著者
竹下 伸一 北村 優衣
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.207-210,a2, 2019 (Released:2022-06-20)
参考文献数
16

宮崎県北西部の5町村は高千穂郷・椎葉山地域としてその地域に根付く山間地農林業複合システムが評価され,2015年に世界農業遺産に認定された。本報ではそれら農業用水路の受益水田の標高分布,および敷設地周辺の傾斜角を解析して,地形的特徴を検討した。加えて文献調査により他地域の水路と比較しながら本地域の農業用水路の存在意義を考察した。その上で本地域の農業用水路を「水田灌漑水の供給を主目的とした農業用水路で,地形上の制約により区間の多くが山の斜面上に敷設された多面的機能を有す開水路」とし,その呼称を新たに山腹用水路と呼ぶことを提案した。
著者
中屋 俊満
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.83, no.7, pp.571-574,a2, 2015 (Released:2021-01-14)
参考文献数
7

愛知県濃尾平野北部に位置する木津用水は今から約370年前,尾張藩の直轄事業として開削された。木津用水の開削は尾張藩の財政を支え,その後何回かの災害を受けながらも復旧を行ってきた。明治時代には木曽川から名古屋を結ぶ舟運にも利用されながら現在まで用水路として水を配り続けてきた。しかしながら,都市化の進行により背後地などからの排水量の増大により機能に支障が出始めたことから,国営総合農地防災事業として改修を行うことになった。同用水の地下水涵養機能などに着目し,今後の用水供給の継続と土地改良区の役割などについて筆者の考えをまとめた。
著者
成岡 道男 奥田 幸夫 大矢 徹治 大西 純也
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.187-192,a2, 2009 (Released:2019-01-08)
参考文献数
11

本報では,アラル海流域にあるウズベキスタン内のカラカルパクスタン自治共和国に焦点を当て,塩害の現状を報告し,地球温暖化による農牧漁業への影響について考察した。そして,現在実施されている塩害やアラル海の縮小に端を発した環境破壊への対策事業等を事例に,地球温暖化への備えについて検討した。その結果,地球温暖化に伴って,水不足の深刻化や塩害進行の加速化,アラル海の干上がった湖底からの飛塩の増加等が生じることを予測した。これらの影響に対して,水不足への備え,塩害防止対策の推進,湖沼の縮小への適応,セーフティネットとしての地域資源の活用等の重要性を示した。
著者
菊地 誠 濱口 大志 安井 章二 辻崎 徹
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.883-887,a1, 2008

南幌町の営農は, 泥炭地という劣悪な条件の下, 水稲, 小麦, 小豆等を中心に展開されてきたが, 圃場整備および農地の利用集積等を進め, 今日では戸当たり経営規模は, 稲作経営としては北海道一・の24haとなっている。また, 国営農地再編整備事業の実施により, 田植・収穫などの機械作業時間や水管理時間が大幅に節減され, 野菜類の積極的な導入も可能となった。一方, 町内には11の農業生産法人が設立されており, 地区内にも2つの農業生産法人が設立されている。<BR>本報では, 事業実施を契機として組織化が促進された農業生産法人の設立経緯と概要, 事業の評価, および地域農業の新たな取組みについて報告する。
著者
石垣 利浩
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.704-704,a1, 2008

6月14日午前8時43分頃, マグニチュード7.2の地震が岩手・宮城内陸部を襲った。震源地に近い宮城県栗原市では震度「6強」が観測され, 山間部を中心に甚大な被害が発生した。宮城県内では7月10日現在, 死者9名, 行方不明8名 (いずれも栗原市) の人的被害となっている。本報では, 農地・農業用施設の被害概要を報告する。
著者
村田 稔尚
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.87, no.6, pp.483-488,a2, 2019 (Released:2022-06-20)
参考文献数
7

ブラジルは1970年代から急速に農業生産を伸ばし,今日では世界農産物市場において輸出額で米国に次ぐ第2位で9%のシェアをもつ農業大国となった。この躍進を大きくけん引したのが,1970年代半ばから進められた同国中西部に広がるセラードと呼ばれる広大な未開サバンナ地域での農業開発である。たとえば,同国の大豆の生産は,1990年代から2017年にかけ8倍強の10,800万tに増大したが,そのうち60%がセラード地域産で占められた。日本は,このセラード農業開発を促進するためのパイロット事業(PRODECER)に官民挙げて協力し多大な成果をあげた。本報はこの協力事業を現時点で総括し国際的な標準とされる経済協力開発機構(OECD)の評価基準に照らし評価するものである。
著者
池浦 弘 北村 義信 藤巻 晴行
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.85, no.10, pp.953-958,a2, 2017 (Released:2021-01-14)
参考文献数
9

ヨルダンでは降水量が少ないことに加え,国際河川からの取水量の制限,さらに近年の人口の急増による水需要の増加などにより水資源が逼(ひっ)迫している。ヨルダンの農業はヨルダン渓谷および比較的降水量が多い北部の高地などを中心に行われているが,農業分野は水配分の優先順位が最も低く,限られた水資源で農業生産の増加を達成することが求められている。このような水資源の需給状況と,2015年に国連の持続的開発目標が定められたことを背景に,ヨルダンでは2025年に向けた水戦略の改定が行われた。本報では,ヨルダンの水資源と水戦略について灌漑に関する事項を中心に紹介する。また,著者らが同国で調査した灌漑農業の現状と課題を述べる。
著者
清水 穂高 冨森 淳
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.85, no.8, pp.733-734,a2, 2017 (Released:2021-01-14)

農業農村工学(農業土木)を専攻されている大学生,または大学進学を控えて学部学科を検討中の高校生の皆さんに,ゼネコンの仕事の概要と魅力を紹介するとともに,建設業を取り巻く環境の変化に対し求められるイノベーションについて述べる。一般的な製造業との決定的な違いは「単品受注生産」という特性であり,1つとして同じものはない構造物を,数々の創意工夫と技術力で造り上げるのがこの仕事の面白さである。建設マーケットの変化,人口減少社会の到来,働き方改革など,外部環境の変化に柔軟に対応しながら,10年,20年先を見据えた新たな一手を打つ必要がある。培った知識や経験に新しい発想や新技術を加えて価値を創造し,ものづくりの最前線で社会に貢献する建設業を知っていただきたい。
著者
嶺田 拓也 吉迫 宏 赤石 大輔
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.81, no.8, pp.635-638,a2, 2013 (Released:2020-01-10)
参考文献数
6

能登半島の先端に位置する石川県珠洲市は過疎高齢化が進行した地域であり,小規模なため池を中心に放棄や管理の粗放化が問題となっている。現在,多様な主体の参画・連携のもと策定作業が進められている「地域連携保全活動計画」のなかで,ため池の希少水生生物を守りながら地域資源としての利活用を図るために,放棄されたため池を利用したジュンサイ栽培が提案されている。能登地域ではジュンサイ利用の食文化もあり,地域需要も見込まれるほか,ジュンサイは希少ゲンゴロウ類などの水生昆虫の産卵植物や隠れ場として貢献しうる。当該地区の取組みは,放棄された小規模ため池を新たな地域資源として再生・位置づけるものとして注目される。
著者
中矢 哲郎 樽屋 啓之 浪平 篤 中田 達 中 達雄
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.84, no.10, pp.855-858,a2, 2016 (Released:2021-01-14)
参考文献数
3

ポンプ灌漑地区において,施設の管理状況や電力使用状況を現地の聞取り調査や運用調査より明らかにした。その上で用水の有効利用や,節電を実現可能なポンプ直送式の配水システムの技術的問題を提示した。さらにプラントやインフラ施設の監視制御における最新の情報通信技術のうち,低コストでありかつ汎用機器との通信性に優れるSCADAを導入した,末端給水栓と用水機場の管理の連携を簡易にかつ拡張性高く構築できる灌漑配水の監視制御システムを提案した。本システムをポンプ灌漑地区の水理実験模型に実装し,システム構築の簡便性や制御運転のリアルタイムでの運用性を把握し,現地適用の有効性を報告した。
著者
菅家 雄太郎 黒須 正幸 渡邊 長 齋藤 剛
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.926-927,a3, 2008

中山間地域総合農地防災事業井野目堰地区は福島盆地の北西部に位置しており, 約150haの水田に灌漑用水を供給している用水路である。しかしながら, 老朽化が著しく, 大雨により水路の脆弱化が進み, 水路決壊, 法面崩壊等による災害発生の危険性があることから, 平成14年度より水路改修工事を実施している。本報では改修を実施した区間の中で, 本用水路の最上流部に位置し, 亀裂性岩盤部に施工した水路トンネルの事例を紹介する。
著者
田中丸 治哉 カリド アリ エルタイブ エラミン 多田 明夫 鳥井 清司 バシール モハメド アハメド アダム アラヤ ゼライ ゲブラムラク
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.84, no.9, pp.781-784,a3, 2016

<p>洪水灌漑(spate irrigation)は,季節河川における雨季の洪水を水路によって圃場に導水する灌漑方法であり,中東やアフリカなどの乾燥・半乾燥地域で古くから利用されてきた。本報では,大規模な洪水灌漑プロジェクトが実施されているスーダン東部のガッシュデルタを対象として,衛星リモートセンシングに基づくエネルギー収支法(SEBAL)を適用し,洪水灌漑圃場(耕作ミスガ)における蒸発散量の空間分布を推定した。さらに,その結果に基づいて,同じ耕作ミスガ内でも場所によって水供給量が異なり,蒸発散量がかなり変動すること,地表面の凹凸が激しい耕作ミスガほど,水供給の不均一が生じやすいことを示した。</p>
著者
緒方 英彦 高田 龍一 鈴木 哲也 山崎 大輔 佐藤 周之
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.405-409,a2, 2010 (Released:2019-01-08)
参考文献数
4

農業水利施設の機能保全では,それぞれの施設で異なる構造形式,供用される環境条件に応じた変状発生パターンに基づいて機能診断が実施され,施設特有の変状に即した対策工法が実施されなければならない。そのためには,表面変状だけでなく内部変状を的確に見極める変状認知力を持つことが必要になる。本報では,寒冷地にあるRC開水路を対象に,凍害による内部変状の発生パターンを採取したコアから考察するとともに,現地踏査(概査)でこの内部変状を推測する手段を述べる。また,RC開水路の凍害ひび割れ発生形態に基づいた対策工法について提言を行う。
著者
今本 博臣
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.81, no.9, pp.717-720,a2, 2013 (Released:2020-01-10)
参考文献数
5

藍藻類の異常増殖によるアオコが発生すると,灌漑用水は緑色に着色する。その水を農作物に散布した場合,葉物野菜や花に付着すると斑点が生じ商品価値を下げてしまうことがある。また,アオコが混入した水を散布する際に,噴霧器や多孔管などの穴が目詰まりする恐れもある。それ以外にも,景観障害や魚のへい死や悪臭なども懸念される。このような水質障害を軽減するための対策技術の確立が急務となっている。農業用貯水池の水質改善対策としてはさまざまなものが提案されているが,貯水容量が非常に大きく,しかも栄養塩濃度が高いという特殊性から適用可能な対策はきわめて限定的である。本報では,そのなかでも一定の改善効果が期待できる「曝気循環設備」,「滞留時間の短縮」,「干し上げ」,「バイパス水路」による水質改善について解説した。
著者
高橋 強 村島 和男 坂田 寧代
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.76, no.12, pp.1077-1080,a1, 2008-12-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
6

石川県能登半島地域を事例として過疎・高齢化の進行の現状を分析した結果, 地域内に有力な進学・就職先が少ないために中学・高校を卒業すると都市部に転出すること, 耕作放棄と高齢化の問には高い相関があることが確認され, 耕作放棄地率は高齢化の進行とともにますます増加することが予測された。活性化の方向としては若者の定住を図るための企業や住宅の誘致を求める声が圧倒的に多い。都市住民の新規居住についても移住を歓迎する意向を示しており, 地域の受入れ意欲は大きいといえるが, そのためには, 立ち遅れている下水道や医療・福祉関係の整備などの居住環境整備が大切であることが示された。
著者
佐藤 智 金田 敏和 石神 暁郎 周藤 将司 緒方 英彦
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.117-120,a2, 2013 (Released:2020-01-10)
参考文献数
4

積雪寒冷地において農業水利施設の機能診断を行う際には,凍結融解作用に着目する必要がある。農業水利施設の多くを占める鉄筋コンクリート製開水路では,凍害による側壁の表面変状と内部変状が異なる形態であることが知られている。水路側壁の断面観察の結果,凍害劣化した開水路の側壁内部に発生するひび割れは必ずしも連続したものではなく,多数のひび割れが不規則に発生していることを明らかにした。また,側壁の方角,背面の土地勾配,積雪状況,融雪水の供給状況,ひび割れが発生した目地,側壁の雨水滲出箇所,天端のスケーリング,表面ひび割れの分布などから凍害発生箇所を目視調査のみで推定できることを明らかにした。
著者
水谷 正一 南斎 好伸 小堀 忠則
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.11-14,a1, 2014 (Released:2020-01-10)
参考文献数
4

栃木県では,農地・水・環境保全向上対策の導入に当たり,地域の人々が,自分たちの住む農村環境を見つめ直し,環境への理解を深めるとともに保全活動に参加するきっかけづくりとするため,田んぼまわりの生きもの調査を県の独自要件として提唱した。本報では,この取組みを農業・農村施策のアウトリーチ活動としてとらえ,栃木県農地・水・環境保全向上対策推進協議会を中心として市町や関係機関と連携しながら,非農業者や子どもたちの参加促進に向けたさまざまな取組みとその成果について紹介する。