著者
清水 昌 森川 忠則 新田 一誠 坂本 恵司 和田 浩一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.1, pp.1-9, 2002 (Released:2004-03-03)
参考文献数
34
被引用文献数
1

D-パントラクトン(D-PL)は,B群ビタミンのD-パントテン酸やD-パンテノール,D-パンテテイン,コエンザイムAの合成に重要なキラルビルディングブロックである.D-PLの製造は,これまで,化学的合成法により得たラセミ体混合物をキラルアミンによるジアステレオマー塩生成を含む複雑な光学分割法により行われてきた.D-パントテン酸製造におけるこの光学分割プロセスを回避あるいは改良するため,立体選択的な酵素反応の導入を検討した.すなわち,この目的に利用できる幾つかの反応を微生物に探索し,ラクトン環の2位OH基の立体を認識して分子内エステル結合を不斉加水分解し,DL-PLをD-パント酸とL-PLに分割できる反応がFusarium属および類縁糸状菌に広く分布することを発見した.本反応に関与する新規酵素“ラクトナーゼ”の諸性質を解明するとともに,本酵素を高活性で含むFusarium oxysporumの菌体をアルギン酸カルシウムで包括固定化することによって酵素の安定化と再利用を図り,180回以上の繰り返し使用を可能にした.これにより,常温,中性付近の温和な条件下に,副生物をほとんど伴わず,30–35%のDL-PLをほぼ定量的に分割できる実用的方法が確立された.本酵素的光学分割法は,1999年より3000 t/y規模(D-パントテン酸カルシウム換算)で工業化され,従来法に比し,経済性のみならず環境調和型の点でも優れた生産法であることが明らかとなっている.
著者
島内 功光
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1982, no.8, pp.1363-1370, 1982-08-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

フェノールとアセトンとから濃塩酸または塩化水素存在下でビスフェノールAを合成する方法について種々の検討を行なった。触媒として濃塩酸助触媒として3-メルカプトプロピオン酸を用いてビスフェノールA合成条件を検討し,フェノール/アセトンモル比4,反応温度70℃,反応時間5時間で最高収率を得た。触媒として塩化水素を用いてベンゼンなどの不活性有機溶媒を添加し,これら溶媒が製品の収率におよぼす影響について考察した。その結果,ビスフェノールA溶解度の小さいヘキサン,o-ジクロPtベンゼンを少量添加し低温でそれぞれ82.0%と88.0%の好収率で製品を得た。o-クレゾールとアセトンとから塩化水素存在下で有機溶媒を添加してビスフェノールCを合成し,溶媒の製品
著者
野路 雅英 鷲見 真貴 大森 敬之 水野 まゆみ 鈴木 憲治郎 田代 田鶴子 喜谷 喜徳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.675-683, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
30
被引用文献数
4

水に対する溶解度を増加させる目的で1,2-シクロヘキサンジアミン(dach)および2-(アミノメチル)シクロヘキシルアミン(amcha)を担体配位子とする一連の白金(IV)錯体を合成し,これらのマウス白血病L1210に対する制がん性試験を実施した。いずれの錯体も制がん活性であり,またdach自金(IV)錯体の方がamcha白金(IV)錯体よりも制がん効果が高く,かつ前者の錯体ではl-dachを担体配位子とする白金(IV)錯体が他の異性体白金(IV)錯体よりも高い制がん活性を示す傾向にあった。とくに,trans-PtCl2(oxalato)(l-dach),trans-PtCl2(malonato)(l-dach)およびtrans-PtCl2(oxaloto)(dl-trans-amcha)が高い制がん効果を示し,第二次制がん性試験を実施する資格を十分に備えているものと考えている。一般に,白金(IV)錯体は白金(II)錯体と比較して反応性が低いことから,白金(IV)錯体は生体内で白金(II)錯体に還元されてはじめてその制がん活性を発現するとも考えられているので,とくに光,およびアスコルビン酸による還元反応についてHPLCにより検討した。その結果,dach白金(IV)錯体は水溶液中で容易に白金(II)錯体に還元されることを見いだした。
著者
松田 彰 上田 亨
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1981, no.5, pp.845-850, 1981-05-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
23
被引用文献数
2

5'-デオキシ-5'-(フェニルチオ)グアノシン=2',3'-環状リン酸エステルを合成し,光照射を行なうと収率よく8,5'-環化反応が起こり,5'-デオキシ-8,5'-シクログアノシン-2'.3'-環状リン酸エステルが得られた。これは,塩基部がand形に固定されたグアニル酸のモデルである。この化合物はリボヌクレアーゼT1(RNaseT1)で加水分解され3'-リン酸エステルを与えるが,RNaseT1と3'-リン酸エステルの相互作用の分光学的解析を行なった結架,and形グアニル酸が,RNaseT1とよく相互作用することが明らかとなり,従来の定説を修正する結果となった。5'-デオキシ-8,5ノーシクロアデノシン=2,3'-環状リン酸エステルも同様に合成することができた。