著者
松浦 茂樹
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.51-72, 2019-08-01 (Released:2020-11-02)
参考文献数
13

江戸時代,「ヒト」としての「黒鍬」は,幕府職制としての「黒鍬」と,川除普請や新田開発を行った土工のプロとしての「黒鍬」がいた。彼らは直接的には関係がない。天保14年(1843)に行われた印旛沼開削普請で登場した「江戸黒鍬」は,筋骨隆々で全身に刺青が描かれ,その働きは他の人夫と比べ抜群であった。彼らは,隅田川浚渫に従事していたのだろう。江戸時代後期,利根川沿いの各地にも「黒鍬」はいた。彼らは,肉体労働を行うとともに技能者として土工現場を指導していた。一方,出稼ぎの黒鍬集団の地としては尾張知多半島が有名であるが,畿内そして関東にも進出していた。 明治に入ると,鉄道などの社会インフラ整備が進められていったが,大規模工事を担う新たな土工のプロが出現した。職業分類では「土方」と整理されたが,「黒鍬」と「俠客」の中から育っていった。「俠客」は,大勢の人夫をまとめる力をもつ者として参入してきたのである。なお,土を掘削したり運んだり基礎を固める作業を意味する用語「土工」も,earth work を訳したものとして誕生した。
著者
村上 卓也
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
no.353, pp.105-125, 2017-02

平成23(2011)年3月11日,午後2時46分頃,三陸沖を震源とする我が国災害史上最大級Mw(モーメントマグニチュード)9.0の巨大地震が発生した。余震を含め震源域は,三陸沖から茨城沖にかけて全長約450km,幅約150kmの範囲に集中し,この地震で発生した断層面のすべり量は最大20m以上と,かつて経験したことのない大規模な地殻変動を伴うものであった。この地震に伴い,大規模な津波が発生し,震源に近い東北地方太平洋沿岸部では巨大津波が甚大な被害をもたらした。仙台湾沿岸では,集落を中心に仙台塩竃港・仙台空港・仙台東部道路及び県・市道,工業地帯,農地等が壊滅的な被害を受けたほか,海岸保全区域の防潮堤はほぼ全壊・消失,海岸防災林もその多くが消失するなどの甚大な被害を受けた。海岸防災林は,潮害の防備,飛砂・風害の防備等の災害防止機能を有している。また,農地や集落を守るなど生活環境の保全に重要な役割を果たしており,津波に対しては,津波エネルギーの減衰効果,漂流物の捕捉効果及び内陸部への津波到達時間の遅延効果を有し,その早期復旧が求められている。仙台湾地区の海岸防災林の復旧については,国直轄事業による民有保安林の復旧要望を宮城県知事から受け,民有林直轄治山事業により林野庁が国有林と一体的に直接,その復旧を進めており,他所管事業と施工時期等について調整を図りながら,林帯地盤の復旧が完了した箇所から順次,植栽を実施し,平成23(2011)年から概ね10ヶ年での完了を目指しているところである。
著者
三上 正男
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.45-62, 1997-02-01 (Released:2019-03-28)
参考文献数
32
著者
小柳 賢太 五味 高志
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.34-51, 2018-02-01 (Released:2019-04-05)
参考文献数
37

平成28年熊本地震により阿蘇山の中央火口丘群に生じた崩壊は,森林と草地で分布と土砂移動の特徴が異なることが分かった。森林斜面に比べ草地斜面では崩壊密度が高く,特に35度以上の急斜面では草地斜面の崩壊が顕著であった。草地の牧野道や林道の崩壊も顕著であり,農林業の再建に向けて,土地被覆に応じた斜面崩壊危険度の判定を進める必要がある。また,地震後は草地斜面に比べ森林斜面で土砂の滞留が多く,今後の豪雨による土砂の再移動,それに伴う土石流などの二次災害が懸念された。地域の復興に向けては,上流域に滞留する土砂の再移動にも配慮する必要があり,長期的な土砂移動の観測が必要である。林業の復興という観点では倒流木の撤去などによる荒廃した林地の再生が必要であるが,倒流木が撤去されることによる土砂移動の変化については不明瞭であり,流域の復興と二次災害の防災・減災を両立して進めることが今後の課題である。
著者
和田 一範
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.100-120, 2018

<p>防災の基本は,自助・共助・公助である。自助・共助・公助を語るにあたっては,自助・共助と,公助との連携を考えることが重要である。 自助・共助は,災害に際して,単に避難をするだけではない。また,これを支援する公助も,単に公的な支援の拡充という視点で展開するのではなく,自助・共助側からの発信を受けて,これに応える形で施策を展開してゆく,真の協働のパートナーとしてとらえてゆくことが重要である。 自助・共助側からの自主的な取り組みにこそ,大きな意味と効果がある。公助の推進にあたっては,自助・共助から発信する必要性に基づく,公的な支援,公助の展開をシステム化する。 自助・共助と,公助との連携を社会システム化し,継承してゆくことが重要である。 上杉鷹山の三助,武田信玄の竜王河原宿,信玄堤の神輿練り御幸祭と三社御幸の故事から,これらの教訓をひもとき,つないでゆくことの重要性を再認識する。</p>