グループAとBは打ち切りなし,グループCは打ち切り)を用いて,コックス比例ハザード回帰モデルによってカップルの年齢別の受胎確率比(fecundability ratio, FR)および95%信頼区間(confidence interval, CI)を推定した。また避妊をやめてから3, 6, 12, 24ヶ月後の累積受胎確率も推定した。24-26歳の女性(FR: 1.00)と比較して,27歳以上の女性は有意に低いFRを示した。30-32歳女性では0.68(95%CI: 0.56, 0.82),36-38歳女性では0.41(95% CI: 0.31, 0.53)であった。男性の年齢が高いことも低いFRと関連していた。避妊をやめてから12ヶ月後の累積妊娠確率は24-26歳の女性で最も高く80%(95%CI: 75%, 84%)であり,年齢が上がるとともに低下し,30-32歳では66%(95%CI: 61%, 71%),36-38歳では48%(95%CI: 39%, 55%)であった。第1子の妊娠を希望して避妊をやめた経験をもつ本研究の対象集団において,受胎確率は24-26歳で最も高く,より年齢の高い女性で受胎確率が低かった。男性の年齢が高いことも低い受胎確率と関連していた。受胎確率に対する年齢の影響は,未産婦と比較して経産婦で弱く,また未産婦は経産婦と比較して年齢がより高く不妊治療の経験者が多い傾向があった。よって年齢の影響以外にも、まだ明らかになっていない要因が日本の低出生力に寄与していると推測される。
著者
小林 淑恵
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.1-18, 2006-11-30 (Released:2017-09-12)
被引用文献数
1

循環モデルのフレームワークに基づき,家族形成期の日本女性を調査した『消費生活に関するパネル調査2』を用いて,1)結婚意欲と結婚行動の関係の検証,2)働く重要度と結婚行動の関係の検証を行った。1)では結婚意欲が個人属性と母親属性によって決定され,学歴や大都市居住,賃金率の上昇によって高められるが,未婚状態を継続することにより適応効果が働き,「必ずしも結婚しなくてよい」「結婚したくない」と意欲を下げて行くことが明らかとなった。また結婚意欲が実際の結婚行動に与える選択効果も支持され,結婚行動に直接影響する変数と,意欲を介して影響する変数の存在が確認された。2)では働く重要度の違いが結婚行動へ与える影響は見られず,選択効果は棄却された。また就業変化などの直接的な経験による適応効果は見られるが,結婚や出産などによる影響は見られない。これらの分析結果からは,家族形成と就業はどちらかを選択することで他方の重要度を下げるような関係ではないと言えるが,ここで用いた変数が就業と家族形成の狭間における女性の心の揺らぎを十分に把握できていないという可能性は否めない。
著者
大谷 憲司
出版者
Population Association of Japan
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.31-43, 1992-05-30 (Released:2017-09-12)

本稿は,現代日本における未婚者の性行動,結婚前の妊娠,女子の結婚確率,結婚後の避妊,ならびに最初の妊娠の確率といわゆるlocus of controlの関係を吟味している。1987年に厚生省人口問題研究所によって行われた第9次出産力調査のデータを用いて, logistic regressionおよびproportional hazards modelにより次のような予想が確認された。(1)18-22歳の未婚女子における外因帰属者(externals)は,内因帰属者(internals)よりも性交する可能性が高い。(2)内因帰属者である未婚女子の結婚確率は外因帰属者の結婚確率よりも高い。(3)最初の妊娠が生ずる前の避妊実行確率は内因帰属者である妻の方が外因帰属者よりも低い。(2)と(3)の結果は,内因帰属(internal locus of control)がより周到な計画的行動と密接に結びついているという一般的な期待と一見矛盾するように見えるが,それを説明する試みがなされた。また,われわれの期待とは反対に,既婚女子に関する限り彼女達が結婚前に妊娠をする確率はlocus of controlと何の関係も示さなかった。さらに,第1子妊娠確率についてもlocus of controlとの関係は見いだされなかった。これらの予想と結果のギャップを生みだした要因について考察がなされた。
著者
小池 司朗
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.23-45, 2017 (Released:2017-11-20)

本稿では東京都区部を対象とし,1980年代以降における移動数(転出数・転入数)の変化の人口学的要因を明らかにすることを主目的とする。分析にあたっては間接標準化の手法を適用し,移動数の変化を人口構造(男女年齢構造)要因とモビリティ要因に分解することによって,「都心回帰」の人口学的メカニズムの解明を試みた。その結果,得られた主な知見は次の3点にまとめられる。第一に,近年における各区の転入超過数の拡大には,当初は転出モビリティの低下が大きく寄与していたが,次第に転入モビリティ上昇の影響の方が大きくなっていった。第二に,1990年代半ば以降において,すべての都道府県に対して都心部の転入モビリティは上昇し,転出モビリティは低下していた。なかでも関西地方からの転入超過傾向が強まった一方で,1都3県におけるモビリティ変化は比較的小さかった。第三に,人口構造要因は転入数変化・転出数変化の双方に一定の影響を及ぼしており,都心部における将来的な転入超過数増加の抑制要因となることが示唆された。人口移動傾向の変化を正確に把握するためには,本稿で行ったような転入および転出のモビリティ変化を分析することが不可欠となろう。