著者
野口 亮 平柳 好一 益守 眞也 河室 公康 八木 久義
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.428, 2003

1.はじめに 地形の起伏が大きい早壮年山地からなる東京大学秩父演習林の急斜面上では、200cm以上の火山灰由来物質が堆積しA層が80__から__100cmと厚く発達した黒色土が分布する。本研究では土壌断面内における化学性、植物珪酸体、微細形態学的特徴の垂直的変化から、急斜面上で特異的に厚い土層と発達したA層をもつ土壌の堆積過程を明らかにすることを目的とした。2.調査地及び、調査方法 調査地は東京大学秩父演習林内の28林班に4小班と31林斑い13、14小班である。28林班に4小班では傾斜17°の南向きの急傾斜面中腹に土壌断面を作製した(プロット1)。厚さ90 cmのA層を持つ黒色土であった。同地点での植物珪酸体抽出用試料採取時の土壌断面をプロット2とする。31林班い13小班では、傾斜26.5°の南向き極急斜面の中腹に土壌断面を作製した(プロット3)。黒色土であり、A層の厚さは100 cmであった。プロット3より20 mほど上方の同一斜面上に位置する傾斜22°の急傾斜地の31林班い14小班にも土壌断面を作成した(プロット4)。A層の厚さが70 cmの黒色土であった。プロット1及びプロット3において化学分析用及び微細形態学的性質研究用として土壌層位ごとに試料を採取した。また、プロット2及びプロット4において植物珪酸体抽出用に土壌試料を採取した。3.分析採取試料の化学性として、pH、リン酸吸収係数、全炭素量、陽イオン交換容量、交換性陽イオン量、塩基飽和度などを調べた。植物珪酸体は抽出を行い、鉱物顕微鏡下で検鏡した。大型のファン型植物珪酸体について表面の孔隙量により3段階に分別し、各段階の分布割合を調べ、植物珪酸体の風化度の指標とした。また、ササ類由来とススキ類由来の植物珪酸体の比率を調べた。微細形態学的特徴は土壌薄片を作製し鉱物顕微鏡下で観察した。4.結果および考察4.1 化学性いずれの土壌も、リン酸吸収係数及び活性アルミニウムテストにより、新生代第四紀の火山灰を母材とする土壌であることが確認された。塩基飽和度は非常に低く、高い層で7%、低い層では1 %を下回っており、極めて塩基の乏しい土壌であった。また、全炭素含有率はいずれの土壌においてもA層で大きく、全体的に極めて多量の腐植が集積していることを示している。4.2 鉱物組成プロット1,3ともに全層に輝石、石英が多く含まれており、重鉱物のみを見ると、半分以上を紫蘇輝石が占め、次に普通輝石が多く、角閃石、黒雲母、磁鉄鉱が含まれていた。この重鉱物組成を奥秩父(滑沢、栃本)、三峯付近のローム層の重鉱物組成(埼玉第四紀研究グループ、1967)と比較すると非常に似ており、八ヶ岳東側緩斜面のローム層中の重鉱物組成(小林、1963)とも似ていることから、今回採取した土壌も、八ヶ岳を由来とする火山灰を母材とすると考えられる。また、プロット1,3ともにB1層以深で磁鉄鉱の割合が増加しており、B1層以深の土壌は埼玉第四紀研究グループの分類によると、関東ローム層序の武蔵野ローム層以前に対比される、Dローム層以前のローム層に相当すると考えられる。B1層より浅い部分の土壌は関東ローム層序の下末吉ローム層と同時代に対比されるEローム層であると考えられる。4.3 植物珪酸体プロット2ではササ類由来の植物珪酸体が、プロット4ではススキ類由来の植物珪酸体の比率が多くなっていた。A層における腐植の由来は、検鏡結果からプロット1及び2ではササ類が、プロット3及び4ではススキ類が腐植の主な供給源であると推定される。植物珪酸体の風化度は、プロット2では0__から__40 cmにかけて、プロット4では0__から__30cm、30__から__70cmのそれぞれの深さにおいてほぼ一定の値を示し、風化度1,2,3の植物珪酸体の含まれる割合も一定となっており、40 cmの深さまでの植物珪酸体が土壌に供給された年代に差がないことを示唆していた。また、偶発的な崩落物と考えられる大角礫が含まれており、斜面上部尾根では火山灰が厚く堆積していないことから、これらの土壌は、比較的短い期間に、マスウエィスティングによって斜面上部から土壌が運搬されて堆積した二次堆積の影響を受け形成されたと考えられる。また、プロット4では、30cm深と70cm深を境に、風化度が異なっていたことから、少なくとも2度、異なる時期に二次堆積の影響を受け形成されたと考えられる。プロット2の40__から__70cmの深さでは深くなるほど植物珪酸体は未風化のものが減少し、風化の進んだものが増加していた。このことから、この深さにおける土壌は二次堆積の影響をあまり受けずに長い年月をかけて一次堆積による火山灰の堆積と、腐植の集積が併行して起こった結果発達した土壌であると考えられる。
著者
三柴 淳一 Vincent Pullockaran 那須 嘉明 増田 美砂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.35, 2003

1. 背景および目的森林資源を有する開発途上国は現在,開発と保全の両立という問題に直面している。これまで多くの国では政府主導による管理が行われていたが,地域住民の協力が保全の鍵となることが明らかになるにつれ,森林管理における住民参加が急速に普及しつつある。こうした世界の潮流に先駆けて共同森林管理(Joint Forest Management,JFM)に着手したのがインドである。インドの人口は10億を超え,さらに拡大しているにもかかわらず,FAOによると過去10年間の森林面積は0.1%とわずかながら増加に転じている。そこで本研究では,実際にどのような人々がJFMに参加し,どのような活動を行っているのかを具体的な事例に則して明らかにし,その結果をもとに森林保全に果たす参加型森林管理の役割について考察したい。2. 研究の方法調査地としては,819人/km2(2001年)という全国平均の2倍以上の人口密度を抱えながら高い森林率(28.6%)を維持しているケララ州を選び,2002年9月__から__11月に現地調査を行った。まず森林官などキーインフォーマントへの聞き取りや二次資料による概況調査を行ったところ,ケララ州では近年になってJFMを応用した参加型森林管理が実施されるようになり,それらはParticipatory Forest Management(PFM)と総称されていることがわかった。次に比較的早くからPFMが導入されているトリシュール県ランドゥカイ村の事例を取り上げた。ランドゥカイの地理条件は,中規模都市からバスで1時間の距離,背後には保護対象の国有天然林とティーク人工造林を控える都市近郊の側面も有する農村地域である。地域住民で組織され,PFMを運営している森林保護委員会Vana Samrakshana Samithies(VSS)の構成員から無作為に抽出した40世帯を対象に,__丸1__家族構成,__丸2__土地所有,__丸3__農業活動,__丸4__農業・農外収入,__丸5__森林への依存についての聞き取り調査を行った。3. 結果および考察インドの森林をめぐる決定はトップダウン方式でなされ,中央政府の方針にしたがい州政府において具体的な行動計画が策定され実施されている。PFMにおいては画一的なモデルを避け,地域情勢を考慮した様々なヴァリエーションを設けている。ただし,モデルの設定は住民参加によるボトムアップではなく,現状では州政府レベルで開発した雛型を現地に適用する形式を取っている。ランドゥカイ村は,過去の森林解放と不法侵入によって形成されたという経緯を持ち,すべての住民が他地域からの移住者である。VSSには国有林周辺に居住する人々が概ね組織され,VSSの中心メンバーによって策定された5ヵ年計画,マイクロプランに基づき活動している。ただし2001年7月の実施以来行われた活動は,わずかな植林と現在区域の見回りが行われているのみであり,むしろ定期集会や実行委員会会議を通じた啓蒙活動が活動の中心となっている。参加住民への聞き取りによると主な参加の理由は,VSS実行委員による勧誘であり,次に職の機会を期待してであった。活動開始後の全体集会への参加状況については,参加理由に何らかの目的があった人々を除くとあまりよくない。しかし,ランドゥカイは小農村ながら人材豊富でVSS代表者は経済学修士,実行委員も短大卒以上が4割,また一般メンバーにおけるリーダー的存在には元小学校校長がいる。参加住民の生活状況は自らの農地でゴム園やココヤシを主体とするアグロフォレストリーを営んでいるが,家計は農外収入で補っており,出稼ぎや仕送りに依存する世帯も少なくない。国有林内では,管理協定で認められた薪炭材やわずかな非木材林産物の採集だけが行われ,禁止されている放牧は今も続いているが,地域内の家畜数自体が少ない。牛,ヤギとも調査対象世帯平均で0.5頭であった。またVSS活動開始後に林産物採集場所を変更したのは40世帯中1世帯のみであった。当該地域では林地の境界がすでに確定しており,その後の急激な森林減少は認められない。森林の行方を規定する要因はむしろ,森と住民という二者間の直接的関係ではなく,土地利用や就労機会など両者をとりまく地域の経済構造全体にもとめるべきである。PFMが森林保全に果たす役割としては,それまで少しずつ進行していたであろう資源の劣化を,同様に緩やかに回復に向かわせるという点,現在土地依存傾向の見られる地域情勢が今後変化した際,国有林に対するバッファーゾーンになり得る可能性および雇用創出の可能性に認められるが,それを直ちに州やインド全体に見られる森林増加という逆転現象の説明に用いるにはいささか無理がある。また森林管理のあり方を考えるに際しては,林地という限定された側面だけに注目するのではなく,地域の持つ様々な条件全体を考慮した設計を行う必要があると思われる。
著者
マンフロイ オダイル ジョセ 鈴木 雅一 田中 のぶあき 諸岡 利幸 蔵治 こいちろ
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P4049, 2004

In this analysis, we investigated effects of increase of number of raingauges, spatial variability, extent of zones of intense TF dripping and effect of wind speed on TF measured in a 10 X 10 m plot of a lowland tropical forest in Lambir, Sarawak, Malaysia. Daily TF catches by 20 fixed raingages in a 10 X 10 m plot, called fixed plot, was measured over two years. During this same two years, by using additional 20 relocating raingages, TF was also measured during a period of about one month in each of 23 different plots, of same size as the fixed plot, inside the limits of the 4 ha crane site biological plot. An intense daily TF measurement with 60 raingages for a period of about 2 months duration was carried out in the fixed plot. From this period, 15 single storms separated by 6 hours dry spell could be extracted. Analysis of the TF data were based on the TF ratio which is the percent TF catch of a gauge or gauges in a storm or period of time divided by total open rainfall in the same period. The main results were as follows. 1) General TF characteristics: Mean Total TF in the fixed plot was 82 % of the open rainfall in the first year and 87 % in the second year. Mean TF measured in the 23 relocating plots were in average 9% greater than TF measured in the fixed plot during a same period. 2) Intense TF measurement in the fixed plot:Interpolation of the percent TF ratio caught by the 60 gauges over all the 2 months period of intense measurement in this plot showed that zones of relatively intense dripping occupied less than 10 % of the area of the plot. Analyses of the 15 single rainfall storms selected from this period also showed the occurrence of zones of intense dripping in 11 of the storms but the pattern or place of occurrence of these zones were not constant. Mean catches by the 20 fixed set of TF gauges (gauges used to measure TF during the two years period) in 15 storms differed from 0.2 to 0.6 mm of the mean catches of all 60 gauges in the same storms. In addition, analysis of the TF ratio catches of the 60 gauges in each of the 15 single storms with empirical variograms suggested no spatial autocorrelation between gauges percent catches, and therefore TF catches by individual gauges within this plot can be regarded as independent and the TF process as random within plots of this size. Finally, the distribution of the 60 gauges TF ratio in the fixed plot resembled the distribution of the TF ratio measured in 520 different points in the 23 relocating plots inside the 4 ha plot. 3) Wind speed effect: In the present study site storms occurs both in the night, usually under calm wind condition and afternoon usually in active wind condition that make the separation of the wind speed effect alone in TF difficult. Despite of that, low mean TF in the fixed plot was associated with storms occurred under windy condition or afternoon. An increase in the total stemflow of the fixed plot for storms under windy condition was not found, and therefore rainfall interception loss calculated as the difference of rainfall and TF-plus-stemflow was higher for storms under windy condition.
著者
森貞 和仁 大野 泰之 澤田 智志 片倉 正行 吉岡 寿 中岡 圭一 高宮 立身
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P1056, 2004

二酸化炭素吸収源としての森林の役割を正確に評価するには森林が成立している土壌炭素量および森林伐採など土地利用変化に伴うその変化量を精度良く評価することが必要である。土壌の分析・測定値はある一定の広がりをもつ土壌の代表値であるので,森林伐採が表層土の炭素貯留量に与える影響を精度良く推定するには土壌炭素量の空間的変動に基づいた多点サンプリングを行う必要がある。褐色森林土3カ所(北海道,秋田,愛媛),黒色土3カ所(長野,広島,大分)調査地において森林伐採前と伐採直後に3mないし4m間隔で規則的に100点程度のサンプリングを行い,鉱質土壌深さ0-30cmの表層土における炭素量の空間的変動とその変化率から目標精度に見合うサンプリング方法を検討した。その結果,表層土に含まれる土壌炭素量は土壌の種類によって違い,黒色土の炭素量は褐色森林土より明らかに多かった。空間的変動の指標として炭素量の変動係数を比較すると,褐色森林土ではどの調査地も約20%以上で試料採取点による変動が大きかったが,黒色土では大分以外の2調査地では約10%と比較的均質であった。伐採後の変動係数はどの調査地も伐採前と同じレベルであった。伐採に伴う変化率は平均で-7%(秋田)から+17%(愛媛)と調査地によって違う傾向を示したが,どの調査地でも採取地点による変動が大きかった。伐採前の調査結果から目標精度(信頼度95%,誤差5%)で表層土の炭素量を推定するには少なくとも褐色森林土で60点,黒色土で20点必要とみられた。伐採前後で土壌炭素量の変動係数に大きな変化がみられない。上記の点数を継続サンプリング,分析することで伐採後の変化を追跡することが可能と考えられるが,調査を継続して更に検討する必要がある。
著者
田中 博春 小熊 宏之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.280, 2003

I. はじめに 分光日射計データから得られる各種植生指標の季節変化を、CO2吸収量ならびに葉面積指数の季節変化と比較した。データは、国立環境研究所苫小牧フラックスリサーチサイト(カラマツ人工林)のタワーデータを用いた。・各種植生指標:全天分光日射計 英弘精機MS-131WP使用。地上高40mに設置した上向き・下向きの日積算日射量より各種植生指標値を算出。波長帯は、可視(Ch3:590-695nm≒ 赤)と近赤外(Ch5:850-1200nm)の組み合わせ[図1-a]、ならびに可視(Ch2:395-590nm≒青・緑)と 近赤外(Ch4:695-850nm)の組み合わせ[図1-b]の2通りを用いた。・CO2フラックス日中積算値:クローズドパス法非分散型赤外線分析計Li-Cor LI-6262使用。地上高27m 9:00から16:30までの30分値を加算、日中の積算値とした[図1-c]。・葉面積指数(LAI):光合成有効放射計Li-Cor LI-190SB 地上高1.5mと40mの下向き光合成有効放射量(PAR)の日積算値の比から、Lambert-Beerの式を用いPAI(Plant Area Index)を算出。落葉期の測定値を減じLAIとした [図1-d]。II. 日中CO2フラックスと植生指標GEMIの整合性[図1-c] Ch2とCh4から求めた植生指標GEMI(Global Environmental Monitoring Index)の季節変化と、日中積算CO2フラックスの極小値を結んだ包絡線の季節変化の間によい一致がみられた[図1-c]。特にカラマツの萌芽後のGEMI値の急増時期や、展葉に伴うGEMI値の増加傾向が、CO2フラックスの変化傾向とよく一致している。ただし紅葉期は両者は一致しない。これは、光合成活動が低下した葉が落葉せずに残るためと思われる。III. 各種植生指標の季節変化 [図1-a,b] これに対し、植生指標としてよく用いられる正規化植生指標NDVI(Normalized Vegetation Index)は、CO2フラックスの季節変化傾向と一致しなかった。NDVIは春先の融雪に伴う値のジャンプがあり、また6__から__10月の活葉期に値がだいたい一定となる。この特徴は、Ch3とCh5から求めた図1-aの4つの植生指標も同様であった。しかし、Ch2とCh4を用いた図1-bのGEMIと、近赤外と可視の差であるDVI(Difference Vegetation Index)にはこれらの特徴がみられず、CO2フラックスの季節変化傾向と同様に萌芽後に値が急増し、6月にピークを迎えた後なだらかに減少した。IV. 葉面積指数LAIと植生指標GEMIの整合性 [図1-d] 葉面積指数(LAI)が正常値を示す、積雪期以外のLAIの季節変化を、Ch2とCh4によるGEMI(≒CO2フラックスの季節変化)と比較すると、カラマツ萌芽後の展葉期にはGEMIより1__から__2週間ほど遅れてLAIの値が増加した。タワー設置のモニタリングカメラの日々の画像の変化を見ても、カラマツの葉の色の変化が先に現れ、その後に葉が茂ってゆく様子がわかる。 萌芽後、LAIは直線的に増加するが、GEMIの増加は立ち上がりは急なものの徐々に増加量が減ってくる。これは、萌芽後LAIの増加とともに葉の相互遮蔽が生じ、下層まで届く光量が減少するため、群落全体としての光合成活動が低下することが原因と思われる。 他にも、今回の測定方法ではLAIとしてカウントされていない林床植物のCO2フラックスの影響等が想定される。<CO2フラックス・LAIデータ提供: 産業総合技術研究所 三枝 信子・王 輝民>
著者
齋藤 達也 加藤 亮 御田 成顕 Indra Kumara 増田 美砂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.36, 2003

1.目的および方法 本研究では、地理的に隔離され域外への木材の輸送ができないという限定された条件を持つ地域において、人口の動態によって森林がどのような影響を受けるのかを探る。また、その影響を左右する要因について考察する。本研究では、衛星画像によって森林保全の評価を行うために、グランドツルースとして訪ねた地点の座標とその地点の概況を記録した。画像データは、Path:118、Row:57のLandsat TM(1991/6/14)、Landsat ETM+(1999/12/21、2002/5/19)を利用した。また、人口動態を知るために、クラヤン郡の人口統計資料を収集するとともに、ケラビットへ出稼ぎをしている人が多いL村において、全41世帯のうち19世帯に対し、聞き取り調査を実施した。2.調査地の概況 調査地は、東カリマンタン州の東北部のヌヌカン県クラヤン郡(以下、クラヤン)で、マレーシアのサラワク州およびサバ州に境界を接し、面積3170km2,世帯数1957世帯、人口9199人(2001年)である。周囲を山岳に囲まれているため交通のアクセスは悪く、インドネシア側からはヌヌカンとタラカンなどからの空路のみである。陸路は唯一サラワク側との間に1本あるが、国境に入国管理事務所がないため、その陸路もインドネシアの独立記念日に開かれるのみで、自動車を利用した輸送には利用できない。同じ民族が国境をを挟んで両国の山間地域に生活していて、姻戚関係を持つ世帯もあり、日常的な徒歩での行き来もある。サラワク側はケラビット・ハイランドと呼ばれ、マレーシアの経済発展により都市部への人口流出によって、人口の減少及び高齢化が進んでおり、焼き畑地が放棄され2次林が回復しているといわれる。これに対し、クラヤンでは、人口は微増しており、人工衛星の画像からは森林回復は全く否定的と判読された。1960年代の国境紛争時にインドネシア政府によって集村化が行われ、現在27の地区(Lokasi)に89の村(Desa)が集められていて、1つの集落が数村からなることもある。集村化の際には、火事による損害軽減のためにかつてのロングハウス居住形態が解体され、戸別の住居に転換された。ケラビットではロングハウスが残るのとは対照的である。クラヤンの主な産業は米作で年1作であり、生産された米はマレーシアに売りに行き、そこで生活に必要な物を購入してくるというように、クラヤンはマレーシアとの結びつきが強い。また、ケラビットの不足した労働をクラヤンからの出稼ぎが補ってもいる。3.結果 郡長や住民へのインタビューから、現在クラヤンにおいては焼き畑を行っているものはほとんどいないことがわかった。理由は、焼き畑による陸稲栽培は多大な労力の割に収量が少なく、水稲栽培を選ぶからである。しかし、クラヤンでは樹木がない山が多く見られ、その理由については野焼きの火が飛び火し、コントロールが効かなくなり山火事になったためと説明された。特に、1997年は山火事がひどかったとのことである。L村では、徒歩で8時間のケラビットのバリオに出稼ぎに行く者が多く、中にはバリオに水田を借りて水稲栽培をしている世帯もあった。つまり、自分の水田で生産した米の売却と出稼ぎによって得る収入が家計を支えている世帯が多い。森林利用については、チェーンソーを19世帯のうち12世帯が所有し、自己消費の薪炭材および建築用材を近くの山から伐採している。また、伐採した材は水牛によって搬出し、クラヤン郡内の町に売りに行くこともある。チェーンソーを持たない世帯でも、親戚から借りることによって必要な木材を調達している。4.考察 人口動態は、経済格差により生じることがあり、それによって森林の保全に差異を生じることが上記の調査によってもわかる。ケラビットでは、国内の経済格差により人口が流出し、それによって焼き畑が放棄され森林が回復している。これに対し、クラヤンでは経済危機から回復しない国内の都市部に向かうよりも、隣接するマレーシアに出稼ぎに出かけ、それによって生計が安定的に支えられ、人口を維持することができる。しかし、それにより山火事の原因となる野焼きの機会が多くなり、森林が消失していると考えられる。このように国内の経済発展により、森林のある山間部から人々が流出することによって、森林は保全されるのかもしれない。しかし、これはケラビットやクラヤンのように木材の搬出路を持たない場合である。つまり、木材資源があってもそれが経済的な価値を持たなければ、商業的な森林伐採は成立しない。現在、クラヤンと外部とを結ぶ道路が計画されている。この道路が開通したとき、この地域の森林がどのような変貌を遂げるのか、興味深い。また、クラヤン内にはカヤン・ムンタラン国立公園があり、エコツーリズムも期待される。
著者
渡邉 章乃 上田 奈実 矢口 行雄
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P4010-P4010, 2004

1. はじめに2002年渡邉らは本大会において、常緑および落葉広葉樹8種の葉から葉面菌および内生菌の分離を行った結果、それぞれ特徴ある菌類が分離されたことを報告した。すなわち葉面菌では<I>Alternaria</I>属、<I>Cladosporium</I>属、<I>Microsphaeropsis</I>属、<I>Pestalotiopsis</I>属の4属菌が高頻度に分離され、また内生菌では<I>Phyllosticta</I>属、<I>Phomopsis</I>属、<I>Glomerella cingulata</I>の3属菌が高頻度に分離された。特に<I>G.cingulata</I>と<I>Phyllosticta</I>属は、葉面ではほとんど分離されず、代表的な内生菌であることがわかった。そこで本報告は、常緑広葉樹4種の葉の成長と内生菌との関係について解明するため、当年生葉と1年生葉を経時的に採取し、内生菌の分離、同定を行い、さらに季節的変動についての調査を行った。2. 方 法東京農業大学世田谷キャンパス内にある常緑広葉樹、トウネズミモチ、サンゴジュ、キョウチクトウ、ヤマモモの4種の当年生および1年生葉を供試した。当年生葉は、新葉が展開した2003年4-11月まで、1年生葉は同年3-11月までの間、2週間に1回、葉を経時的に採取した。その後、当年生葉においては葉柄を除く葉の先端から基部までの葉身および葉幅を計測し、葉面積(葉身長と葉幅長の積を2/3倍, Shimwell,1971)を求めた。葉の計測は、2003年4-8月まで行った。採取および計測後、直ちに直径1cmのコルクボーラーでくり抜き、葉ディスクを作製し、70%エタノール30秒→1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液1分→70%エタノール30秒→滅菌水30秒で表面殺菌処理を行った。その後、葉ディスク3枚を葉の表面にPDA培地が接するように置床し、室温下で3週間の培養を行った。発生した菌類は、分離、同定し発生率を求めた(発生したディスク数 / ディスク数×100)。3. 結果および考察1)当年生および1年生葉から分離された内生菌常緑広葉樹4種の当年生および1年生葉から分離された菌類を同定した結果、全調査期間に当年生葉で306ディスクから17属菌が分離でき、1年生葉では704ディスクから14属の菌類が分離、同定できた。すなわち当年生葉が1年生葉に成長するに従い内生菌は増加傾向を示すことがわかった。分離した菌を同定した結果、当年生および1年生葉ではほぼ同様に<I>Phyllosticta</I>属、<I>Phomopsis</I>属、<I>G. cingulata</I>の順に高頻度で分離された。これは2002年に同様な調査を行った渡邉ら(2002)の報告に類似した。このことから<I>Phyllosticta</I>属、<I>Phomopsis</I>属、<I>G. cingulata</I>の3属菌は、常緑広葉樹4種の当年生および1年生葉における代表的な内生菌であることが示唆された。 2)葉の成長と内生菌の関係 当年生葉の成長と内生菌との関係を検討するため、常緑広葉樹4種の新葉展開後から葉面積を調査した結果、新葉から成葉に成長する期間は樹種によって差がみられた。すなわちキョウチクトウとヤマモモでは約30日であり、これに対してトウネズミモチとサンゴジュでは、約60日であった。新田(1995)は、常緑広葉樹8種において2_から_6週間で葉の成長は完了すると報告し、本実験の結果もこれに類似した。 次に葉の成長と内生菌の発生について調査した結果、新葉から葉の成長がほぼ止まる間の成長期には、内生菌の発生は低く、葉が成長するに従い内生菌の発生は増加した。すなわち成長期には、葉面からの感染が低いことが示唆された。 3)異なる葉齢における内生菌3属の季節的変動当年生および1年生葉で高頻度に分離された<I>Phyllosticta</I>属、<I>Phomopsis</I>属、<I>G. cingulata</I>の季節的変動を調査した結果、トウネズミモチとキョウチクトウでは、新葉が展開した4月の早い時期から発生がみられたのに対して、サンゴジュとヤマモモでは7月頃から発生し、樹種により新葉展開後の内生菌の発生時期が異なった。さらに、トウネズミモチとサンゴジュでは、当年生および1年生葉において3属菌の発生がほぼ同様にみられたのに対して、キョウチクトウとヤマモモでは、葉の成長に伴い<I>Phyllosticta</I>属菌の発生が顕著にみられた。以上の結果より、常緑広葉樹4種の葉における内生菌の発生を当年生および1年生葉に分けて調査した結果、明らかに樹種により新葉展開後の内生菌の発生時期が異なり、さらに内生菌の中でも樹種により優占的に発生する菌が異なることがわかった。