著者
北林 慶子 都野 展子 保坂 健太郎 矢口 行雄
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.69-76, 2016-05-01 (Released:2016-08-17)
参考文献数
28

双翅目幼虫は子実体内に多数かつ頻繁に観察されるがその生態は,ほとんど研究されておらず,双翅目幼虫は胞子散布者として機能し得るか否か不明である.本研究では,ハラタケ型子実体内部に生息する双翅目幼虫の生態について,幼虫の子実体内部での摂食対象組織と幼虫による消化が胞子に与える影響を消化管内胞子の外部形態を詳細に観察することによって調べた.ハラタケ亜門4目16科23属114個の子実体から幼虫を3798個体採集した.解剖した幼虫172個体のうち,103個体の消化管内に胞子が存在した.顕微鏡下で消化管内胞子の外部形態に変化は確認されず,トリパンブルー染色においても,対照群胞子より消化管内胞子は6~11%損傷率が高かったが80%程度の胞子は無傷であった.以上より,双翅目昆虫の幼虫による子実体中での胞子摂食が高頻度で起きていること,幼虫の消化管内の胞子の多くはほとんど物理的損傷を受けていないことが示された.
著者
桝田 信彌 福田 香織 矢口 行雄 本間 環
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.298-305, 2007 (Released:2007-11-28)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

マングローブ林を構成する木本植物の効率の良い造林を行うための苗木の大量生産を目的とした基礎的研究として,メヒルギ胎生種子の植え付け深さの違いによる発根現象を調査した。その結果,胎生種子のシュート伸長成長は深く植え付けるほど促進効果がみられ,サンゴジュやモモなどの他の樹種のさし木の発根におけるこれまでの報告と同様の結果が得られた。植え付け前に根源体の形成がみられた下部発根は,植え付け深さの違いによって下部根の発根部位や発根本数には違いがみられなかった。しかし,植え付け後に根源体の形成された上部発根は,深く植え付けたものほど発根部位が拡大し発根本数も増加した。これらのことから,メヒルギ胎生種子の上部発根は,植え付けたことによる培地との接触が刺激となって根源体が形成されたと考えられる。また,上部発根と下部発根との間には約 2 cmの無発根の部位がみられた。
著者
矢口 行雄 中村 重正
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.141-144, 1992

1986年9月から1987年5月の9ヵ月間にわたりハワイ産パパイアの日本到着時における損傷について調査を行った.損傷の発生は, 生理的損傷0.9%, 機械的損傷1.8%, 腐敗0.9%で, これらの季節的変動をみると12月が最も高く, 4月, 5月が最も低い傾向を示した.
著者
辻井 良政 清瀬 紀子 立田 奈緒美 矢口 行雄 内野 昌孝 高野 克己
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.127-134, 2009-05-30
参考文献数
29

本研究で、炊飯において米胚乳細胞壁構成成分のペクチン、ヘミセルロースおよびセルロースの分解と米胚乳酵素の作用について検討した。(1)米飯から抽出したペクチン画分は、精米の同画分に比べ繊維状組織が崩壊し、ヘミセルロースAおよびB画分は密な板状構造が大きく崩壊していた。しかし、セルロースにおいては、明確な差はみられなかった。(2)炊飯外液には、D-ガラクチュロン酸、D-キシロース、D-マンノースおよびD-アラビノース等が検出され、また、これらの糖から構成されたヘテロオリゴ糖が可溶化していることから、米胚乳細胞壁が炊飯中に分解していると示唆された。(3)米飯の各細胞壁多糖画分は、精米の同画分に比べて低分子量領域に変化していることを確認し、特にペクチン画分の変化は顕著であった。(4)米飯の各細胞壁多等画分の構成糖の変化から、ペクチン画分ではD-ガラクチュロン酸が大きく低下し、ヘミセルロースAおよびB画分ではD-キシロースおよびL-アラビノースが増加したことから、各画分で分解を受けている部位が異なると示唆された。(5)米胚乳より調製した酵素液中に、ポリガラクチュロナーゼ、αおよびβ-ガラクトシダーゼ、β-キシラナーゼ、β-グルカナーゼおよびα-マンノシダーゼ活性を確認し、これらの酵素は炊飯中の温度上昇下で作用していると示唆された。以上の結果から、炊飯において米胚乳中に存在する各種細胞壁分解酵素の作用によって、米胚乳細胞壁多糖画分が低分子量化し、米飯の食味形成に対する影響力が示唆された。
著者
渡邉 章乃 佐藤 友美 矢口 行雄
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第114回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.362, 2003 (Released:2003-03-31)
参考文献数
2

1. はじめに 植物の葉の葉内および葉面を含めた範囲を葉圏といい(Carroll, 1977)、葉圏に生息する菌類は葉の表面に分布する葉面菌と内生菌を含め、葉圏菌といわれている(Petrini, 1991)。しかし、これらの菌類の役割についての研究はほとんど蓄積がないのが現状であり、さらに内生菌の中には、病原菌として報告されている菌類も含まれている。また葉圏菌に関する研究は葉面菌または内生菌のどちらか一方に集中していて、これらの比較検討を行った研究はほとんどない。そこで本研究は、内生菌および葉面菌と病原菌との関係のメカニズムを解明するため、葉面菌および内生菌を分離・同定し、既報の病害報告と比較検討を行い、さらに異なる樹種における菌類発生の季節的変動パターンの比較検討を行った。2. 方 法 葉面菌および内生菌を分離、同定するため、東京農業大学世田谷キャンパス内にある常緑および落葉広葉樹それぞれ4種を供試木として葉を経時的に採取した。常緑広葉樹としてトウネズミモチ、サンゴジュ、キョウチクトウ、ヤマモモの葉を、さらに落葉広葉樹としてソメイヨシノ、ウメ、トウカエデ、ニセアカシアの新葉の展開した2002年4月から12月の間に合計19回各葉をそれぞれ採取した。各樹木から1調査木につき5から8枚採取し、採取後、直ちに直径1cmのコルクボーラーでくり抜き葉ディスクを作製した。表面殺菌処理また無処理として、葉ディスク3枚を葉の表面をPDA培地に接するように置床した。各処理後、室温下で2週間の培養後にそれぞれ発生した菌類のコロニー数をカウントした。3. 結果および考察1) 常緑および落葉広葉樹の葉から分離された葉面菌と内生菌 常緑および落葉広葉樹8種の葉面菌と内生菌を検出するため、各葉の表面殺菌区および無処理区から分離された菌類を同定した結果、常緑および落葉広葉樹の供試葉からほぼ同様な19属の菌類が分離された。無処理区では、Alternaria sp.、Microsphaeropsis sp.、Cladosporium sp.、Pestalotiopsis sp.の順に高頻度で分離された。また処理区では、Phomopsis sp.、Phyllosticta sp.、Colletotrichum spp.の順に高頻度で分離された。Phomopsis sp.、は、両処理区より高頻度で分離された。またPhyllosticta sp.は無処理区からは全く分離できなかったことから葉面には生息せず、代表的な内生菌であることがわかった。これに対して、Pestalotiopsis sp.、Epicoccum sp.、Botrytis sp.、Phoma sp.、Mucor sp.、Trichoderma sp.は処理区から全く分離できなかったことから、葉内には内生できない代表的な葉面菌であることがわかった。今回行った表面殺菌法の処理区と無処理区では、処理区から分離した菌類は内生菌と特定できるが、無処理区では葉面菌と内生菌の一部が分離されることが推定された。葉面菌を分離するには洗浄法が一般的な方法であるが、本実験の結果から、無処理区から分離された菌類は明らかに処理区の分離数より多く、これらは代表的な葉面菌であるものと考えられた。このことは、Petrini(1991)により、葉面菌は葉の老化に伴い内生すると報告されていることからも推察された。2)葉面菌および内生菌の季節的変動 各処理区から分離した菌類のコロニー数の季節的変動を調査した結果、葉面菌は常緑および落葉広葉樹8樹種で、同様な結果が得られ、4月から12月までの全期間で同様なコロニー数を示した。これに対して、内生菌は、常緑広葉樹では葉面菌同様に季節的な変動はみられなかったが、落葉広葉樹では、新葉展開後、6月頃より12月にかけて増加傾向を示した。以上の結果より、葉面菌は樹種が異なっていても、同様な発生傾向を示した。しかし、落葉広葉樹の内生菌では、新葉が展開後、6月ころまでは全く検出されないことがわかった。次に各葉より発生した菌類の発生率の季節的変動を調査した結果、葉面菌は常緑および落葉広葉樹ともに同様な結果が得られた。すなわち最も高頻度で分離されたAlternaria sp.およびCladosporium sp.は4月から12月の調査中でほぼ全ての期間で同頻度に発生したが、Microsphaeropsis sp.は4月から12月にかけて減少傾向を示し、Pestalotiopsis sp.は8月以降増加する傾向を示した。内生菌では、高頻度で分離されたPhomopsis sp.、Phyllosticta sp.、Colletotrichum spp.の3属菌について比較検討した結果、常緑広葉樹ではPhomopsis sp.とPhyllosticta sp.は、4月から12月までの全期間で分離されたが、Colletotrichum spp.は4月から12月にかけて増加傾向を示した。また落葉広葉樹では、Phomopsis sp.は4月から12月にかけて減少する傾向を示し、Phyllosticta sp.とColletotrichum spp.は7月から発生がみられ、12月まで増加傾向を示した。
著者
矢口 行雄 中村 重正
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.141-144, 1992-06-01

1986年9月から1987年5月の9カ月間にわたりハワイ産パパイアの日本到着時における損傷について調査を行った.損傷の発生は, 生理的損傷0.9%, 機械的損傷1.8%, 腐敗0.9%で, これらの季節的変動をみると12月が最も高く, 4月, 5月が最も低い傾向を示した.
著者
渡邉 章乃 上田 奈実 矢口 行雄
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P4010-P4010, 2004

1. はじめに2002年渡邉らは本大会において、常緑および落葉広葉樹8種の葉から葉面菌および内生菌の分離を行った結果、それぞれ特徴ある菌類が分離されたことを報告した。すなわち葉面菌では<I>Alternaria</I>属、<I>Cladosporium</I>属、<I>Microsphaeropsis</I>属、<I>Pestalotiopsis</I>属の4属菌が高頻度に分離され、また内生菌では<I>Phyllosticta</I>属、<I>Phomopsis</I>属、<I>Glomerella cingulata</I>の3属菌が高頻度に分離された。特に<I>G.cingulata</I>と<I>Phyllosticta</I>属は、葉面ではほとんど分離されず、代表的な内生菌であることがわかった。そこで本報告は、常緑広葉樹4種の葉の成長と内生菌との関係について解明するため、当年生葉と1年生葉を経時的に採取し、内生菌の分離、同定を行い、さらに季節的変動についての調査を行った。2. 方 法東京農業大学世田谷キャンパス内にある常緑広葉樹、トウネズミモチ、サンゴジュ、キョウチクトウ、ヤマモモの4種の当年生および1年生葉を供試した。当年生葉は、新葉が展開した2003年4-11月まで、1年生葉は同年3-11月までの間、2週間に1回、葉を経時的に採取した。その後、当年生葉においては葉柄を除く葉の先端から基部までの葉身および葉幅を計測し、葉面積(葉身長と葉幅長の積を2/3倍, Shimwell,1971)を求めた。葉の計測は、2003年4-8月まで行った。採取および計測後、直ちに直径1cmのコルクボーラーでくり抜き、葉ディスクを作製し、70%エタノール30秒→1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液1分→70%エタノール30秒→滅菌水30秒で表面殺菌処理を行った。その後、葉ディスク3枚を葉の表面にPDA培地が接するように置床し、室温下で3週間の培養を行った。発生した菌類は、分離、同定し発生率を求めた(発生したディスク数 / ディスク数×100)。3. 結果および考察1)当年生および1年生葉から分離された内生菌常緑広葉樹4種の当年生および1年生葉から分離された菌類を同定した結果、全調査期間に当年生葉で306ディスクから17属菌が分離でき、1年生葉では704ディスクから14属の菌類が分離、同定できた。すなわち当年生葉が1年生葉に成長するに従い内生菌は増加傾向を示すことがわかった。分離した菌を同定した結果、当年生および1年生葉ではほぼ同様に<I>Phyllosticta</I>属、<I>Phomopsis</I>属、<I>G. cingulata</I>の順に高頻度で分離された。これは2002年に同様な調査を行った渡邉ら(2002)の報告に類似した。このことから<I>Phyllosticta</I>属、<I>Phomopsis</I>属、<I>G. cingulata</I>の3属菌は、常緑広葉樹4種の当年生および1年生葉における代表的な内生菌であることが示唆された。 2)葉の成長と内生菌の関係 当年生葉の成長と内生菌との関係を検討するため、常緑広葉樹4種の新葉展開後から葉面積を調査した結果、新葉から成葉に成長する期間は樹種によって差がみられた。すなわちキョウチクトウとヤマモモでは約30日であり、これに対してトウネズミモチとサンゴジュでは、約60日であった。新田(1995)は、常緑広葉樹8種において2_から_6週間で葉の成長は完了すると報告し、本実験の結果もこれに類似した。 次に葉の成長と内生菌の発生について調査した結果、新葉から葉の成長がほぼ止まる間の成長期には、内生菌の発生は低く、葉が成長するに従い内生菌の発生は増加した。すなわち成長期には、葉面からの感染が低いことが示唆された。 3)異なる葉齢における内生菌3属の季節的変動当年生および1年生葉で高頻度に分離された<I>Phyllosticta</I>属、<I>Phomopsis</I>属、<I>G. cingulata</I>の季節的変動を調査した結果、トウネズミモチとキョウチクトウでは、新葉が展開した4月の早い時期から発生がみられたのに対して、サンゴジュとヤマモモでは7月頃から発生し、樹種により新葉展開後の内生菌の発生時期が異なった。さらに、トウネズミモチとサンゴジュでは、当年生および1年生葉において3属菌の発生がほぼ同様にみられたのに対して、キョウチクトウとヤマモモでは、葉の成長に伴い<I>Phyllosticta</I>属菌の発生が顕著にみられた。以上の結果より、常緑広葉樹4種の葉における内生菌の発生を当年生および1年生葉に分けて調査した結果、明らかに樹種により新葉展開後の内生菌の発生時期が異なり、さらに内生菌の中でも樹種により優占的に発生する菌が異なることがわかった。
著者
鎮野 宏幸 渡邉 章乃 山田 周平 本橋 慶一 矢口 行雄
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.233-237, 2008-12-10

2004年6月,東京都世田谷区の街路樹に植栽されていたハナミズキ(Cornus florida L.)の葉に,淡褐色,不整形の病斑を生じ,その上に炭疽病菌と思われる分生子粘塊が観察される病害が発生した。病斑は,はじめ葉の周縁部および中央部が褐色となり,それぞれ不定形に拡大,融合し,その後,葉の全体が褐変後,早期に落葉した。病斑部の分生子層には,無色,単胞,紡錘形で,大きさ11〜14×3.1〜4.2μm(平均13.4×3.8μm)の分生子が形成されていた。分生子は発芽時に褐色,厚膜,棍棒状,大きさ7.7〜11.5×5.1〜7.7μm(平均8.8×5.6μm)の付着器を形成した。また,分離菌を健全なハナミズキに接種した結果,自然発生と同様な病徴が再現された。これらの結果から,本病はColletotrichum acutatum Simmonds ex Simmondsによって引き起こされる病害であることが確認された。本菌によるハナミズキの病害はわが国では未報告であることから,本病をハナミズキ炭疽病と呼称することを提案した。