著者
宮田 和彦 褚 冲
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.514-519, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

DWPIは,Clarivate社が提供する特許コンテンツで,様々な観点でデータのキュレーションを行い,付加価値を有する情報を提供している。独自の特許ファミリー構造,カテゴライズされた抄録,出願人や技術分野インデックスなど,AIを含むテクノロジーを活用しながら,キュレーションシステムを維持してきた。一般に,AIからの出力は,ベースとなるモデルやコンテンツにその品質や信頼性が依存する。昨今,様々な領域で生成系AIの利活用が模索される中,知的財産分野でも信頼される高品質なAIが求められており,Clarivateでは,長い歴史の中で培ったDWPIキュレーションの仕組みをAI技術と融合させることで,それを実現させていく。
著者
前川 道博
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.430-435, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

社会のデジタル化が進行し,地域の行政文書の保全活用には根本的で包摂的な対応が求められている。しかし,公文書館法の制定,官民データ活用推進基本法の制定(オープンデータ促進),デジタル庁の開設,博物館法改正などが相次いだものの,行政文書等のデジタル化対応は大幅に遅れを取った状況にある。デジタル化の大きな恩恵の一つは,過去の膨大な資料がデジタル化されることにより,一般に広く開放されアクセスが極めて容易になることである。紙中心の媒体により知識を消費してきたこれまでの社会から,これまで以上に過去の文書の利活用ができる知識循環型社会へのシフトが期待される。
著者
安形 麻理
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.449-454, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

マイクロフィルムは媒体変換や省スペースの資料収集手段として活用されてきた。低温低湿の適切な保存環境であれば500年以上の寿命が期待されることから,1970年代以降は,長期保存の主たる媒体とみなされてきた。しかし,TACベースのフィルムではビネガーシンドロームという劣化が生じることが知られるようになる。1990年代になるとデジタル化による長期保存への転換が議論されるようになった。本稿では,マイクロフィルムの特徴,所蔵や利用の現状,劣化と保存の状況,新聞のマイクロフィルム化の意義と利用,デジタル資源のバックアップとしてのデジタル時代における位置付けについて概説する。
著者
阿児 雄之
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.436-442, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

博物館では,収集・保管・展示などに供する資料(いわゆる収蔵資料)と,その資料および博物館活動にまつわる事項を記述した情報のデジタル管理が進められている。東京国立博物館を例にして,博物館活動を支援するデジタル管理の状況を案内し,併せて,これらの整備がもたらす資料と情報提供の実際を展示に焦点を当てて例示した。実際の展示空間とウェブコンテンツが融合した展示が一般的になりつつあり,そこでの魅力的な鑑賞体験は博物館ならではのハイブリッド型提供といえよう。
著者
長谷川 幸代
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.415, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

コロナ禍を経て,社会ではいっそう頻繁にデジタルツールを利用するようになっています。特にオンラインで送受信できるという面で,距離や時間の制約を越えて様々な活動が可能になります。「資料」を提供する機関でも,資料をデジタル化することで,アナログではできなかったことが可能になりました。しかしながら,アナログ資料にも利点が沢山あり,今後は双方をうまく提供したり利用したりできることが重要になってきます。アナログとデジタルの双方による情報提供を「ハイブリッド型の情報提供」として,今月号では特集「ハイブリッド型情報提供の実際」を企画しました。本特集では,まず,根本彰氏に総論としてメディア論の観点をふまえ,アナログとデジタルの双方を含めたメディアの変遷を論じていただきました。続いて各論では,以下の5本の記事を掲載しています。間部豊氏には,公立図書館でどのようにハイブリッド型の情報提供が行われているか,電子図書館サービスの具体的な内容を絡めながら解説していただきました。前川道博氏には,地域行政文書を中心に紙で提供されていた情報がデジタル化されることに対しての知見を記していただきました。阿児雄之氏には,博物館での事例を中心にアナログとデジタルによる資料・情報提供の実際の状況をご紹介いただきました。大髙崇氏には,地域放送局によるアーカイブへの取り組みをもとに,人材育成や他機関との連携等今後の課題について述べていただきました。安形麻理氏には,マイクロ資料に焦点を当て,マイクロフィルムの特徴や提供と保存について詳細にご説明いただきました。インターネットが社会に台頭している現代でも,双方をうまく活用することでより充実した資料・情報提供が実現できるのではないでしょうか。本号では,そのための様々な知識を執筆者の皆さまより発信していただけたと思います。(会誌編集担当委員:長谷川幸代(主査),尾城友視,鈴木遼香,森口歩)
著者
間部 豊
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.423-429, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

ハイブリッド図書館という概念が登場して20年あまり経つ。特に公立図書館においてはデジタル媒体による情報提供に遅れが出ていたが,近年においてバリアフリー法の施行に伴う読書支援対策やCOVID-19流行に対する非来館型サービスへの対応として電子図書館サービスの導入が進められている。本稿では電子図書館サービスを含む公立図書館におけるデジタル媒体の情報源による情報提供について現状を整理するとともに,アナログ媒体の情報源と合わせたハイブリッドな情報提供がどのように行われているのか確認した。今後の課題としてデジタル媒体の情報提供は質・量ともに拡充する必要があることを確認した上で,今後の展望について検討した。
著者
根本 彰
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.416-422, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

紙の書物がもつ身体的特性が人の認知と密接に関わり,それが近代において書物が学術,文学,教育における特権的位置づけを獲得してきた。しかしながら,メディア論ではマクルーハン以降,書物メディアに比べてマルチメディアがもつ身体感覚的特性ゆえに影響力が大きいとされてきた。そして21世紀のネット社会においては,書物も含めてすべてのメディアがデジタルネットワークに吸収されようとしている。本稿ではメッセージを運ぶ仕組みであるコンテナとメッセージそのものであるコンテンツに分けて,メディアの変遷を歴史的に考察した。その上で,書物がもつ流通,検索,アーカイブにおける歴史的特性を活かした対応が要請されること,そして,その際に国立国会図書館デジタルコレクションの在り方が一つのモデルとなると述べた。
著者
大髙 崇
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.443-448, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

NHKの放送番組アーカイブの保存と整備の経緯を振り返り,今後に向けた課題解決に向けて,地域放送局の一人の職員の取り組み事例を報告する。NHKは,1980年代まで,体系的・組織的なアーカイブ保存がなされなかった。その後,資料部(後のアーカイブス部)が一元的に保存と整備を担い,デジタル化も進捗したが,現在もメタデータ整備や,未編集のフィルムやテープの映像素材の扱いなどの課題が存在する。NHK金沢放送局のアーカイブ企画『懐かしの映像』の成功事例から,放送局におけるアーカイブ人材の育成と,地域や専門機関などとの連携・協働の必要性という教訓が浮上する。
著者
野村 美佐子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.203-208, 2012
参考文献数
15

DAISY(Digital Accessible Information System)は,日本語で「アクセシブルな情報システム」と訳し,プリントディスアビリティ(印刷物を読むことに障害)がある人々の情報のアクセスを支援するデジタル録音図書の国際標準規格である。本稿では,読むことが困難な人々に有効であると注目を集めているマルチメディアDAISY教科書について紹介し,ボランティアによる提供活動の現状,成果および課題を示す。さらにすべての人の活動参加を保障するユニバーサルデザインの観点から,EPUB(Electronic PUBlication)とDAISYの連携によるアクセシブルな教科書への期待を概説する。
著者
奥野 吉宏
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.374-378, 2023-09-01 (Released:2023-09-01)

公立図書館のシステムは,リース契約による調達が一般的である。そのため,リース期間満了毎に更新を行うこととなるが,公立図書館向けシステムに標準となる仕様はないのが現状であり,各図書館は必要とするすべての機能を仕様書に載せなければならない状況にある。このような公立図書館システムの課題とその取組について,仕様書の作成を中心に,筆者が勤務する京都府立図書館の事例を交えながら紹介する。また,図書館システムが保持するデータについても標準化されておらず,システム更新時の新旧システム間でのデータ移行(特に,システムベンダーが変わる際のデータ移行)のリスク要因となっている。この課題の解決に向けて,日本図書館協会に設置された「図書館システムのデータ移行問題検討会」に,筆者は委員として関わったことから,この報告書の内容を中心に,検討会の成果と今後の課題について報告する。
著者
上野 友稔
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.369-373, 2023-09-01 (Released:2023-09-01)

本稿では,電気通信大学附属図書館が,Ex Libris社製Almaを国立大学の図書館で最初に導入した事例について,Almaの導入に至るまでの背景や課題,運用の詳細,運用開始後の課題とともに紹介する。図書館のシステム更新時に重要となる仕様の要件検討では,電子書籍・電子ジャーナルの普及への対応とともに,検索サービスとディスカバリーサービスの一本化を重視した。さらに,システムの運用に関する職員教育,ワークフローの変化,新しい機能等への対応等の運用の実態を説明するとともに,運用中で見いだされた図書館システムの更新を検討する際の視点として,図書館職員としてのメンタリティ等の課題について触れる。