著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.251-264, 1937-12-15
著者
KOIDZUMI G
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.322-323, 1932-12-01

日本近生植物代(Cainophyticum) の初代は白亜紀上部(Cenoman-Turon)を以て始る事一般に他地方と同一にして,樺太島のGyliak統之を代表し所謂 Ainu-Gyliakian Bed Flora は此時代の日本植物區系の一端を表せり.次の Senon 世前期の Flora は蝦夷島の浦川統即ち上部アンモナイト層中の Parapachydiscus Bed 内に包藏さるゝ Flora 之を代表し, Senon 世後期の Flora は函淵砂岩に包藏せらるゝ Nilssonia Bed の Flora 之を代表す,而白亜最上部の Danian Flora は對馬島の佛國寺統に相當する地層に含まるゝもの之を代表するものゝ如し.北海道の Senon 前世の Flora は先に藤井博士と STOPES博士との共同研究のもの及び鈴木學士の研究ある以外少しも進歩せざりしが著者は新に次の植物化石を發見せり. 羊齒類 Yezopteris polycycloides OGURA (ヘゴ科). Solenostelopteris loxosomoides OGURA (Loxosomaceae). Cyathorachis Fujiiana OGURA (ヘゴ科). 裸子植物 Cycadeoidea petiolata OGURA (Bennettitaceae). Cycadeoidella japonica OGURA (Bennettitaceae). Cycadangium compactum OGURA (Cycadaceae). Stachycarpites projectus OGURA (Podocarpaceae). Piceophyllum simplex OGURA (Pinaceae). Pinus flabellatifolia OGURA. Pinus pseudostrobifolia OGURA. Sciadopitys cretacea OGURA. 被子植物 Yubaria invaginata OGURA. 藤井 STOPES 兩氏は此地層より Cretovarium japonicum の如き世界に比類なき花の化石をも發見せしが,著者の研究中最も注目すべきは金松一種の化石發見なり,金松屬のものは歐洲にては中生植物代(Mesophyticum)を通じて存在せしが第三紀に入るや絶滅せり,今回著者の發見により中生植物代の終頃より東亜にも本屬植物は分布し第三紀より現世に到るまでも繼續せし事を知るを得たり.(G. KOIDZUMI)
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.139-148, 1940-09-30

13. アリサンハナワラビ(正宗) は正宗厳敬,森邦彦両氏が阿里山で発見せられたものである.正宗氏はこれを新属新種にして Japanobotrychium arisanense MASAM. と命名し上記の新和名と共に発表せられたが,後ハナワラビ属に移して学名を Botrychium arisanense MASAM. と変更せられた.私は昭和9年に台北帝大の〓葉室にあった基準標本を見せていただき,又霧社にある台北帝大の山地農場で採集せられた標本も今年の4月に見せていただいたが,このアリサンハナワラビはノウカウハナワラビの毛のある型即ち印度,錫蘭,支那(雲南),爪哇,ルゾンなどにある Botrychium lanuginosum WALL. であると思う.又ノウカウハナワラビ(早田)は最初早田先生がB. leptostachyum HAYATA と命名せられたもので,後中井先生はB. lanuginosum 即ちアリサンハナワラビの無毛の一変種にして学名をB. lanuginosum var. laeptostachyum (HAYATA) NAKAI と変更せられた.確に中井先生の卓見であると思う.この無毛の変種も中井先生によれば亦支那やヒマラヤ地方にあるという.台湾では両型共にやや稀な種類である.14. Mecodium productum (KUNZE) COP. は馬来群島に廣く分布している種類であるが,私はこれを台東庁台東郡の蕃地バリブガイ附近の密林中で発見した.我邦には新発見の一種であるから新に和名をホウライコケシノブと定めた.ツノマタコケシノブM. Junghuhnii (V. D. B. ) COP. に似ているが,裂片には先端に近く不明瞭な微鋸歯があり,総包片は卵形又は卵状長楕円形,鈍頭又は円頭,上半部には不規則な微鋸歯があり,〓床は細長い.15. チリメンコケシノブ(新称)Mecodium taiwanense TAGAWA sp. nov. は私が台東庁関山郡蕃地の内本鹿越線に沿う嘉々代駐在所付近の密林中で発見した新種である.比律賓のM.thuidium (HARR.) COP. によく似ているが,葉は小さく,裂片の幅は廣く且つ皺曲はそれほど甚しくなく,〓堆の総包片は卵形又は廣卵形,その先は鈍形又はやや鋭形で決して円形ではなく,〓床は細い円柱形でその先は太くなっていない.今日までに知られている台湾産の種類中に似たものを求めるならば別属ではあるがヒメチヂレコケシノブ(初島)Meringium denticulatum (SW. ) COP. がある.しかしチリメンコケシノブでは皺曲は遥に甚しく,辺縁にはルーペで認めうる程度の微鋸歯しかなく,〓堆の総包は殆んど基部まで裂け,〓床は短くて総包片の半にも達していない.
著者
小山 鐵夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.5-12, 1955-05-30
被引用文献数
1

7.私は現在印度支那や雲南のカヤツリグサ科を調べて居るので,参考資料として京大所有の臺灣のカヤツリグサ科を拝見した処,此の章に記載したスゲの2種がそれぞれイハスゲ節及びナキリスゲ節の新種であることがわかった.前者は臺灣産のチャイロスゲC. fulvorubescensの系統のものと思われるが,極めて〓澁の稈と無葉片・膜質で短い苞は他に類を見ない(第3圖版R-T).此の美しいスゲの學名は何時も御世話になって居る田川先生に献じたものである.後者はタカサゴフサナキリに似た一種で岡本省吾氏高雄州での採集.共に比較的フロラのわかって居ない山地より發見されたことになる.次に,今迄臺灣の特産として知られて居たダンスゲは早田博士の印度支那採集品を検定して,トンキンからフランシェ氏が報告したCarex tonkinensisと同品であることがわかった.ネルムス氏がC. tonkinensisにあてて居るマレーシア産のスゲは恐らく別物であらうと考へて居る.又クラーク氏のC. perakensisは多分本品の葉の狭い形の様に受取れるが不幸にして未だ基準品を見られないで居る.8.琉球吐〓喇列島中之島から發見されたスゲの新種にフサカンスゲCarex tokarensisの名を下すことにした(第3圖版A-I).コカンスゲ節Decoraeに屬し,臺灣のモリスゲ(第3圖版J-M)に最も近いが,マレーシアなどに分布するC. veriticillataにも大變よく似て居る.大型の圓錐花は著しいものである.この材料をお見せくださった初島博士に厚く御禮申上る.9.今度茲に發表した様な組合せが出版されることになった.一部は今迄にこの様な意見が述べられたものもあって,別に説明の要も無いが,アヲスゲに就て簡単に記して置く.今迄アヲスゲにはC breviculmis R. BR.がよく用ひられたが,豪州やニューギネアに分布するC. breviculmisはネルムス博士が言はれる様に邦産アヲスゲとは果胞が倒卵形でより太い脈を有し短い剛毛を疎生するなどの點で區別できると思はれる.私はアヲスゲに北川博士のご意見の様に北支植物を基準品とするC. leucochlora BUNGEを用ひたい.残念乍ら私は印度品を基準とするC. Royleana NEESを見る事が出来ないが,幸にしてブンゲのC. leucochloraの發表が1833年で,ネースの1834年より一年早いから,印度品が邦産アヲスゲと同じであっても學名の變更は無い.又,茲で取扱ったアヲスゲの變品は極めて著しいもののみである.メアヲスゲ・イトアヲスゲ・ヒメアヲスゲはいづれも細い型でメアヲスゲには葡枝があり,イトアヲスゲは果胞が疎に着き通常雄小穂は小形で,ヒメアヲスゲはメアヲスゲに似て葡枝無く側小穂は殆ど無柄となる.オホアヲスゲは後に記すハマアヲスゲと共にかなりはっきりした一品で葉は廣く硬く(?2年生)果胞も相当に大きい.私は之等を多数栽培比較した結果いづれも別種とは認め難いとの結論となった.之等の中で,果嚢が熟時黄色で強い肋があり,鱗片が比較的落ち易い點で最も明瞭なハマアヲスゲでさへも,典型的と思しき型と他の型との間に中間を生ずる.凡そ同一種内の變異が異種間の差異より遙かに大きい様な植物の好例がアヲスゲである.
著者
北川 尚史
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-7, 1984-05-29

1982年7月から8月にかけて6週間、服部植物研究所の岩月善之助助博士と私はニューカレドニアとフィジーで野外調査を行った。文部省の科学研究費補助金によって服部植物研究所が計画・実施した海外学術調査である。調査隊のメンバーは私たちの二人だけで、対象をコケだけに限定した密度の高い念り多い調査であった。フィジーは次回のための予備調査で滞在期間も短かったが、ニューカレドニアでは存分に調査を行い、予想以上の成果を収めることができた。現地の研究機関(ORSTOM)と植物学者の全面的な協力のもとに、私たちが全島を駆けめぐり、キャンプを重ね、寸暇を惜しんで採集したコケの標本は4000点以上に達した。ニューカレドニアは西南太平洋の珊瑚海に浮かぶ、日本の四国とほぼ同じ面積を持つ海洋島である。脊梁には標高1000m前後の山脈が幾筋も縦走し、パニエ山(標高1628m)、フンボルト山(同1618m)など幾多の高峰が重畳として連なっている。低地は乾燥しているが、標高1000m以上の山岳地帯は比較的湿潤で、シダやコケが豊富である。古い地質時代に大陸から遠く分離し、隔離された環境下で、この島の植物はきわめて特異な分化を遂げた。植物相の特異性は特に種子植物に著しく、156科、680属、2750種の自生の種子植物のうち、属の16%、種の80%が固有である。ニューカレドニアのコケ相についても、HERZOGは「非常に美しく独自性の強いコケがこれほど集中していることはほとんど信じがたいほどであり、面積の狭さを考慮すれば、断然、地球上の多のいかなる地域をも凌駕する」と指摘している。私はニューカレドニアの苔類とツノゴケ類に関する文献を渉猟してこれまでに同島から記録されてきた種を網羅した。そして、その中から裸名を除き、異名を整理し、妥当な属への組合せを採用してチェックリストを作成した。その結果、従来ニューカレドニアから32科、94属、449種の苔類とツノゴケ類が報告されていることが判明した。そのうち、217種が固有で、種レベルの固有率は非常に高い(48.3%)が、固有の属はPerssoniella HERZ.の1属だけである。私たちのコレクションの約半分は苔類であるが、その中には若干の新種を初め、ニューカレドニアに未記録の種がかなりある。本論文ではそのうちの一つ新属新種Acroscyphus iwatsukiiを記載した。そして、この属をヤクシマゴケ科Balantiopsidaceaeに入れたが、この所属は未だ決定的ではない。この科の最も重要な特徴からは朔がらせん状にねじれた弁をもつことである-この重要な特徴を共有するという主たる理由で、GROLLEやSCHUSTERはかつてのヤクシマゴケ科Isotachidaceaeをバランティオプシス科Balantiopsidaceaeに含めた(したがって、その広い意味のBalantiopsidaceaeに対してはヤクシマゴケ科の和名が適用される)。Acroscyphus iwatsukiiの2点の標本が私たちのコレクション中に見出されたが。そのうちの1点(基準標本)には雌雄の植物体が揃っており、少数の胞子体も見出されたが、その胞子体は残念ながら若すぎるため、上記の科の特徴を確認することができない(他の1点はステリルであった)。しかし、配偶体のいくつかの重要な形質において、この新属はBalantiopsis MITT.およびNeesioscyphus GRO.に共通しているので、両属が所属する広義のヤクシマゴケ科の一員と見なした。この新属新種の産地、スルス山はニューカレドニアの西南部に位置する標高1000m余りの蛇紋岩地域の山岳で、Perssoniella vitreocincta HERZ., Acromastigum homodictyon (HERZ.) GRO., Nardia huerlimammii VANA &GRO., Haplomitrium monoicum ENGELなど、きわめて顕著な種のタイプ産地となっている-上記のうち、3番目の種は明らかにNardiaではなく、タスマニア産の単型属Brevianthus ENGEL & SCHUST.に類縁をもつと思われる新属の可能性がある(ステリルの材料に基づいて記載せれた種であり、私たちのコレクション中に雄の植物体が見つかったが、雌は見出されない)。
著者
本郷 次雄
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.116-126, 1982-04-20
著者
近田 文弘 北川 淳子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.125-132, 1989-12

ガガイモ科の植物は約2000種が知られている。これらの種は主に熱帯を中心に分布しており,特にアフリカやアジアの熱帯には原始的と考えられる種を含め多くの種が分布している。ガガイモ科の分類を考える時,花の形態が重要な形質として取り上げられて来たが,取り上げられた形質は,顕微鏡レベルの組織や構造にまで立ち入ったものは少ない。近年ではSAFWAT(1962)が指摘するように,顕微鏡レベルで花の構造を比較しようとする研究が行なわれるようになったが,それはほとんどアメリカ合衆国に特徴的に分布するトウワタ属の植物を用いたものであり,アフリカやアジアの植物を対象としたものは極く少ない。タイ国は東南アジアの大陸と熱帯の島々の中間に位置し,アジアの熱帯のガガイモ科を研究するのに好適な場所であるCRAIB(1951)はタイ国で42属146種のガガイモ科植物を報告している。筆者の一人近田は1982年以来三回にわたってタイ国でガガイモ科の調査を行い,顕微鏡レベルの花の構造を研究する材料の採集に努めたが,ガガイモ科の植物は,ガイガンダバコCarotropis gigantea BR.のようなタイ国北部の路傍に雑草のように生える潅木のような種は別として,多くの種の花を野外で容易に採集することはできないものであった。また種の同定には隣接する中国の植物を比較する必要も多いと考えられる。中国のガガイモ科の分類の研究について最近情報が効率良く得られるようになり,我々は中国の研究者と共同研究も行なえるようになった。このような状況を背景として,タイ国のガガイモ科植物の花の顕微鏡レベルを主とする形態を比較し,その知見を積上げてタイ国産ガガイモ科の分類を研究することにした。本報文はその研究の最初として,Dischidia raffresiana WALL., Marsdenia glabra COST., Secamone ferruginea PIERRE ex COST.の3種の花の構造と分類形質のいくつかについて記載したものである。Dischidia raffresianaは樹木にはい登るつる植物で,長さ5-7mm,巾3-5mmの小さな壺状の花を着ける。花は小さいが,その構造は複雑で,特に雄蕊の背部から発生する副花冠は複雑な形態を示す。また,花冠筒の咽頭部の内側に花冠筒の膨大したものがみられる。花粉塊は扁平で長楕円形をしており,二個が小球と花粉塊柄で連結して直立した双花粉塊を形成する。この植物の葉は厚い革質で,長さ6-9cm,巾2-6cmの袋状のものが茎の下部に密生していおり,長く伸びたつるの上部には長さ1.5-2.0cm,巾1.0-1.8cmの小型の葉が長い節間を置いて着いている。袋状の葉の空所には蟻が巣を作っていて,この植物を採取することはとても大変である。多分,花粉塊は蟻によって運ばれると予想されるが,その仕組みは分からない。本種はガガイモ科の中の顕著な蟻植物myrmecophyteと考えられる興味深い種である。Marsdenia glabraは,ソメモノカズラMarsdenia tinctoriaと同属の植物で,低山帯の潅木材のつる植物である。外観は,Dischidia raffresianaに似た壺状の小花を着けるが,副花冠は後者に比べて簡単な形態をしている。花冠筒の内側に突起状の膨みがあることや,長い毛が密生していることは後者と同様である。この種は,幾つもの場所で採集することができ,標本庫に蓄積された標本の数も多かった。タイ国では広く分布する種のひとつであるらしい。Secamone ferrugineaは,つる性の植物で5弁に平開した黄色の小さな(直径5mm)花冠を持つ。Secamone属は,4個の葯室が一個の葯内に生じることで,2個の葯室を持つグループより原始的と考えられている。この種の葯も4個の葯室を持っているが,その内2個が大きく,他の2個は明らかに小さい。4個の花粉塊が一組となる。花冠裂片の内側基部には2個の小豆状の突起がある。3種に共通な形態として,花粉4分子は線型で,花粉塊中の花粉の数は夜来香やイケマに比べて少ないこと,胎座式は亜周辺胎座で胚珠の数も花粉の数同様少ないこと,雄蕊の背面から生じる雄蕊性副花冠の他に,花冠筒の内側や花冠裂片の内側に生じる突起があること等であった。花冠筒や花冠裂片の突起をどのような構造として理解するかは今後の問題であるが,SAFWAT (1962)の見解に従って,本報告では,これらのものを花冠性副花冠としておきたい。

1 0 0 0 OA 東亜蘚類考察

著者
外山 礼三
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.169-178, 1937-09-30

ミヤマクサゴケ(Heterophyllium brachycarpum (MITT.) FLEISCH.) ─ MITTENの種類と CARDOT の種類は,各々原産地は男体山,日光でよく産地のみならず種類の特徴が一致する.カキネゴケ屬(Palisadula TOYAMA) ─ Clastobryum に近いが蘇歯特異.屋久島産のものをタイプとする.FAURIE 師が対島で採し,Pylaisia (?) chrysophylla CARD. var. brevifolia CARD. と属に疑問を残してCARDOT が発表せる植物に一致する植物を高隈山で多量に採集す.之の蘇歯も亦同様の特異な構造をもつ.Pylaisia chrysophylla CARD. 及び Clastobryella shiicola SAKURAI と之の植物とは種としての区別は認め難いので欧文の如き組合を行った.Clastobryum として発表されている他の植物は,その原標本には全く子〓がない.之の属に移さるべきものも必ずあると思われる.タケウチカガミゴケ (Brotherella Takeuchii TOY.) ─ Clastobryum 属に見る如き孵芽を持つ点は前新属と同様面白い現象.カガミゴケ属と他の点は一致する.種名は採集者であり且つ植物地理学会に種々貢献されし竹内敬氏の名を頂いた.セイナンナガハシゴゴケ (Sematophyllum pulchellum (CARD.) BROTH.) ─ Meiothecium japonicum DIX. et SAK. として発表されしものの原標本を検するに蘇歯の構造は櫻井氏の図の如きではなく内歯を有し,且外歯は吸水の結果屈曲するがその屈曲点より〓々折れる為に,氏の図の如く見えるので,明に Sematophyllum 属のものである.セイナンナガハシゴゴケの原標本を検するに櫻井氏の種は完全に一致する.ニイタカサナダゴケ (Plagiothecium Niitakayamae TOY.) 〓 大変大きな,枝は丸く葉がつき,葉の先端細胞には盛んなる仮根や原糸体の出来ているのが見られる.ホソオカムラゴケ (Okamuraea flagellifera (SAK.) TOY.) ─ オカムラゴケ(ハヒオカムラゴケを含めて)とは営養生殖帯の相違により之と対立した位置におくべきものと考える.種名は櫻井氏により他の属で書かれているので変な名になった. フトフトゴケ (Schwetshkea robusta TOY. ) ─ 他のこの属のものよりはるかに大きい.Schwetsxhkea Doii SAK. に近いがずっと雄壮である.オホミミゴケ (Meteoriella soluta (MITT.) OKAM. ) ─ 屋久島を自身歩いて見て,今まで正体の不明なりし Pterobryopsis japonica CARD. 及び Meteoriella dendroidea SAK. が本種に他ならぬことを知った.樹皮に着生して,長くさがらないもののみを見ると明に変ったものと考えられるが,普通,移行,変体の三形を同時に認められる.葉その他に何等形態的変化が認められない故,型種とする必要もないと思う.
著者
岡本 素治
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.10-17, 1983-04-25

スダジイの花の各花言葉が発生する様子を観察した。花の初期発生では、雄花と雌花は、ほとんど区別しがたいほど、よく似ている。雌花では各花言葉の発生順序は次のようになる。外花被(3)→内花被(3)→外花被に対生する雄ずい(3)。この内花被に対生する雄ずいとほぼ同時に、花被に互生する雄ずいが形成されはじめる。その位置は外花被に対生する雄ずいの両側である。外花被に対生する雄ずいの内側に、雌ずいの原基があらわれる。花被に互生する雄ずいは、放射方向に細長い原基としてあらわれる。成熟した段階ではこの雄ずいは横向きである。一方花被に対生する雄ずいは内向きとなる。なお、雌花ではこれらの雄ずいは生長が停止し、仮雄ずい的となり、開花時にも花被に包まれたままのことが多い。雄花も雌花とほぼ同様の発生順序をたどる。ただし、雄花では花の向軸側の発生が背軸側に比べ著しく早い。雌ずいの原基も雌花に於けると同様に発生するが、子房室は最後まで閉じることなく、密線となる。このような花の発生様式をどのように解釈すべきか議論した。また花序の先端に花のような構造ができることに言及した。
著者
田端 英雄
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.125-134, 1992-12-30

Betula nikoensis Koidz.マカンバは, Betula ermanii Cham.var.japonica(Shirai)Koidz.ナガバノダケカンバとして扱われることが多いが, Betula ermaniiダケカンバとは形態的に明確に区別できるばかりでなく, 生態的にも明確な違いがあるので, 別種として取り扱うのが適当であると考え, 私はB.nikoensisを採用してきた(Tabata, 1964,1976)。しかし, 大陸にあるBetula costata Trautv.とよく似ているので, 分類学的検討をする必要があると長年考えていたが, 生育環境や生育状況の観察ができなかったので検討できなかった。1988年に, 韓国でBetula costataを採集し, その生育場所を観察する機会を得たので, Betula nikoensis, B.costata, B.ermanii 3種の比較検討を行なった。ここでは, 従来B.nikoensis Koidz.とされてきた植物を, 仮に'makamba'として議論をすすめる。約0.5cmの枝をSchultze法でマセレーションし, 道管の穿孔板のバーの数の比較を行なった。外部形態は, 葉身の長さと幅, 側脈の数 を測定し, おもに SAS(1985)でANOVA, CANDISC, DISCRIMなどの統計処理を行なって, 比較検討した。道管の穿孔板(perforation plate)のバーの数(図1), 側脈の数(図2)に関しては, 'makamba' と B.costataは分布の形がよく一致した。葉の縦/横比から見ると, 'makamba'とB.costataがそれぞれ1.75±0.17(n=164), 1.85±0.19(n=168)で, 1.38±0.16(n=115)のB.ermaniiと比べると葉が細長い。側脈の数では, 'makamba'とB.costataは有意差なしで, この両者とB.ermaniiは, 有意に異なる(表1)。葉の長さと幅の関係に関しても, 'makamba'とB.costataは分布が重なり, B.ermaniiとは異なった分布を示すだけでなく, SAS の GLMによる回帰直線の傾きの検定でも, 'makamba'とB.costataとでは有意差がなく(p>0.05), これら2種と B.ermaniiとは有意に異なっていた(p<0.001)(図3)。葉の3つの形質(側脈の数, 葉身の幅と長さ)を用いて, SAS の candiscriminant分析と discriminant分析を行なった。candiscriminant分析の結果は, 表2と図4に示すように, 'makamba'とB.costataとはよく似ており, これら2種とB.ermaniiとの識別に葉の幅の寄与が大きいことが示された。discriminant分析の結果, B.ermaniiの葉は, 約95%の葉がB.ermaniiと正しく分類され, 'makamba'やB.costataに分類されるのは極くわずかであるのにたいして, B.costataの葉はB.ermaniiに分類されるのほとんどないが, 約35%の葉が'makamba'に分類され, 'makamba'の葉は約28%がB.costataに分類された(表3)。このことは, 'makamba'とB.costataを区別することが難しいことを示している。果鱗の形態は, 'makamba'と B.costataでは, 中央の鱗片が長く側鱗片の約2倍ある。B.ermaniiでは, 中央の鱗片が側鱗片より長く, 側鱗片は形が変異にとむ(図5)。果実の翼の幅は, B.ermaniiでは果実の幅の約半分で, 'makamba'とB.costataでは, 果実の幅と同じか果実の幅より狭い。生態的にも, B.ermaniiと違って, 'makamba'とB.costataは, 川沿いや谷沿いの水分条件の良いところに見られる(図6)。Komarov(1904)は, 満州植物誌のなかで, B.costataが川沿いにのみ純林をつくると記載している。B.costataは, しばしば純林を作るようであるが, 'makamba'は, 個体数も少なく, 普通純林を形成することは稀である。これにたいして, B.ermaniiは純林を作ることが多い。また, 'makamba'の垂直分布は, B.ermaniiと著しく異なっており, 普通冷温帯上部に見られることが多く, 針葉樹林帯に見られることは稀である。B.costataの垂直分布については, 韓国で標高2300mまで生育するという報告もあり, 検討する必要がある。これらの比較を行なった結果, 'makamba'とB.costataとの間には, いくつかの形質でわずかな形態的な差異が見られるが, どの形質もその変異が大きく重なっており, 両者を分けることができないので, B.nikoensisは, B.costataの概念のなかに含まれるとするのが, 適当であると結論した。その結果, 日本におけるB.costataチョウセンミネバリの分布は, 図7に示すようになる。したがって, 日本産の B.costata は, 最終氷期終了後, 日本列島と大陸とのつながりが切れた後も, 日本列島の中央部の関東地方と中部地方の, 一部のごく限られた地域に隔離分布して, わずかに見られる遺存植物の一つであると考えられる。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.41-45, 1957-12-10
被引用文献数
3
著者
大井 次三郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.230-233, 1935-12-01
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.142-147, 1983-11-29
被引用文献数
1
著者
武素 功 光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.22-26, 1985-06-29
被引用文献数
1

ヤブソテツ属Cyrtomiumとテンチョウシダ属Cyrtogonellumの新種を報告する.この仲間は中国の南西部,とくに貴州・云南・四川の三省に種数が多く,また,一部の種は石灰岩域とも関係が深い.ここで報告した二新種も石灰岩域のもので,Cyrtomium latifalcatumは有性生殖をおこない,ヤブソテツ属では,ミヤジマシダ,ホソバヤブソテツ,オニヤブソテツについで4番目の有性生殖種となる.オニヤブソテツ2倍体(ヒメオニヤブソテツ)とのちがいは本文を参照されたい.Cyrtogonellum xichouenseはこの属の多種と同様に無配生殖をおこなうが,葉脈は遊離しており,形態的に最もイノデ属に近い点が注目される.新大陸中南部に産するPhanerophlebiaは,一般にはヤブソテツ属に最も近縁とされているが,Ching(1938)も述べているとおり,葉脈の走り方や葉質の点でむしろテンチョウシダ属に似た点が多い.これまであまりこの点に注目する人がいなかったのが不思議なほどである.それは,この属のほとんどの種が中国南西部とベトナムの一部の石灰岩地に稀産し,あまり人々の眼にふれることなく来てしまったという事情によると思われる.南米のアンデスに産するCyrtomiphlebium dubiumと,今回発表したCyrtogonellum xichouenseはともにイノデ属に近い形態を持ち,これら数属の系統関係を解明するうえで重要な種となることだろう.
著者
井上 浩
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.140-142, 1982-04-20
被引用文献数
1

A new locality of Takakia lepidozioides HATT. et INOUE was found in the Shiga Highlands, Nagano Pref., where this species was found on more or less moist andesite rocks along small valley, at about 1700 m. alt. The forest vegetation around the habitat of Takakia lepidozioides is dominated by Abies mariesii, Tsuga diversifolia, and Betula ermanii, and the habitat condition was markedly different from that in the previously known localities in Japan. Another new locality was found on Mt. Iide, Yamagata Pref., where this species was found on most granite rock at 1810 m. alt., in alpine vegetation zone ; the present new locality will fill up the gap between Mt. Daisetsu in Hokkaido and high mountains in central Honshu, and it may suggest that this species will distribute in more several other mountains in Tohoku district, northern Honshu. When cultured in moist chamber in the laboratory (at room temperature and diffused sun right), several leaves of Takakia lepidozioides produced mucilage hairs just like those previously known on leafy-stem and rhizomatous stem. This fact may indicate that the leaves are physiologically or histologically undifferentiated from the stem, thus showing very primitive nature of Takakia lepidozioides.
著者
中村 俊之 植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.125-137, 1991-12
被引用文献数
3

カンサイガタコモウセンゴケDorosera spathulata ssp, tokaiensisの分類学的再検討を行った結果,コモウセンゴケD. spathulataとモウセンゴケD. rotundifoliaの雑種起源の分類群であり,独立種として認識されるべきものであるとの結論に達した。従って,学名をDrossera tokaiensis (Komiya & C. Shibata) T. Nakamura & Uedaとし,通称名であったカンサイガタ(関西型)コモウセンゴケを改め,標準和名としてトウカイコモウセンゴケを提唱する。トウカイコモウセンゴケは種子の形態,大きさ,腺毛の発達する部分の葉長に対する比,托葉の形態,裂片数においてコモウセンゴケとモウセンゴケの中間型を示す。また核型は,トウカイコモウセンゴケが2n=60=20L+40Sであり,モウセンゴケの2n=20=20Lとコモウセンゴケの2n=40=40Sの双方のゲノムを有している。なお,これまで葉形についてコモウセンゴケはヘラ型,トウカイコモウセンゴケはスプーン型とされてきた。東海地方では通常確かにそうであるが,近畿地方の集団に顕著にみられるように後者にもヘラ型的な個体が多く,両者の識別点にはならない。形態上の識別点として有効なのは托葉の形態である(Fig. 10)。さらに,トウカイコモウセンゴケは核型と托葉の形態を除けば,東海地方と近畿地方の集団では形態上かなりの点で異なっていることが判明した。この差異がトウカイコモウセンゴケが分類群として成立してからの分化なのか,異なった起源によるのかは今後の課題である。トウカイコモウセンゴケがコモウセンゴケの関西型として認識されだしたのは1950年代後半ごろからのようであり,新分類群として記載されたのは1978年である。しかし,東海,近畿地方の植物誌などでは本種には言及されず,どちらもコモウセンゴケとして扱われてきた。現在の分布状況から判断すると,そのほとんどはトウカイコモウセンゴケであると思われるが,判断は不可能である。湿地が急速に失われていく現状では標本が保管されていない産地にどちらの種が生育していたのか調べようがなく,不明のままであることが多い。改めて,公的機関での永続性のある標本の蓄積の重要性を認識した次第である。
著者
菅原 敬 中村 文子 神林 真理 星 秀章 三上 美代子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.23-31, 1994-09-30
被引用文献数
2

エゾカワラナデシコ(ナデシコ科)には両性花をつける株に混じって雌花のみをつける株が見られることが知られている。しかし, このような雌雄性の分化(雌性両全性異株性)にともなって, この植物の両性花と雌花との間で花の形態や開花習性, 送粉や交配にかかわる特性にどのような差異が生じているのか, また野外での種子や果実の形成, 花粉媒介者はどのようなものか, などについてはほとんど知られていない。そこで, 性型の異なる二つの花の基本的特性を明らかし, 野外での送粉や繁殖の様子を探ることを目的に, 青森県内の2つの集団を用いて調査を進めてきた。両性花と雌花との間には, 花の付属器官(花弁やがくなど)における大きさの違いが認められるが, 開花習性の上でもいくつかの興味深い違いが認められた。その一つは, 花柱発達時期(雌性期)のずれである。雌花では, 開花時にすでに花柱を高く伸ばして柱頭組織を発達させ, 受粉可能な状態にあるが, 両性花では雌性期が開花から2,3日後であった。もう一つは, 開花期間における雌性期の長さで, 雌花では両性花よりもかなり長い雌性期をもっていることが明らかになった。これらは, 雌花の受粉の機会を高めているように思われる。しかし, 野外での果実あたりの種子の生産数は必ずしも両性花より高くなく, 同様な性型を示す他の植物とはやや異なる状況であった。
著者
永友 勇 赤井 重恭
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.48-55, 1953-10-30

1.本論文にはエビウラタケ(Gloeoporus dichrous (FR.) BRES.)に就いて行った實驗結果を記載した。2.本菌はアジア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、アフリカ等に亘って廣く分布し、我が國に於ては北海道、宮城、福井、京都、大阪、愛媛及び九州等に産する。3.本菌は我が國に於ては、廣葉樹の枯枝幹に生ずることのみが知られているが、海外に於ては針葉樹10種以上、廣葉樹21種以上の寄生植物が知られている。筆者等は本菌をソメイヨシノ(Pruns yedoensis)、シダレヤナギ(Salix babylinica)、クヌギ(Quercus acutissima)及びサクラの1種(Prunus sp.)の枝幹上で採集したが、前の3種は本菌の新寄生植物と認むべきものである。4.本菌菌糸の發育と培養温度との關係に就いて、乾杏煎汁寒天、〓芽煎汁寒天、馬鈴薯煎汁寒天の3培養基を用いて實驗した結果では、其の發育最低温度限界は6°-11℃.に、發育最高温度限界は40°-43℃.にあって、發育最適温度は28°-30℃.にあるものと思われる。5.本菌のBAVENDAMM氏酸化酵素反應、並に寄主材料の腐朽型等から見て、本菌はリグニン溶解菌に屬するものと認めた。6.本菌に封する各種樹木材片の比較抵抗力を針葉樹4種、廣葉樹7種に就いて實驗した結果によると、針葉樹は一般に抵抗力が強く、就中スギ(心材)は最も強大で僅かに1.0%の重量減少率を示したに過ぎなかった。これに反し、廣葉樹は一般に抵抗力が弱く、就中センノキは全供試材片中最も激しく腐朽し、24.5%の重量減少率を示した。針葉樹中、アカマツ(心材)は稍、抵抗力が弱く、6.9%の重量減少率を表した。