著者
岩田 誠
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.172-177, 2022 (Released:2022-07-16)
参考文献数
27

萬年は,第2仙髄前角のOnuf核はALSではおかされないが,尿便失禁を呈したShy-Drager症候群ではおかされることを見出した.Onuf核神経細胞が肛門および尿道の外括約筋支配ニューロンであることは,動物実験で確認された.また,Onuf核と第3仙髄の中間外側角には体部位局在があることが明らかになった.Onuf核には平均661個のニューロンがあり,その37%が保たれていれば尿便失禁はないが,13%以下になると尿便失禁が生ずる.Onuf核は,Onufによって解剖学的に記載され,萬年によってその機能的意義が明らかにされたため,Onuf-Mannen’s Nucleusと呼ばれるべきである.
著者
永山 逸夫 上村 顕也 高 昌良 大脇 崇史 名古屋 拓郎 寺井 崇二
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.208-211, 2022 (Released:2022-07-16)
参考文献数
26

肝臓の様々な病態で,肝臓,脳,消化管が種々の因子を介して密接に連関することが明らかになりつつある.我々は,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)でも肝-脳-腸が自律神経を介して連関することを明らかとしてきた.そこで,本稿では,肝疾患と自律神経の関連,これまでの我々の研究結果を紹介したい.
著者
光藤 尚
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.56-57, 2020 (Released:2020-04-02)
参考文献数
7

起立性頭痛の鑑別診断として脳脊髄液減少症と体位性頻脈症候群が挙げられる.体位性頻脈症候群の起立性頭痛の機序は不明である.我々は体位性頻脈症候群患者6例に脳槽シンチグラフィーを施行し,6例全例に低髄液圧を確認した.体位性頻脈症候群は交感神経機能亢進のために低髄液圧を来すことが推定された.
著者
岡田 尚志郎
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.248-251, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
8

ストレス刺激により,交感神経-副腎髄質系や視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系が活性化する.両系の活性化は,血中カテコールアミン濃度の上昇やグルココルチコイドの分泌などをもたらし,全身性のストレス反応を引き起こす.一般にストレス反応は中枢性に制御されており,多くの脳領域および神経路が複合的に関与している.その中でも視床下部室傍核は,交感神経系とHPA系の両方の制御中枢であり,ストレッサーに起因する情報入力を受けて統合したのち末梢へ出力する,ストレス反応調節の要となる部位でもある.我々はこれまで,ラット脳内に種々のストレス関連ペプチドを投与した実験系から,交感神経-副腎髄質系賦活の脳内調節メカニズムを解析してきた.その結果,投与したペプチドによって血中ノルアドレナリンおよびアドレナリン増加反応が異なることを見出し,これらの交感神経反応に関与する脳内メディエーターやシグナル経路について明らかにしてきた.中でもとくに脳内プロスタノイド(プロスタグランジンE2,トロンボキサンA2)およびアドレナリン受容体(αおよびβ受容体)の促進的関与や視床下部室傍核における調節機序に焦点を当て,ペプチド投与実験による交感神経系賦活機序のシグナル経路や,さらに,これらの機序がストレス条件下の脳内ストレス応答においても機能するか検討している.本シンポジウムでは,交感神経終末からのノルアドレナリン遊離および副腎髄質からのアドレナリン分泌の中枢性調節機構について,我々の研究成果を中心に概説する.
著者
堀田 晴美 飯村 佳織 鈴木 はる江
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.132-137, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
11

甲状腺には,交感神経と副交感神経(上喉頭神経:SLN)の節後線維が分布するが,甲状腺から分泌される種々の代謝調節ホルモンの分泌にどのように寄与するか,よくわかっていなかった.最近我々は,麻酔ラットの甲状腺静脈血を採取しながら頸部交感神経幹やSLNを電気刺激する実験により,甲状腺からのホルモン分泌が,交感神経と副交感神経の遠心性線維によって拮抗的で迅速な調節を受けること,またSLN中の有髄求心性線維の興奮が甲状腺からのホルモン分泌促進反射をもたらす可能性を示唆する結果を得た.そして,その反射を誘発する自然刺激の一つが咽頭への機械的刺激であることを新たに見出した.
著者
有本 邦洋 下重 里江 鎌田 泰彰 原 直人 黒澤 美枝子
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.169-174, 2021 (Released:2021-04-15)
参考文献数
21

本研究の目的は,寒冷昇圧試験(CPT)時の昇圧度の差で対象者を群分けした場合に心拍変動と瞳孔の反応に差がみられるかを明らかにすることである.正常血圧男性16例(22 ± 1歳)にCPTを行い,拡張期血圧の上昇が10 mmHg以上を反応群,未満を低反応群とした.統計には二元配置分散分析を用いた.低反応群に比べて反応群では安静時のLF/HF,LFnu,CVR-Rが高値,HFnuは低値であった.また反応群では,CPT時にLF/HFとLFnuは有意に減少し,HFnuは有意に増加した.瞳孔はCPT時に全例では有意な散大を示したが,2群間での反応差はみられなかった.以上の結果より,正常血圧者における寒冷昇圧の大小の差は,安静時とCPT時における心臓自律神経活動の差として認められることが明らかとなった.
著者
谷田 守
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.237-240, 2021 (Released:2021-09-24)
参考文献数
26

白色脂肪組織から分泌される摂食抑制ホルモンであるレプチンが発見されて20年以上が経過した.摂食調節機構の破綻は肥満,糖尿病などの生活習慣病発症に関わる為,摂食調節ホルモンの作用を明確にすることは,生活習慣病発症機序の解明に役立つことが期待されている.これまでの研究から,レプチンによる自律神経系への作用は,摂食や代謝などの生体機能維持に関与することが分かってきている.特に交感神経遠心路の褐色脂肪枝,肝臓枝,腎臓枝は,熱産生調節,糖代謝調節,循環調節にそれぞれ関与することから,本稿ではレプチンの自律神経調節作用を中心に,これまで示唆されてきた脳・視床下部での調節機序と末梢から中枢神経系への求心路の作用経路について解説する.
著者
安部 力 森田 啓之
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.95-100, 2021 (Released:2021-04-15)
参考文献数
24

内耳(骨迷路)にある前庭系の末梢器官は耳石器と半規管で構成されている.耳石器(球形嚢と卵形嚢)は重力や頭位を,また半規管は回転加速度を認知する.これらの末梢器官は眼球運動(前庭動眼反射)や姿勢(前庭脊髄反射)を制御している.興味深いことに,末梢前庭器への刺激は交感神経を介した動脈血圧応答を引き起こすことも明らかになってきた(前庭動脈血圧反射).さらに,この応答性は重力環境変化による前庭系の可塑により低下することがわかってきた.本稿では,起立耐性に対する前庭動脈血圧反射の役割について説明する.また,高齢者や宇宙飛行士の前庭機能低下に対する末梢前庭器電気刺激法の可能性についても述べる.
著者
原 直人 小野 里規子
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.89-92, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1

老視は,加齢に伴う構造的,機能的な老化過程の一部としての調節力の減衰である.調節機能の理論を見直したところ,いずれの理論が正しいのか未だ結論は出ていないが,Helmholtz理論は最も広く受け入れられている理論であった.一方,老視の機序として最も重要な因子であるのは,水晶体嚢の硬化により調節作用が消失することである.近見反応の輻湊-調節間にはクロスリンクがあるため,加齢に伴って近見外斜位が増加するが,融像性輻湊は逆に強化していると考えられている.また近見縮瞳は,調節力の減衰を補うように更に縮瞳を強めて焦点深度を大きくすることでボケを補償している.老視の機序とこれに伴う近見反応の変化について考察した.
著者
堀内 城司
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.21-25, 2020 (Released:2020-04-02)
参考文献数
12

精神的ストレスは,自律反応を引き起こす.この自律反応は,防御反応に起因すると考えられており,その中枢として,視床下部背内側核(DMN)と中脳中心灰白質(PAG)の二つが古典的に知られている.これら2つの領域の刺激は,昇圧や頻脈を伴う呼吸機能の増強を引き起こす.DMN内には,異なった機能に関与するニューロン群が別々に分布するため,DMN内のニューロンは「コマンドニューロン」ではないことが示された.これに対して,PAGの刺激による呼吸と血圧の反応は,DMN内のニューロンを介して伝達されるため,PAGのニューロンは,精神的ストレス時の「コマンドニューロン」である可能性が示唆される.
著者
榊原 隆次
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.176-180, 2020 (Released:2020-10-16)
参考文献数
31

パーキンソン病(PD,大脳皮質に広がった形はレヴィー小体型認知症[DLB])は,ときに高度の便秘をきたす場合があり,消化器科救急として偽性腸閉塞/麻痺性イレウスをきたす場合もある.さらに最近,PD患者の便秘が,運動症状などをほとんど伴わず,初発症状となりうることが明らかとなってきた(レヴィー小体型便秘Lewy body constipation).その機序として,腸管壁内(Auerbach)神経叢の変性・レヴィー小体出現を反映しているものと思われ,一部,大脳黒質・青斑核の病変も関与していると考えられる.救急受診を予防するためにも,PDの便秘に対して,十分な治療が望まれる.とくにレヴィー小体型便秘の患者さんは,内科・消化器内科を初診することが少なくないと思われ,脳神経内科と消化器内科の協力が重要と思われる.
著者
菊池 友和 山口 智 荒木 信夫
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.253-256, 2019

<p>日本の慢性頭痛のガイドライン2013では,一次性頭痛の急性期治療および予防に対する鍼治療は有効とされている.コクランレビューでは,片頭痛の予防に対する鍼治療は,予防薬物と比較し効果に差がないが,偽鍼と比較しても効果に差がない.しかし,episodicな片頭痛に限定すると偽鍼と真の鍼に効果の差が認められる.一方,本邦の報告でも,慢性片頭痛よりepisodicな片頭痛の方が効果が高いことが報告されている.鍼の作用機序については,片頭痛患者では,脳イメージングを用いた手法により,予防効果や発作期に対し,鍼刺激を行うことにより,主に脳の疼痛関連領域に影響がある可能性が示されている.</p>
著者
水村 和枝
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.119-122, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
25

筋や筋膜の疼痛メカニズムを明らかにするため,筋・筋膜性疼痛症候群のモデルとして使われる遅発性筋痛(DOMS)を解析した.DOMSには従来考えられてきた筋損傷・炎症メカニズムは必須ではなかった.筋機械痛覚過敏を引き起こす経路には,運動中に産生されるブラジキニン様物質-B2ブラジキニン受容体-神経成長因子の経路と,COX-2-プロスタグランジン-グリア細胞由来神経栄養因子の経路の2つがある.両因子は筋細胞・筋衛星細胞によって産生され,筋細径線維受容器の機械感受性を高める.日常的に筋が行っている仕事の中に筋自身に神経栄養因子を産生させる要素があり,筋機械痛覚過敏を引き起こすことが示された.
著者
荒木 信夫
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.59-63, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
19

片頭痛に伴う症状には,自律神経の異常を示唆するものが多く認められる.前兆のある片頭痛患者の発作間欠期において,交感神経系の機能低下,およびsubstance-PやCGRPなどニューロペプチド系の機能低下および脱神経過敏,NO産生亢進およびNOの血管拡張作用の増強が存在することが示された.また,発作間欠期において発汗機能も低下していた.一方,片頭痛の頭痛発作時には,交感神経機能低下の状態が改善していることが確認された.脳血流を検討した結果,片頭痛発作時には視床下部を中心とした血流低下がみられた.髄液減少症の検討で,体位性頻脈症候群患者では髄液産生が充分でなく低髄液圧による起立性頭痛を呈することが示唆された.