著者
星野 伸明
出版者
日本統計学会 = Japan Statistical Society
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.23-45, 2010-09-01
参考文献数
72
被引用文献数
1

公的統計のミクロデータ利用を促進する上で大きな課題を二点挙げると,一点目は利用目的制限の緩和,二点目は利用可能な統計調査の拡大である.本稿ではこれらの課題の解決策を検討する.前者については,一般目的汎用ファイルの提供が望ましい.これを実現するには,絶対的な匿名性を持ち有用なデータの作成を目標とするべきである.後者については,事業所・企業調査など匿名化が難しいデータも提供するのが望ましい.匿名化が困難な場合について先進的事例を調査したところ,原データの統計的性質を一部保存するデータの作成が目標となっている.そのようなデータを確率的に生成するのが模造(synthesis)という概念であり,一般目的汎用ファイルの作成でも有用である.従って本稿では,模造手法も整理して紹介する.
著者
吉村,功
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, 2007-09

健康科学と統計科学は歴史的に相互の発展に寄与してきた.近年はその様相が多少変化してきて,健康科学から統計科学に提供される研究課題が以前より多種多様多量になっている.治療と薬剤開発のための臨床試験では非定型的な試験計画法,遺伝子解析では超多変量小標本での感受性遺伝子の検出法,創薬ではインシリコ試験の活用法,等々が求められている.計算機技術とマイクロテクノロジー等のハードウエア的新技術の開発が進み,新しい型のデータが提供され,生命への新しい切り口が必要になってきたからであろう.これらの要求に応えることで,統計科学は,従来からの数理モデル至上主義的ではない,たとえばFDRを指標としたSAM等の新しいデータ解析法を創り出し,内容を深めている.現時点ではこの統計科学の進展が健康科学に寄与をしているが,その趨勢を今後につなげるには,かつて統計科学が遺伝学に多くの問題を提起したように,健康科学に新しい課題を提起することが必要であろう.
著者
伊藤 孝一
出版者
日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.231-249, 2007
参考文献数
56
被引用文献数
2

統計理論と方法は日常生活,政府諸機関,各種産業のみならず,人文,社会,自然,の諸科学において用いられている.したがって,統計学の理論と方法の教育は初等・中等・高等教育や社会人の生涯教育において極めて重要である.この論文は,わが国及び海外諸国における今日までの統計学の理論と方法の発展ならびに統計教育の研究と実践の状況を概観し,21世紀への展望を試みることを目的としている.1945年以降,わが国の統計学研究者たちの理論と方法の発展への貢献は多大であることは事実であるが,統計教育の実態を顧みるとき,世界における先進国,発展途上国と比較して,極めて劣っていることを認めなければならない.この論文において,わが国の学校教育・社会人教育における統計教育改善のための若干の提言を行うことにする.