著者
徳野 肇
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.65-69, 2023-02-01 (Released:2023-02-01)

新たな発明と思われる発明についての明細書を書くためには,あるいは従来にない最先の技術であることの確認のためには,従来の発明についての調査をしてその技術分野の既存の特許の有無及びその内容について確かめることが有効な方法である。日本特許の調査の手法及び留意点については,多くの関係組織・部署からその関連の本が出版され,また講習会が開かれており,検索式作成の考え方,分類・キーワードの選定等について述べられている。しかしながら,どの項目を対象に調査を行ったらよいかについては,著者あるいは講師の経験に基づくものが多く,エビデンスに基づく説明はなされていないと思われる。本稿では,高分子の素材関連分野の特許約3.4万件について,非必須項目の出現頻度を公報種別別及び出願年別(2013年,2016年及び2019年)に調査した結果を示す。本稿のデータが,関連技術分野の特許調査を実施する方々の検索式を作成する上でのヒントとなれば幸いである。
著者
森本 康彦
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.38-44, 2023-02-01 (Released:2023-02-01)

2020年,COVID-19の流行に伴い,多くの大学等でオンライン授業が実施され,文部科学省は翌年に,教育DXを推し進める一環として「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」を打ち出した。本論文では,教育DXにより,高等教育における学修者の学びがどのようにチェンジしたのか,機関はどう支援しようとしているかについて整理し明らかにした。その結果,学修者の学びの記録であるeポートフォリオ/学習データをエビデンスとし,そのデータを教育AIで分析して可視化するラーニングアナリティクスを駆使することで,学修者の学びの支援を行い,そのための環境づくりを行っていることがわかった。
著者
水野 澄子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.37, 2023-02-01 (Released:2023-02-01)

今月はDXについて考えてみたいと思います。皆様もご存じのように,いろいろな分野に広くDXが進められてきています。世の中の変革がコロナ渦の影響もあり急速に求められている現在,最近よく目にするDX(Digital Transformation)について何故求められているのか学術分野の状況を紹介しながら検証してみたいと思います。Transformationは「変容」,DXを直訳すると「デジタルによる変容」とのことからデジタル技術を用いることで,生活やビジネスが変容して行くことを一般的に示します。DXに関する厳密な定義があるわけでないですが,経済産業省では,「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を作成しています。DXが広まっている分野は多岐にわたり,提供企業,利用企業,大学,教育機関,種々のご案内を頂戴する表題にも各種利用されています。例えば,営業DX,ファションDX,現場DX,製造DX,ペーパーレスからはじめるDX,経理DX,教育DX,DXの教科書,経営DX推進,計算物質科学とマテリアル(DX)などの表現がみられます。これほど多くの分野を網羅して,急速に動きが見られるのも,珍しい事とも感じられます。コロナの影響もあり,早い速度で,ある意味全分野において急速に進められています。今回は,その中から学術分野に特化して事例を集めてみました。この記事のまとめ開始の頃からも速度が急速に増している事もご理解下さいませ。これらを紹介し,さらに,これらを統合し,よりよい社会の実現に際し,将来の在り方を考察したい。まずは森本康彦氏(東京学芸大学)に「教育DXによる学修者本位の教育の実現と学びの質向上の取組~eポートフォリオとラーニングアナリティクスによる学びの支援~」という標題で教育DXにより,高等教育における学修者の学びがどのようにチェンジし,機関はどう支援しようとしているかについて整理し,明らかにして下さいました。つぎに竹内比呂也氏(千葉大学)「大学図書館のデジタル・トランスフォーメーションに向けて」という標題で大学図書館におけるこれまでのデジタル化,学術コミュニケーションの動向や教育研究のデジタル化の動向など踏まえながら,DXに向かう道筋を述べて下さいました。さらに関口兼司氏(神戸大学)「大学医学部におけるDX」という標題にて,大学医学部では,大学病院として診療面で,大学院医学研究科として研究面で,医学部医学科として教育面で,それぞれコロナ禍の影響を著しく受け少なからずデジタル化の変化について述べて下さいました。最後に山口滋氏(理化学研究所環境資源科学研究センター)「有機合成分野のDXは必要か?」という標題にて,医農薬品やプラスチック等,私たちの身の回りの化学品の多くは有機分子から作られている。目的の有機分子を作るために不可欠な手段として,有機合成がある。「DX」の潮流における触媒反応開発分野の変化と今後について概観して下さいました。最近考えてしまいます。情報技術も発達し,また,人の知識,知恵の発見もDXという高度な概念まで至る状況ではありますが,一方で世界情勢に目を向ければ,武力や暴力で主義・主張を通そうとする,知性や論理,道徳を軽んじる動きが依然として存在しています。研究や社会変容が進み,DXによりこの流れを何とか止められないかと思ってしまいます。人間の高い知識や叡智を駆使したいものです。本特集が皆様のお役に立てましたら大変嬉しく存じます。(会誌編集担当委員:水野澄子(主査),今満亨崇,青野正太,海老澤直美)
著者
長谷川 智史
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)

今月号は学術研究成果の公表媒体の現状と今後の展望を「学術情報流通のあり方」として特集します。情報技術の発達や,グローバル化によって問題が世界中に波及する速度が増す中,科学による問題解決にもスピードアップが求められています。研究成果の公表媒体において現在も学術雑誌は主要な位置を占めていますが,その質を担保する査読制度はスピード,質の面において課題が指摘されるほか,購読・投稿にかかる価格などに関する問題も議論されています。一方で,近年のプレプリントの隆盛,オープンアクセス出版プラットフォームやオープン査読による研究成果公開の試みは,学術雑誌の孕む問題へのアプローチという側面があると考えられ,学術情報流通の多様化を目指した動きとも捉えられます。また,これらの動きを促進するにあたって欠かせない要素となる要因として,多様な研究成果を正しく評価する必要性も指摘されつつあります。そこでこの特集では学術雑誌やプレプリント,オープンアクセス出版プラットフォームなどそれぞれの研究成果公開方法の利点と課題を概観しながら,科学研究が信頼性の確保とスピードアップを両立しつつ発展していくための今後の学術情報流通のあり方を展望したいと思います。まず,同志社大学免許資格課程センターの佐藤翔様には,学術情報流通,主に査読誌の担ってきた機能を実現する方法の多様化について,どのような試みが行われているかという観点から現状をまとめていただきました。京都大学 大学院文学研究科の伊藤憲二様には,科学史の視点から学術雑誌の歴史と,査読制度の発展について解説いただくとともに,現在学術雑誌が抱える課題とその解決方法の可能性について論じていただきました。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の重松麦穂様には,2022年3月に運用が開始された「Jxiv」の事例を通じてプレプリントが学術コミュニケーションにおいて果たすことのできる役割についてご紹介いただきました。また,筑波大学URA研究戦略推進室の森本行人様には国内初のオープンリサーチ出版サービス「筑波大学ゲートウェイ(現Japan Institutional Gateway)」等の事例から研究成果公開の促進をはじめ独自の取り組みをご紹介いただきました。政策研究大学院大学の林隆之様には現在学術雑誌を中心とする学術情報流通の仕組みと密接につながる研究評価指標を改革しようとする動きである「研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)」を,オープンサイエンス推進の動きを交えて解説していただきました。読者の皆様におかれましては,本特集記事を通してそれぞれの学術研究成果の公表媒体がもつ成り立ちの背景や役割を踏まえて,また研究評価改革の動向を含めて今後の学術情報流通のあり方について考える一助にしていただければ幸いです。(会誌編集担当委員:長谷川智史(主査),池田貴儀,小川ゆい,尾城友視,水野澄子)
著者
佐藤 義則
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.377-384, 2013-09-01 (Released:2017-04-18)

e-サイエンスあるいはe-リサーチといったデータ集約型の研究がますます広範囲に広がり,重要性を増す中で,データの共有や再利用を前提とした研究データ公開への要求が強まりつつある。研究データサービスとは,こうしたデータ公開を前提に,大学図書館がデータのライフサイクル全般にわたって一連の支援を提供するものである。本稿では,研究データ公開の論拠,資金提供機関による研究データ公開の義務化,問題点について整理したうえで,研究データサービスの現状と今後の課題について検討を行なった。
著者
永崎 研宣
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.369-376, 2013-09-01 (Released:2017-04-18)
被引用文献数
1

人文学分野においてもサイバーインフラストラクチャは欠かせないものになりつつある。歴史的には1940年代から取り組みが行われ続けてきたものであり,人文学研究者自身が積極的に取り組んでいくことがこれまで以上に重要になってきている。国際的にはすでに欧米の関連学会によって設立されたADHOを中心として大きな組織的枠組みができあがっており,我国もそこに参画している。個別のテーマとしては知的所有権をはじめ様々な事項に配慮しながら進めていかなければならない。また,評価や教育の体制等については,特に米国では人文学の側で新しい枠組みの構築に向けての取り組みが進みつつある。そこでは,我国の人文学の貢献の余地も大いにあり得る。
著者
大石 雅寿
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.363-368, 2013-09-01 (Released:2017-04-18)

半導体技術やネットワーク技術の進展は,世界に分散する大規模データを活用するタイプの天文学という新しい研究パラダイムを生みつつある。ヴァーチャル天文台は,世界の関連するプロジェクトが合同で標準プロトコルを定め,大量のデータを活用する天文学研究を加速できることを示した。一方,将来の天文学において爆発するデータ生産率はテラビット毎秒を越える可能性があり,ペタフロップスクラスのスーパーコンピュータを用いた大規模データ処理が必要となると予想されている。さらには人手を介さない機械学習など情報学や統計科学との連携が非常に重要になってくると考えられる。
著者
スティーン 智子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.358-362, 2013-09-01 (Released:2017-04-18)

1999年の,英国科学技術省のJohn Taylor所長の提唱以来,e-Scienceのアプローチが,色んな科学分野で,使われているという事が確認され,科学の方向性がさらに変わって来た。情報科学分野の方でもそれに見合う対応性が望まれる様になったので,アメリカでは,政府機関,大学,民間企業それぞれに,新しい動きが出て来ている。この論文では,いろんな例を上げて,e-Science時代に情報を提供するアーカイブズや図書館,さらに情報専門家に期待される施設や知識,さらに将来の展望なども,検討してみる。e-Scienceは,国境のない科学で,求められる情報も多言語で供給しなくてはならない。
著者
重松 麦穂
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.15-20, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)

研究成果を研究コミュニティへ迅速に共有することを目的として,査読を経ていない論文「プレプリント」をインターネット上で公開する動きが活発になっている。2010年代以降にはプレプリントを公開するウェブサイト「プレプリントサーバ」が分野ごと,国ごとに数多く立ち上がっており,日本でも科学技術振興機構が2022年3月に「Jxiv(ジェイカイブ)」の運用を開始した。プレプリントの利活用が広がる状況に,ジャーナル出版者や研究者がそれぞれ適切に対応することで,学術コミュニケーション,ひいては学術研究全体の発展につながると考える。
著者
森本 行人 池田 潤
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.21-25, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)

本稿では,日本語で書かれた人文社会系分野の研究の見える化に向けて,筑波大学が行ってきた取り組みについて述べる。1つは,筑波大学人文社会系の独自の取組としてのiMD(index for Measuring Diversity)である。iMDは学術誌の著者所属の多様性を図る指標として私たちが提案した手法で,特許も取得した。このiMDは,筑波大学人文社会系の評価指標にも活用されている。もう1つが筑波大学ゲートウェイである。筑波大学ゲートウェイは,F1000 Researchのプラットフォーム上に開発したものであり,全学の研究成果公開を促進する。ローンチから2年を経て筑波大学ゲートウェイをリブランドし,Japan Institutional Gatewayとして世に送り出すまでの経緯ならびに将来の展望を概説する。
著者
松下 茂
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.421-424, 2011-10-01 (Released:2017-04-20)
参考文献数
16

国内における企業向けのドキュメントデリバリーの件数は,近年大きく減少している。その理由は,米国サブプライムローン破綻に端を発したグローバルな金融危機とリセッションの影響による研究施設の予算削減が大きい。また企業における電子ジャーナルの利用もドキュメントデリバリーサービスに影響を与えている。一方,グローバルなドキュメントデリバリーサービスはインターネットを通じて文献を提供するe-DDS(electronic Document Delivery Service)へと変化してきているが,ドキュメントデリバリーサービスの市場を拡大していない。むしろプレイヤーの寡占化が進み,市場に参入する新たなプレイヤーは見られない。e-DDSは,出版者が提供するPay Per Viewサービスと競合しており苦戦を強いられている。長期的に見れば,論文単位での流通はe-Articleの流通として拡大していくと予想されるが,その流通の担い手は,利用者の要望をよく理解して柔軟に対応することが可能で,Pay Per Viewやe-DDSをも統合した単一のプラットフォームによるサービスを実現できるプレイヤーに主権が移っていくであろう。