著者
池田 和子 明田 佳奈 向井 宏
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.700, 2004

ジュゴン (<i>Dugong</i> <i>dugon</i>)は沖縄本島周辺にもわずかに生息し,沿岸浅海域に生育する海草を摂餌している.本研究は,ジュゴンが利用した海草藻場の1つにおいて,摂餌痕(ジュゴントレンチ)を基にジュゴンの摂餌率を調査し,また同海域で海草の生長量を測定することで海草の回転率を把握することを目的とした.<br> 2003年9月に,沖縄県名護市の東海岸の海草藻場において,10cm×10cmの方形枠をジュゴントレンチ内・外のペアで14ペア設置・坪刈採取し,海草種毎の現存量を測定した.また,海草種毎(10株)の葉部の生長量を夏季,冬季で測定した.<br> 調査地の海草藻場は6種の海草が混生しており,調査地点ではボウバアマモが優占し,海草現存量は0.713-1.302gdw/100cm<sup>2</sup>(1.01gdw±0.25/100cm<sup>2</sup>)であった.<br> ジュゴントレンチの平均長は110-230cm(平均172cm±49),平均幅は15-25cm(平均20cm±3)であった.トレンチ内外の海草現存量比較から求めたジュゴンによる海草葉部の摂餌率は33.7-87.7%であり,平均71.5±22.1%であった.また,トレンチ毎の葉部の摂餌量は0.153-0.678gdw/100cm2であった.<br> 海草の生長量については,夏季ではボウバアマモが5.0±2.3 mm、マツバウミジグサが6.5±3.0 mm,ベニアマモが10.6±3.9 mm,リュウキュウスガモが11.6±3.3 mm,リュウキュウアマモが6.8±3.5mmであった.冬季は夏季の成長に比べて,ボウバアマモが53.9%(2.7±1.3mm),マツバウミジグサが56.0%(3.7±1.2mm),リュウキュウスガモが42.5%(4.9±1.6mm),リュウキュウアマモが73.8%(5.0±1.5mm)であった.<br> 伸長から求めた海草の種毎の回転率は夏,冬それぞれ,マツバウミジグサで14.8日,29.5日,リュウキュウスガモで16.5日,40.4日,ボウバアマモで23日,45.7日,リュウキュウアマモで29.6日,40.6日で,マツバウミジグサの回転率が夏期・冬期とも一番高かった.
著者
太田 彩子 森長 真一 熊野 有子 山岡 亮平 酒井 聡樹
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.234, 2004

これまでの研究では、集団間では送粉者が異なることによって、花の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因でも変化しうるのではないだろうか。<br>1. 個体サイズ:個体サイズによって繁殖形質(花冠の大きさ等)が変化することがあるため。<br>2. 花齢:訪花要求量が変化するため。<br>3. 昼夜:送粉者が変化することがあるため。<br>そこで本研究では、花の香りが個体サイズ・時間(花齢・昼夜)に依存して変化するのかどうかを調査した。今回は、香りの強さに特に着目して解析を行った。<br>・ 実験方法<br>ヤマユリ(ユリ科・花寿命約7日)を用いて以下の調査を行った。<br>1. 香りの個体サイズ依存変化<br>2. 香りの時間依存変化<br>3. 送粉者の昼夜変化<br>4. 繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行い、種子成熟率・花粉放出率を比較)<br>・結果<br>1. 個体サイズが大きいものほど花の香りは強くなる傾向にあった。<br>2. 昼に比べ夜の方が香りは強くなるが、花齢が進むにつれて香りは弱くなる傾向にあった。<br>3. 昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。<br>4. 種子成熟率・花粉放出率共に、昼夜での違いはなかった。<br> 今後はGC-MSを用いた香りの成分分析を行う予定である。これらの結果を統合することにより、個体サイズ・時間に依存した花の香りの適応戦略を明らかにしていきたい。
著者
小野寺 佑紀 小林 繁男 竹田 晋也
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.632, 2005

森林の分断化とそれに伴う消失は、人間活動の広がりとともに世界中で見られる現象である。しかし、一部の森林は住民が保全することで森林パッチとして残存している。タイ東北部の代表的な景観は、水田と森林パッチである。これらの森林パッチは、先祖の魂を奉るための「守護霊の森(don puta)」、火葬・埋葬に用いられる「埋葬林(pa cha)」、そして林産物および薪炭材採取のための公共林に分類されると言われてきた。利用形態は変容しながらも、現在でも住民の生活に森林パッチは欠かすことができない。ところが、これまで森林パッチの構造と種構成に関する調査は行われてこなかった。そこで、森林パッチの植生に及ぼす人為・環境要因を明らかにするために、ヤソトン県南部のK郡に分布する35の森林パッチを対象に、植生調査および村人への聞き取り調査をおこなった。植生調査では、パッチの面積に応じて3から10のコドラート(10m×10m)を合計206個設置した。その結果、K郡では172種の木本を記録した。 35の森林パッチは、既存の分類(e.g. Prachaiyo 2000)のように明確に分けられるものばかりではなく、その利用形態は複合的なものが多かった。今回確認された埋葬林は7つであったが、そのうち6つではすでに埋葬は行われていなかった。なかでも放棄された埋葬林は、利用頻度が高い森林パッチと比較して、個体数密度および種数が大きい値を示す傾向があった。一方で、「守護霊の森」は、個体数密度が小さく、大径木が多く出現する傾向があった。以上より、異なる住民利用は森林パッチの構造に異なる影響を与えていることが明らかとなった。さらに、住民利用が森林パッチの種数および種構成に与える影響および環境要因として河川の氾濫を取り上げ、それが森林パッチの植生に及ぼす影響についても検討する。
著者
鈴木 卓磨 川合 里佳 足立 有右 足立 佳奈子 山下 雅幸 澤田 均
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.566, 2004

近年、日本各地で外来種の侵入問題が顕在化してきた。我々は外来種の侵入が確認された河原の植生構造を把握し、急流な東海型河川の河原植生に関するデータベースの作成を目的として、一昨年度より静岡県内の主要河川において植生調査を行っている。特に、侵入種として問題視されているシナダレスズメガヤ<i>Eragrostis curvula</i>の優占地に注目し、本種の分布拡大が県内の河原植生にどのような影響を及ぼしているのかを検討している。<br> 河原の植生調査は、静岡県西部の天竜川、中部の安倍川、東部の富士川の3河川の下流域で2002年から2003年の春と秋に行った。また、安倍川と富士川については中流域にも調査地を設けた。調査方法は河流に対して垂直にコドラート(1×1m)を並べるライントランセクト法を用い,コドラート内の種数、個体数及び植被度を調査した。<br> 調査の結果、3河川とも1年生草本が最も多く、次いで多年草が多かった。今回の調査地では、外来種が出現種数の過半数を占めるコドラートが多く、帰化率は天竜川の調査地で10%、安倍川と富士川ではともに30%以上で、外来種の侵入程度が極めて高いことが明らかとなった。 特にシナダレスズメガヤについては、河岸近くで大きな集団を形成しているところが中・下流域で広く確認された。各河川の生育地において本種の形態を測定したところ、平均で草丈138cm、株周り55cmと大型化した個体が多く、河原植生に及ぼす影響が大きいものと推察された。<br> 今後、河川植生の保全活動のためにも、生育している個々の種を継続して詳細に調査していくことが必要である。特に帰化率の高かった河原では外来種の優占化,それに伴う種多様性の低下が懸念されるため、在来種と外来種双方からの研究アプローチが不可欠であろう。<br>
著者
石井 弘明 角谷 友子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.152, 2004

アメリカ北西部の老齢ダグラスファー-ツガ林において、樹冠内の枯死枝現存量とその分解過程を明らかにするために、ダグラスファーの樹冠内に単ロープ法で登り、調査を行った。個体あたりの枯死枝現存量は個体サイズ(胸高直径および樹高)と高い相関が見られ、生枝現存量の増加に伴い枯死量は指数的に増加した。このことから、個体成長に伴い枯死枝が樹冠内に蓄積していくことが示唆された。森林全体の樹上の枯死枝現存量は5.19-12.33 Mg/ha、地上は1.80-2.05 Mg/haで樹上が地上の約5倍であった。<br><br> 樹冠内の枯死枝と地上に落下した枯死枝では、水分や微生物などの条件が異なるので、分解の過程も異なると考えられる。樹冠内及び地上の枯死枝を腐朽の進行具合によって5段階に分け、各段階におけるC、N、リグニン含有量を分析した。樹上と地上の間でCN比に明瞭な違いが見られなかったことから、地上で採取された枯死枝は樹上で枯死し、時間が経ってから落下したことが示唆された。一方、倒木に由来し地上で分解が進んだと考えられる枯死枝ではCN比が低かったことから、地上で分解が進むと菌や微生物などの分解作用により、CN比が減少すると考えられる。よって、樹上での分解には生物的作用があまり働かないことが示唆された。樹上では各腐朽度の間でリグニン含有率に明瞭な違いが見られなかったが、地上では腐朽の初期に増加する傾向があり、腐朽が進むと減少した。リグニンの分解においても、樹上では生物的作用があまり働かないことが示唆された。<br>
著者
高倉 耕一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.697, 2005

外来生物などにおいて、ある種では新規生息地への進入直後に爆発的に分布域を拡大し、他の種では分布域の拡大が比較的緩やかであるという現象はしばしば観察されている。しかし、その違いがどのような要因に差によるものなのか必ずしも明らかでなかった。本研究では近年日本に侵入し広範囲に分布するにいたったハブタエモノアラガイ <i>Lymnaea columella</i> と数種の近縁種を材料として、大阪とその近郊における分布の現状を明らかにし、その分布域拡大の要因について調べた。その結果、大阪および京都南部の平野では大部分の潜在的生息地に外来種ハブタエが生息していた。室内実験から、ハブタエは在来種のモノアラガイ <i>L. auricularia japonica</i>とともに飼育した場合に死亡率が高く、産卵数も少なかった。また、2種間には配偶攪乱は検出されなかった。一方で、ハブタエは同種個体間でも求愛および行動が観察されず、自己交配による近交弱勢もほとんどなかった。これらの結果をふまえ、大きな空間スケールでのメタ個体群の挙動を予測するシミュレーションモデルを構築し解析を行った結果、分断化された小パッチからなる生息域においては、ハブタエのように近交弱勢が存在しない場合には速やかに分布域を拡大したが、他種のように近交弱勢が存在する場合にはその速度はゆるやかであった。以上から、大阪・京都南部におけるハブタエの蔓延は、生息地の分断化と近交弱勢の低下が主要な要因となってもたらされた現象であると推測された。