著者
髙橋 直哉
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.11・12, pp.1-27, 2015-03-16

本稿は、犯罪化の正当化条件の総体を体系的に示す「犯罪化論」の構築を試みるものである。犯罪化は、国家が刑罰という峻厳な制裁を用いてある行為を規制するものであるから、それが正当化されるためには、そのような行為を規制することが国家の果たすべき役割に含まれるといえ、かつ、そのように強制的に規制するだけの特別な理由がなければならない、という認識を出発点として、犯罪化の正当化条件を、「国家の介入の正当性」「犯罪化の必要性」「全体的な利益衡量」「刑罰法規施行後の検証」の四段階に分けて、それぞれの意義・内容、および、それらの相互関係について考察を加えている。従来、わが国ではあまり理論的分析が加えられていなかった刑事立法のあり方について、道徳哲学・政治哲学の知見も交えながら一試論を展開するものである。
著者
工藤 達朗
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.11・12, pp.671-686, 2015-03-16

本稿は、刑法理論における「構成要件」の観念を憲法の基本権解釈に取り入れるべきことを提唱するものである。刑法理論において、犯罪成立の有無は、構成要件該当性・違法性・責任の三要素を段階的に検討することによって判断される。これに対して憲法においては、基本権侵害の有無を判断する方法論が長い間確立していなかった。その原因の一つが、「構成要件」の観念が存在しないことである。この点は、違憲審査基準論においても同様であった。本稿は、基本権解釈に「構成要件」の観念(=「基本権構成要件」)を取り入れることで、違憲審査の判断過程が透明かつ明確になると主張する。そして、この観念を基本権論に取り入れると、ある国家行為が複数の基本権構成要件に該当する「基本権競合」の問題が生じる。この点についても、刑法の罪数論における法条競合や観念的競合の議論が参考になることを明らかにし、憲法と刑法の理論的共通性を指摘する。
著者
滝原 啓允
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.7, pp.473-508, 2014-12

本稿は、第一に職場環境配慮義務法理の形成と現状を明らかにすることを、第二に同法理の独自意義を探ることを、第三に同法理による行為規範を明確にすべく試論することを目的とする。こと訴訟実務にあって職場環境配慮義務は、ときとして安全配慮義務と混交されているようにも思われるが、前者は精神的人格価値への着目から形成され、後者は身体的人格価値への着目から形成されたものである。そのため、両義務法理間には自ずと差異が生じ、また、両法理の淵源・趣旨・現状からして、前者法理は予防のみならず事後救済にも多くを割く規範を、後者法理は予防に重点を置いた規範を要請する。そして、一方の法理が妥当するものの、もう一方の法理が妥当しないという事案がみられることからして、職場環境配慮義務法理に独自意義を見出すことができる。同義務違反は債務不履行を構成するとの観点から、同義務内容の契約への取り込みを容易にするため、裁判例を素材ないし手掛かりとして職場環境・使用者の意識・事後的救済につき行為規範の抽出・明確化を試み、もって近年のいわゆる「職場いじめ」問題に対する有効な処方としたい。
著者
武智 秀之
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1・2, pp.1-48, 2016-07-30

本稿の目的は、政策学の思考方法について検討し、公共政策の文脈的理解を強調することである。政策学の方法に関する三つの主張、つまり帰納的推論の思考は仮説設定、課題設定に貢献でき、行政学は制度や管理の文脈で政策について研究可能であり、政策学の学問的基盤は包括理論でなくてもよい、という主張を行う。さらに、トリアージ、特定商取引法改正、薬のインターネット販売の三つの政策事例を取り上げ、二つの価値の二律背反構造を条件づける文脈について比較検討し、決定の文脈的理解をより深めるために条件づけを明示化する必要があることを示す。
著者
沼 正也
出版者
中央大学法学会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.823-832, 1955-10
著者
武智 秀之
出版者
中央大学法学会 ; 1891-
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.183-225, 2017-01
著者
斎藤 信治
出版者
中央大学法学会 ; 1891-
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.457-525, 2015-08

会社専務一家四人が惨殺・放火された袴田事件では、「残忍非道」・「鬼畜の所為」、反省もない等として、死刑が確定したが、冤罪との声も多かったところ(例、先駆的な高杉晋吾氏、緻密な本を書いた山本徹美氏、有益な本を編著の矢澤曻治氏)、弁護団・諸支援団体の粘り強い活動と大変な尽力もあり、平成二六年三月二七日に静岡地裁が再審開始(また、死刑及び拘置の執行停止)を決定し、袴田巌氏は四八年振りに釈放され、同氏を気丈に守り抜いてきた姉秀子氏の世話の下、快方に向かっている。このことは、問題が多く且つ深刻過ぎた静岡県警をかつて殆ど盲信したマスコミによって、明るいニュースのように報じられている。しかし、依然、今度は東京高裁を舞台に、再審開始の当否が、厳しく争われている。 本稿は、今日から見ると、袴田氏を有罪とした司法判断には極めて問題が多く、もはや維持できないことを、先行諸業績等に負いつつ、独断も交え、多岐にわたり詳説している。なお、疑問点も目立つ中、多くの令名ある法曹も関与しながら、なぜ死刑冤罪が三審一致で生まれ、久しく維持されたのかを考え、一つには、検察の在り方が根本から問われていることを指摘する。
著者
伊比 智
出版者
中央大学法学会 ; 1891-
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.241-256, 2015-08

強制わいせつの被害に対する、告訴当時一〇歳一一か月の被害者の告訴能力を肯定した事例
著者
山内 惟介
出版者
中央大学法学会 ; 1891-
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.855-910, 2015-08

伝統的な理解によれば、国際私法は、国家私法間の牴触を解決する法体系であると考えられている。行為規範という視点からみると、法の内容が明確である限り、法の適用結果について予見可能であるところから紛争の予防が十分可能であると説明されてきた。しかしながら、立法の内容が明確であるというにしても、その解釈の仕方に幅があり得るため、法の適用結果について予見不能な事態が頻出している。一国内でさえこのような不安定な状況がみられることに加え、渉外事件では解決機関としての裁判所も適用可能な国家私法も複数登場するためにこの種の不安定性がいやが上にも倍増する。しかも、ある国では解決済みとされる紛争が別の国では未解決のまま残されることも稀ではない。さらに、世界共通の全地球的課題となると、どの国でも未解決のまま放置され続けている。このような状況に対して、国際私法は、いかなる現実的解決策を提供できるか。国際私法のパラダイムを根本的に転換する必要性を指摘するとともに、ひとつの可能性を提案したのがこの小稿である。
著者
林 弘正
出版者
中央大学
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.11, pp.599-644, 2015-03

児童虐待は、個々に生起する保護者等による自子に対する侵害行為に「児童虐待」との呼称を付与し社会現象として共有される。児童虐待の公的データは、児童相談所での児童虐待相談対応件数の一九九〇年一、一〇一件から二〇一三年七三、七六五件の推移及び警察庁の児童虐待の罪種別・態様別検挙状況の一九九九年一二〇件から二〇一三年四六七件の推移である。両データは、相談対応件数及び検挙件数であり社会に生起している実相とは程遠いものでありナショナルデータの集積が喫緊の課題である。 本稿は、二〇一二年から二〇一四年までの三年間に裁判実務に顕在化した児童虐待事案から行為態様類型別に身体的虐待二事案、ネグレクト及び児童期性的虐待各一事案を考察の対象とする。具体的事案の分析を通して、児童虐待の問題の所在と児童虐待防止の方策について検討する。児童虐待事案は、ケースにより裁判員裁判の対象となり、厳罰化傾向の指摘されるなか最高裁第一小法廷平成二六年七月二四日判決は量刑に関する判断を示した。 本稿の基本的視座は、「児童虐待は、犯罪であり、刑事制裁の対象である。」、「被害者のサポートは、最優先課題である。」、「加害者に対する治療プログラムの提供は、児童虐待防止のため不可欠である。」との三点である。
著者
高橋 徹
出版者
中央大学
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.1-24, 2016-03