著者
近藤 昭雄
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.339-369, 2016-11

非正規労働者の増加とその貧困化といった事態は、公務労働の世界においても、構造的に、存在している(「非正規公務員」問題)。この問題の基本には、短期の期間で雇用(任用)され、何度かの雇用(任用)を経た後、突如、再雇用(再任用)を拒否(雇止め)されるという、不安定な雇用下にあり、しかし、彼らに対しては、民間労働者の場合と異なって、いわゆる「雇止め法理」の適用による法的救済が完全に閉ざされているという問題が存している。 これは、最高裁が、公務員の勤務関係は「公法上の関係である」とし、さらに、公務員への任用行為は、公務員たる地位を発生させる行政処分であり、任命権者の任命行為があって、はじめて、成立するものであるとのドグマを成立させていったことに基づく。 そこで、非正規公務員の再任用拒否についても、「雇止め法理」の適用に道を拓くべく、公務員勤務関係の法的性格に関する上記判例および田中二郎博士の理論を中心とした従来の学説内容を批判的に検討した上で、公務員勤務関係といえども、民間私企業における労働関係と何ら変わりはなく、近代市民社会においては、公務員勤務関係も、労働契約関係として、把握されるべきである旨を論及した。
著者
柳川 重規
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.1-41, 2014-10

覚せい剤の自己使用あるいは所持の捜査において、令状を入手して強制採尿や捜索・差押えを行う場合、令状を執行できるよう被疑者を職務質問の現場や任意同行先の警察署等に留め置いて、被疑者の所在を確保する措置が取られることがある。この留置きは数時間におよぶことが多いが、現在、強制処分として法定されていないため任意捜査として行わざるを得ず、最高裁判例及び下級審の裁判例において、任意捜査としての適法性が争われている。本稿は、こうした判例や主だった裁判例の検討を通じて、任意捜査としての留置きの限界を明らかにすることにより立法化の必要性を説き、その上で、合衆国最高裁判所がインパウンドメント(現状凍結措置)の合憲性について判断した判例などを参考にしながら、令状入手のための強制処分としての留置きを法定する際の指針を得ようと、考察を行うものである。
著者
榎本 浩章
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.1・2, pp.151-204, 2014-06-30

文久二年(一八六二)の参勤交代制度改革について、これまでは、江戸幕府が諸藩を圧倒する存在ではなくなり、やむをえず緩和したという、消極的評価が主であった。しかし近年は、当時の幕政改革についても多角的な視点から研究が進んでいる。本稿ではそれらを参考に、軍事改革のための冗費節減策として、また当時重視されていた「公議輿論」の理念に沿った幕政改革の政治構想をうかがわせる実践例として、松平慶永・横井小楠など改革に携わった当事者の言動を検討した。 そして、参勤交代の緩和後が実際にどのような状況だったのかについては、これまで具体的な研究がされてこなかった。そこで、幕令や藩史などの史料を元に、諸藩の対応を検証したところ、緩和された参勤交代は確かに実践されていたが、当時の朝廷と幕府の対立、また対外的緊張や国内の治安悪化などといった要因から、諸大名は各地の警衛に動員されて国元に戻る事ができない場合が多く、改革の理想通りには運ばなかった。さらに元治元年(一八六四)、参勤交代を再び旧に復する幕令が出されたが、これについても従わなかった藩と従った藩とがあったことを明らかにした。
著者
中村 真利子
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.355-372, 2015-08

税関職員が犯則事件の調査において作成した書面は、検証の結果を記載した書面と性質が同じであると認められる限り、刑訴法三二一条三項所定の書面に含まれるとされた事例。
著者
中西 又三
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.73-131, 2016-07

平成二七年法律七六号「平和安全法制整備法」は自衛隊法七六条を改正して、自衛隊の防衛出動を存立危機事態の場合にも認めることとなった(集団的自衛権)。政府はかかる措置が憲法九条に違反しない根拠として、砂川事件最高裁判決(最高裁昭和三四年(あ)七一〇号)が「我が国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない」(判決要旨二)と判示していることをあげている。本稿は、政府のこの主張が誤りであることを、砂川事件に関する五つの判決をつぶさに分析し、論証しようとするものである。五つの判決のうち憲法九条と安保条約に関する判決は第一判決(伊達判決)と第二判決(最高裁判決)であり、第三から第五判決は第二判決の下級審に対する拘束力に関する判決である。第二判決要旨二は他の要旨と共に下級審を拘束するものであり、要旨二は要旨三「他国に安全保障を求めることを禁じていない」と結びつくものであって、要旨二の「必要な自衛の措置」に「集団的自衛権」を読み込むことは論理的誤りであるとするのが結論である。
著者
秋山 紘範
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.3, pp.313-325, 2014-08

本稿は、被告人の行為がストーカー規制法にいう「見張り」及び「押し掛ける」行為に該当するか否かが争われた東京高裁の判決に関して、ストーカー規制法の実質的な規制目的とストーカー被害の実態の観点から判例に検討を加えつつ、ストーカー規制法の立法論的な問題にも若干の検討を加えるものである。
著者
鈴木 博人
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.7, pp.163-212, 2014-12

日本法でもドイツ法でも法的な母子関係は、分娩によって発生する。父子関係と異なり、母子関係は分娩時に確定する。しかし、望まない妊娠等の事情により、母子関係の存在あるいは妊娠の事実が知られると困る場合、子が出生直後に遺棄されたり、時には殺害されることがある。この事情は、ドイツでも日本でも同じである。このような事態に対応するとして、ドイツでは一九九一年にベビークラッペが設置され、また匿名出産が事実上行われている。少数であるが、子の匿名での引受けを行う事例も存在する。ドイツでは二〇〇九年に倫理評議会が、ベビークラッペは廃止すべきであり、それに代わり一定の要件の下で限定的に母の匿名性を認めるべきという提言がなされた。それを受けた実態調査を踏まえて、妊娠葛藤法のなかに秘密出産制度が導入されて、二〇一四年五月一日から施行されるに至った。本稿では、第一に、秘密出産制度が制定されるに至った背景と新しい制度の内容を紹介、分析する。第二に、秘密出産制度で母の利益と子の利益が比較考量されて、望まない妊娠に典型的にあらわれる母と子それぞれの利益対立が、どのように調整されたのかを検証する。第三に、社会問題としては類似の問題を抱える日本で、仮に母の匿名性を例外的にであれ認めることによって、母子双方の福祉・権利の調整を図るとしたら、どのような問題を乗り越えなければならないかを指摘する。
著者
富井 幸雄
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.75-181, 2015-08

E・スノーデンが暴露したアメリカ国家安全保障局(NSA)の電子的監視による大量情報収集は、合理的な捜査で、かつ、令状に基づいてのみ私的空間への立ち入りを認めたアメリカ憲法修正第四条に反すると批判されている。諜報は同憲法二条で正当化されるとして歴史的に大統領の専権とされ、そのための電子的監視も行ってきた。本稿は、刑事手続原理を定めた修正第四条が安全保障上の捜査の電視的監視にも適用されるのか、立法は諜報機関の電子的監視にどのような統制の枠組みを設けているのかを考察する。まず、同条がテクノロジーの発展にどう適応していったのかをみる。プライバシーの成熟で刑事司法では電子的監視には厳格な法的制約が課されるようになる。国内の安全保障目的の電子的監視には同条が適用されるとの最高裁判断(Keith 判決)を受けて、立法で外国の諜報は司法的枠組みで認められる(外国諜報監視法(FISA))ようになる。おりから、安全保障では大統領の安全保障権限が考慮され、刑事捜査より低いハードルで執行権に有利に運用される。対テロ対策の強化で国内の諜報が隠密になされるようになっており、その正当性や統制を憲法的にどう考えていくかが論点となっているのである。
著者
橋本 基弘
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.31-67, 2016-03

自己の身体に入れ墨を彫る行為は、明示的に禁止されているわけではない。では、入れ墨をしていることを他者から強制的に探知されることはどうか。入れ墨をしているかいなかの調査に対して回答を拒否したことが懲戒処分の理由となった事件がある。本論文では、自己決定の帰結としての入れ墨行為と、入れ墨の事実を秘匿する権利の関係について論じることにしたい。大阪市入れ墨調査事件をめぐる二つの裁判を素材にして、地裁判決、高裁判決を分析し、消極的な表現の自由の一つとして、情報開示拒否権が認められるべきことを論じる。
著者
広岡 守穂
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.1-25, 2015-08

一九六〇年代後半から一九七〇年代前半にかけての一〇年は大きな文化変容の時代だった。この時代は対抗文化としての若者文化の台頭や性革命がおこった。人びとは権威に従順ではなくなったし、意識調査にもそれ以前とはちがう傾向が現れた。女性がみずからの性を語りはじめた。他方思想界では、疎外論や管理社会論がさかんだった。 一九七二年、武田京子が「主婦こそ解放された人間像」で、資本主義の労働現場から距離を置く主婦こそ社会変革の重要な担い手なのだと論じて、いわゆる第三次主婦論争の口火をきった。しかし振り返ってみると、生活クラブ生協グループや子ども劇場など非営利の事業活動の意義は、あまり注目されていなかった。 おなじ七二年に田中美津の『いのちの女たちへ』が刊行された。これは女性のセクシュアリティをふまえてジェンダーの問題に切り込んだ画期的な著作だった。日本の第二次フェミニズム運動は、同時代の大きな文化変容の波を受けて、そこに社会変革の思想をつくりあげた。ジェンダー平等の思想はこのようにして登場したのである。
著者
斎藤 信治
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.457-525, 2015-08

会社専務一家四人が惨殺・放火された袴田事件では、「残忍非道」・「鬼畜の所為」、反省もない等として、死刑が確定したが、冤罪との声も多かったところ(例、先駆的な高杉晋吾氏、緻密な本を書いた山本徹美氏、有益な本を編著の矢澤曻治氏)、弁護団・諸支援団体の粘り強い活動と大変な尽力もあり、平成二六年三月二七日に静岡地裁が再審開始(また、死刑及び拘置の執行停止)を決定し、袴田巌氏は四八年振りに釈放され、同氏を気丈に守り抜いてきた姉秀子氏の世話の下、快方に向かっている。このことは、問題が多く且つ深刻過ぎた静岡県警をかつて殆ど盲信したマスコミによって、明るいニュースのように報じられている。しかし、依然、今度は東京高裁を舞台に、再審開始の当否が、厳しく争われている。 本稿は、今日から見ると、袴田氏を有罪とした司法判断には極めて問題が多く、もはや維持できないことを、先行諸業績等に負いつつ、独断も交え、多岐にわたり詳説している。なお、疑問点も目立つ中、多くの令名ある法曹も関与しながら、なぜ死刑冤罪が三審一致で生まれ、久しく維持されたのかを考え、一つには、検察の在り方が根本から問われていることを指摘する。
著者
冨川 雅満
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5・6, pp.269-310, 2014-10-31

本稿は、暴力団員がその身分を偽ってまたは秘匿して、契約約款において暴力団排除条項を設けていた相手方と契約を締結させた事案(暴力団事例)において、最高裁が下した詐欺罪に関する近時の判断について、ドイツとの比較法的観点から検討するものである。ドイツにおいては、類似の事案構造を有するものとして、いわゆる雇用詐欺が問題となっており、そこでは財産的損害、欺罔行為が肯定されるかが議論されている。ここでの議論を参照し、わが国の判例・学説と対比させることで、暴力団事例における最高裁の判断構造を分析することが、本稿の目的である。
著者
富井 幸雄
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3・4, pp.75-181, 2015-08-04

E・スノーデンが暴露したアメリカ国家安全保障局(NSA)の電子的監視による大量情報収集は、合理的な捜査で、かつ、令状に基づいてのみ私的空間への立ち入りを認めたアメリカ憲法修正第四条に反すると批判されている。諜報は同憲法二条で正当化されるとして歴史的に大統領の専権とされ、そのための電子的監視も行ってきた。本稿は、刑事手続原理を定めた修正第四条が安全保障上の捜査の電視的監視にも適用されるのか、立法は諜報機関の電子的監視にどのような統制の枠組みを設けているのかを考察する。まず、同条がテクノロジーの発展にどう適応していったのかをみる。プライバシーの成熟で刑事司法では電子的監視には厳格な法的制約が課されるようになる。国内の安全保障目的の電子的監視には同条が適用されるとの最高裁判断(Keith 判決)を受けて、立法で外国の諜報は司法的枠組みで認められる(外国諜報監視法(FISA))ようになる。おりから、安全保障では大統領の安全保障権限が考慮され、刑事捜査より低いハードルで執行権に有利に運用される。対テロ対策の強化で国内の諜報が隠密になされるようになっており、その正当性や統制を憲法的にどう考えていくかが論点となっているのである。
著者
三明 翔
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5・6, pp.157-196, 2014-10-31

国際化の進む現代では、外国の捜査・司法共助を得て証拠を獲得することが刑事手続の運用に欠かせない場合がある。その一方で、外国機関が証拠収集に用いた手続や制度が我が国のものと異なり、獲得された証拠の証拠能力が争われることがある。国際捜査・司法共助により獲得された証拠の証拠能力を判断した判例はまだ多くないが、今後大きな争点となる可能性が高く、その判断枠組みの構築に取り組む必要がある。本稿は、この関心の下、ロッキード事件最高裁判決(最判平成七年二月二二日刑集四九巻二号一頁)が、検察官による事実上の刑事免責に基づいて米国の裁判所で作成された嘱託証人尋問調書を排除した論理を再検討する。最高裁は、刑訴法が刑事免責制度に関する規定を置いていないことを理由として述べたが、その相当に簡潔な判示に加え、同様の理由に基づく証拠排除の判断が他に存在しないことから、厳密にいかなる理論構成により証拠排除の結論を導いたのかについて、今なお共通の理解が形成されていない。本稿は、これまで主張されてきた種々の理解を検討し、最も整合的な理解を試みた上で、国際共助により獲得された証拠の証拠能力に関して同判決が持つ含意を探る。
著者
廣岡 守穂
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3・4, pp.1-25, 2015-08-04

一九六〇年代後半から一九七〇年代前半にかけての一〇年は大きな文化変容の時代だった。この時代は対抗文化としての若者文化の台頭や性革命がおこった。人びとは権威に従順ではなくなったし、意識調査にもそれ以前とはちがう傾向が現れた。女性がみずからの性を語りはじめた。他方思想界では、疎外論や管理社会論がさかんだった。 一九七二年、武田京子が「主婦こそ解放された人間像」で、資本主義の労働現場から距離を置く主婦こそ社会変革の重要な担い手なのだと論じて、いわゆる第三次主婦論争の口火をきった。しかし振り返ってみると、生活クラブ生協グループや子ども劇場など非営利の事業活動の意義は、あまり注目されていなかった。 おなじ七二年に田中美津の『いのちの女たちへ』が刊行された。これは女性のセクシュアリティをふまえてジェンダーの問題に切り込んだ画期的な著作だった。日本の第二次フェミニズム運動は、同時代の大きな文化変容の波を受けて、そこに社会変革の思想をつくりあげた。ジェンダー平等の思想はこのようにして登場したのである。
著者
小林 丈児
出版者
中央大学法学会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.69, no.12, pp.991-996, 1962-12