著者
安形 輝 安形 麻理
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.61, pp.1-23, 2009

原著論文【目的】 未解読文書に関する研究は、文書内容の解読に焦点を当てたものが多い。 しかし、長年にわたって解読不能である文書は、何らかの意図で作成された意味をなさない「捏造文書」 であり、そもそも解読自体ができない可能性もありうる。 本研究の目的は、文書構造の有無から解読可能性そのものを判定する手法を提案することである。 【方法】 既存の多くの言語に応用可能なテキスト処理技術は未解読文書に対しても有効であるという前提に基づき、未解読文書の部分文書同士の類似度をクラスタリング手法によって分析することにより、首尾一貫した文書構造の有無を検証する。 次に、本書構造と、図表やページ順など他の手がかりから導かれる構造との対応関係を比較 分析することによって、「捏造文書」を判定する 。 【結果】 提案手法を用いて有名な未解読文書であるヴォイニッチ写本を分析した結果、本文の構造と挿図・ページから推測される構造が一致することが明らかになった。つまり、ヴォイニッチ写本は一貫性のある構造を持つ文書であり、「捏造文書」ではない可能性が高いと判定できる。実験により提案手法の適用可能性を示すことができた。
著者
森脇 優紀 床井 啓太郎 安形 麻理 福田 名津子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、明治期日本の洋式帳簿製本と、明治期に製本技術を習得した技術者による1950年代の修復痕が残る西洋稀覯書の現物調査を中心に、聞き取り調査による情報収集や記録資料の解析も並行して行い、製本の歴史的変遷を再検討した。その結果、帳簿製本については、技術導入以降、需要が高まり民間での製造が急増したことで、西洋由来の技術は試行錯誤が繰り返されて変容し、現在の日本特有の形に至ったことが分かった。稀覯書の修復痕調査からは、明治の導入期以来の技術や知識が基本的な部分で継承されていることが確認できた。資料保存の面では、現在の「原形保存」の淵源となる考え方が既に1950年代に存在していたことが分かった。
著者
小島 浩之 上田 修一 佐野 千絵 安形 麻理 矢野 正隆 吉田 成 内田 麻里奈 森脇 優紀 冨善 一敏 設楽 舞 野中 治 木部 徹 島田 要
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、記録媒体として紙に次ぐ歴史を有するにもかかわらず、これまで学術的な観点から調査・研究がなされてこなかったマイクロフィルムについて、図書館等への訪問実態調査(33機関)、および図書館と文書館への質問紙調査(大学図書館:1,378、都道府県立図書館:58、国立国会図書館:1、公文書館:75、大学文書館:88、専門図書館:380)を基軸とし、生産・出版・保存・活用・管理等の諸側面から総合的に分析した。
著者
安形 麻理
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.449-454, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

マイクロフィルムは媒体変換や省スペースの資料収集手段として活用されてきた。低温低湿の適切な保存環境であれば500年以上の寿命が期待されることから,1970年代以降は,長期保存の主たる媒体とみなされてきた。しかし,TACベースのフィルムではビネガーシンドロームという劣化が生じることが知られるようになる。1990年代になるとデジタル化による長期保存への転換が議論されるようになった。本稿では,マイクロフィルムの特徴,所蔵や利用の現状,劣化と保存の状況,新聞のマイクロフィルム化の意義と利用,デジタル資源のバックアップとしてのデジタル時代における位置付けについて概説する。
著者
安形 麻理 小島 浩之 上田 修一 佐野 千絵 矢野 正隆
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.129-147, 2014-12-31

本稿の目的は,4年生大学図書館,大学院大学図書館,国立国会図書館,都道府県立図書館に悉皆質問紙調査を行うことにより,日本の図書館におけるマイクロ資料の保存の現状を把握することである。902件(回収率62.8%)の有効回答と予備調査4件の合計906件を分析した結果,回答館の52.3%にあたる474館がマイクロ資料を所蔵していた。マイクロ資料を所蔵している回答館のうち,47.5%がマイクロ資料を長期保存の媒体と位置付け,30.0%が1年に1回程度以上の頻度で受け入れを続けていること,11.4%の図書館で所蔵数が把握できていないこと,44.3%の図書館で代表的な劣化であるビネガーシンドロームが発生しているが,24時間の空調管理は31.6%,湿度設定は22.7%のみで可能であることなどが明らかになった。ビネガーシンドロームは加水分解により発生,進行するため,湿度の管理が非常に重要となるが,根本的な対策である環境改善が進んでいない現状が確認された。
著者
岡田 将彦 安形 麻理 小島 浩之
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.64, pp.33-53, 2010

原著論文【目的】図書館における資料保存では, 紙の長期保存が端緒となってさまざまな取り組みがなされてきた。近年, 製本形態も扱った図書の状態調査が始まったが, 無線綴じや接着剤の状態に焦点を当てた調査はほとんどない。しかし, 戦略的な資料保存のためには状態調査が不可欠である。本研究では, 現代の図書の主流である無線綴じの状態を把握するため, (1)専門書を中心に所蔵する大学図書館における無線綴じ図書の割合を明らかにする, (2)損傷状況を明らかにする, (3)損傷の原因を検討する, の3点を目的に調査を行った。【方法】調査票は, 国立国会図書館による状態調査の調査票を基に, 無線綴じに特化した項目を追加して作成した。調査対象は, 大規模開架図書館である慶應義塾大学三田メディアセンターの蔵書のうち, 1962年以降に受入した図書とした。1960年代から2000年代までの10年ごとの資料群から, ドロットのランダムサンプリング法を用いて, 和書(日本語・中国語・朝鮮語)・洋書400点ずつ, 合計4, 000点を抽出した。6名の調査者が, 調査票にしたがい, 標本を調査した。【結果】調査の結果からは, 和書・洋書ともに, ソフトカバー・ハードカバーにかかわらず無線綴じの割合が一貫して増加していること, 洋書の方が無線綴じの採用時期は早かったが, その後の増加率は緩やかであること, 現在では和書の方が無線綴じの割合が高く, 2000年代には全体の75.3%(ソフトカバーでは94.8%)に達すること, などが明らかになった。無線綴じに特徴的な損傷である背割れの割合は和書の方が高かったが, 和書・洋書ともに出版後間もない2000年代の図書でも生じているという全体的な傾向は共通していた。分析の結果, 貸出回数が背割れの大きな要因であることが明らかとなった。