著者
山口 豊一 松嵜 くみ子 上村 佳代
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学心理学部紀要 (ISSN:24348295)
巻号頁・発行日
no.3, pp.43-53, 2021-03

本研究では,女子大学生における援助要請行動とQOL の関連を検討し,明らかにすることを目的とした。援助要請行動尺度を作成し,因子分析を行った結果,1因子5項目の尺度が作成された。女子大学生139名を対象に,QOL,居場所感,援助要請行動について質問紙調査を行い,測定した。学年差はみられなかったため,学年ごとにデータを分けず相関分析を行った。その結果,QOL,居場所感,援助要請行動の間に十分な相関がみられたため,パス解析を行った。その結果,「援助要請行動」は,「本来感」,「自己有用感」の2つを介して,「精神的健康」「自分」「家族」に影響を与えていた。また,「援助要請行動」は,「自己有用感」を介して,「身体的健康」,「友達」,「学校」に影響を与えていた。以上のように,援助要請行動は居場所感を介してQOL に影響を与えることが明らかとなった。
著者
長久 真理子 山口 豊一
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.51-60, 2021

本稿は,被援助志向性研究の動向を概観し,これらの研究の課題を論じることによって被援助志向性の研究を展望し,研究・実践上の課題を示すことを目的とする。厚生労働省(2020)が2020年3月から5月に行った調査では,コロナ禍で抑うつ状態になる学生,人間関係に不安を感じている学生が増えている。また,文部科学省(2020)が行った「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」では,いじめの認知件数が過去最多を更新した。このような状況を鑑みると,子ども達への支援の充実は喫緊の課題であると考えられる。子どもの身近な援助者には,養育者,友人,教師,心理教育的援助サービスを提供する専門家などがいる。子ども達が様々な援助者に援助を求めるかどうかという被援助志向性を知ることは重要である。そこで,本稿では,日本で発表された被援助志向性の研究動向を小学生,中学生,高校生と対象ごとに分類し展望した。
著者
石川 章子 山口 豊一 松嵜 くみ子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部臨床心理学科紀要 (ISSN:21877343)
巻号頁・発行日
no.1, pp.69-83, 2013-03

児童生徒の学校適応は大切な課題であり,どのような働きかけがその向上に役立つかを検討することが大切である。本研究においては,体育祭前後での「学校適応感」と「状態自尊感情」得点を,中学生403名を対象に調査し,検討した。体育祭前後で得点が変化した領域は,学校適応感のうち「進路領域」と「状態自尊感情」であった。学年ごとの検討では,1学年は「学校適応感全体」の得点が低くなり,2学年は「学校適応感全体」と「学習領域」の得点が高くなり,3学年は「学校適応感全体」の得点が高くなった。登校場所ごとの検討では,相談室登校生徒において,「学校適応感全体」と「心身の健康領域」の得点が高くなった。 また,「学校適応感」と「状態自尊感情」の関連を調べると,学校適応感の中でも「心身の健康領域」の得点が「状態自尊感情」に中程度の影響を与えていることがわかった。 以上のことから,体育祭が中学生の「学校適応感」や「状態自尊感情」を高めるための援助サービスとして活用できる可能性が考えられる。さらに,相談室登校生徒などに対する二次的援助サービスや三次的援助サービスとしての機能も果たす可能性が示唆された。しかし,生徒によっては逆に「学校適応感」が低くなる危険性もあるため,配慮や注意が必要である。また,「心身の健康領域」の学校適応感を高めるはたらきかけが間接的に「状態自尊感情」を高める可能性が示唆された。
著者
富島 大樹 末永 清 菅沼 憲治 山口 豊一 藤生 英行
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
pp.27.2.3, (Released:2018-06-01)
参考文献数
24

心配傾向の高い者は,同時に複数の心配ごとを抱えているという。ただ,心配関連の複数の情報に対する処理過程に注目した研究は見られない。31名の健常な大学生と大学院生(男性:9名,女性:22名,平均年齢:23.71歳)が2種類の刺激(心配語と中性語)を用いた修正視覚探索課題を実施した。分析の結果,反応時間では,心配傾向の高い者は,妨害刺激が中性語の際に,中性語に比べ心配語の標的の検出がより早く,心配語への注意の促進のバイアスがあり,心配が意識に侵入することに関連しているものと考えられた。また心配傾向が高い者は,心配に関連する情報が多く提示された際に,標的の検出が遅くなっていた。心配傾向の高い者は,心配語に対する注意の解放困難のバイアスがあると考えられた。心配語の処理における要因について,不安障害に関連した臨床的適用と今後の研究の方向性について議論した。
著者
山口 豊一 吉田 香衣 石川 章子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.A61-A73, 2009-03-15

本研究の目的は、中学校教師へのインタビューを題材として、「中学校教師のチーム援助モチベーションを促進する要因は何か」を実践現場からのデータに基づいて明らかにすることである。データ収集においては、研究対象校の校長の許可を得て、第一筆者が教育相談主任、養護教諭、学級担任との半構造化面接を実施し、面接から逐語記録を作成した。データ分析においては、質的研究法の1 つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用い、分析は学校心理学研究者および臨床心理学専攻の大学院生2 名(第二、第三筆者)により実施された。分析の結果、15 の概念が見出され、それはさらに【Iリーダーシップ】【II組織】【III雰囲気】【IV意識】の4 つのカテゴリーにまとめられた。 結果からみると、チーム援助モチベーションの促進要因は、ハード面の《組織》およびソフト面の《リーダーシップ》《雰囲気》《意識》であることが明らかになった。そして、《リーダーシップ》が《組織》の【柔軟なチーム援助】【システムの構築】および《雰囲気》に直接的に影響を与えていた。さらに、《雰囲気》は《組織》の【役割分担によるチーム援助】に影響を与え、《意識》とは相互に影響を与えあっていた。 チーム援助モチベーションが促進されるためには、組織が整えられることは大切であるが、その組織がより効果的に機能するためには、それを動かす教師集団の雰囲気や意識が大切であることが確認された。実践現場から導かれた本研究の結果は、理論的な先行研究では十分扱われてこなかったチーム援助モチベーションの促進要因が学校組織の視点から明らかになり、現在の教育界に対応するチーム援助の特徴を示唆している。