著者
藤井 義久
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、児童生徒の「キレやすさ」と「学校嫌い」を客観的に測定できる尺度を開発し、その尺度を用いて、問題行動を生み出すメカニズムを解明するとともに、「キレやすさ」と「学校嫌い」との関連性について分析することである。まず、大学生162名を対象にして、「友達関係」、「教師関係」、「怠学感情」という3つの下位尺度、計24項目から成る「大学生版学校嫌い尺度」を開発した。そして、その尺度を用いて、大学生における学校嫌い水準は特に小学校時代の経験が大きく影響していること、学校嫌い水準と怒り水準との間には密接な関連性のあることなどを明らかにした。次に、小学生(1〜6年生)708名を対象にして、項目分析及び因子分析等、様々な統計解析手法を用いて、「怒り感情」、「攻撃行動」、「生理的反応」という3つの下位尺度、計16項目から成る「児童版キレやすさ尺度」及び「怠学感情」、「学業不安」、「教師関係」、「友達関係」という4つの下位尺度、計20項目から成る「児童版学校嫌い尺度」を開発した。そして、それらの尺度を用いて、家庭において音楽を聴いたりお風呂に入ったりするといったリラクレーション時間の長い児童ほど学校嫌い傾向の強いこと、「学校嫌い」と「キレやすさ」は密接に関連していて特に教師関係や友達関係における何らかのトラブルによる学校嫌い傾向の強い生徒ほどキレやすい傾向のあることなどを明らかにした。さらに、中学生(1〜3年生)442名を対象にして、「敵意」、「興奮」、「生理的反応」という3つの下位尺度、計16項目から成る「中学生版キレやすさ尺度」及び「怠学感情」、「劣等感」、「友人関係」という3つの下位尺度、計22項目から成る「中学生版学校嫌い尺度」を開発した。そして、それらの尺度を用いて、分散分析の結果、「キレやすさ」と「学校嫌い」との間には密接な関連のあること、重回帰分析の結果、学校嫌い傾向の強い生徒は特に両親に対する怒り水準の高いことなどを明らかにした。以上の研究を通して、児童生徒の「キレやすさ」と「学校嫌い」を多面的にかつ客観的に測定できる尺度が開発され、それらの尺度には一定の妥当性が備わっていることを示した。また、発達段階を問わず、一貫して「キレやすさ」と「学校嫌い」との間には密接な関連があり、両者を一緒に研究していくことの重要性が浮き彫りになった。さらに、問題行動の形態がどうであれ、人間関係における何らかのトラブルが児童生徒の問題行動を生み出す最も大きな原因であることが判明した。今後は、本研究で開発された様々な尺度の信頼性、妥当性の検証及び問題行動を生み出すメカニズムについて更に詳細に分析していきたいと考えている。
著者
藤井 義久 FUJII Yoshihisa
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.13, pp.253-263, 2014

内閣府(2013)の調査によれば,我が国における交通事故発生件数は,平成24年度,66万5,138件で,前年度よりも2万6,918名,率にして3.9%減で,8年連続で減少している。それに関連して,我が国における交通事故死者数も,平成24年度,4411名で,前年度よりも201名,率にして4.4%減で,12年連続で減少している。すでに明らかになっている全国の交通事故発生件数及び交通事故死者数だけから見れば,警視庁を初めとする関係諸機関が交通安全計画に基づく諸対策を総合的に推進してきた効果が着実に上がってきていると言える。しかし,その一方で,昨今,通学中の児童の列に車が突っ込んで多数の死傷者を出した交通事故なども連続して発生してきており,ドライバーの不注意によって尊い命が多数失われる極めて重大な交通事故が後を絶たない状況である。 そのような交通事故が発生する原因について,Shinar(1985)は,自動車や道路そのものに問題があり発生している交通事故は少数であり,多くは運転者に起因していると述べている。さらに,小林・相部(1980)によれば,交通事故における人間要因の占める割合は,多くの分析において80%を超えていると報告している。そうしたドライバー自身のヒューマンエラーをどう防ぐかが,我が国における交通事故発生件数をさらに減らすためにも,今後ますます重要な課題になってくると考えられる。 そうしたヒューマンエラーの発生に個人の感情が大きく関与していることは,多くの研究から明らかになってきている。例えば、羽石・上野・西川(1983)は,情緒が安定し,社会適応性の高い人ほど安全運転をしていることを明らかにしている。Broadbent et al.(1982)や山田(1991)は,ネガテイブ感情とエラー発生頻度との間に正の関連を見いだしている。また,澤(1997)は,感情が極端化することによって,ドライバーは危険な運転態度に陥り,それがある種の思い込みを生じさせたり,人間が持っている自動車の操作能力の限界を超えさせてしまうために交通事故が起こると指摘している。また,三隅・丸山・正田(1988)は,交通事故者の特徴を"情緒安定性","自己中心性","衝動性"という3つの特性で概ね整理できるとしている。さらに,松永(1985)は,強い焦燥的性格を持つ運転者には事故経験者の多いことを明らかにしている。これらの研究から,交通事故の発生と運転中におけるドライバーの感情とは密接に関連しているものと考えられる。従って,警察庁交通局(1992)の運転者教育の提言において述べられているように,交通事故の発生を減らすために,運転者教育の中で,運転時における心の抑制に関する教育訓練を積極的に行っていかなければならないと考えられる。そのためにも,運転中におけるドライバーの感情に焦点を当てた研究を行っていく必要があるが,そうした研究は極めて少ないのが現状である。そのような現状の中で,丸山(1995)は,交通事故を起こしやすい人の特性の1つとして,一時的な興奮が抑えられない衝動的な傾向である"かっとなる特性"を挙げている。 そこで,本研究では,交通事故発生とも密接に関連していると考えられる運転中の怒り感情とその対処行動について分析することを通して,どうすれば運転中の怒り感情を減らし,交通事故を未然に防ぐことが出来るのか,検討することにした。
著者
藤井 義久
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.387-395, 2007
参考文献数
10
被引用文献数
5

本研究の目的は,「国際版情報リテラシー尺度」を開発し,中学生の情報リテラシー水準の国際比較を行うとともに,情報リテラシー水準を高める要因について検討することである.調査対象者は,日本,スウェーデン,フィンランド,デンマークの公立学校に通う中学生,計1144名である.項目分析及び因子分析の結果,8つの下位尺度(関心・意欲,基礎操作能力,情報収集能力,数学的思考能力,情報整理能力,応用操作能力,態度,知識・理解),計32項目から成る「国際版情報リテラシー尺度」を開発し,本尺度には一定の信頼性,妥当性が備わっていることを確認した.その尺度を用いて,青少年の情報リテラシー水準は,調査対象国中,日本が最も低く,特に,プログラミングやプレゼンテーション,ホームページの作成といった,パソコンの応用操作能力が極めて低いことが明らかになった.さらに,パソコンに接する時間や読書時間は,特に青少年の情報リテラシー水準と関連していることがわかった.
著者
藤井 義久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.455-463, 1995-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
75
被引用文献数
3 1

The purpose of this paper is to review the advances and issues in test anxiety research from the point of educational psychology. According to Mandler and Sarason (1952), test anxiety considered a very important concept in educational practice is defined as “a task-irrelevant reaction debilitating in a task-oriented focus”. But as some researchers have already suggested, the concept of test anxiety is so ambiguous that it is very difficult to measure. Specially, there are main issues resulting differantly through the method of measurement. In the future, a study of the structure and developmental mechanism of test anxiety is to be emphasized, examining current test environments from the point of test anxiety level.
著者
栗﨑 宏 藤井 義久 簗瀬 佳之 西川 智子 中野 ひとみ 瀬川 真未 清水 秀丸
出版者
公益社団法人 日本木材保存協会
雑誌
木材保存 (ISSN:02879255)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.256-263, 2015 (Released:2016-02-01)
参考文献数
7

寺社,木橋,古民家といった日本の伝統的木構造物では,擬宝珠,端隠し,根巻き,釘隠しなどと呼ばれる銅製金物が,防水の目的で施工されてきた。これら銅金物を施工した建築物では,金物の下方の木材部材の生物劣化が強く抑制されているものがある。これは,金物から溶出した銅が部材に移行し,木材保護効果を発揮したのではないかと考えられる。銅の溶出を検証するために,三条大橋高欄の銅擬宝珠付き木柱や釘隠し付き横木の表面と,橋のたもとに設置された防腐処理支柱の表面を,ハンドヘルド型蛍光X 線分析装置を用いて分析した。得られた蛍光X 線強度値から,FP 法に基づいて各元素の含有率を算出した。その結果,擬宝珠付き支柱表面では14の全測定点から銅が検出され,うち12点では防腐処理支柱表面で検出された銅含有率0.4%を上回った。今回の調査により,銅金物からは銅が溶出して周囲木材へ移行すること,また,その銅の量は木材の生物劣化抑制に十分寄与しうるレベルであることが確かめられた。
著者
藤井 義久
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

欲求不満傾向の強い児童生徒ほどキレやすい傾向が見られる。そのようなキレやすい児童生徒を生み出しやすい母子関係は国によって異なっており、日本においては特に母親の愛情不足が、北欧諸国においては特に母親によって自分の自由が束縛されることがキレやすい児童生徒を生み出す大きな原因になっていることがわかった。そして、キレやすい子供に特徴的な甲高い声に反応してキレやすい母親が多く、そのような母親は特に外部に対して様々な子育て支援を求めていることが明らかになった。
著者
今村 祐嗣 藤井 義久
出版者
JAPAN WOOD PRESERVING ASSOCIATION
雑誌
木材保存 (ISSN:02879255)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.61-69, 1995-03-25 (Released:2009-12-08)
参考文献数
9
被引用文献数
4 3

木材加害昆虫の摂食活動がアコースティック・エミッション(AE)の発生とリアルタイムに対応していることが明確になったので,この原理を用いてイエシロアリの食餌活動に伴う行動様式を追跡し,解析した。容器内に一定頭数のイエシロアリと木材を設置すると,試験開始後,数時間~数十時間でAE事象数は急増し,その後一定値まで低下するが,数日経過後再び上昇した。その後,この増減のリズムを繰り返した。兵蟻を全く移入しない場合,移入区より明らかにAE事象数は少なく,これに対応して木材の摂食量も少なかった。また,兵蟻の割合が標準より多い場合においても,AE事象数は少なくなったが,経過日数につれて増加し,この傾向は野外で採取したシロアリで著しかった。周囲の温度によって事象数は変化し,27℃付近より低下するにつれて減少し,12℃ではAEの発生は停止した。再び温度を上昇させるにしたがいAEの発生は増大し,さらに,試験を開始した27℃より上昇させると38℃付近までは増加する場合も認められるが,その後は一般的に減少し40℃を越えるとAEの発生は停止した。その後は,温度を下げてもAEは再び発生しなかった。また,イエシロアリの食害活動は明らかに光の照射によって影響を受け,AEの発生も一旦停止ないし低下した。しかし,その後時間の経過とともに光の照射下であっても食害活動は再び回復した。
著者
藤井 義久 重松 敏則
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.529-534, 2008-03-31 (Released:2009-05-08)
参考文献数
13
被引用文献数
4 7

In order to discuss the effective method to control the bamboo forest expansion, we surveyed the former Japanese cypress forest which was seriously invaded by Phyllostanchys pubescens since after forest clearing through April to June in the shooting season, for 3 years under different cutting conditions namely summer selective bamboo cutting and repeatedly clear cutting. In every summer selective bamboo cutting stand, 3 years later, such pioneer species as Zanthoxylum ailanthoides and Mallotus japonicus grew thick at the height of about 7. 1m. Whereas bamboo shoots decreased and shrank due to the oppression and shading by these pioneer species, and disappeared completely in 2 years. On the contrary, in the repeatedly clear cutting stand, the small bamboo glass-like shoots were still seen even 3 years later. In the abandoned control stand, bamboo shoots generated year by year, and recovered the former bamboo forest.
著者
横山 操 矢野 健一郎 藤原 裕子 藤井 義久 川井 秀一
出版者
公益社団法人 日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.772-776, 2006 (Released:2006-08-20)
参考文献数
7

The purpose of this study was to propose a method of determining the aging of wood by measurement of cutting resistance. To clarify the effect of the aging of wood on the cutting resistances, it is necessary to focus on the way the restorators judges the age of wood material by taking into consideration the cutting process and the way of using the chisels (nomi).In this paper, aging is defined as “slow oxidation caused by oxygen in the air”. Base on the temperature-time conversion law, an accelerated aging test was performed by heat treatment at 180°C for 0, 120, 300, 600, 720, 2160, 3600, 5040, 7200minutes respectively to obtain different levels of accelerated aging wood samples.When restorators of Buddhist sculptures restorate ancient statues, they face various qualities of timber, according to the tree species and the age of the material used for the statue. They make decisions by visual inspection. Thus the experience and judgement of the Japanese restorators is one of the key conditions to measure the cutting resistance and types of chip formation.The orthogonal cutting test of cross, radial and tangential section were made to examine the relationships cutting resistances and treatment time of the accelerated aging of wood materials. The results were summarized as follows :1) The cutting resistances fell with increasing the accelerated aging treatment time. The cutting resistances dropped sharply in the early stages up to 1000 minutes treatment, and then reduced by 80% at 7200minutes treatment.2) The types of chip formation changed from flow type to powder with increasing the accelerated aging treatment time.3) The forces in cross sectional cutting with clearance angle 5° were three times in value with clearance angle 1°. The forces in orthogonal cutting test in radial and tangential section were almost same in value at clearance angle 1° and 5°.
著者
藤井 義久
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.387-395, 2007-03-20 (Released:2016-08-03)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究の目的は,「国際版情報リテラシー尺度」を開発し,中学生の情報リテラシー水準の国際比較を行うとともに,情報リテラシー水準を高める要因について検討することである.調査対象者は,日本,スウェーデン,フィンランド,デンマークの公立学校に通う中学生,計1144名である.項目分析及び因子分析の結果,8つの下位尺度(関心・意欲,基礎操作能力,情報収集能力,数学的思考能力,情報整理能力,応用操作能力,態度,知識・理解),計32項目から成る「国際版情報リテラシー尺度」を開発し,本尺度には一定の信頼性,妥当性が備わっていることを確認した.その尺度を用いて,青少年の情報リテラシー水準は,調査対象国中,日本が最も低く,特に,プログラミングやプレゼンテーション,ホームページの作成といった,パソコンの応用操作能力が極めて低いことが明らかになった.さらに,パソコンに接する時間や読書時間は,特に青少年の情報リテラシー水準と関連していることがわかった.
著者
藤井 義久 FUJII Yoshihisa
出版者
岩手大学大学院教育学研究科
雑誌
岩手大学大学院教育学研究科研究年報 = Research Journal of the Iwate University Professional School for Teacher Education (ISSN:2432924X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.171-181, 2018-03-30

本研究の目的は、「被害者判断」でもある「第三者判断」でもある客観的な「いじめ判定基準」を策定することであった。調査対象者は、公立小学校に通う4年生から6年生の児童、計543名であった。 まず、小学生が「いじめ」と認知する可能性のある45個のスクールライフイベントを選定し、それぞれの出来事に対する「いじめ深刻得点」(精神的苦痛度+傷つき度)を求めた。次に、それら45個の「いじめ深刻得点」の平均値及び標準偏差を用いて、各スクールライフイベントの「いじめ深刻指数」を偏差値に換算することによって、相対的な精神的なダメージを示す「いじめ深刻指数」(略してBQ)を算出した。次に、過去1か月以内に経験したスクールライフイベントそれぞれのBQを単純に合算した値を目的変数、「うつ得点」を説明変数として回帰分析を行い、うつ得点のカットオフポイント16点をもとに、BQ合算値全体のカットオフポイントを求めたところ、205点という値を得た。つまり、過去1か月以内に経験したスクールライフイベントそれぞれのBQを合算した値が205点を超えると、現在、その子は危機的状況にあると判断される。 今後、本研究で算出されたスクールライフイベントごとの「いじめ深刻指数」によって、客観的な「いじめ認定」が可能になり、自治体間の「いじめ認知件数」のバラツキも縮小されることが期待される。
著者
藤井 義久
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.417-420, 1999-12-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
14
被引用文献数
1

The purpose of this study was to develop “Employment Anxiety Scale” to understand the structure of anxiety accompanying employment seeking. First, 30 items of anxiety related to employment seeking were collected with an open-ended questionnaire, for which 65 female students answered. In the main study, 465 female undergraduates filled out a questionnaire of the thirty items, a stress scale, and a self-report depression scale. Factor analysis found three factors for the anxiety items: employment seeking activity, vocational aptitude, and workplace. Multiple regression analysis was performed to examine the relationship between the mental-health scales and the anxiety. The dependent variables were the stress and depression scores, and the predictors the subscale scores of Employment Anxiety Scale. Results showed that anxiety accompanying employment-seeking activity was highly predictive of the mental-health scores.
著者
栗﨑 宏 藤井 義久 簗瀬 佳之 西川 智子 中野 ひとみ 瀬川 真未 清水 秀丸
出版者
公益社団法人 日本木材保存協会
雑誌
木材保存 (ISSN:02879255)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.256-263, 2015

寺社,木橋,古民家といった日本の伝統的木構造物では,擬宝珠,端隠し,根巻き,釘隠しなどと呼ばれる銅製金物が,防水の目的で施工されてきた。これら銅金物を施工した建築物では,金物の下方の木材部材の生物劣化が強く抑制されているものがある。これは,金物から溶出した銅が部材に移行し,木材保護効果を発揮したのではないかと考えられる。銅の溶出を検証するために,三条大橋高欄の銅擬宝珠付き木柱や釘隠し付き横木の表面と,橋のたもとに設置された防腐処理支柱の表面を,ハンドヘルド型蛍光X 線分析装置を用いて分析した。得られた蛍光X 線強度値から,FP 法に基づいて各元素の含有率を算出した。その結果,擬宝珠付き支柱表面では14の全測定点から銅が検出され,うち12点では防腐処理支柱表面で検出された銅含有率0.4%を上回った。今回の調査により,銅金物からは銅が溶出して周囲木材へ移行すること,また,その銅の量は木材の生物劣化抑制に十分寄与しうるレベルであることが確かめられた。