著者
奴久妻 駿介
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.87-98, 2014 (Released:2017-03-28)

本稿の目的は、日本国内に存在する「不就学」の外国人児童生徒の実態を把握することである。過去に、いくつかの外国人が集住する地区において既に外国人児童生徒の「不就学数」が調査は実施されてきたものの、公立学校及び外国人学校に在籍していない「不就学」児童生徒の数を把握するという作業は困難性を伴うものであり、暫定的な数を知ることに留まっている。本調査では、各都道府県の教育委員会が外国人児童生徒の「不就学」状況を把握しているかを明らかにすることを目指している。対象としている読者は、教育行政に関わる人々および外国人児童生徒の「不就学」を研究対象としている者である。調査方法は、「外国人児童生徒の不就学者数」に関する情報提供をメールにて呼びかける質問調査を採用した。結果、静岡県と奈良県の教育委員会のみが、外国人児童生徒の「不就学」についての実態把握を行っているということがわかった。以上の実態は、未来へ向けて深刻に受け止めるべき課題となるだろう。
著者
岸 磨貴子 今野 貴之 久保田 賢一
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.105-121, 2010

本研究の目的は、インターネット上での異文化間の協働を実践共同体の枠組みで捉え、実践共同体が組織されるプロセスを明らかにすることで、異文化間の協働を実現する学習環境デザインのための要件を提示することである。日本とシリアの児童・生徒が、協働して物語を創作する実践を研究事例とし、実践共同体を構成する3つの次元である「共同の事業」「相互の従事」「共有されたレパートリー」が組織されるプロセスを明らかにする。本事例における「共同の事業」とは、絵本の共同制作である。また、絵本を完成するために、児童・生徒が協働し、相互に助け合うことを「相互の従事」とし、その中で、絵本を創作するために必要な計画の立て方、物語の書き方、表現などを「共有されたレパートリー」と捉える。日本とシリアの児童・生徒の学習記録とフィールド調査で得たデータをグラウンデッド・セオリー・アプローチに基づき分析した。その結果、児童・生徒は、協働が不可欠な状況において、物語制作に相互に従事し、物語の作り方、コミュニケーションの方法、協働で創作する意味などのレパートリーを共有した。3つの次元の組織化のプロセスから、インターネット上での異文化間の協働を促すためには、協働が不可欠な課題の設定、学習者間の相互従事を促すための支援のデザイン、学習者間の協同的学習を促す自由度と枠組みの設置という3つが学習環境デザインのための要件として提示できた。
著者
叶 尤奇
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.71-88, 2015

<p>本稿では、下位文化理論の視点に基づき、上海に在住する日本人海外駐在員妻が、自分自身と類似した者を選択し、同質性の高いパーソナル・ネットワークを構築しているのかについて検討するため、上海に在住する日本人海外駐在員妻21名を対象にインタビュー調査を行い分析した。調査対象をネットワークの成員構成と夫の情緒的援助の有無により、3 タイプに分類し、分析した結果は次の通りである。タイプⅠの協力者は、夫からの情緒的援助を得ながら、同じマンションの住民から構成される近隣ネットワークを維持し、そのネットワークから情緒的、直接的および情報的援助を受けている。タイプⅡの協力者は、夫からの情緒的援助を得ながら、居住環境と関係せずに、子どもの学校関係、趣味の教室および夫の会社関係を通じて複合的な友人ネットワークを築いている。同時に、タイプⅡの協力者は、日本の親族ネットワークとの繋がりを重視している。タイプⅢの協力者のパーソナル・ネットワークはタイプⅡと類似しているが、彼女たちは夫から情緒的援助をあまり得ていない。</p><p>最後に、下位文化理論の視点から、上海における日本人コミュニティが日本人海外駐在員妻のパーソナル・ネットワークの形成に与える影響について考察を試みた。考察の結果、日本人海外駐在員妻は、自身のパーソナル・ネットワークを構築する際に、上海における日本人コミュニティという下位文化の人口的規模から、制約を受けているものの、選択の余地も与えられていることが明らかとなった。</p>
著者
長谷川 典子
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.15-30, 2005-10-05 (Released:2017-03-28)

当研究は2003年12月から約10ヶ月間に亘って行われた質問紙調査の結果を基に韓国ドラマ「冬のソナタ」の視聴行動と視聴者の韓国人に対する態度変容の関係について質的・量的に分析を試みたものである。分析結果から、参加者たちの韓国人に対するイメージは概ねドラマ視聴により好転し、彼らの韓国人に対する関心も高まっていることが明らかになった。偏相関分析の結果、主演俳優に好感を抱いたり、感情移入しドラマ視聴をすることと韓国(人)に関心を持つことの間に何らかの関連性があることが示唆された。また、重回帰分析の結果から、「韓国(人)に対する関心」「『冬のソナタ』への好感」「主人公への感情移入」などは韓国人のイメージの変化に比較的強い関連があるということが明らかになった。自由記述回答に対する内容分析の結果から、回答者たちは韓国の人々の倫理観、人間関係のあり方、ものの考え方などの様々な価値観、すなわち隣国の深層文化の一端を見、文化に対する理解をも深めた者が多く存在したことが判明し、日本での韓国ドラマの放映は、両国間の異文化コミュニケーションの観点からは望ましい結果を生んでいることが窺えた。
著者
長谷川 典子
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.15-29, 2004

本論においては、NHK衛星放送で2003年4月から9月まで放映され、話題になった韓国製ドラマ「冬のソナタ」の掲示板を取り上げ、その投稿メッセージをエスノグラフィーと内容分析の手法を用いて分析した。その結果、当掲示板には、参加者によって意識され遵守されるいくつかのコミュニケーションルールが存在することが判明した。また、些細なことに対しても頻繁に謝罪し、少しの親切にも義理堅く感謝するというような、ネット上の他者を、礼儀を気にする必要のない他人ではなく、心理的距離の近い親しい相手のようにみなすコミュニケーション・スタイルが踏襲されていることも判明した。投稿内容の詳細な分析からは、ドラマへの心理的没頭、孤立感、優越感などの様々な感情の共有、共感、掲示板情報の重要視など、参加者が集団として結束する様々な要因の存在が判明した。またこの集団においては、韓国通の人々は異文化に属する他者ではなく集団の一員として扱われ、さらには重要な情報提供者として重用される傾向も見受けられた。当掲示板の参加者達は、ドラマの背景である韓国文化を概ね肯定的に捉えており、日本における韓国製ドラマの放映が文化交流の視点から望ましい結果を生んでいることが窺われた。
著者
八木 龍平
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.37-52, 2014 (Released:2017-03-28)

本研究では、地域の社会的で主観的な豊かさを測定する社会的展望資本尺度を開発し、その信頼性と妥当性を検証した。本尺度の開発を通して、住民の幸福感や生活満足につながる地域性とは何かを検討した。まず構成概念として、時間的展望概念を応用した社会的展望資本を定義した。そして、まちの暮らしをテーマに老若男女17名にインタビューを行ない、その結果をもとに98項目の暫定版を作成した。暫定版を1392名に実施して因子分析を行った結果、まちの暮らしやすさ尺度13項目(α = .92)、地域参画尺度13項目(α =.92)、変化・成長エネルギー尺度11項目(α = .90)、地域の絆尺度10項目(α = .93)、友人ネットワーク尺度8項目(α = .86)から成る5下位尺度55項目の信頼性ある社会的展望資本尺度が構成された。本尺度と、幸福度を問う質問および現在の充実感尺度との相関分析を行った結果、5下位尺度全てが両者と正の相関関係にあり、住民の幸福につながる地域性であることを確認した。
著者
宮脇 和人
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.21-36, 2009 (Released:2017-03-28)

本研究の目的は非捕鯨地である豊後水道海域と捕鯨地である和歌山県太地町の鯨祭祀を比較することによって、祭祀にかかわった人びとの鯨観を明らかにすることにある。伝統的捕鯨地である太地町の鯨祭祀をみると、鯨は人間と等価に供養されているが、資源とみなされているため供養は一括して行われる。また太地町の供養の歴史と現状をみると、鯨祭祀の基本パターンが導き出せる。鯨祭祀の基本パターンは、鯨が来訪した際には反対給付として供養を施すありかたを核とし、鯨をもたらした要因や鯨がもたらすものに配慮し供養する動機がみられる。また、非捕鯨地の豊後水道海域の鯨祭祀の動機も、この基本パターンのうちにある。これらの動機の表現型として鯨祭祀をとらえると、豊後水道海域の鯨祭祀は、多様である点が特徴である。太地町では鯨が人間と等価とみなされている。豊後水道海域では、やはり人間と等価に表象されているが、ある事例では鯨に法要・戒名・位牌・過去帳を与えている例さえあり、鯨の扱いに差異が認められる。豊後水道海域においては、鯨の来訪は非日常的であり、それゆえ地域社会にとって鯨は個的な体験として捉えられている。つまり、当該海域では、鯨に特有の性格が付与され異なった祭祀を施されていると考えられる。
著者
水谷 俊亮 久保田 真弓
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.117-132, 2013 (Released:2017-03-28)

本研究では、ある目標に向けて協働すべき異文化の集団や組織をつなぎ、その目標達成に寄与する力、すなわち「文化媒介力」(松田, 2013)を参照し、バングラデシュでストリートチルドレンの支援活動を行うNGO・Eが、日本の支援団体NPO・Sを受け入れ実施した5日間の訪問ツアーを対象に、NGO・Eの日本人スタッフ2名に焦点をあて、媒介者としての働きを明らかにする。日本人スタッフの一人はNGO・Eで1年間インターンとして働き、5日間の訪問ツアーを参与観察しフィールドノートを取った。本研究では、このフィールドノートをデータとしKJ法(川喜田, 1967)で分類し、カテゴリー名をつけ分析した。その結果、最終的に19種類のカテゴリーが抽出された。それらを対日本人訪問者への項目と対バングラデシュ人スタッフや子どもへの項目に分けて解説した。次に特筆すべき3つのエピソードをカテゴリー項目を用いて再構成し提示した。これらの分析結果をもとに、NGO・Eの日本人スタッフ2名による媒介者としての働きを「文化媒介力」を援用して議論した。本研究の意義は、「文化媒介力」について実際のデータを元に提示した点、イスラム文化を背景とするバングラデシュで活動する現地のNGOの視点から議論した点、特に農村における場面を扱っている点である。
著者
竹内 真澄
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学
巻号頁・発行日
vol.9, pp.3-19, 2012

本研究は、増加する退職後の海外居住を選択した日本人の異文化居住における心理的様相を明らかにすることを目的とする。退職年齢まで異文化接触が比較的少ない自文化内で暮らした後、異文化圏で居住する退職者層はどのような心理的様相を見せるのであろうか。筆者はその概要を知るために、参与観察とタイ王国に居住する退職者層に半構造化面接を行うことにより、質的データを収集した。その結果、自文化からもホスト文化からも適度な距離を置くことにより快適さを保つ「戦略的境界化」が抽出された。この快適さを支える要因として、高齢者特有と考えられるホスト文化に昭和を見出す懐古的心境、人生経験を積んで醸成される寛容性、社会的役割を終えてようやく取り組める自己実現への希求などが明らかになった。尚、先行研究で論じられている「境界化」は、適応の一番低いレベルであり、自文化からもホスト文化からも中途半端な距離に位置しアイデンティティを失うものである、とされているが、本研究協力者たちは境界的な位置を戦略的に選択することにより、社会の干渉や束縛から抜け出し快適さを手にしていることが明らかになった。
著者
奥西 有理 田中 共子
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-16, 2008

在日外国人留学生の受け入れに関わるホストとして、日本人学生による留学生へのソーシャルサポートの提供について、特に文化的側面に焦点を当て、実証的な解明を試みた。従来、ソーシャルサポートが異文化滞在者の適応促進に有効とする証左は多いが、ホストの視点は希薄であり、今回は留学生と親しい日本人ホスト学生をペアで質問紙調査の対象者として、50組の回答を得た。ソーシャルサポートのニーズと実際の授受の量的把握のため、留学生にはサポートして欲しいと思う心理的なニーズ、日本人学生にはその予測、及び実際のサポートが授受されたと思う個人の認識を両者に、評定してもらった。次いで提供した文化的サポートの具体的な内容をホストに自由記述してもらい、内容分析をするという質的手法で整理した。文化的サポートは、各種のサポートの中で比較的上位に位置した。ニーズと実際の提供の間や、ホストとゲストの認識の間のずれは、わりと小さかった。外国文化を理解する、日本文化の理解を導く、の2方向の文化的サポートを想定したが、前者では、日本人学生によるニーズ認識やサポート提供意識は、留学生より高めであった。後者に関しては、留学生のニーズ認識やサポート受領意識では前者より高く、ホストのサポート提供意識では前者より低い傾向があった。ホストには、ゲストと受け入れ社会を結ぶ、文化的な説明、調整、仲介の能力の涵養が課題と考えられた。
著者
下田 薫菜 田中 共子
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学
巻号頁・発行日
vol.3, pp.33-52, 2006

「ホストとの文化間距離が近い留学生はより適応に有利」とする予測を背景に、日本ホストと留学生を対象とするシリーズ研究の一環として、今回は留学生の比較対照となるホスト集団の情報を得ることを目的に、留学生版と同様の項目構成による調査を行った。集団主義-個人主義と高-低コンテクストコミュニケーションの「自己評定」と、周囲の人たちを評価する「日本人評定」を、日本人学生に求めた。集団の平均値と各自のスコアとの差(集合的文化間距離)、周囲の人への評価と自己評価の差(日本内文化間距離)を算出し、適応との関連を検討した。高コンテクスト度合いが、集団の平均値より自己評価の方が高い人は、平均と同じか低い人と比べて、対人関係や日本的規範への適応が良い。周囲の人より自分の方が集団主義度合いが高い、あるいは高コンテクスト度合いが高いと評価する人は、同じか低いとする人よりも、対人関係の適応が良い。留学生ではこれらの特性が日本人の平均に近いと適応的と推測されるが、日本人学生ではより高く持つ方が適応的であり、社会的に望ましい特性を備える有利さが示唆された。