著者
デビス ジョージ M.
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-36, 1969-05-31 (Released:2018-01-31)

従来, Tricula minima(BARTSCH)として知られて来た貝はgenus Oncomelaniaに属するものと考えられる。本種はDAVIS(1967)がすでに報告したPomatiopsinae亜科の特徴をすべて備えている。すなわち, 1)陰茎の乳頭 2)陰茎先端の繊毛部 3)貯精嚢はもつれた様になっていること 4)卵巣と精巣の構造 5)螺せん状の卵管 6)交接嚢の右側縁に発し嚢の前端にある通常みられるような受精嚢鞘 7)輸精管(sperm duct)の位置 8)pomatiopsineに共通である歯舌にみられる内縁舌尖の多いこと(7∿12)。などの特徴から本種をgenus Oncomelaniaに属させるのが妥当である。また, O. minimaとO. hupensisならびにO. hupensisの5亜種とは次のような種の特徴によって区別される。すなわち, 1)O. minimaでは陰茎の基部で輸精管は大きくしかも極度に発達するが, これは後者にはみられない。 2)O. minimaでは射精管の分岐小管は頸部"neck"の中にあるが, 後者のそれは陰茎の基部にみられる。 3)O. minimaの陰茎は腺状末端が著明であり, 陰茎前縁全体に分布するGl_3タイプの腺細胞が後者では認められない。 4)O. minimaの精巣は胃と重なりあっているが, 後者では重なっていない。 5)O. minimaの受精嚢の位置は交接嚢の右前側縁あるいは交接嚢の前方に寄っているが, 後者では輸卵管の捻転部と交接嚢の中央部背面の間におしこめられている。 6) O. minimaは内縁歯の歯尖が11-13であるのに対し, 後者は7-11である。
著者
ダラール Y. M. パンジヤ G. T.
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.83-90, 1973-12-31 (Released:2018-01-31)

アシヒダナメクジの足腺から分泌される粘液の組織化学的研究を行ない又, 生活史の間における変化を見た。アシヒダナメクジの粘液腺は足の後端背側にあり, 腺は柱状の上皮細胞からなりこれから粘液を分泌する。成熟個体ではこの粘液は用いられたすべての組織化学的染色法によってよく染まったが, 幼若個体では染色反応は微弱であった。反応は性的成熟に伴い強さを増し, 成熟すると最大となる。粘液の成分は酸性粘液多糖と, 中性の粘液物質とサルファミュシンであった。これらの粘液物質の濃度は生活史中種々に変化をすることが判った。
著者
紀平 肇 近藤 高貴
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.145-149, 1999
参考文献数
7

The age composition of 101 individuals of Oguranodonta ogurae, which were collected in a small pond at Hirakata City, Osaka Prefecture in the late autumn of 1998, was determined by examination of the annual gorwth-interruption lines. Individuals with 5 growth-interruption lines (i. e. 6 years old) were most abundant, and there were only 5 individuals younger than 5 years old. The scarcity of young individuals may be due to the heavy drought occurred in the summer of 1994. Based on the assumption of the stable age distribution, a life table was estimated. The estimated generation time was 6.3 years.
著者
坪川 涼子 ウィラン リチャード C. 奥谷 喬司
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.249-263, 1992

従来日本産Pleurobranchaea属としてはウミフクロウにP. novaezealandiae Cheeseman 1878が, ツノウミフクロウにP. sp.の学名があてられていたが, それらの学名について検討した結果, 前者にはP. japonica Thiele, 1925, 後者にはP. brockii Bergh, 1897の学名をあてるのが最も適当であることがわかった。ウミフクロウに以前にあてられていた学名P. novaezealandiaeは, 現在ではP. maculataとシノニムとされている。P. japonicaは神戸産の標本をもとに記載されたが, 腹足, 背楯, 歯舌, 顎板などの形態のみの不十分な記載であったために, P. maculataとシノニムである可能性が疑われていた。本研究によりP. japonicaはP. novaezealandiae=P. maculataとは外部生殖器官の位置や形態, 腹足腹面の色, 幼生の殻の形態と浮遊期間に明瞭な相違があるため, 独立の別種であることがわかった。ツノウミフクロウについては, Baba (1949, 1969)によりPleurobranchaea sp.として記録されていたが, 本研究で腹足背面の突起, 頭膜前縁の小突起の列, 内部及び外部生殖器官の特徴により従来インドネシア海域とアフリカ東岸から知られていたP. brockiiであると結論された。
著者
蟹江 康光 服部 陸男 中山 英明 関 邦博 水嶋 康男 設楽 文朗 伊藤 信夫
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.86-94, 1981-07-15 (Released:2018-01-31)

In a hyperbaric chamber, living mature specimens of Nautilus pompilius withstood the hydrostatic pressure of 8.31 MPa (84.7 kg/cm^2) equipvalent to 827 m-depth in the sea and 7.89 MPa (80.5 kg/cm^2) equivalent to 785 m-depth, respectively, before it was killed instantly by implosion, the animals reacted physiologically to increasing pressure including increased partial pressure of oxygen with the compression rate (0.0981 MPa/min). This suggests that Nautilus undergoes severe stress during rapid descent and ascent through the water column. The shell implosion was caused by maximum strain-shortening (1.3% of the length). The shell implosion under pressure seems to have occurred at an old air chamber or siphuncular tube but not at the last septum of the phragmocone. Consequently, the depth of approximately 800 m is considered to be the maximal depth that N. pompilius is durable. The result will be usable for interpretations on paleobiology of extinct nautiloids and ammonoids which have similar shells and siphuncular tube system as living Nautilus.
著者
速水 格
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.233-236, 1982-10-31 (Released:2018-01-31)

Cryptopecten is well characterized and clearly distinguishable from Aequipecten and other pectinid genera by the highly allometric growth, Campto-nectes-like sculpture in early growth stages and regular persistent radial ribs as well as the development of numerous imbricated scales covering the sides of each radial rib with some hollow space. The following recent and fossil species are confirmed as the constituent species of this genus. Cryptopecten alli Dall, Bartsch and Rehder, 1938 ; Hawaii, Philippines, South China Sea and southwest Japan ; Late Pliocene to Recent. [All the specimens hitherto referred to Pecten tissotii by Japanese authors belong to this species.] Pecten nux Reeve, 1865 ; Polynesia, Melanesia, Philippines, Formosa and southwest Japan ; Middle Pliocene to Recent. Pecten vesiculosus Dunker, 1877 ; central and southwest Japan ; Middle Pliocene to Recent. Pecten (Aequipecten?) yanagawaensis Nomura and Zinbo, 1936 ; north and central Japan ; Middle Miocene. Cryptopecten sp.; Japan (Kikai Island) ; Late Pleistocene.
著者
土田 英治 田中 真人
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.159-163, 1999
参考文献数
3

A new terebrid species, Hastula hamamotoi is described. The new species was collected from the lower sublittoral zone of the offshore area of the west of Kushimoto, Kii Peninsula, Pacific coast of central Japan.
著者
バーナード F. R.
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.11-22, 1974

ブリティシュ・コロンビア州(カナダ)産のCalyptogena pacifica DALL(ワダツミウリガイ)および同属の1新種C. kilmeri n. sp.の殻及び内部形態につき詳細に研究記載した。新種C. kilmeri(ブリテッシュ・コロンビア州∿カリホルニア州北部, 549∿1464m)はワダツミウリガイとは殻が薄く, 殻皮も薄く, 剥れずニスを塗ったように強い光沢があること, 外套彎入があること及び右殻に後歯を欠くことによって区別される。また足も長く, より円筒形で鰓も薄い。水管が長い所からより深く底質に潜入していると思われる。BOSS(1968, 1969)の研究によりVesicomyidae(オトヒメハマグリ科)にはVesicomya, Calyptogena及びEctenagenaの3属が含まれることになったが, カリホルニア湾産のArchiversica gigasは殻と装の上から著るしく本新種に近似し, 原記載では"外套彎入なし"となっているが, 実際には浅い彎入のある点からみて, Calyptogena属の亜属として取り扱うのが妥当と思われる。それで本新種は同亜属に属し, 殻が厚く, 光沢がなく剥れ易い殻皮をもち, 外套彎入の無いCalyptogena s.s.と別亜属になると考える。この見地からEctenagena WOODRING 1938(模式種C. elongata DALL)とAkebiconcha KURODA, 1943はArchiversicaに入るかもしれない。なお解剖学的特徴からArctica(アイスランドガイ)属は著るしく異なり, Calyptogenaを同科に置くのは不適当である。
著者
奥谷 喬司
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.23-39, 1974

日本近海を含む北西太平洋における深海の貝類相についてはチャレンジャー号, アルバトロス号による採集に始まり, 近年になってソ連のヴィチャズ号, 凌風丸等による採集が行われているが, 発表された報告に乏しく, 知見が極めて少ない。本報告は1955年以来行われている東海区水産研究所所属調査船蒼鷹丸による各種の調査航海中行われた深海トロール採集物のうち, 1973年までの水深2, 000m以深(最深7, 530m)から得られた貝類につき各曳網ごとの全種リスト(Table 1)を掲げ, 更にそれと既往の報告に基いて日本近海の2, 000m以深から知られている貝類目録(Table 2)を作製した。日本近海の深海底には数種の汎太平洋種(或は世界共通種)を除いて東太平洋海域と共通種は殆どないが, インドマレイ海域の深海性貝類相と共通種が少なくない。シリトゲソデガイ属(ワダツミソデガイ属)の分布に関する知見も整理した。
著者
坪川 涼子 ボーランド ロバート
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.184-195, 1991

沖縄本島および小笠原諸島父島より採集された18個体の背楯目の標本を調べたところ, 日本産未記録のBerthella martensi (Pilsbry, 1896)と同定された。本種は小型で, 背楯は大きく, 動物体の輪郭は楕円形をしている。背楯は腹足やえらを覆い, その前端中央には深い切れ込みがある。背楯は4個の部分からなり, 刺激によって殻を内包する中央部分を残して, 右側, 左側と後ろ側の3個の部分は自切によって本体より離れるという特徴がある。頭膜は大きく, 台形をしている。頭触手は基部で左右が融合し, その先端は背楯の前端の切れ込みから外側へ突き出して見える。腹足の前端には顕著なmucus groove(粘液溝)がある。えらは懸鰓膜によって右体側につき, 軸の上下にそれぞれ11枚から19枚(平均14.4, N=8)の羽状葉を持つ。えらの基部には前鰓孔があり, 懸鰓膜の後端上側には肛門が開く。体色には3つの型が識別された。殻は背楯の中央部分の下にあり, 楕円形でやや膨らむ。殻の背面には成長線がみられる。殻は白く薄く, ホルマリン固定標本ではしばしば脱灰されて殻皮のみが残る。歯舌は中歯を欠き, 多数の側歯から成る(歯舌式は62-93×76-134.0.76-134)。側歯は強く彎曲し, 単尖頭である。側歯内側に顕著な溝を生じることがある。顎板は特徴のある十字形の小歯からなる。生殖器官系はBerthella属の典型であるが, 雄性輸出管にはprostate gland(前立腺)と呼ぶ膨大部を欠き, 太く長いpenial gland(陰茎腺)が付属する。交尾嚢は球形, 受精嚢は楕円体をしていて, 両者はほぼ同じ大きさである。生殖開口はえらの基部下側に丸い隆起を生じ, その中央に雄性開口があり, 後ろ側へ連続して雌性開口がある。陰茎は円錐形である。食性については消化管内容物より, 少なくとも海綿類を食べることがわかった。本種は1880年のMartensによる最初の記録以来, Willan(1984)とGosliner and Bertsch (1988)の報告があるのみである。今回の報告とそれらを合わせると, 本種の分布はインド洋から太平洋に及ぶ。本種は刺激を受けると背楯を自切するという奇習があるので, チギレフシエラガイという和名を提唱する。
著者
ブシェ P. カントール Y. I.
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.181-190, 2000
参考文献数
7

フデヒタチオビ属は熱帯太平洋からはこれまでVolutomitra vaubani Cernohorsky, 1982のみが知られていたがニューカレドニア沖の水深285∿525 mから第2種目の新種V. glabellaを記載する。本種は前種と同所的に分布するが, 成殻サイズが大きく(17∿25 mm), 色彩美麗で, 胎殻が大きい(平均径1440μm, 前種は1030μm)。
著者
高 悦勉 夏苅 豊
出版者
The Malacological Society of Japan
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.126-145, 1990-08-31 (Released:2018-01-31)

Karyological studies were made on the embryos of seven cephalopods using chopping method. Two sepiids (Sepia esculenta and Sepia lycidas) and three loliginids (Sepioteuthis lessoniana, Heterololigo bleekeri and Photololigo edulis) were all 2n=92. Their karyotypes and total length of chromosomes were slightly different from each other. Two octopuses (Octopus ocel-latus and O. vulgaris) were both 2n=60. Their karyotypes and total length of chromosomes were, however, remarkably different from each other.
著者
澄川 精吾
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.p274-280, 1983-02
被引用文献数
2

The observations were made on the reproductive behavior of the estuarine pulmonate snail, Ellobium chinense, from April to July 1978 and from July to October 1980. The snails were reared in the laboratory for these two periods and this work was mostly done in the first one of them. In about 130 phenomena observed, most matings took place in only two snails linked parallel with each other, and copulatory chains by three or four snails were observed in few cases. During the mating the transfer of sperms was carried out by the right side snail to the left one in the snails linked parallel respectively. The mating in the field was observed from late June to early August. The rope-like egg ribbons were found on moist mud in the breeding boxes late in July. The mass of egg ribbon resembled a tangle of gelatinous string. Egg capsules linked together by mucoid threads continuous with the capsule wall and were themselves embedded in an egg mass of gelatinous material. Each egg capsule normally contained one fertilized egg.
著者
岡本 章 有本 文也
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌 (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.p194-202, 1986-10
被引用文献数
6

著者らは, ヤマトジミ属貝類の染色体を調査した。ヤマトシジミの染色体数は38, セタシジミは36であった。マシジミは, 54の染色体が3本相同の18組に分けられたことより, 倍数性進化によって成立した3倍体の種であることが示された。3種の染色体数及び核型の比較より, ヤマトシジミの祖先種よりセタシジミの祖先種が分化し, さらにそこからマシジミなど雌雄同体種のグループの祖先種が分化したと思われた。