著者
小林 正秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.203, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

ナラ枯れは、江戸時代以前から日本で発生しており、過去の被害は周辺に拡がらなかったが、1980年代以降、全国的に拡大するようになった。京都府では、1990年代に被害が発生し、2011年以降は終息に向かったが、被害が再発している地域も多い。 ナラ枯れの発生原因についても、主因、誘因、素因に別けて考えるべきであろう。主因は、カシノナガキクイムシが媒介する糸状菌(Raffaelea quercivora)であることが証明された。誘因については、2005年の総説で、ブナ科樹木の大径化を指摘した。すなわち、燃料革命で化石燃料の利用が増え、薪炭林(里山よりも奥山に多い)が放置され、カシノナガキクイムシが繁殖しやすい大径木が増えたことを指摘した。この説が定説になってしまったが、総説では温暖化の影響も指摘した。しかし「温暖化を原因とする説が提唱されたこともあったが、60年以上前に冷涼な地域で発生しており、関連性を示すデータは得られていない」と反論され、科学的な検証を試みる人はなかった。そこで、演者は、温暖化がナラ枯れに与える影響について検証してきた。ここでは、温暖化がナラ枯れの要因であることを示す。
著者
作田 耕太郎 青木 哲平
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.370, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

根株移植は、土地開発や造成にともなって、通常は伐採・処分される樹木を断幹して残し、その根株を法面などの緑化対象地点に移植して萌芽による早期の緑化を期待する工法である。移植対象木が萌芽力に富む種に限られるといった制約があるものの、原植生を材料とし、また土木工事に使用する重機をそのまま活用できるという観点から、経済性や生物多様性など優れているとされる。しかしながら、移植後の根株の枯死や萌芽の発生状況については、施工後の管理や緑化の成否判定の上で重要と考えられるものの、ほとんど検証されていない。本研究では、九州大学伊都キャンパス内の根株移植地において、施工10年目の根株の生存状況や萌芽の発生状況について明らかにすることを目的とした。2009年に対象地に移植された根株148本のうち,10年目の2018年に生存していたのは86本であり、生存率は58.1%だった。常緑樹の生存率は61.8%だったのに対し落葉樹は52.5%とやや低い値を示した。以上の結果に加え、樹種ごとの萌芽発生状況などを解析し、根株移植に適する樹種や施工地の管理法などについて検討した。
著者
升屋 勇人 安藤 裕萌 小林 真生子 河内 文彦 岩澤 勝巳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.866, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

イチョウ(Gingko biloba)は中国原産の裸子植物イチョウ科イチョウ属の落葉高木で、古くから種子食用に栽培されている他、緑化木として公園や街路樹に多く植栽されている。最近、千葉県、愛知県で相次いで原因不明のイチョウの衰退、枯死が確認された。主な症状は、開葉後の葉先の褐変、萎れ、早期落葉により、最終的には枯死に至る。被害は複数本のまとまりで発生しており、隣接木へ被害が移行しているようにみえる事例も見られたことから、葉の感染症と土壌病害の両方の可能性が考えられた。そこで、葉、根圏双方での病原体の探索を行ったところ、葉からはGonatobotryumなどの寄生菌が検出されたが、木全体を枯死させるものとは考えられなかった。土壌釣菌実験を行ったところ、愛知県では1種類。千葉県では2種類のPhytophthora属菌が検出された。形態、およびDNA解析の結果、両県で共通して検出されたのはP. citrophthoraもしくはその近縁種と考えられた。P. cf citrophthoraを用いた土壌混和による接種試験で、イチョウの1年生実生は2か月で萎れ、枯死に至った。成木への影響を明らかにする必要はあるが、イチョウの枯死に本種が関与している可能性があると考えられた。
著者
樋口 亮 斎藤 秀之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.463, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

葉緑体ゲノムは葉緑体内に局在するオルガネラゲノムの一つで、遺伝子の発現調節を介して光合成の恒常性維持(ホメオスタシス)を司る。遺伝子の発現調節メカニズムの一つにDNAメチル化によるエピジェネティック制御がある。DNAメチル化は塩基配列の変異をともなわずDNA修飾のみで遺伝子発現調節の情報を記録する機能である。モデル生物では老化とDNAメチル化の関係が報告されている。葉緑体ゲノムにおいてもDNAメチル化の現象は植物で知られており、老化と光合成機能低下の関係にDNAメチル化の関与が予想される。しかし野外環境下に生育する樹木におけるDNAメチル化の実態や樹勢の衰退との関係について明らかでない。本報告は、 葉緑体ゲノムのDNAメチル化の実態解明のために、バイサルファイト法と次世代シーケンス解析を組み合わせたバイサルファイトシーケンス解析を行い、一塩基の解像度でシトシン塩基のDNAメチル化の遺伝子地図を作成して、DNAメチル化の影響を受けやすい遺伝子を明らかにした。続いて、ブナ健全木と老化による衰退木の葉の葉緑体ゲノムを対象にDNAメチル化と遺伝子発現の関係を比較して、衰退にともなう遺伝子発現のエピジェネティクス制御を検討した。
著者
大場 真 戸川 卓哉 中村 省吾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.315, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

中山間地におけるエネルギー目的のバイオマス利活用促進には、施業と燃料生産・配送、エネルギー生産と消費という流れの調整と共に、社会システムの課題解決として捉え直す必要があることを実例を踏まえ指摘する。かつての主要な産業が森林に関わるような地域では、人口減少や高齢化に起因する人的資源や地域経済の衰退という一律の課題を抱えている。歴史的文化的背景を踏まえつつ、豊かな森林とその恵みを受ける地域を創り出すためには、新しい潮流を取り入れる必要がある。国連の持続的開発目標(SDGs)は、様々な主体(官民)と様々な分野(経済、社会、環境など)に渡るマルチセクターでの目標の解決を促している。国内での類似した取り組みとしては林野庁の「地域内エコシステム」や環境省の「地域循環共生圏」等が挙げられる。本報告ではケーススタディ地域での取り組みを説明した後に、地域が必要とする社会システム(インフラ)として、主体的に再生可能エネルギーシステムを導入し、マルチセクターで取り組む体制づくりが必要であることを指摘する。また、森林やエネルギーだけでなく様々なセクターにおける事業を緩く結びつける方策について検討する。
著者
吉村 哲彦 中野 美穂 千原 敬也 鈴木 保志
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.189, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

日本の各地で放置竹林の拡大が課題となっており、その対策として竹の伐採・搬出を伴う竹林整備が行われている。竹の内部は空洞であるため、その重量は一般的な木材に比べて軽量であるが、生産性や安全性の観点から機械化が必要ではないと考えた。そこで、本研究ではチェーンソーのエンジンを動力とするカナダ製のチェーンソーウインチ(Lewis Winch 400 MK2)を用いて、竹の長材および短材の搬出作業を下げ荷で行った。比較のために、人力による搬出作業も行った。その際、生産性と労働負担を明らかにするために、搬出作業のビデオ撮影を行い、あわせて心拍計(Polar製OH1)を作業者に装着して心拍数を計測した。その結果、生産性の観点でも作業負担の観点でも短材による搬出が不利になることがわかった。生産性の観点では人力による搬出が有利となるが、人力による竹の搬出作業の労働負担は極めて高く、継続的な作業は好ましくないことも明らかになった。結論として、竹の搬出作業は短時間であれば人力でよいが、長時間継続する場合にはチェーンソーウインチのような機械を用いる必要があることが示された。
著者
上條 隆志 廣田 充 川上 和人 森 英章
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.800, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

西之島は、小笠原諸島父島の西約130kmに位置でする火山島である。1973~1974年に噴火し、2013年から2019年に至るまで断続的に噴火している。特に2013年以降の噴火では大きく面積を拡大した。このように現在の西之島は、そのほとんどが新たに成立した生態系であり、孤立した生態系が回復してゆくプロセスを観測するのに極めて適している。本研究では、このような西之島において、新島(一部に旧島部分が残存)における初期状態を記録し、今後のモニタリングの基礎を作ることを目的とした。現地調査は2019年9月に実施した。調査は、上陸できた西側と南西側の浜の2地域で行い、踏査による植物の確認と、10m×10mの方形区(5地点)の設置により行った。現地調査の結果、オヒシバ、スベリヒユ、イヌビエの3種の生育を確認した。なお、2008年時点では、これら3これら3種に加え、グンバイヒルガオ、ハマゴウ、ツルナの3種が生育していた。現在確認できる3種の分布は主に旧島部分であるが、オヒシバとスベリヒユについては、旧島部分の直下の海浜にも分布を広げていることが確認された。その一方で、2013年以降に堆積した溶岩上では、これら植物の生育は確認できなかった。