著者
荻沼 一男 ギレルモ イバラーマンリケス 戸部 博
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.135-137, 1992-12-30
被引用文献数
14

最近コスタ・リカとメキシコからの新属として発表された Tuxtla の唯一の種 T.pittieri(Greeman in W.W.Jones)Villasenor and Strotherについて, 染色体数と核型が初めて明かにされた。 染色体数は2n=34(x=17)で, 間期核は"diffuse-complex type"であった。34本の染色体のうち, 30本は中部に, 2本は次中部に, 残り2本は次端部から端部に動原体を持つ。染色体基本数(x=17)が一致することから, TuxtlaがVerbesinaと近縁であることが示唆された。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-19, 1968-08-31

東南アジアおよびヒマラヤのキク科植物の研究のうち,日本に関係の深い植物について,摘要する.ヤマノコギリソウ Achillea alpina L. var. discoidea (PEGEL) KITAMURA が北ベトナム,チヤパに産することがわかった.従来印度支那植物誌ではセイヨウノコギリソウ A. Millefolium L. にあてられていたが,セイヨウノコギリソウは葉が3回羽裂し,葉が2回羽裂するヤマノコギリソウとちがう.セイヨウノコギリソウは,ヨ-ロッパからシベリアに広く分布するが,ヒマラヤでは西からクマオンまであるがネパ-ル以東と東南アジアには野生していない.ヒマラヤのセイヨウノコギリソウは葉に綿毛が多く,日本で時に野生化しているセイヨウノコギリソウとは少し異なる.セイヨウノコギリソウは変異が多いので,綿毛の多いものも同一種に含むべきものと思う.北ベトナムのチヤパは高地で,ヤマノコギリソウのほかにヤマニガナ,ムラサキニガナも日本と同じものがあり,この高地は日華区系の中に含まれるのであろう.然し北ベトナムの低い所は勿論東南アジア区系である.これらは,早田文蔵博士が1917年に当時の仏印で採集された資料にもとずく.ヤマノコギリソウの学名は従来 Achillea sibirica var. discoidea REGEL であったが,ソ聯の APHANASEV (1961) によると,それより古い A. alpina L. (1753) があるので,A. sibirica LEDEB. (1811) は用いられないという.私は A. alpina L. の type は見ていないが,IDC の micro-edition の type 写真で見るとノコギリソウである.Type locality は Siberia であるし,原記載も短いがノコギリソウに一致するので,ノコギリソウの学名に,A. alpina L. を用いるのが正しいと思う.それにもとづいて,ヤマノコギリソウの学名を変更し,また,シュムシュノコギリソウ A. alpina subsp. camtschatica (HEIMERL) KITAMURA,アソノコギリソウ A. alpina subsp. subcartilaginea (HEIMERL) KITAMURA,ホロマンノコギリソウ A. alpina subsp. japonica (HEIMERL) KITAMURA,アカバナノコギリソウ A. alpina subsp. pulchra (KOIDZUMI) KITAMURA その他の学名を更新した.
著者
山中 三男
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, 1993-08-30
著者
永益 英敏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.169-170, 1992-12-30
著者
横川 水城 堀田 満
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.165-183, 1995-01-28
被引用文献数
6

1.霧島山系におけるミヤマキリシマ, キリシマツツジ, ヤマツツジの形質変異と訪花昆虫相について調査を行った。2.諸形質の解析と生育地域の空間構造からキリシマツツジ集団はミヤマキリシマ集団やヤマツツジ集団からは, 区別する事が出来る。3.ヤマツツジ(南九州型)は標高800mまでの低地の林縁沿いに生育し, ミヤマキリシマは火山性山岳の標高1000m以上の比較的開けた斜面に生育する。一方, キリシマツツジはヤマツツジとミヤマキリシマの中間ゾーンに分布し, 形態的にはややヤマツツジに近いながらも花色に著しい変異をもつ自然雑種起源と推定される集団である。4.キリシマツツジ集団の成立にはミヤマキリシマとヤマツツジの交配親和性の高さが原因となっていると推定される。5.ヤマツツジ集団とミヤマキリシマ集団の訪花昆虫相は, 送粉者として適合的な種では, 互いに異なっており, 自然状態では両種間の生殖隔離は一応保たれている。6.一方, キリシマツツジを含む2集団間, あるいは3集団間に共通する訪花昆虫も存在し, これらによってヤマツツジ集団とミヤマキリシマ集団間の遺伝的隔離が部分的に破られ, 雑種集団のキリシマツツジが成立し, この集団を通してさらに遺伝子の浸透性交雑が進行していると推定される。
著者
三中 信宏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.151-184, 1993-12-30

歴史生物地理学におけるvicarianceの概念について, それがたどってきた概念史を概観した。もともと生物地理学で用いられてきたvicarianceは近縁種の空間的な「代置」(substitution)という分布パターンを意味しており, Hennig理論に基づく系統生物地理学はこの用法に準拠していた。一方, Croizatに始まる汎生物地理学もまた代置の意味でこの言葉を用いているが, 「代置的生物進化」(vicariant form-making)という進化理論を背景にしている点に特徴がある。これらの用法に対し, 分断生物地理学では同所的に分布する複数の生物群に対する共通原因すなわち生物相の「分断」(fragmentation)の意味でvicarianceを用いた。共通原因/個別原因としての分断/分散は, 分岐分析における共有派生形質/ホモプラシーに相当する関係にある。次に, 分断生物地理学が解こうとしている地域間の近縁性の問題を「居住地/居住者問題」(the "habitation-inhabitant"problem)として一般化した。居住者の系統関係と地理的分布の情報に基づいて居住地の系統関係を推定するというこの居住地/居住者問題は, 生物地理学だけでなく分子系統学・共進化解析などとも共通する問題である。これらの問題の共通点は, 「形質」それ自身が「系統」を持つという点である。最後に, 分断生物地理学の観点からこの居住地/居住者問題を解決するためのいくつかの解析的手法-成分分析法・ブルックス最節約法・群整合性分析法・三対象分析法-について議論した。種分岐図における欠損地域・広域分布種・重複出現がこれまで分断生物地理学において論議の的となってきた一つの理由は, それらを含む分岐図が通常の分岐分析で生じる分岐図の性質を満足していないことにある。半順序理論などの離散数学を用いることによりこれらの問題にアプローチできるだろう。
著者
北川 尚史
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.179-189, 1982-04-20
被引用文献数
2

1) Conocephalum supradecompositum, annual species restricted to the northern part of East Asia, is considered to be derived from C. conicum, perennial species widely distributed throughout temperate regions of the Northern Hemisphere. 2) C. supradecompositum produces in autumn numerous gemmae endowed with a strong resistance to cold and dryness. The gemmae are modified branches of the thallus ; prior to formation of gemmae, the thallus performs frequent dichotomous branching, and the terminal dichotomy itself is transformed into a gemma. Thus, each gemma has two growing points covered with scales, and it exhibits a strong, inborn dorsiventrality in germination. 3) C. supradecompositum is unique among bryophytes in cylindrical, sausage-shaped spore mother cells, linear spore tetrads, and dimorphic spores. 4) The genus Conocephalum is very characteristic in elaters ; elaters in a capsule are 2-3 times as many as spores (in other genera of the Hepaticae, the number of elaters is far smaller than that of spores) ; and they show an extremely wide range of variation in size, shape, and number and orientation of spiral thickenings-and there occur rarely elaters with dextrorse spiral thickenings (so far as examined by the writer, the spiral thickenings of elaters are universally sinistrorse in other genera of the Hepaticae). The exceptional dextrorse elaters are assumed to be induced from the originally sinistrorse ones through conversion of the axis as shown in Fig. 3, x-z'.
著者
平野 弘二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.77-80, 1998-07-28
参考文献数
3
著者
光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.73-86, 1985-06-29

3回に分けて報告した西スマトラ州のシダ植物をこれで終わる.ここで扱ったのは,西スマトラ州の一部にすぎないが,総計で34科180種を確認した.種数の多い科としては,クラマゴケ科(15種),コケシノブ科(13種),ヘゴ科(10種),ホングウシダ科(9種),チャセンシダ科(13種),オシダ科(13種,うちナナバケシダ亜科10種),ヒメシダ科(17種),メシダ科(13種,すべてヘラシダ属),ウラボシ科(19種),ヒメウラボシ科(9種)などがある.とくに,せまい地域であるわりには,クラマゴケ科やウラボシ科の種類が多いのが注目される.初回の報告で,スマトラの高地の顕花の植物相は,中国南部から日本に広がる植物相と属のレベルで共通性が高いことにふれた.こころみにこの3回の報告で扱ったシダ植物の属で計算してみると,全82属中日本(沖縄を含む)に見られるもの61属,云南省や中国南部を広く含めると71属ほどが共通しており,それぞれの比率は74.4%と86.6%となる.これは,顕花植物で概算した比率(初回報告参照)と非常によく一致している.中国南部におけるシダ植物の分布は,まだよくわかっていない点もあり,ここでの86.6%というす数字は,控えめのものである.さてここで共通の属とされなかったもの,つまり中国以南にしか分布が知られていないものの内分けを見ると,Teratophyllum, Stenosemiaといった,マレーシアの低地から山地に特産もしくは準特産の属や,Orthiopteris, Didymochlaenaといった新旧両世界の熱帯に産するものが目だち,前者は地域としての特殊性を,後者は熱帯としての共通性を示している.オセアニアに分布の中心を持つ属が一つも出現していないことも注目されよう.この事からみると,スマトラ山地のシダ植物相は,東アジア山地のシダ植物相と極めて結びつきが深く,マレーシア域としての特殊性は多少見られるものの,オセアニア域との関連性は皆無に近い,ということになる.
著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.61-90, 1996-07-10
参考文献数
8

1983年から1986にかけて3回の調査で収集した11, 000点以上の標本に基づく研究によって, セラム島とアンボン島には約700種のシダ植物が産することが分かった。この数は比較的小さな島のシダ植物相としては極めて多く, 四国と同じ面積でありながら日本全域の種数よりも多いシダ植物が分布するのである。その主な理由は, 世界で最も豊かなシダ植物相(2, 000種)をもつニューギニアが近くにあって, そこが供給源となっていることであると思われる。本稿ではコバノイシカグマ科(コバノイシカグマ属, ユノミネシダ属, イワヒメワラビ属, フモトシダ属, オオフジシダ属, ワラビ属, Orthiopteris属, Paesia属)の19種, シシラン科(タキミシダ属, シシラン属, Monogramma属)の15種, オシダ科ナナバケシダ亜科(カツモウイノデ属, ナナバケシダ属, Cyclopeltis属, Heterogonium属, Pleoenemia属, Pteridrys属)の35種を報告した。その中で, ユミノネシダの変種var.seramensis, Antrophyum lancifolium, Ctenitis calcicola, C.clathrata, C.coriacea, Tectaria crenata var.petiolata, T.melanocauloides, T.seramensisを新種あるいは新変種として記載した。
著者
梅崎 勇
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.56-62, 1955-10-30

1. Brachytrichia Quoyi (A_G.) BORN. & FLAH(アイミドリ)の葉状體の發生及び絲状體の分岐の機構を研究した。2. 葉状體の幼體期は小形實質半圓形である。絲状體はその内部に稍緩く直立し,平行に配列して,その基部で直立し,僅かに分岐する。3. 葉状體の幼體期の絲状體は Kyrtuthrix dalmatica ERCEG. 及び Hormactis Balani THUR. の幼體期のものとして記載し圖示したものは全く異なる。且つ全生涯を通じて斯様な絲状體を観察することが出来なかつた。4. 絲状體のV-分岐は幼體期は正のV形を,成體期の直立絲状體は逆のV形を示し,2型に分類出来る。5. Brachytrichia 〓の絲状體の分岐はV-分岐と言うよりは寧ろY-分岐と命名するのは妥當である。6. Kyrtuthrix 〓の分岐は厳密には分岐と言はれなく,Brachytrichia 〓の分岐と明に區別される。7. 本研究により将来 Brachytrichia 〓の分類の訂正が必要となつた。最後にあたり御懇篤なる御指導を頂いた米田勇一先生に,又研究材料を18回にも渉り採集して頂いた内海富士夫先生に感謝の意を表する。
著者
小山 博滋
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.49-58, 1984-05-29

ショウジョウハグマ族Tribe Vernonieae はキク科植物で、頭花が両性の筒状花のみから成り、花柱分枝が先端へしだいに細くなり、葯胞の下部付属体が短かく矢じり状となるなどの特徴によって、他の族から区別される。約70属からなるが、大部分の属が熱帯域に生育するため、日本ではなじみの少ないものである。琉球、小笠原、九州南部でショウジョウハグマ属Vernoniaとミスミグサ属Elephantopusのそれぞれ1,2種がこの仲間のものとして見られるにすぎない。熱帯域に位置するタイ国にはこれらの属の他に、Camchaya, Ethulia, Struchiumの3属がある。属の数でいえば、タイ国は日本の2.5倍の属を有するにすぎない。しかし、ショウジョウハグマ属を取り上げると、日本ではムラサキムカシヨモギV. cinerea1種を見るにすぎないのに対し、タイ国には28種も記録されている。しかもこれまでのタイ国における野外調査で得られた資料標本の研究によって、この数はさらに増えそうである。この属の多くは広く東南アジアや中国西南部、さらにはヒマラヤに分布しているので、個々の種の実態を把握するためには近隣地域のものとの対比研究が必要である。しばしば種子植物の種属誌的研究は一通り終わったと云われるが、これは温〜寒帯域に生育するものに関してであって、熱帯産のものについてはやっと手がつけられ始めたというのが実情である。この論文でもCamchayaについて、2新種と2新変種が記載されている。Camchayaはショウジョウハグマ属に近縁で、カンボジア産のC. kampotensisをタイプとして記載された東南アジアの特産属である。冠毛は剛毛状で、1小花あたりせいぜい9本までと少なく、しかも容易に脱落する。また、すべて1年草で、平地の耕作地周辺や山地の路傍に生育する。一方、ショウジョウハグマ属は全世界の熱帯に広く分布する。冠毛は剛毛状で、小花あたり20本以上と多い。また、冠毛が容易に脱落するものもある一方で、短かい剛毛状や鱗片状のものを外側につけて2列性となるものも多い。一年草から樹高が10mを越える本格的な高木まであり、石灰岩地や落葉樹の林床などにも生育する。予備的に調査したタイ国産のショウジョウハグマ属10種余りの染色体数はいずれも2n=18, 36, 54とx=9の倍数であった。これに対し、Camchayaの各種はいずれも2n=20である。この染色体数の差に冠する評価は1000種を越えるとされるショウジョウハグマ属を検討する中で考えて行く必要がある。今得られる情報によると、アフリカ産のショウジョウハグマ属の1節Sect. Stengeliaはn=10の染色体数を持つが、2列性の冠毛を有するとされている。このことから染色体数20を有することと、冠毛を減少させたことに直接の関連はないといえる。ここで新しく記載したCamcnaya pentagonaは5稜形のそう果を持つことで特徴づけられる。これまでCamchayaのそう果は10稜形とされていたが、本種の存在で10稜形と5稜形であることになった。もう1つの新種C. spinuliferaの総苞片は多数からなり、いずれもきわめて細い披針形で、その縁にするどい刺を散生している。この総苞の特徴はC. montanaとよく一致するが、新種は次の点でC. montanaと異なる。すなわち、小花の長さは10mmで、C. montanaの3.5mmに比して倍以上である。また、頭花当りの小花数も約130個で、C. montanaの12から30個に比べて極端に多い。この子花の大きさと数による2型はその間に中間型があって連続するようには考えにくい。C. montanaのタイプ標本を検討していないので問題は残るが、これらの特徴で新種をC. montanaから区別し得ると判断した。ミスミグサ属Elephantopusについては植物研究雑誌57: 50 (1982)で解説している。Ethuliaは10種余りからなる属であるとする意見がある一方で、旧世界の単型属とする意見がある。私は未だ野外で本種に出逢っていない。過去に採集された場所から判断して、特殊な生育地に隔離されているようには考えにくい。一年草で、生える場所や季節によって姿を大きく変える性質があるのかもしれない。この論文では単型属とする意見に従った。Struchiumは単型属である。旧世界の熱帯に広く分布するが、熱帯アメリカ原産と云われている。私の採集した場所は耕作地横の小さな溝の中であった。ここに引用した他の標本も地名から判断すると、人手の加えられたところのようである。最近出版されたFlora Ceylonには比較的最近帰化したもので、最初の採集は1931年に行なわれたと記録されている。
著者
益村 聖
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.163-166, 1989-12

北部九州には,ドジョウツナギが平地や山間部の湿地にやや普通に産し,ヒロハノドジョウツナギが温帯域の清流沿いにごく希に産する。ところが,暖帯域の山足湿地に,〓生し匍匐枝をもつ点は前者的で,根茎を持ち葉鞘の格子紋が顕著な点は後者に似る中間的な固体群が4箇所で発見された。それでこの度,これら中間形と前二種を改めて入手し,詳細に比較検討した。体細胞染色体はドジョウツナギでは2n=40,ヒロハノイドジョウツナギでは2n=20であったが,中間形では調査した4産地とも2n=30を数えた。その他,花粉はいずれも中空,不定形,染色性(稔性)がなかった。これ等の事実から,この中間形はドジョウツナギとヒロハノイドジョウツナギを母種とする自然雑種であるとの結論に達し,学名:Glyceria×tokitana MASUMURA hybr. nov. 和名:マンゴクドジョウツナギと命名して発表する。
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.306-313, 1932-12-01

ホソバショリマ Dryopteris Beddomei O. KUNTZE. 本種は南印度,セイロン,ジャバ,フィリッピン,南支那,臺灣に知られて居たが肥前國藤津郡多良村,對馬國琴村にも産することを知つた.ハシゴシダの羽片が下方に漸次縮小したやうなもの.緒方正賛氏の圖集第4卷第167圖を参照されよ. カラフトメンマ Dryopteris crassirhizoma NAKAI var. setosa MIYABE & KUDO. ヲシダの羽片裂片が鋸齒〓乃至稍缺刻状鋸齒〓になつたもので,葉色も遙に美しい〓色のものである.從來樺太の特産と思はれてゐたが,今夏私はこれを甲斐國白根山北嶽に發見した.本州には新發見か. オホカウモリシダ (新稱) Dryopteris cuspidata CHRIST. カウモリシダ Dryopteris triphylla C. CHR. に似て遙に大形,尾状鋭尖頭の羽片が,五六對もあるもので,脈序にも差異を認る.ヒマラヤ,ジャバ.フィリッピン等に産するものであるが,土井美夫氏は西表島に,小泉博士は沖縄國頭郡佐手に採集された.但し模範型に比するに,葉片並に羽片は頗る小く,且つareola の数も少い.多分最小の一型で,變種とする程のものでもあるまい.本邦には新發見の一種であるから,次に簡單に記載しやう.根莖は匍匐,黒色.葉柄は25-35cm. 剛強,褐色,基脚黒色.葉片は25-38 ×10-15cm. 奇数羽状複生,上部羽片の腋には珠芽のあることもある.羽片は4-6對,疎在,斜上開出,短柄又は無柄,楕圓状披針形,8-12×2-2.5cm. 尾状鋭尖頭,通常尖端部稍刀状,楔脚,殆ど全〓,稍革質,羽軸及び兩面共に無毛,上面暗〓色,遊離細脈の先端部は上面に於て白色乃至稍帶赤色の斑點をなす.側脈は顯著脈間隙は中肋邊〓間に5-7,各嚢堆を有しない遊離小脈を入れる.嚢堆は圓形乃至長楕圓形,側脈間に2列,對をなす嚢堆は多く連續する.
著者
福岡 誠行 迫田 昌宏 三宅 慎也 永益 英敏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.210-211, 1993-12-30
被引用文献数
1
著者
中西 弘樹 川内野 善治
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.169-171, 1995-04-28
被引用文献数
2
著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.77-92, 1989-07-30

本稿では,1983年から1986年にかけて調査したモルッカ諸島のセラム島・アンボン島から採集したシダ植物標本に基いて,ハナヤスリ科(3属5種),リョウビンタイ科(3属6種),ゼンマイ科(1属1種),マトニア科(1属1種),ウラジロ科(2属10種7変種),カニクサ科(2属7種),キジノオシダ科(1属2種)を報告する。ハナヤスリ属のO. reticulatumと仮同定したもの(胞子形態はO. parvifoliumと一致)はビナイヤ山頂の稜線裸地で1985年1月5日に採集したものであるが,1983年11月23日に登った時は展葉前であったため発見できなかった。リュウビンタイ科のChristensenia aesculifoliaは掌状に切れ込む葉とミカンのように同心円上に配列する胞子嚢をもつ点で特徴的なシダであるが,セラムの低山地帯の湿った斜面で採集した。ゼンマイ科のLeptopteris alpinaは山地林下の陰湿な斜面にはえる木生シダ(幹の高さは1mかそれ以上)であり,葉が細かく切れ込み,透き通るように薄いのがゼンマイ科の中では独特である。この属はポリネシア・ニュージーランド・オーストラリアからニューギニアにかけて分布する南半球型のシダであり,セラム島はその西端に位置する。マトニア科のPhanerosorus majorはこれまでニューギニア西方のワイゲオ・ミソール・アル島から知られていたが,今回セラム島から採集した好石灰岩性シダである。近縁種P. sarmentosusはボルネオに産する。これらは葉に不定芽をつけ,ウラジロのように新しい羽片を次々と古い葉の上に生じる。配偶体はリボン状で,縁部の細胞から新しい配偶体を生じ,栄養繁殖する。成熟すると受精して胞子体をつくる。これらは乾いた石灰岩上という生育環境に対する適応であろう。新種として記載したコシダ属のD. seramensisは低山地の裸地にはえ,近縁種とは小羽片の長さと幅,毛,脈理の形質の組み合せで区別できる。コシダはセラム・アンボン両島に7変種が分布する。新変種var. seramensisを記載したウラジロ属のG. peltophoraは小羽片が短く三角状で,ソーラスが葉裏面の陥没部につく特徴がある。