著者
北村 泰一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.778-785, 1992-10-05 (Released:2008-04-14)

極夜に輝くオーロラに伴って発生し地表に伝播すると考えられているPi2と呼ばれる磁気流体波動は, 従来横波だとばかり考えていた. 極地に関する限りそれは正しいが, 地球全体を考えるとそれでは納得できない事実がいくつもあった. そうした考えに疑いをもった筆者が, 研究室挙げて計測機器を開発し, 地球をとりまく赤道諸国にそれらを設置し, ついに疑問を解決したのが本稿の内容である. いうなれば, 高緯度から赤道まで地球規模で計測機器を設置し, 地球磁場の磁気圏波動に対するスペクトロスコピー作用を確かめた壮大な実験の話である.
著者
周藤 瞳美
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.313-314, 2022-05-05 (Released:2022-05-07)

ラ・トッカータ研究者が主役となる一般向け学術系Webメディア「academist Journal」の取り組み
著者
関口 仁子
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.12, pp.912-920, 2015-12-05 (Released:2017-10-05)
参考文献数
40
被引用文献数
1

2体力は2粒子の間に働く力であり,古典論,量子論問わず基本的な力である.また,それがわかれば2粒子(2体系)系の運動は完全に理解することができる.では多粒子系(多体系)の運動ははたしてその2体力の積み重ねだけで説明できるのであろうか?あるいは,3体力といった3粒子以上の系になって初めて効果が現れるような力が存在するのであろうか?近年,原子核物理学ではこの「3体力」の存在が注視されている.原子核の中では数多くの陽子と中性子(これらを核子と呼ぶ)が一辺が1兆分の1cm(1^<-14>m)程度の非常に狭い空間に閉じ込められている.その中で働く核力と呼ばれる力は,湯川秀樹の中間子交換理論に基づき,2つの核子の間に中間子という粒子を交換することで説明される"2体力"として考えられてきた.その一方,2体力の和で表せないような3体力(3体核力)の存在も長らく予想されてきた.一般に3体力は2体力に比べて小さく,実験的な検証は難しい.1990年代,この事情が変わってくることになる.豊富な核子-核子散乱データを精度よく記述する2体の核力が確立し,コンピュータの高速化を背景にその2体力を厳密に用い3核子系以上の原子核を記述するような第一原理計算が実現され始めた.原子核物理は模型を経ることなく核力から原子核・核物質を理解する道具を得たともいえる.その結果,原子核の構造や,中性子星に代表される核物質,また3核子系散乱において,2体力のみでは理論計算と実験・観測値との間に思いのほか大きな差が生じ,3体力を考慮することによって初めてその差が説明できるということが明らかになってきた.これより3体力は原子核の性質を理解する上で欠かせない力である,という新たな視点が生まれることとなった.3核子系散乱である核子-重陽子散乱は3体力の状態依存性(運動量,スピン,荷電スピン)を明らかにする上で有効なプローブである.この系における3体力の最初の明らかな証拠は,高精度実験と3核子系を厳密に記述するファデーエフ理論計算との比較から,核子あたりの入射エネルギーが100MeV付近の散乱微分断面積に見つかった.これをきっかけに,核子-重陽子散乱の高精度測定が理化学研究所のRIBF,大阪大学RCNPのリングサイクロトロン施設をはじめ世界中の実験施設で精力的に実施され,理論との直接比較による3体力効果の定量的な議論が始まった.その結果,現在理論計算で考慮されている3体力(藤田・宮沢型が主要成分)の大きさは基本的には正しいものの,スピン観測量の実験結果から3体力のスピン依存部の記述が不十分であること,また,比較的高いエネルギーにおける後方角度散乱の実験値から,核子の運動量移行が大きい領域で更に新たに短距離型の3体力を考慮する必要がある,などの指摘がされるようになった.核力によって原子核,核物質を統一的に理解しようという研究が進みつつある中,核子-重陽子弾性散乱から得られた結果は,今後,3体力をも含めた核力の解明により精度を高めた議論が必要であることを強く示唆している.
著者
槌田 敦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.976-980, 1985-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
10
著者
坂井 典佑
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.376-381, 1982-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
7

超対称性(supersymmetry)はボース粒子とフェルミ粒子とを結ぶ対称性である. この入門的概説を行う. またその魅力ある理論的動機のひとつとして, gauge hierarchy問題解決の可能性について紹介する. 素粒子の大統一理論では極端に大きさの異なる質量スケールが共存していなければならない(gauge hierarchy). これに対称性から自然な説明を与える試みのひとつとして超対称性は最近再び注目されている. 現在までの実験では未だ超対称性を支持する証拠は見つかっていない. しかしもしもgauge hierarchyを超対称性で解決する考えが正しければ, 次世代の加速器で種々の新現象が見つかるかも知れない.
著者
金子 邦彦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.508-518, 2000-07-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
39
被引用文献数
1

生命システムを内部のダイナミクスと相互作用が拮抗する増殖系の示す普遍的現象として捉え,発生過程,進化を議論する.理想化した細胞系として,内部での化学反応,細胞間相互作用,そして分裂からなる力学系を考える.その系の普遍的な性質として,多様な細胞のもととなる「幹細胞」から決まったタイプしか作れない細胞へと至る細胞分化過程が現れる.この結果を踏まえ,発生過程の安定性と不可逆性を熱力学と対比して議論する.ついで,この力学系的分化の考えを進化に適用し,相互作用による表現型の分化が遺伝型へ固定されるという,種分化の考えを提示する.最後に,このような複雑系生命科学の立場での細胞生物学の実験について触れる.
著者
興地 斐男 川上 則雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.38, no.9, pp.716-725, 1983-09-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
47

希薄合金における抵抗極小の現象を解明するために近藤により s-d ハミルトニアンを用いて電気抵抗の計算がなされ, その表式に log T (T は温度) に比例する異常項の存在が指摘されてから, 金属中に微量の磁気的不純物を含む合金系の研究は局所的電子相関の重要性の認識のもとにますます盛んになった. さらに最近ベーテ仮説の方法を用いて s-d ハミルトニアンおよびそれをより一般化したアンダーソンハミルトニアンの厳密解が得られることがわかり, くり込み群の方法と相まって種々の物理量が厳密に計算できる様になった. ここではアンダーソンハミルトニアンのベーテ仮説による取り扱いを中心にこれらの研究の現状について述べてみたい.
著者
斯波 弘行
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.95-101, 2005-02-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
50

近藤効果と超伝導は,共に,金属が低温で示す現象である.磁性不純物の電子と金属の伝導電子とがスピン一重項を形成して,低温において磁性不純物のスピンが消失するのが近藤効果である.一方,超伝導状態では伝導電子同士がクーパー対(それは,多くの場合,スピン一重項である)を形成し,それがボーズ凝縮している.したがって,超伝導体と相互作用している磁気モーメントは互いに競合的に影響し合う.この競合関係は近藤温度TKと超伝導転移温度Tcという両者の特徴的温度の大小関係により整理できる.この解説では(1)超伝導体中の磁性不純物の電子状態,(2)量子ドットを介して接する二つの超伝導体間のジョセフソン効果への近藤効果の影響,の二つの問題を取り上げ,近藤効果と超伝導の関係を概観する.
著者
本田 洋介 浦川 順治 阪井 寛志 笹尾 登
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.19-25, 2004

超低エミッタンス電子ビームの生成は,第三世代放射光装置,X線領域自由電子レーザー,TeV領域線形衝突型加速器等の実現にとって必要不可欠の技術である.このためにはエミッタンス自身を信頼度高く測定できる「目」(モニター)が本質的である.本稿においては,新しく開発したレーザーワイヤーモニターの原理とその特徴,それを用いたエミッタンス測定,及び今後の展望について紹介する.