著者
谷口 森俊
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.155-160, 1958-09-25

1. 志摩半島南部の植物群落について調査した結果次ぎの諸群落を認めた。スダシイ-タイミンタチバナ群落,タブ-ホソバカナワラビ群落,ウバメガシ群落,クロマツ-トベラ群落,クロマツ-コシダ群落,コナラ-アズマネザサ群落,キノクニシオギク群落,ハマゴウ群落,その他。2. 極相林スダシイ-タイミンタチバナ群落は組成的に紀州南端 四國宇佐,九州大隅で認められたスダシイ林と類似であり,當地域がそれらの地方と密接な関係にあることが明らかとなった。3. 二次林としてはクロマツ-コシダ群落がもっとも顕著である。又クロマツ-トベラ群落についてはこれを2型に分けてその分布状態を記した。4. キノクニシオギク群落は當地域植群にローカル的な特色をそえている。本研究の概要は日本植物學會中部支部第5回大會(1957年5月)にて發表した。
著者
高橋 弘
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.p141-150, 1993-12

下垂する花を持つキイジョウロウホトトギスとスルガジョウロウホトトギスの花部生態学的研究を, 直立する花を持つ他のホトトギス属植物のそれと比較しつつ行った。これらの花は同調的に開花せず, キイジョウロウホトトギスは約5日間, スルガジョウロウホトトギスは約4日間咲いている。両種とも雄性先熟で, 葯は花被が開く前に裂開している。開花の後半に, 柱頭が成熟して雌性期となる。ポリネーターはトラマルハナバチだけで, 下方の花被片の内面に止まって, そのまま這い上がり, 外花被片の基部にある短距に分泌される花蜜な吸う。その際, 雄性期の花では葯のみに, 雌性期の花では柱頭と葯に背面が触れる。トラマルハナバチは, 通常, そのままの姿勢で頭部のみを動かして3つの蜜腺から吸蜜してから後ずさりをして出て来るので, 上方にある葯や柱頭には触れない。従って, 雌性期になっても上方の葯に大量の花粉が残っていることが多い。しかし, これらの種では, 直立する花のように花柱枝の二叉部が雌性期に葯に接近することはないので, 自動的同花受粉は起きない。これらの花では上方にある葯の大量の花粉が無駄になるが, これは花粉/胚珠の比率が高いことと, 花粉がほとんど盗まれないことにより, その影響が少ないように思える。また, 花は長命のため, 長い受粉可能期間がある。少なくともキイジョウロウホトトギスは4日間, スルガジョウロウホトトキスは3日間一様に花蜜を出すように見える。これは他花受粉型のキバナノホトトギス等が2日間しか咲いていないのと, 対照的である。Primack(1985)のモデルは, ポリネーターの訪花率が低く新しい花を作る相対コストが高いときに, 長命の花が生ずることを予測している。ジョウロウホトトギス節の植物はトラマルハナバチの訪花頻度が比較的低く, また大きな花を着けるので, この予測に合致する。花柱枝が二裂するというホトトギス属植物の特質は, 直立型の花では, 雌性期に外輪雄蕊の葯を跨いで柱頭が下方に来るという形態により, 大型ハナバチ受粉に適応しているように見える。下垂型の花ではそれと同様な意義を見い出せないが, 上方にある柱頭がほとんど受粉しないので, 柱頭面積を広く確保するという意味があるのかも知れない。直立型の花は丁字着の葯が外向裂開して, 大型のハナバチが乱暴に動いても葯はほとんど痛めつけられずに, ハチの背面に裂開面をうまく当てることができる。下垂型の花ではハチはほとんど下方の葯にしか触れないので, もし外向裂開であればその直下を通過したときにだけ効率よく花粉を受け取られるであろうが, 側裂開で葯の向きを自由に変えられる丁字着のため, 側方の葯からも花粉を拭き取られるようである。直立型の花では, 蜜腺が内花被片基部の左右の張り出しにより覆い隠されているが, ジョウロウホトトギス節の花では隠されていない。これは盗蜜者がいないこと, 下垂するため雨水が入る恐れがないことなどと関係があると思われる。以上のような花部生態学的特性から見ると, ホトトギス属では, 下垂する花は直立する型から由来したと考えるのが自然のように思える。
著者
汪 光煕 三浦 励一 草薙 得一
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.55-65, 1995-07-28
被引用文献数
4

ミズアオイは東アジアに分布する抽水性の一年草であり, 水田, 水路, 多湿地などに多い。本研究では中国の黒龍江省, 吉林省, 遼寧省と日本の福井県三方郡の自然集団および京都大学付属農場の人工集団で, 水田雑草ミズアオイの花の形態と送粉様式について検討した。ミズアオイの花には雄蕊が6個ある。5個は小さくて葯は黄色, 1個は大きくて葯は花被片と同じ青紫色である。両方とも稔性のある花粉をつくる。その花には鏡像二型性が見られる。即ち, 花から見て大雄蕊が右側, 柱頭は左側に位置するもの(L型)と, 反対に大雄蕊が左側, 柱頭は右側に位置するもの(R型)がある。L型の花とR型の花は花序の各分枝上に交互に付く。主要な訪花昆虫は二ホンミツバチ, クマバチおよびマルハナバチ類であった。これらのハチが訪花した場合, 大雄蕊と柱頭は昆虫の体の左右対称の位置に接触する。従って, 異花受粉は異型花の間で起こりやすく, 同型花の間では起こりにくいことが予想される。また, 大雄蕊が青紫色をしているのは他殖用の花粉を昆虫に食料として持ち去られないための適応であると考えられる。黄色い小雄蕊は昆虫を引きつける目印であり, また, ミズアオイの花には蜜腺がないので, 小雄蕊の花粉は昆虫への報酬でもある。さらに, 昆虫が訪れない場合でも, 柱頭の上方に位置する小雄蕊によって自花受粉で種子をつくることができる。ミズアオイ集団内の虫媒による異花受粉は隣花受粉(同株同花序異花受粉, 同株異花序受粉)と他家受粉(同集団異株受粉)との様式がある。同一個体上に同時に異なる型の花が咲いた場合は隣花受粉が起こり得るので, ミズアオイの花の鏡像二型性は自殖回避の機構としては不完全である。しかし, 一個体に同時に咲く花の数が多くない場合には有効に他殖を促進する可能性がある。
著者
福岡 誠行
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.114-120, 1981-06-15

HOOKER (Genera Plantarum, 1873)は花序が頭状で,花冠は筒状漏斗形,子房は2室,花柱は長くつき出て分裂しなく,集合果になるなどの特徴をもったものをまとめてカギカズラ連とした。その後この連はよくまとまった自然群とみなされ,AIRY SHAW (A dictionary of flowering plants and ferns 8版,1973)は植物体の形状や栄養器官の形質がシクンシ科Combretaceae(特に Combretum)に似ているとして独立した科Naucleaceaeとした。アカネ科とシクンシ科との類縁はすでに指摘されていることであるが,生殖器官からカギカズラ連がアカネ科に属すことに疑問はないし,形状や栄養器官からも何んら矛盾はない。RIDSDALは各子房室に頂生する1個の胚珠をつけ種子に種衣が発達するCephalanthusを独立した連とした。また胎座型,胚珠の形態,果実の裂開のし方,花冠裂片の閉じ方などからカギカズラ属とMitragynaをキナノキ連へ移した。Anthocephalusは偽隔壁があり,子房室の上部1/3は4室,それ以下は2室で,各4室は厚膜組織で囲まれていることなどから亜連として分けた。またタニワタリノキ属などは胎座が小型化し,子房室上部で隔壁につくことなどからタニワタリノキ亜連とされた。胎座型からはここで観察した3属は連として分類しても良いほどの違いがある。しかし扱った属がきわめて限られているためRIDSDALの分類系について充分の評価をすることはできないが,この観察の結果からは妥当な見解といえる。最後にRIDSDALの新しい分類系を紹介しておく。この中でタニワタリノキとヘツカニガキは別属とされている。Cephalantheae Cephalanthus Cinchoneae キナノキ連 Mitragyninae カギカズラ亜連 Mitragyna, Uncaria カギカズラ属. Naucleeae タニワタリノキ連 Adininae タニワタリノキ亜連 Adina タニワタリノキ属,Sinoadina ヘツカニガキ属,他14属. Naucleinae Nauclea, Sarcocephalus,他2属. Anthocephalinae Anthocephalus.
著者
山崎 敬
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.147-148, 1954-10-20
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.129-134, 1954-10-20

Polygonum deflexipolosum 丈の高いタデの新種ヒマラヤにはタデ屬は頗る多い。Clematis alternata センニンソウの新種。葉が對生するのがこの屬の通性であるがこれは葉が互生する.Deophiium nepalense ヒエンソウの新種.ヒマラヤには美しいヒエンソウ屬が多い.これは非常に小さい種.Potentilla eriocarpa var. major キジムシロ屬の大變大きなもの,莖が地をはって蛇のようである.Prunus himalaica 赤い花のサクラの新種.P. imanishii 黄色の花咲くサクラで,種名は今西錦司氏を記念せるもの.Sibbaldia minutissima 非常に小さいタテヤマキンバイの新種.Caragana nepalensis ムレスズメの新種.ヒマラヤの北側の乾燥地帯に出る.Utricularia nepalensis タヌキモの新種.苞が莖に盾状につく.Lonicera minutifolia 葉や花の小さいヒョウタンボクの新種.Nardostachys gracilis 有名な薬用植物N. jatamanshiiに近い小さいもの.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, 1962-05-30
著者
米澤 信道
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.7-11, 1989-07-30

筆者は,1980年8月,山梨県の北岳にて,明らかに未記載とみなされるリンドウ属の植物を発見した。その後,1985年9月,最初の発見地とは別地点で,群生する本植物を再発見し,豊富な標本資料を得ることが出来た。併せて筆者は,1985年4月~1986年3月の間,京都大学理学部植物学教室研修員として,河野昭一教授の指導の下で,日本産リンドウ属リンドウ節について,別稿の共同研究を行った。その結果,最終的に,この北岳産リンドウ属植物を新種と認識するに至った。日本産リンドウ属リンドウ節(Sect. Pneumonanthe)には,リンドウ,アサマリンドウ,エゾリンドウ,オヤマリンドウの4種が知られているが,キタダケリンドウは,花冠副片の傾きが急で1-2のやや目立つ三角形の小片があり,葉の裏面が淡緑色で縁が多少細波状となるなどの点で,エゾリンドウやオヤマリンドウよりリンドウ・アサマリンドウにより近縁であると思われる。しかし,リンドウとは,萼裂片が葉状で広皮針形,二大三小となり,花期に直立すること,根茎が肥厚し,前年以前の茎の痕跡が密にありくびれないなどの点で異なり,アサマリンドウとは,前記の形質の外に,葉柄がなく,葉縁に小突起があるなどの点で異なっている。キタダケリンドウの生育地は,北岳の亜高山帯上部のダケカンバがまばらに生える草原で(稀に砂礫が露出したところ),付近には,オガラバナ,ムシカリなどの低木,草本ではトリアシシュウマ,ホタルサイコ,オオバセンキュウ,ミヤマセンキュウ,オオカサモチ,ミヤマカラマツ,ミヤマタニタデ,グンナイフウロ,ハクサンフウロ,センジュガンピ,レイジンソウ,ミヤマハナシノブ,ヤマホタルブクロ,ソバナ,キタダケオドリコソウ,クガイソウ,トモエシオガマ,オヤマボクチ,ヤマハハコ,トネアザミ,タカネヒゴタイ,ミヤマアキノキリンソウなどが生育する。
著者
KOIDZUMI G
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, 1941-03-30
著者
米田 勇一
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, 1941-03-30
著者
大井 次三郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.51-57, 1936-01-30

216) ヤマスズメノテツポウ 朝鮮咸鏡北道の山地に限つて生育する一種で苞頴背面の毛茸が極短かく最長いものでもその巾の三分一に達せぬので區別が出來る. 217) ラシヤキビ ビロードキビの變種で穎の毛茸が無くなつて平滑に成つたもの,標準種と混生するらしく琉球諸島中の石垣島の産. 218) オホウシノケグサの變種 ヤマオホウシノケグサは本州,の中部地方に生ずる高山型の一種である,アライトサウは變種と思はれるので學名の改變を行ふ此れは千島列島至る所に分布するシラゲオホウシノケグサはアライドサウに似た臺灣の高山性の變種で人によつては種と認められる事もあるであらう,葯の短かいのが決定的な相異點である,同島の南湖大山の産,ニヒタカオホウシノケグサも同島の高山に生ずる一型であるが此れは歐洲産の標準型に近いが葉鞘の模樣,葯の長さを異にする. 219) チイサンタガネサウ 南鮮智異山の産タガネサウに似て全形が小形繊細,葉巾が狹く,色が淡く葉裏は特に白色に近いのが特徴である. 220) ウスイロサツマスゲ 同じく智異山の産サツマスゲに酷似して居て果嚢が踈につき毛が短かく,鱗片の色が淡い種類,初島氏のリストのサツマスゲは此れである. 221) Cares trigonosperma 支那四川省の産,本邦のホンモンジスゲの系統であるが痩果が三角形で殆ど脈がない種類で唐進氏がホンモンジスゲの變種にあてゝ居られるものである. 222) オニヤブラン 沖縄島産の大形のヤブランで葉は厚く巾廣くて長く,花は淡紫色で大形,その小梗が長く,花莖並に花軸は鈍稜がある獨立した良い種類と思はれる,以前から京大の標本室に果實の時期の標本が一枚あつて疑問にして居たが此度同島の多和田眞淳氏から良い標本を頂いたのでそれを Type として記載した,學名は採集者である同氏にちなんだものである. 223) ヒロハノクワラン リウキウエビネに似た種類で南九州の鹿兒島縣の南半,屋久島,種子島,甑島等に稀産する,葉の巾は廣くて基脚は殆んど円形をなし,花は純白,脣辨の基部にある附屬物も形ちが違い距も短かく別種と認めて記載する,屋久島から記載された Calan the Fauriei SCHLTR. は記載だけでは兩者の何れとも判斷し得ないが FAURE 採集の Duplicate type によればそれはリウキウエビネの事である. 224) タガネラン 葉がタガネサウウに一寸似たものであるから左様新名を付けた,エビネの一種ではあるが特殊なもので臺灣には類似のものがあるが内地ではまだ知られて居らない,花はヤマサギサウ位の大きさで數多く長い花莖につき乾燥すると黒變する,苞は長く宿存しどう見てもエビネの類とは思へない程である,九州,豊後國,青井町で小野學氏の採集された稀品で同氏によれば花色は黄緑色である.