著者
高宮 正之 渡邊 充 小野 莞爾
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.89-121, 1998-02-28

日本産ミズニラ属(Isoetes)植物のサイトタイプ6種について, 各々の形態学的・解剖学的形質と地理的分布について比較検討し, 分類学的取り扱いを整理した。その結果, 日本産ミズニラ属植物には, 以下の4種1雑種1変種が認められた:I. asiaticaヒメミズニラ(二倍体), I. japonicaミズニラ(六倍体), I. pseudojaponicaミズニラモドキ(新種;八倍体), I.× michinokuanaミチノクミズニラ(新雑種;ミズニラとミズニラモドキの種間雑種で七倍体), I. sinensis var. sinensisシナミズニラ(狭義;四倍体), I. sinensis var. coreanaオオバシナミズニラ(新称新組み合わせ;六倍体)。ミズニラモドキとミチノクミズニラは, 大胞子が網目状模様を, 小胞子が針状突起を持つことで特徴付けられる。ミズニラモドキは, 稔性のある胞子を作り有性生殖するのに対し, ミチノクミズニラは, 不稔性のF_1雑種である。シナミズニラとオオバシナミズニラとは, 葉の断面の形や, 小胞子の大きさ・孔辺細砲長などによって区別される。
著者
前川 文夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.274-279, 1943-11-01
被引用文献数
15
著者
田村 道夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.177-187, 1991-12

キンポウゲ亜科は痩果をつくり,染色体は長く,クリスマスローズ亜科より進化したと考えられる。フクジュソウ連では胚珠は心皮の両側の縁より生じ,対向帯中央より生じるほかの連とは異なっている。イチリンソウ連は普通花弁をもたないが,Kingdonia,Naravelia,ボタンヅル属(ミヤマハンショウヅル節),オキナグサ属のいくつかの節には花弁がある。キンポウゲ科の花弁は雄蕋の変化したもので,とくにオキナグサ属のものは小さい棍棒状の蜜分泌器官である。イチリンソウ属は世界中に分布し,南半球にもSubgen. Rigida, Subgen. Hepaticifolia, Sect. Crassifolia, Sect. Pulsatilloides, Sect. Archimillifoliaなど分布範囲の狭い固有分類群がある一方,綿毛に被われた小さな痩果をもつアネモネ亜属に属する種などは南米に新しく分布していったものと思われる。キンポウゲ連では,普通花弁が発達するが,モミジカラマツ属は花弁をもたず原始的とみなされる。キンポウゲ属は約600種をもち,本科でもっとも大きく世界中に分布する。イチリンソウ属と同じくSect. Pseudadonisのような南半球の固有分類群がある一方,Sect. Micranthusのように新しく南半球に広がったと思われるものもある。
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.250-262, 1936-12-15

143. コガネシダモドキ(新稱) Woodsia Saitoana TAGAWA はコガネシダ W. macrochlaena METT. によく似てゐるが,葉柄の關節は中部より少し上にあり,羽片は上部のものを除き無柄で中軸に沿着せず,嚢堆も少し小いから別種である.朝鮮咸鏡北道羅北(齋藤龍本)及び冠〓峰(大井次三郎)で發見せられた新種.學名は原標本の採集者齋藤氏を記念したものである. 144. イヌイハデンダ(新稱) Woodsia intermedia TAGAWA はイハデンダ W. polystichoides EAT. とコガネシダ W. macrochlaena METT. との中間に位するもので,どちらかといへばイハデンダに近い.葉柄には鱗片が少く,中軸及び羽片の下面には毛に混つて極めて疏に毛状の鱗片があり,上部の羽片は明に中軸に沿着してゐるからイハデンダとは異る別種である.原標本は小林勝氏が旅順の老鐵山で採集せられたもの.又内山富次郎氏は京城の南山で,吉野善介氏は備中國上房郡豊野村でも採集せられてゐる. 145. カウライミヤマイハデンダ(新稱) Woodsia pseudo-ilvensis TAGAWA はミヤマイハデンダ W. ilvensis R. BR. に頗るよく似てゐるが,葉柄には長軟毛がミヤマイハデンダに於けるよりも密に生じ,關節は葉柄の中部より上にあり,葉柄基部の鱗片は幅廣く,中軸及び羽片中肋の下面には毛状の鱗片が極めて疎に生じ,包膜は皿状で不規則に尖裂し長縁毛があるから別種にした.齋藤龍本氏が朝鮮咸鏡北道魚遊洞で發見せられたもの. 146. オホイハデンダ(新稱) Woodsia longifolia TAGAWA はヒメデンダ W. subcordata TURCZ. に近縁のものであるが,全體に強壮で葉柄も長く太く關節はその頂端にあり,葉身は線形で時に長さ30cm. 幅3.5cm. にも達し,羽片も長く,葉柄及び中軸に毛も多く,包膜の邊縁にある毛は長い.本種及びヒメデンダの葉柄は元來その頂端に關節があるが,最下の羽片は縮小し且つ脱落しやすいから,この羽片が脱落したときには關節は葉柄の途中にあることになる. 147. ホソバミヤマイハデンダ(新稱) Woodsia ilvensis R. BR. var. angustifolia TAGAWA はミヤマイハデンダの狹葉の變種で,葉身は線形又は狹披針形,長さ8-12cm. 幅1.5-2cm. 齋藤龍本氏が朝鮮咸鏡北道朱乙温で發見せられたもの. 148. ケンザンデンダ Woodsia tsurugisanensis MAKINO の切込みの少いものは北支那の W. Hancockii BAK. に一致し,切込みの深いものは同じく北支那の W. gracillima C. CHR. に一致する.畢竟この三種は同一種で,カラフトイハデンダ W. glabella R BR. の變種であらうと思ふが,今しばらく別種にして Woodsia Hancockii BAK. をその學名に採用しておかう.日本では阿波の劔山が唯一の産地である. 149. トガクシデンダ W. Yazawai MAK. はカラフトイハデンダ Woodsia glabella R. BR. と同種である.日本では樺太,北朝鮮,本州中部の高山(戸隱山,八ケ岳,横川岳,北岳等)にあるが,滿洲,支那(甘肅省),ダフリヤ,カムチヤツカ,ベーリング地方,西伯利亞,歐州中部及び北部,北亞米利加と分布の頗る廣いものである. 150. オホヤグルマシダ (土井氏新稱) Dryopteris Doiana TAGAWA は臺灣のマキヒレシダ D. cyrtolepis HAYATA によく似てゐるが,葉は大きく,羽片の先端は長く尾状に伸長し,裂片の邊縁には不規則に齒牙状の鋸齒がある.成熟した嚢堆の包膜は縱に二ツに裂けてゐるが,この特徴は近縁のヲシダ D. crassirhizoma NAKAI やミヤマクマワラビ D. polylepis C. CHR. には見ぬところである.川村純二氏が薩摩國櫻島の湯之で發見せられたもの.學名は九州南部の植物調査に多大の功献をせられ且つ和名の命名者たる土井美夫氏を記念したものである.
著者
堀田 満
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.153-162, 1967-05-31

前回はサトイモ科の雌雄同花の群とヤモノイモ科,ウツボカヅラ科及びスイレン科について,今回はサトイモ科の雌雄異花の群とヒナノシャクジョウ科について報告した.サトイモ科の Raphidophora, Scindapsus, Epipremnum の3属は胚珠の数により機械的に分類されているため,系統群としては再検討を要するが,一応慣例にしたがっておいた.また Homalomena geniculata はボルネオではサラワク西部に1カ所知られていただけのものである.ウツボカヅラ科の Nepenthes muluensis の所属する Motanae 群はスマトラ,マレ-半島の高地が分布の中心で,ボルネオ北部には知られていなかった.スイレン科の Barclaya 属も,ボルネオからは1種しか知られていなかった属である(アジア大陸に数種分布している).
著者
瀬戸口 浩彰 渡邊 かよ 高相 徳志郎 仲里 長浩 戸部 博
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.201-205, 2000-02-28

南西諸島西表島の船浦にあるニッパヤシ集団は1959年に天然記念物に指定されて以来,縮小の一途をたどっている。この集団の全ての個体(28個体)の遺伝的多様性をRAPDで解析した結果,27個体は全く同じRAPDバンドをもち,小型の1個体だけが僅かな多型を示した。従って,この27個体は遺伝的に同一なクローンである可能性がある。これは集団内で開花しても種子が全く形成されない事実にも関連していると思われる。ニッパヤシは根茎が水平方向に伸長して2分岐し,その各々の先端にシュートを形成しながら栄養繁殖をする性質があり,船浦においてもこの栄養繁殖によってのみ集団が維持されていると考えられる。集団サイズの急激な縮小,集団が栄養繁殖によるクローンであること,結実しないことなどを考えると,船浦のニッパヤシは絶滅の途をたどっていると言える。
著者
野口 順子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-36, 1988-06-25
被引用文献数
1

The differentiation and history of H. middendorfii complex in Japan is suggested in this paper based on the geographical and ecological variations of the karyology with the C-banding method. Each interstitial C-band occurs in only the specific regions, respectively. The interstitial C-band on the long arm of the fifth pair of chromosomes occurs only in Hokkaido, that on the long arm of the eighth pair of chromosomes occurs only in Mt. Hakusan (2300 m alt.) and Takayama (600 m alt.) of Chubu district, that on the long arm of the ninth pair of chromosomes occurs only in the Kanto and Tohoku districts. The distributional range which each interstitial C-band shows suggests the very important facts on the differentiation and history H. middendorfii complex in Japan. It is inferred that the chromosomes having the interstitial C-bands have been formed by adding the part of the interstitial C-band. The range which the chromosome having each interstitial C-band appears seem to show the area which that has dispersed, and also to be to show the dispersal and migration of H. middendorfii complex in the respective regions since that occurs. The migration from lower cool temperate zone to subalpine zone in H. middendorfii complex seems to be relatively new phenomenon in the history of this species complex in Japan, probably after ice age. Since the eighth pair of chromosomes with the interstitial C-band on the long arm which show the most narrow range occur both in the subalpine zone of Mt. Hakusan and cool temperate zone of Takayama in Gifu Prefecture. Furthermore, the distributional range of each interstitial C-band suggests that the migration from lower cool temperate zone to subalpine zone or the occupations to the various habitats of H. middendorfii complex in Japan seem to occur independently in the respective regions.
著者
邑田 仁
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.185-208, 1995-01-28
被引用文献数
7

マムシグサ群は長い偽茎と, 葉軸の発達する鳥足状小葉により特徴づけられるテンナンショウ属マムシグサ節sect.Pedatisectaの一群である。形態的に多型であり, 多くの分類群が記載されてきたが, 遺伝的には分化がきわめて小さいことが明らかになっている。また, 群内で認められた形態群間に低頻度ではあるが中間型がある, 自然雑種がある, F_1雑種の花粉稔性が低下しない, など雑種形成を通じて遺伝的な交流があることを示唆する状況証拠もある。しかし一方では, 多くの場所で, 異なる形態群が形態上の差異を保ちつつ同所的に分布しているのも事実である。本稿では, 低頻度の中間型を除いた場合, マムシグサ群内にどのような形態群が認められ, どのような分布を示すかについて現在までの知見をまとめることを試みた。また, 認めた形態群に関して発表されている学名との対応を試みた。マムシグサ群を, 花期が遅く, 仏炎苞が葉よりも遅く展開し, 舷部内面に細かい縦皺がある第1亜群(カントウマムシグサ亜群), 花期が早く, 仏炎苞が葉よりも早く展開し, 舷部内面が平滑な第2亜群(マムシグサ亜群), 花期や仏炎苞展開のタイミングがそれらの中間的で, 舷部内面や辺縁にしばしば微細な突起を生ずる第3亜群(ホソバテンナンショウ亜群)に大別する。第1群にはカントウマムシグサ(トウゴクマムシグサ), ミクニテンナンショウ, コウライテンナンショウ, ハチジョウテンナンショウ, オオマムシグサ(イズテンナンショウ, ヤマグチテンナンショウ), ヤマトテンナンショウ, ヤマザトマムシグサ, ヤマジノテンナンショウ, スズカマムシグサ, 第2群には, マムシグサ(ヤクシマテンナンショウ), ヒトヨシテンナンショウ, タケシママムシグサ, 第3群にはホソバテンナンショウ, ミャママムシグサ, ウメガシマテンナンショウ, "中国地方型のホソバテンナンショウ", などが認められる。しかし, 現地調査はまだ不十分なものであり, フェノロジーやポリネーターに関することも含め, より詳細な検討が必要である。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.165-170, 1978-11-30
被引用文献数
1

キク属はこれまでは大きくまとめて,Chrysanthemum L. に包含していた.すなわち L_<INNE> はシュンギク,モクシュンギク,フランスギク,アキノコハマギク,シマカンキクなどをこの属に含めている.その後, B_<ENTHAM> と H_<OFFMANN> などもこの大きな見解をとり,私もこの見解を採用していた.今度は従来のキク属があまり大き過ぎるので,この属を分ける見解を採用した.リンネの Chrysanthemum L. (1753) はトールヌフォールの J. P. T_<OURNEFORT> の「植物分類原論」(1719) にある Chrysanthemum と Leucanthemum とを合一して,それに Chrysanthemum の名を用いたものである.トールヌフォールの Chrysanthemum はシュンギク C. coronorium L. やアラゲシュンギク C. segetum L. を含んでいる.これはディオスコリーデスが一世紀に書いた「薬物について」にある Chrysanthemon から引いたものである.この Chrysanthemon はシュンギクであるから Chrysanthemum の type はシュンギクである.シュンギクは雌花の花冠が黄色で,その痩果が3角柱有翼で,両性花の痩果は円柱形である.この特徴をもつものをシュンギク属 Chrysanthemum L. とする.リンネの Tanacetum L. (1753) はエゾヨモギギク T. vulgare L. が type である.エゾヨモギギクは頭花が小さくて多数あり,密散房状につく.雌花の花冠は筒状で先は3裂し,痩花は両性花のものと同様,5肋があり,先に短い冠がつく.痩花は粘質の細胞や樹脂道がなく,水にひたしても粘らない.Pyrethrum Z_<INN> (1757) では痩花に粘質の細胞と樹脂道があり,水につけると粘るので,T_<ZVELEV> は Tanacetum から区別している.Leucanthemum M_<ILLER> (1754) はフランスギク L. vulgare L_<AM> が Type である.痩花は雌花でも両性花でも冠がない.T_<ZVELEV> はこの点で Tanacetum から区別している.また,ミコシギクは Leucanthemella lineare (M_<ATSUM>.) T_<ZVELEV> とした.モクシュンギク属 Argyranthemum W_<EBB> ex S_<CH>.-B_<IP>. はモクシュンギク A. frutescens (L.) S_<CHULTS> B_<IPONTINUS> が Type である.モクシュンギクは多年生で低木状となる.雌花は広い3翼があり,膜質の冠がある.両性花の果実はやや扁平で狭翼が一つあり,膜質の裂けた冠がある.これはシュンギクとは多年生であること,舌状花冠が白いのでちがうが,近縁であって,交配すると雑種ができ,舌状花冠の黄色のものが広く栽培されている.キク属 Dendranthema (DC.) D_<ES> M_<OUL>. (1855) はキク D. grandiflorum (R_<AMAT>.) K_<ITAMURA> を type として設けられた属である.はじめデカンドールは Pyrethrum の sect. Dendranthema とし,シマカンギクとキクとを入れている.舌状花が多列となり,その間に膜質の苞が入ることを特徴としているから,キクが type である.茎が木質だとするがキクは草である.Dendranthema は木の花の意である.節だから Dendranthemum の複数形にしたのだから,属では Dendranthemum とした方がよかった.この属の性については,Des M_<OULINS> は D. indicum (中性) と D. sinensis (女性または男性) として混乱しているが,T_<ZVELEV> は中性とした.キクの学名は Dendranthema grandiflorum (R_<AMAT>.) K_<ITAMURA> となる.Anthemis grandiflorum R_<AMATUELLE> が1792年に発表され,これが最も古い種名である.R_<AMATUELLE> はもし Chrysanthemum に入れるなら Chrysanthemum morifolium R_<AMAT>. とすべきであるとしているから,これは nom. prov. で採用できない.キク属は多年草で,痩花は横断面が円柱形で下端は狭まり,上端は切形で冠はない.舌状花が発達するものと発達しないものとがあり,この間きわめて近縁で,よく交配する.多くは葉裏にT字状毛がある.痩花は水にひたすと粘る.ハマギク属は多年生で低木.雌花の痩花は鈍三角柱で少し扁平でやや曲り,両性花の痩花より小さく短い冠をもつ.両性花の痩花は細い円柱形で10肋があり,先に切れこんだ冠をもつ.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.178-185, 1950-11-30
被引用文献数
5
著者
徳田 御稔
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.184-186, 1963-03-30
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-36, 1936-01-30

ノツポロガンクビザウ (Carpesium Matsuei TATEW. et KITAMURA). ガンクビサウの類に二三年前から氣になつてゐたものがあつた,それは小生が加賀,市ノ瀬に採集した時普通のガンクビサウとは變異のちがふ群落を見つけて,それを研究したが充分な自信がなかつた.本年札幌に研究に行つた時館脇博士が變なガンクビサウがあるから野幌まで行かないかといふのでお伴して觀察したところそれがあれであつた.野幌には澤山箇体を見たがこればかりで尚後に室蘭でも澤山採集したがその附近に眞正のガンクビサウはない.それで別のものだと自信を得て研究したところガンクビサウに比するに頭花は半球形,總苞外片は長く先端は草質,雌花の花冠は上部が狹まつてゐるので全く別の種であると考へる樣になつた.北海道より本洲東北,北陸に分布する種類である.松江氏は館脇博士と共に野幌の植物を研究され且つこのガンクビサウ採集についても色々と御教へ下さつた方である. Chrysant hemum vestitum (HEMSL.) KITAMURA. これは英國の學者,HEMSLEY,HENRYの兩氏,並びに米國の BAILEY氏などが家菊と原種と考へ〓々論んぜられ且つ方々で圖説にされた有名な植物である.私はこの植物の標品即ちHENRY氏が支那湖北省宜昌で採集し HEMSLEY氏が研究した標品の Duplicate type を東京帝大標品庫で拝見し久しく見たいと思つた標品を見て大變禧しかつた.これは日本のリュウノウギクに似たもので葉の裏に灰白色の綿毛が厚く葉底は楔形であつて,家菊では葉の裏の毛が薄く葉底は心臟形で無論別種であると思ふ.この植物の研究を中井教授に御願ひ申し上げたところ,先生は心よく御許し下さつた.謹んで深謝する次第である. ミヤトジマギク(Chrysant hemum miyatojimense KITAMURA.) 陸前宮戸島は先住民族の貝塚などある古くそして美しい島であるが,木村有香氏がこの島に變つた菊があるから研究してはどうかと云つて下さつたのは本年の初春であつた.今秋同氏のお伴してこの島に渡り問題の菊を勸察したのは美しい思ひ出である.もつとも前から其の菊の性状をくわしく話して頂いたので小生の勸察は蛇足であつたかもしれない.この島に澤山に咲きほこつてゐるコハマギクに比するに莖が長く50-70センチあり下部は長く地に匐ひ葉がなく上部が上昇し葉と花をつける.葉の裏面にはコハマギクの程んど毛なきに反し可成り毛多く,尚莖にも總苞片にも毛が多い.花梗はコハマギクの樣に長く剛直でなく短かくて細く繖房状につく,それでこの菊の自生地が墓塲であることから考へれば或ひは墓塲にあげられた小菊系のものとコハマギクとの間に自然に出來た雜種ではあるまいかと想像もされる.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.97-111, 1934-06-30

ユキヨモギ(Artemisia Momiyamae KITAMURA). 同好の友人籾山泰一氏は小生の願ひをかなえて,この珍種を送つて下さつた.從來のヨモギ群のもので,葉は上面にも白柔毛があつて,頭花は筒状4粍,長1.5粍幅の小さいもの,これが非常に澤山につく.相模,稲村ケ崎の産. ウスバヨモギ(Artemisia debilis KITAMURA). 珍種,葉は有柄二回羽状中裂,両面とも白柔毛がなく,緑色薄質,頭花は少なく大きく球形である.小泉源一博士の朝鮮智異山で採集されたものである. タイトウヤマヂノギク(Aster altaicus WILLD.) 從來我が國では Aster altaicus WILLD. が産する樣に考へられてゐたが,私はアルタイ地方の本場の Aster altaicus WILLD. を昨年ロシヤのトムスク大學から送つてもらつた.驚いた事には我が國のヤマヂノギクとは全く異なり葉は非常に細く針金の如く,びつしり短毛が生えてこれこそ私が先年台灣の台東ヒナン大溪のガラガラの河原で採集し,タイトウヤマヂノギク(Aster altaicus var. taitoensis KITAM.)なる學名を附したのと同じである.不明を謝し訂正する.この植物は沙漠の植物で滿州里で佐藤潤平氏の採集されたものが北の方では分布の東限である.蒙古にもある. コウライヤマヂノギク(Aster ciliosa KITAMURA). 上述の理由に依り朝鮮のヤマヂノギクに新學名を附する.尚本州でヤマヂノギクと云われてゐる者の中には Heteropappus 屬の邊花の冠毛が祖先返りで一部延長したものも入つてゐるがこの場合は延長したと云つても非常に發達が悪く,これは Heteropappus 屬に入るべきである.朝鮮には上述の如きでない Aster ciliosa KITAMURA を産する.内地のヤマヂノギクに就いては今後の研究が必要である.尚筆者には草木圖説のヤマヂノギクの圖は Heteropappus hispidus LESS. の樣にも思える. バンヂンガンクビサウ(Carpesium Hosokawae KITAM.) ホソバガンクビサウに似てゐるが頭花小さく花梗長く,葉は小さく質硬く毛多き点で異なる,台灣の山地處々に生ずる.細川隆英氏の下さつた標品から出た新種.
著者
高橋 弘
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.33-40, 1994-09-30

ヤマホトトギスの花部生態学的研究を行い, 近縁なヤマジノホトトギスと比較した。両種は受粉様式の特徴の多くが似ている。花は2日間咲いており, 雄性先熟で, 自家和合性がある。主要なポリネーターはトラマルハナバチである。しかし, ヤマジノホトトギスは花被が基部から1/3のところで平開するのに対して, ヤマホトトギスは下方へ折れ曲がる。トラマルハナバチは折れ下がった花被片に止まってから折れた部分の稜によじ登るか, あるいは直接稜部に止まって, 吸蜜する。隣の蜜腺を探るためには, その狭い稜部を歩かなければならない。ホトトギス属の直立型の花を持つほとんどの種には, 花被の基部近くの内面に黄橙色の蜜標がある。また, ヤマジノホトトギスは同じ場所に大きな紫色の斑点があり, それも蜜標と考えられる。しかし, ヤマホトトギスのその場所には可視斑点は認められず, 特別に紫外線を吸収するか反射する部分もない。花被の稜に紫斑点が集中し, また折れ下がった花被部の紫斑が少ない花では, その斑点は均一に分布せずに稜近くに集まる傾向があるが, そこは他の種の蜜標がある位置より上である。大部分のホトトギス属植物がほととんど同じ蜜標を持っていることなどから, ヤマホトトギスはそれを退化させたと考えるのが自然であろう。いくつかの植物種で, 蜜標を持たない植物は持つものより適応度が下がることが知られている。ヤマホトトギスは蜜標を退化させても, 適応度を低下させないと考えられる。トラマルハナバチはヤマホトトギスの折れ下がった花被に止まると, 頭が必然的に花の基部近くに来るし, 稜部にいても, そこが狭くて窮屈なため, 頭は基部近辺から遠く離れることはない。従って, 蜜の匂いを感じて, 蜜標がなくても正確に蜜腺を探るのかも知れない。ヤマホトトギスに蜜標がないのは, その特殊な花被の形態と関連があると思われる。稜上とその近辺に集まっている斑点は, ポリネーターの着地目標になっている可能性がある。
著者
菅原 敬 堀井 雄治郎 久原 秦雅 平田 聡子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.21-26, 1999-08-28

アオモリマンテマは本州北部の青森県然岳とその周辺地域(白神山地の一部),秋田県男鹿半島,和賀山塊の限られた地域に産するナデシコ科の多年草である。この植物は,垂直に切り立った岩壁に生育し,また生育地も互いに離れていることから集団間に何らかの分化が生じていることが予想され,実際野外調査で和賀山塊産の個体は一見して花が大きいように思われた。そこで青森県および秋田県の5集団を用いて,この種の花形態(特に花冠サイズに着目)ならびに核形態を調査した。その結果,秋田県の集団(男鹿,和賀山塊の3集団)は花弁の幅が確かに青森県の集団(然岳,暗門)より広い傾向にあるが,全体としては連続した変異であることがわかった。また,染色体数は2n=72で,集団間に核型においても違いは認められなかった。この染色体数はこれまで報告された日本産種のなかではもっとも多く,同属の染色体基本数x=12を考慮すると倍数性(6倍体)由来と推定された。形態比較や染色体のデータに基づいて近縁と考えられるタカネマンテマとの関係についても若干の考察を試みた。
著者
秋山 弘之
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.p21-26, 1993-08
被引用文献数
1

インドネシア科学院ボゴール標本館と東京大学との共同研究として, 1991年に西カリマンタンにおける渓流沿い植物の調査が行われた.その際見いだされた, ホウオウゴケ属(蘚類)の新種Fissidens dalamairを記載した。本種はアジアに広く分布するホウオウゴケF.nobilisに近縁であるが, 細く長い茎を持つこと, 葉が急角度で茎につくこと, 葉の舷が強く発達するといった形態的特徴, また, 常に流水中に生育するという生態的特徴を有しており, 渓流沿い環境により適応して二次的に種分化をおこした種であると考える。
著者
松尾 和人
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.37-60, 1989-07-30
被引用文献数
1

The geographical distribution, ecology, and morphological variations of three native and one introduced taxa of Plantago belonging to Section Plantago (sensu WAGENITZ, 1975), i.e. Plantago asiatica, P. japonica, P. togashii and P. major, were critically investigated based on materials collected from the field and deposited in the Herbaria (TI, KYO and SAPT), and further, the taxonomic status of these taxa was re-evaluated in the light of evidence obtained in the present study. As a result, it became evident that P. togashii, which has thus far been regarded to be an endemic species in the coastal grasslands and gravel barrens of Hokkaido, is conspecific with P. japonica, which occurs in the coastal habitats of Honshu. P. japonica (including P. togashii) is a very variable species, but it is characterized by its extremely robust growth habits; it possesses large, thick coriaceous leaves, attaining 56.6 cm in length and 18.0 cm in width, and also long spikes often exceeding 70 cam in height. It was also found that this species produced mean seed numbers of 8.7-13.7 per capsule, ranging from 5 (minimum) to 17 (maximum). Seeds are small, 1.0-1.3 mm in mean length, and 0.6-0.7 mm in mean width, with characteristically elevated and striped ornamentation as observed by SEM. Both plants referred to P. japonica collected from Honshu and those of P. togashii (in the classical sense) collected from Hokkaido were found to be diploid with 2n=12 somatic chromosomes and to possess similar karyotypes (MATSUO and NOGUCHI, 1989). Another closely related species, P. major, also occurs in Hokkaido and northern as well as central Honshu; it was, however, without doubt introduced and naturalized, possibly from Europe. Because of the fact that P. major (diploid with 2n=12 chromosomes) produces mean seed numbers of 8.6-12.2 per capsule, ranging from 4 to 24, and seeds ranging from 1.3-1.4 mm in mean length and 0.8 mm in mean width, the Japanese maritime species, P. japonica (incl. P. togashii), which possesses very similar seed characters, was once considered to be conspecific with European P. major, i.e., P. major var. japonica (FRANCH. et SAVAT.) MIYABE. However, as described above, P. japonica is, as shown by its characteristic vegetative as well as other reproductive traits, a unique maritime species occupying salt-marsh grasslands or gravel barrens and thus possessing a entirely different ecological niche. Another native plantain species, P. asiatica, is a tetraploid with 2n=24 chromosomes (MATSUO NOGUCHI, 1989), and is characterized by much smaller seed numbers per capsule, ranging from 4.5 to 5.9 on the average, and much larger seed size, 1.3-2.0 mm in length ×0.8-1.0 mm in width.
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.184-191, 1938-09-30

207. 熱河のケガハシダ Gymnopteris borealisinensis KITAGAWA は古くFRANCHET が Gymnogramme vestita HOOK. var. auriculata FRANCH. と命名したものと同種である.これは Gymnopteris vestita (HOOK.) UND. に外形だけは似てゐるが,むしろ G. bipinnata CHRIST に近いもので,ただこれは2囘羽状複生であるのにケガハシダは單羽状複生であるといふ差があるだけである.筆者はケガハシダを G. bipinnata CHRIST の變種とする秦仁昌氏の説を採つて Gymnopteris bipinnata CHRIST var. auriculata (FRANCH.) CHING といふ學名を用ひたい.種と考へるならばもちろん北川氏の學名を用ふべきである. 208. 印度支那の Diplazium aridum CHRIST と南支那の D. nudicaule (COPEL.) C. CHR. とは共に琉球や臺灣に多いシマシロヤマシダ Diplazium Doederleinii (LUERSS.) MAKINO と同種であると思ふ. 208. 印度支那の Diplazium contermium CHRIST と南支那の D. allantodioides CHING とは共にコクマウクジヤク D. virescens KUNZE と同種である.又 WHEELER が日本の何處かで採つた D. Wheeleri (BAK.) DIELS や屋久島のヤクシマクジヤク D. tutchuense KOIDZ. も同種であると思ふ. 210. タニイヌワラビの學名には Athyrium rigescens MAKINO よりも古い Asplenium otophorum MIQ. をメシダ屬に移した Athyrium otophorum (MIQ.) KOIDZ. を用ひるのがよい.暖地に多いもので,九州や四國に多く,本州では中國,近畿,北陸は越中あたりまで,東海道は伊豆附近まであり,秦仁昌氏によれば支那にも亦あるといふ. 211. 熱河のシラゲデンダ Woodsia jehoiensis NAKAI et KITAGAWA は支那の W. Rosthorniana DIELS と同種である. 212. イハデンダ屬 Woodsia R. BR. の中で Sect. Eriosorus CHING に屬する種類は邦内にはまだ一種も發見せられてゐなかつたが,京大農學部林學教室の岡本省吾氏が,昨年遂に臺灣の關山(3715m)で發見せられた.これは支那の W. cinnamomea CHRIST に似てゐるが,葉柄は黒檀色,羽片は深く切込み,裏面には毛の他に細い鱗片もあるから別種である.他に比較すべき種類もみあたらないので,新種にしてクワンザンデンダ(新稱) Woodsia Okamotoi TAGAWA sp. nov. と命名した. 213. イハヘゴモドキ(新稱) Dryopteris Mayebarae TAGAWA sp. nov. は前原勘次郎氏が肥後の人吉で10年ばかり前に發見せられたものである.外形はヲクマワラビ D. uniformis MAKINO の切込の淺いものに頗るよく似てゐるが,胞子には隆起皺があつて疣状の小突起がないからイハヘゴ D. cycadina C. CHR. var. meianolepis NAKAI に近いものである.