著者
三浦 真弘 内野 哲哉 山田 茂樹
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.110-124, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
50

最近,産生機序が混在する髄液・間質液はまとめてneurofluidと呼ばれている.Neurofluidの循環動態を理解することは臨床上重要である.中枢神経ではリンパ管が欠如する.脳領域では微小血管,glymphaticシステムとintramural peri–arterial drainage pathwayを介して髄膜リンパ管からneurofluidや代謝物が排出され.一方,脊髄領域では,epidural lymphatic vesselsを介する吸収システムが髄液圧調節に働いており,リンパ管吸収には篩状斑が不可欠である.通常,各神経根において髄液が自然浸潤することから,同部は広義のくも膜下腔であると共に髄液の生理的貯留槽と考えられる.中枢神経系の水収支バランスは,prelymphatic channelの構造特徴と連関するepidural lymphatic networksの生後発達・加齢退縮に影響される.
著者
桑木 共之
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.157-164, 2020 (Released:2020-10-16)
参考文献数
22

ストレス防衛反応とは,敵などのストレッサーに遭遇した時に闘争逃走行動を効果的に行う為に,血圧・心拍数・呼吸数を上昇させ,筋血流を増やして当面不必要な内臓血流は減少させるという反応である.これらの反応は無意識の領域を司る自律神経系の働きによって実現されており,これが上手く働かないと生命の危機に直面することにもなりかねない.防衛反応の表出に際し,視床下部の防衛領域が一斉にそのスイッチを入れる重要な部位であることが20世紀中頃には既に知られていた.しなしながら,その詳細が明らかになったのは比較的最近である.この神経回路メカニズムの解明を目的とした我々の研究成果を解説する.視床下部に存在するオレキシン産生神経細胞がその主役であり,またオレキシン産生神経細胞は睡眠覚醒を司る神経でもあった.すなわち,意識にのぼる活動を制御する神経メカニズムと無意識の領域との接点が明らかになった.
著者
田村 直俊
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.197-203, 2022 (Released:2022-07-16)
参考文献数
50
被引用文献数
2

情動と自律神経活動の因果関係について,自律神経活動の変化が情動を形成するとするJames-Lange学説(1884, 85)と情動が自律神経活動に影響を及ぼすとするCannon-Bard学説(1927, 28)があるが,両学説が正反対のことを述べているようにみえる原因は,「自律神経系には中枢線維も求心線維もない」と定義したLangleyの見解(1898)にある.Langleyの学問的ライバルL. R. Müllerは,情動と自律神経活動の因果関係は双方向性で(1906),両者ともに間脳の神経ネットワークで惹起されると述べていた(1929).PrechtlとPowley(1990)は臓器感覚(内受容感覚)の伝導路,すなわち自律神経求心路は脊髄視床路であると主張した.Craig(2002)は内受容感覚を伝達する求心線維と交感神経線維が脳内で中枢自律神経線維網(CAN)を構成することを解明した.
著者
榊原 隆次 舘野 冬樹 相羽 陽介
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.299-304, 2021 (Released:2021-12-27)
参考文献数
25

髄膜炎-尿閉症候群(meningitis-retention syndrome,MRS,尿閉と無菌性髄膜炎の同時発症)は,原因不明の急性尿閉をみた場合,一度は考慮すると良い疾患と思われる.最近さらに,MRSで髄膜刺激症状が無く,髄液異常のみを呈する不全型も知られるようになってきた.尿閉の病態機序として,脊髄内の排尿下行路の比較的選択的障害が推定されている.多発性硬化症,急性散在性脳脊髄炎,脊髄炎等はいずれも副腎皮質ステロイド剤などの免疫治療を要する一方,MRSは自然軽快することが多い.ステロイドパルス療法がMRSの経過を短縮するか否かについては,今後の検討が必要と思われる.MRSでは,急性期の尿閉を適切に対処し,膀胱過伸展を防ぐことが重要と思われる.
著者
中里 良彦
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.37-44, 2019 (Released:2019-04-19)
参考文献数
26
被引用文献数
1

特発性分節性無汗症は,全身の末梢自律神経と後根神経節の障害によって分節性の無汗部位を示し,Adie症候群,Ross症候群などと同一スペクトラムを形成する病態である.一方,harlequin症候群は,発作性に生じる片側顔面の紅潮・発汗過多である.腫瘤などが原因の頸部交感神経障害による症候性harlequin症候群と,明らかな原因が同定されない特発性harlequin症候群に分けられる.Harlequin症候群には反対側顔面の分節性無汗を伴う症例が多く,分節性無汗症の一部分症状と捉える考え方もある.症候性harlequin症候群の原因は神経鞘腫,肺癌・乳癌,甲状腺腫瘍が多く,頭頸胸部画像検査を用いて積極的に器質的病変を検索する必要がある.
著者
伊藤 宏文
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.320-326, 2022 (Released:2022-11-03)
参考文献数
24

慢性上咽頭炎の治療法の1つに上咽頭擦過療法(EAT)がある.本研究はEATが自律神経機能に及ぼす影響を解明することを目的として,慢性上咽頭炎症例27名の心電図記録について心拍変動解析を行った.EATを安静時,鼻腔内診察時,経鼻的擦過時,経口的擦過時の4つのイベントに分類した.4つのイベント毎にHR,CVRR,ccv HF,L/Hの4項目を測定して統計的検討を行なった.結果,経鼻的擦過時にはHRの減少とccv HFの増加を認めた.経口的擦過時にはHR,CVRRの増加を認めた.EATは心拍変動に影響を及ぼし,経鼻的擦過時には副交感神経を刺激し,経口的擦過時には交感神経と副交感神経の両方を刺激して咽頭反射を誘発していると考えられた.EATは興奮性と抑制性の相反性刺激により自律神経機能を賦活化すると考えられた.
著者
田村 直俊
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.105-109, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
32

Schaltenbrand(1936,53))は,脳脊髄液(CSF)が脈絡叢由来の液体と血管周囲腔由来の液体の混合物であること(二元産生説),CSF減少症が自律神経の異常によるCSF産生低下で生じることを記述した.Edvinssonら(1972,73)は,脈絡叢におけるadrenaline作動性とcholine作動性の二重神経支配を確認した.Pappenheimerら(1962)はトレーサーを加えた液体でCSF腔を灌流して,トレーサーのクリアランスからCSF産生量を算出する方法を考案し,Haywood(1976),Lindvallら(1978)は本法を用いて,交感神経刺激でCSF産生が低下することを示唆した.しかし,本法はCSFの産生部位が脈絡叢だけであるという誤った前提(一元産生説)によっていることが指摘されたので,1980年代以降,CSF産生の自律神経制御を検討した報告はない.
著者
内田 さえ
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.83-87, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
24

鍼刺激が大脳皮質血流に及ぼす効果とその反応へのコリン作動性血管拡張系の関与について,とくに前肢刺激と耳介刺激の比較や加齢変化に着目した基礎研究を紹介する.麻酔下の成熟ラットにおいて,前肢足蹠の鍼刺激は血圧上昇を伴って大脳皮質血流を増加させる.一方,耳介の鍼刺激は血圧に影響することなく皮質血流を増加させる.いずれも求心路は刺激部位に分布する体性求心性神経である.前肢刺激による血流増加は,大脳皮質アセチルコリン(ACh)放出増加を伴い,脳内ACh受容体(ムスカリンとニコチン受容体)を介することから,頭蓋内コリン作動性血管拡張系の関与が示唆される.老齢ラットでは,ニコチン受容体(α4β2型)機能が低下するもののムスカリン受容体機能は維持され,前肢鍼刺激による大脳皮質血流増加反応は保たれる.血圧への影響が少ない耳介刺激は臨床適用しやすいと考えられる.
著者
鎌田 泰彰 原 直人 佐藤 司 新井田 孝裕
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.139-143, 2020 (Released:2020-07-15)
参考文献数
19

遮光眼鏡の色が自律神経に及ぼす影響について瞳孔径と心拍変動から検討した.対象は青年健常者14名とした.遮光眼鏡にはグリーン,グレー,オレンジの3色を用いた.検査は暗室で行い,被験者には仰臥位で眼前30 cmに固定した高輝度ディスプレイ(iPad,9.7インチ)の白色背景中心の十字を注視させた.遮光眼鏡装用前,装用中,装用後の瞳孔径(赤外線瞳孔計,Newopto)と,心拍変動解析(Reflex名人,クロスウエル)による自律神経活動指標の測定を行った.瞳孔はグリーンの遮光眼鏡で装用前に比べ装用後に縮瞳した.また,3色すべての遮光眼鏡で装用中に比べ装用後に縮瞳した.オレンジの遮光眼鏡で装用前に比べ装用中に散瞳した.心拍変動解析では装用前,装用中,装用後のいずれも有意差がなかった.遮光眼鏡の色は瞳孔径に変化をもたらすが,心拍変動には影響がなかった.
著者
梅原 淳
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.2-5, 2023 (Released:2023-04-03)
参考文献数
30

パーキンソン病(PD)の自律神経障害は,PD前駆期から始まり疾患発症を予測する臨床的バイオマーカーとして有用である.またαシヌクレインの伝播には,脳幹上行仮説における迷走神経だけでなく,交感神経路も重要な役割を果たしている可能性がある.PDの起立性低血圧(OH)は,末梢交感神経だけでなく中枢交感神経障害に起因すると推測され,認知機能低下とも密接な関係を持つ.OHの治療には,附随する臥位性高血圧の存在を考慮し,非薬物療法を十分実施することが必要である.一方,薬物治療では昇圧剤の内服だけでなく,交感神経節前線維機能を高める抗コリンエステラーゼ薬の併用が有効と思われる.
著者
星野 歩子
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.350-353, 2022 (Released:2022-12-21)
参考文献数
6

エクソソームとは全ての細胞が産生する30-150 nmの微小胞で,元々は細胞のゴミ処理機構として認識されていた.しかし,近年になり放出されたエクソソームが他の細胞へ取り込まれることがわかり,新たな細胞間コミュニケーションツールとして着目されている.エクソソームにはタンパク質や核酸,脂質等が含まれており,末梢血中のエクソソームから得られるそれらの情報は体内状態を反映し,多くの疾患バイオマーカーとして期待されている.今回私は,エクソソーム含有タンパク質に特に着目し,末梢血中エクソソームのタンパク質組成が診断マーカーとなる可能性,そしてがん細胞が産生するエクソソームががんの臓器特異的転移に関わる機構について紹介する.
著者
上園 保仁 宮野 加奈子
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.358-365, 2022 (Released:2022-12-21)
参考文献数
25

近年,がん患者のための支持療法の重要性が叫ばれ,漢方薬が支持療法に資する重要な薬剤として位置づけられるようになってきた.また,漢方薬の効果,作用機序が科学的エビデンスをもって語られるようになり,処方の根拠として漢方医学の「証」に加え科学的エビデンスもその根拠となってきた.本稿では,代表的な漢方薬として半夏瀉心湯,六君子湯,大建中湯を取り上げ,基礎,臨床研究から得られた科学的エビデンスを紹介する.併せて今後の漢方薬研究の展望も紹介する.
著者
川田 徹 杉町 勝
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.61-70, 2021 (Released:2021-04-15)
参考文献数
21

心臓は交感神経と迷走神経による二重支配を受けている.交感神経は心拍数を上昇させ,迷走神経は心拍数を低下させるが,両者の違いはそれだけではない.交感神経に比べて迷走神経による心拍数調節は速い.私たちはこのような動特性の違いを定量化するために,麻酔下のウサギを用いて心臓交感神経および迷走神経を白色雑音という特殊な信号系列で電気刺激し,心拍数応答を調べた.その結果,交感神経と迷走神経は互いに他の動特性を増強することが判明した.このような相互作用は,心拍数応答に動作点依存的なシグモイド曲線状の非線形性を仮定するとうまく説明できる.単純なニューラルネットワークを利用して,心拍数調節の動特性と非線形特性の同時推定が可能であった.今後,さらに複雑なニューラルネットワークを使うことで,自律神経活動に対する心拍数応答の推定精度を高めることや,心拍数の変化を元に自律神経活動を逆推定するような研究が期待される.
著者
岡 尚省 梅原 淳
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.2-6, 2020 (Released:2020-04-02)
参考文献数
31

Parkinson病(PD)では多彩な非運動症状を認め,進行例では起立性低血圧(OH)を約50%,認知機能障害を約80%の症例で認めるとされている.OHと認知機能障害はPD患者のADL・QOLに大きな影響を及ぼす.食事性低血圧(PPH)でも脳虚血病変が増悪し,臥位性高血圧(SH),夜間高血圧(NH)も認知機能障害と関連している.PPH,SHなどの血圧循環障害が引き起こす血圧日内変動はPDの認知機能障害の発症と進展に密接に関連している.PDにおける血圧循環障害による認知機能低下に対して,OHの是正に加えてSHやNHを惹起しないよう考慮した対策も必要と考えられる.
著者
奥村 利勝
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.233-235, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
30

オレキシンは脳内でも外側視床下部の神経細胞でのみ産生される神経ペプチドである.我々はオレキシンの消化管機能に及ぼす影響を検討してきた.ラット脳室内にオレキシンAを投与すると胃酸分泌,胃運動,大腸運動や大腸進展刺激に対する内臓痛覚閾値を亢進させたが,腹腔内投与はこれらの機能に影響を与えなったので,オレキシンAは中枢神経に作用して,消化管運動や内臓痛覚閾値を亢進させる事が明らかになった.機能性消化管障害の病態の中核は消化管運動障害と内臓知覚過敏であり,オレキシンが中枢神経系に作用し消化管運動と内臓知覚に影響を及ぼすとの知見は,オレキシンが一元的に機能性消化管障害の病態に関与することを示唆する.
著者
渡辺 信博 飯村 佳織 堀田 晴美
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.151-156, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
30

アルツハイマー病(AD)は,脳実質内(神経細胞周囲)にアミロイドβ(Aβ)が異常蓄積することが引き金となって生じると考えられている.近年ではまた,一過性脳虚血などの脳血管障害もADの危険因子のひとつに挙げられている.脳の神経細胞は虚血に脆弱であるが,血管拡張神経を刺激し脳虚血の程度を軽減させると,傷害されるニューロンの数が減少する.すなわち,虚血時の脳血管反応はADの病態に影響を及ぼすと推測される.Aβは脳実質内に加えて,脳表面を走行する軟膜動脈周囲にも蓄積することが知られている.本稿では,Aβ蓄積による脳血管機能への影響について,著者らの研究を含めながら紹介する.
著者
横田 俊平 黒岩 義之
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.51-59, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
47

身体症状を呈し登校障害を主訴に受診した学童・生徒28名の身体症状の特徴を調査した.「朝の起床困難」は睡眠障害に加えて身体感覚とそれを調整する中枢機能の障害が,「睡眠障害」は視床下部の概日リズム制御破綻が推察された.「だるさ,易疲労感」は身体的homeostasisの障害に対して視床下部のエネルギー代謝促進系の抑制的制御が機能していない状態が考えられ,内的・外的ストレスに対する調節機能の障害が推察された.「腹痛・吐き気・下痢」などは機能性dyspepsia,過敏性腸症候群などが考えられ,感覚系では視覚・聴覚・嗅覚などに過敏状態を認めた.診察では諸筋の硬化・圧痛を認め,若年性線維筋痛症にみられる18圧痛点が全例で陽性であり登校障害児には視床下部・辺縁系の障害が推定された.成人の線維筋痛症ではFDG-PETにより視床周囲領域に炎症の存在が指摘されている.登校障害児においても同様の病巣の存在が推察され,併せて諸外国の報告をまとめた.
著者
蜂須 貢 大林 真幸 船登 雅彦 芳賀 秀郷 上間 裕二 三邉 武幸 向後 麻里
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.187-192, 2021 (Released:2021-07-06)
参考文献数
11

高度な集中力をもって被検者がパフォーマンスを発揮する場合に自律神経活動がどの様に変化するかを明らかにすることを目的として,デッドリフト(DL)直後の自律神経機能の変化を検討した.被検者は常時ウエイトトレーニングを行っている10名(30.0±15.0歳)とした.DLの重量は本人の最大挙上重量の90%(90%max)を基準とし,初日の2回と1週間以上間隔をあけた2日目の1回,計3回それぞれ行った.また,最大挙上重量の90%±5 kgの3重量における自律神経機能への影響を検討した.自律神経機能は心電図を自律神経機能解析ソフト「きりつ名人((株)クロスウエル)」で解析した.測定項目は安静座位時2分間のCVRRとccvL/H,立位時のΔCVRRとΔccvL/Hおよび立位継続時1分間のccvHFである.90%maxのDLの自律神経機能への影響を間隔をあけ3回観察したが有意差は認めなかった.90%max±5 kgのデッドリフトでは重量依存的に心拍数が増加し,90%max−5 kg時の心拍数増加と比較して+5 ㎏で有意な増加を認めた.きりつ名人スコアは90%max−5 kgと比較して90%max時で有意に値を低下し,自律神経機能のバランスの崩れを認めた.
著者
山元 敏正
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.15-19, 2020 (Released:2020-04-02)
参考文献数
16

Parkinson病(PD)の発汗障害について解説する.1. 起立性低血圧を伴うPD患者の定量的軸索反射性発汗試験と心電図R-R間隔変動のスペクトル解析,MIBG心筋シンチグラフィとの比較検討では,PDの自律神経障害は,心臓交感神経や心血管系に比べ発汗系が最も軽微である.2. PDのオフ時はオン時に比較し発汗量が多かったとする報告がある.3. PD3例の発汗発作にゾニサミド25~50 mg/日が有効である可能性がある.4. レビー小体型認知症の中には,寒冷による多汗を呈する一群がある.PDでは発汗神経の障害は軽度で,発汗異常は視床下部を中心とする体温調節障害により生じている可能性がある.
著者
田村 直俊
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.64-69, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
44
被引用文献数
1

自律神経学を構築したLangleyとCannonの論述には疑問がある.(1) 自律神経と情動:JamesとLangeは自律神経活動が情動を惹起するとし,Cannonは情動が自律神経に影響を及ぼすとしたが.後者の見解は末梢神経だけを自律神経と定義したLangleyに由来する誤解である.情動の主座の間脳は中枢自律神経線維網の一部である.(2) 脊髄副交感神経:Langleyは胸・腰髄から起始する副交感神経を否認したが,呉らはイヌの脊髄後根を切断し,中枢側断端で変性を免れた遠心線維(脊髄副交感神経)を証明した.(3) 脱神経過敏:Eppingerらは交感神経緊張症でadrenalineに対する臓器反応が亢進すると主張した.この見解は脱神経過敏の法則(Cannon)に反すると批判されたが,Eppingerらの症例は自律神経不全症ではないので,脱神経過敏の観点からこの学説を批判するのは見当違いである.