著者
田辺 有理子
出版者
岩手県立大学看護学部
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.9-22, 2008

本稿では,岩手県の精神障害者の処遇に関する歴史の一部として,1903(明治36)年から1941(昭和16)年の監置の動向を明らかにした監置に関する資料に,『岩手県警察統計書』および『府県統計書岩手県』を用いた.また,同時期の岩手県内の精神科医療に関する論文,警察資料,新聞などを用い,全国調査や法律に照らして岩手県の監置の特徴を検討した.各年末の監置者数は43人から170人,男性が多かった.精神病者監護法における監置は一生解かれないという一般的な認識とは異なり,一度監置されても監置を解かれる人数が死亡の人数よりも多かった.監置場所は,私宅監置が最も多かったが,他に精神科病院や精神病者収容所が用いられた.また,岩手県の精神科病院開設は1932(昭和7)年で,他県に比べて遅れていたため,一部の精神障害者は県外の精神科病院や,病院の機能を持たない精神病者収容所に監置された岩手県の精神障害者の多くは治療を受けられないまま,都市部から離れた地方且つ厳寒の過酷な環境で,私宅監置を余儀なくされた.しかし,岩手県取締規則や新聞記事から,当時の処遇は保安だけでなく人権擁護の姿勢があったと推察された.
著者
高橋 有里
出版者
岩手県立大学看護学部
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-41, 2007
被引用文献数
6

本研究の目的は,乳児の母親の育児ストレス状況とその関連要因を明らかにすることである.対象は,岩手の2村に住む乳児の母親199人である.6つの尺度,育児ストレス,対児感情,母性意識,夫との関係性のストレス,特性不安,そして特性怒りについて調査した.その結果,育児ストレスは,パーソナリティとしての不安になりやすさをベースに,夫との関係性のストレスや子どもへの否定的感情,母親役割の非受容感が影響していた.しかし,怒りやすさや子どもに対する肯定的感情は影響していなかった.乳児期の育児ストレスは怒りよりも不安や抑うつ感が主となっていると考えられた.また子どもに対して肯定的感情を持っていても育児ストレスが低いとは言えないことが明らかとなった.また出産直後からの人的支援は子どもの肯定的受容を促進すると考えられるが,それだけでは育児ストレス軽減には充分ではないことが分かった.また,生後6ヵ月頃からの子どもの発達の特徴は,母親の育児困難感を高める要因となり乳児期の育児ストレスに影響していると推測された.さらに,専業主婦や働いている母親よりも産休中・育休中の母親のほうが積極的・肯定的な母性意識が低く,逆に消極的・否定的な母性意識が高く,子どもに関連した育児ストレスが高いことが明らかとなり,産休・育休中の母親への支援が重要であると考えられた.
著者
藤村 由希子 安藤 広子
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.83-91, 2004-03
被引用文献数
6

岩手県内における死産,早期新生児死亡における助産師・看護師の対応の現状について把握し今後のケアの検討資料とすることを目的に実態調査を行なった.24施設で勤務する助産師・看護師を対象に割り当て抽出法により質間紙を205部郵送し,178名から有効回答を得た (有効回答率86.8%).調査期間は2003年3-4月であった.調査対象者の年齢は30代が61名(34.2%)と最も多く,臨床経験年数は15.9(±8.7)年であった.児が亡くなった場合スタッフ間で毎回カンファレンスを行っているのは57名(32.0%)であった.亡くなった児の写真や足形などの遺品を渡しているのは28名(15.7%)であった.亡くなった児と母親との面会を積極的にすすめていろのは47名(26.4%),父親との面会を積極的にすすめているのは86名(48.3%)であった.退院後に何らかのケアを行っているのは54名(30.4%)であった.児を亡くした母親や家族と接する時に「悩んだことがある」は156名(87.6%)で,言葉かけや態度などについで悩んでいた.亡くなった児との面会は母親よりも父親の決定に委ねられていることや退院後のケアが行われていないことから,母親およびその家族への対応についての検討が必要である.また看護職者の多くがケアへの戸惑いや悩みを抱えているにもかかわらず,カンファレンスも少ないことから,今後のケアのあり方として,スタッフ間での情報や知識の共有の機会が必要である.
著者
千田 睦美 水野 敏子
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.11-17, 2014-03

目的:本研究の目的は,認知症高齢者の看護を実践する場面における困難について明らかにすることである.方法:認知症高齢者の看護を行っている看護師26 名に半構成的面接を行い,得られたデータを質的帰納的に分析した.結果:認知症高齢者を看護する看護師の困難は,29 のサブカテゴリーから,【認知症の症状への対応】【認知・コミュニケーション障害】【患者の自律性と看護の両立】【患者同士の関係性】【患者の症状・状態の理解】【看護方針と看護の継続】の6 カテゴリーとして表された.特に,BPSD に関連した困難の内容が目立った.結論:認知症の症状に関連する困難,患者と看護師のかかわりに関連する困難,認知症患者への看護に関連する困難という,認知症看護に特有の困難が抽出された.今後は早急に認知症の理解と看護方法の模索,看護態勢の充実など,困難を乗り越える取り組みを検討する必要性が示唆された.
著者
安保 寛明
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.135-143, 2004-03
被引用文献数
2

近年,わが国でも精神障害者に村する治療的介入の評価指標として生活の質 (Quality of Life: QOL) が注目されている.本論文は,本邦におけるQOL介入研究の傾向を概観すると共に,地域に暮らす精神障害者のQOL向上を評価対象とした海外の研究動向を概観し,QOLに対する介入研究の一助となる事を目的とするものである.精神障害者に対する地域での支援体制は国によって大きな違いがあるため,系統的レビューではなく介入方法などにより研究結果を分類し俯瞰した.結果,地域に暮らす精神障害者のQOLの向上には,支援サービスへの満足度と生活への不安 (陰性症状と関連) が強く影響することが示唆された.また,生活技能訓練などの心理社会的支援が精神障害者のQOL向上に寄与することが示唆された.一方で, QOLの向上は必ずしも再入院の抑止には関連しかいことも示唆された.今後は,地域に暮らす精神障害者支援のアウトカム尺度として再入院率とQOLを重視し,サービス満足度や不安とともに調査することが望ましいと考えられる.