著者
田中 賢治
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.27-33, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
1

植物活性剤,化粧品原料等に利用されるフルボ酸は,日本の森林土壌中に含まれる有用な有機酸であるが土壌中に微量しか含まれておらず,これらの用途に利用するために海外から採掘された有限資源を輸入して国内で利用してきた経緯がある.こうした状況の中,日本の森林から間伐によって産出される木質資材と木炭等の生産過程で産出される有機酸を利用することによって有機物の縮合・重合を促すことに成功したことから,人工的にフルボ酸を高純度で量産化できるようになってきた.このように量産化されるようになってきたフルボ酸は,国内外での環境改善に利用されていることから,一般的なフルボ酸等の高分子化合物の解説と環境改善への利用について説明する.
著者
鎌田 知也
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.75-80, 2019-09-30 (Released:2019-10-24)
参考文献数
2

営農型太陽光発電,いわゆるソーラーシェアリングは農地での営農を継続しながら農地を立体的に活用しほ場内に支柱を立てて太陽光パネルを設置・上部空間で発電を行うことで,営農と発電を両立する取り組みである.太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー電力は地球温暖化対策や原発依存体制からの脱却,エネルギー安全保障政策等重要な役割を担っているが,営農型太陽光発電はそれらに加え売電収益による農家所得の向上や農業経営の下支え,荒廃農地の再生等,農業・農村が抱える課題解決の一つのツールとしても注目されはじめており,農林水産省としても健全な営農型太陽光発電の取り組みを促進しているところである.地球規模でも限られた土地や水資源を有効活用し,食料や持続可能で安価な電力供給の面で営農型太陽光発電の潜在力は大きい.本稿では,営農型太陽光発電をめぐる背景及び経緯,期待される効果,現状と課題,海外展開への可能性等について触れる.
著者
遠藤 仁
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.53-58, 2015 (Released:2015-10-27)
参考文献数
10

半乾燥地に属するインド北西部では,家畜の糞や尿等の排泄物が資源として有効に活用されている.本稿では,ハリヤーナー州,ラージャスターン州,グジャラート州のコブウシやスイギュウの糞の利用法について,床の強化材や,燃料としての利用事例を報告する.特に燃料への利用としては,牛糞を円盤状に成形して乾燥させた保存用の燃料である牛糞ケーキ(cow dung cake)の製作,保存方法について詳細に報告する.そして,その燃焼時間の計測結果及び,燃焼実験の結果について報告し,分析した.牛糞の燃料としての利用は,半乾燥地で薪炭材として圧迫されている森林資源へのストレスを軽減させる有効なものである一方,薪よりも牛糞の燃焼が有害物質を多く輩出する等の問題点があることにも言及し,半乾燥地での家畜糞利用の持続可能性について考察した.
著者
齋藤 敬 榊原 大祐 草間 裕介
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.33-38, 2018 (Released:2018-06-25)
参考文献数
9

我々は鳥獣被害対策に向け,動物に対しコミュニケーションを行う棲み分けロボットの開発を行っている.開発中の多脚歩行ロボット「しろやぎ」は機械的リンク機構の積極活用によって,低コスト化可能なシンプルさと強度の高さを実現している.直近はクマ対策に適用可能な新型機の設計に向け,鳥獣被害対策に向けた外装と威嚇用伸縮機構を追加し,動物に提示する試験を行っており,本稿において現在までの取り組みの概略を述べる.
著者
押田 敏雄 坂田 亮一
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.39-44, 2018 (Released:2018-06-25)
参考文献数
5

地方における農業就労者の高齢化や減少に伴い,耕作放棄地が拡大している.耕作放棄地の拡大に伴い,シカ,イノシシをはじめとする野生動物による農業被害や,時としてクマによる人的被害も年々顕在化している.鳥獣被害を静観するのではなく,鳥獣を適正な数に抑制する動きも見られ,各地で鳥獣対策が真剣に取り組まれるようになってきた.ここでは,野生鳥獣被害による農業被害などの実態,対策などの現状と将来のジビエの方向性について触れることとする.
著者
原 正和
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.301-304, 2016 (Released:2016-06-09)
参考文献数
6
著者
古澤 礼太
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.73-79, 2016 (Released:2016-11-07)
参考文献数
5

ガーナ共和国首都のアクラに住むガ民族は,本来漁労民であるが,トウモロコシを中心とした食文化を発達させてきた.本稿では,そのガのトウモロコシ食文化を次の二方法によってあきらかにした.まず,ガのトウモロコシ食文化の全体像の解明を,トウモロコシ食品の儀礼的利用(新生児の命名式や葬式,新年祭におけるトウモロコシ食品および飲料の利用),トウモロコシ食品の多様な調理法,発酵食品の存在という3点をあきらかにすることによって試みた.次に,主食であるコミ(Komi)に焦点を当てて,コミ料理の調理方法と食べ方をあきらかにしたが,コミが現在,家庭では調理されず,町内のコミ製造・販売店で購入されていることが判明した.その理由として,コミの製造とコミ販売店の実態調査から,コミ調理が家庭内調理では継続困難な重労働であることに起因することが判明した.そして最後に,一家族の一カ月にわたる食事内容調査にもとづき,が民族の食事文化の実態とそのなかにおけるコミの位置づけをあきらかにした.
著者
古山 彰一 中村 尊 小林 龍也 藤島 政樹 間中 淳 入江 光輝
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.59-63, 2017 (Released:2017-08-02)
参考文献数
4

広く一般的に普及しているスマートフォンを用いた水質調査用アプリケーションソフトウエアの開発を行った.スマートフォンは,カメラ,GPS,ネットワーク通信機能を有しており,水質調査用デバイスとして多くの可能性を有する機器であり,世界中で一般的に普及している特徴を活かし,水質調査データをこのデバイスで広く取得する事を目的とする.実現に際してソフトウェア開発が必要となるが,OSとしては世界的に一般的なAndroidを用いる.さらに一般人に普及し,広くデータ収集を行う事が目的になるため,簡易な水質調査方法が必要とされるが,これは色情報を用いた手法を開発する.本報では色情報からフッ素濃度を算出する方法,人工知能を用いた色情報の抽出手法らを中心に議論を行う.
著者
平田 昌弘 鬼木 俊次 加賀 爪優 Berhe Melaku
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.75-89, 2017

<p>本稿の目的は,エチオピア北部中高地のアファール牧畜民を対象に,1)アファール牧畜民の現在の食糧摂取のあり方とその特徴を把握し,2)食料摂取の視座から牧畜の生業戦略を考察し,3)社会・経済の変化が食料摂取や牧畜の生業戦略にどのような影響を及ぼしているかについて考察することにある.食糧摂取パターンの特徴は,1)朝にラクダの生乳を摂取する傾向にあること,2)コムギ粉を用いた料理が多用され,3)コムギ,生乳,酸乳,バターオイルが重要な食材となっており,4)肉と野菜は日常では全く,もしくは,ほとんど利用しておらず,5)近年では食事内容が多様化し,6)食事は親戚や友人と共食することが常であることである.栄養摂取量の特徴は,1)エネルギー摂取量的に約70 %が外部から供給されたコムギ粉などの食料であり,2)自給した食料のほとんどは生乳・乳製品によっており,特に脂肪とタンパク質の半分ほどが生乳とバターオイルから供給され,3)コムギ粉と生乳・乳製品に大きく依存した食体系ではあるが,必要なエネルギー量,タンパク質と脂肪は充足しているとまとめることができる.アファールの農牧民や遊牧民の事例は,家畜を飼養する目的が,家畜を殺して,肉を食べることにではなく,家畜を生かし留めて乳を得て,生乳・乳製品を摂取することにあることを示している.牧畜という生業の本質がここにある.以前は,乳・乳製品への食料依存度は80%ほどであった.今日,流通が盛んになり,近郊の市場で大量の食料品が販売されるようになって,外部からの購入食料に大きく依存するように変化してしまった.流通整備と経済の自由化という社会・経済の変化が,家畜を屠殺せず,生かし留めながら,その乳を利用し,必要最小限を外部社会に依存する牧畜から,家畜は交換材としての傾向を強め,多品目の外部購入食料へと大きく依存する生業構造へと変化させてきている.</p>
著者
小磯 学
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.43-51, 2015

数千年間育まれ,今日のヒンドゥー教へと受け継がれてきた牛の神聖視は,乳とその加工品,糞や尿にも浄化作用や豊饒をもたらす力があるとする独自の世界を形成している.なかでも牛糞は,祭りや儀礼の場では神像が作られ,また祭り火の燃料として重要な役割を果たしている. ここでは,今日の祭りにおける牛糞の利用について総括する.先行研究は乏しく事例報告が限られているため,その嚆矢として位置づけたい.