著者
米田 昭二郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.396-399, 1986

実験をふんだんにとり入れた化学の授業が, 中学生の私を化学の森へ招待してくれたらしい。そこで刻まれた情報が, 密林からの脱出ヒントとなり, 峠での見晴らしを楽しむ引き金ともなった。正規の学生生活を体験していない私は, 多彩な物質世界の現実にも"知らぬが仏"。試行錯誤の末にたぐり寄せた自然界の原則に驚き, それを目前の児童・生徒に活かしつつともに楽しもうとしてきた。シアン化物にまつわる戦中のエピソード, 塩化物イオンの追い回し, 金属ナトリウムさわぎなどは, 化学の森に迷いこまなかったら, とても出会えない楽しい体験である。化学者が訪ねる森とは異次元ながら, 私なりに満喫したハイキングでの, ふき出したくなる傑作をお話ししたい。私を化学へ招待してくださった, 先生方や生徒諸君の顔を懐かしく想い浮かべつつ。
著者
藤永 太一郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.400-403, 1985-10-20 (Released:2017-09-15)

環境化学は, 人間活動の効果を考慮に入れた自然科学と技術の一分野である。したがって総合科学の代表的なものの一つであるが, 学術としての基礎が確立していないために公害対策技術と誤まって考える向きが多い。本稿では健全な環境の基本条件を化学の立場から考え, また将来の環境工学のあり方について述べる。環境化学の学問としての基礎は, Empedoklesが提唱したとされる4元説にあると考え, 気圏, 水圏, 岩石圏の化学反応と平衡を考察する。このため本稿の内容は主として化学であるが, 物理学, 生物学, 地学はもとより, 一部は社会人文科学の領域にも係っている。
著者
植木 昭和
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.112-116, 1983-04-20 (Released:2017-09-15)

精神機能が脳の働きであることを疑う人は今日ではほとんどいないであろう。しかし精神活動が化学物質によって著明に変化することが信じられ, 本格的な科学研究の対象になってきたのは1950年代以降のことである。それは精神機能に特異的な作用を及ぼす薬物の発見が契機となった。100億以上の脳細胞の緊密な情報連絡によって営まれる脳の働きには数多くの機能があるが, 他の機能にはほとんど影響なしに, 知, 情, 意というような精神活動だけを選択的に変化させる薬物, それを向精神薬という。ここでは向精神薬の発見から主要な精神疾患の治療薬の進歩まで眺めることによって, 薬の意義や精神活動の脳機構解明の発展などを考えてみたい。