著者
黄 〓惠 橋本 禅 星野 敏 九鬼 康彰
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.489-498, 2012-12-25

本研究では,台湾における農用地土壌汚染の社会的背景と,汚染及び汚染拡大の分布特性を明らかにすると共に,汚染対策の課題を日本の農用地土壌汚染対策の取組との対比により明らかにした.台湾の農用地土壌汚染は都市計画農業区やその周辺地域に多く,農村地域にある違法操業を含む工場排水の農業用排水路への放流が主因である.台湾の農用地土壌汚染対策による汚染の除去は対症療法的であり,工場排水への対策や未処理の底質による汚染の拡散や蓄積の防止を考慮した対策は取られない.本稿では,このような事態への対応方策として,①現在の点的な対症療法的対策から日本の農用地土壌汚染対策のような面的かつ抜本的な対策への改善,②工場の立地規制や排水基準の見直し,違法操業の取り締まり,③都市計画区域外の農業区については圃場整備事業等を契機とした土地利用の整序,を提案した.
著者
小林 郁雄
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.1201-1206,a1, 1996

地すべりは, 特定の地域および特定の地質条件のもとで発生すると言われ, その原因を地質や地下水などに求めることが多い。しかし, 地すべり面に直接作用し, 関与の程度が大きい特定の地質構造や地下水経路を実際に明らかにすることは容易ではなく, 設計の際には高度な判断を要する場合が多い。このため, 観測という確実性の高い手段による地すべりの監視や機構解明は, 対策設計の精度および信頼性向上に大きく貢献している。<BR>ここでは, 新潟県中頚城郡板倉町および妙高高原町地内にて実施中の直轄地すべり防止事業における事例をもとに, 観測手法の概要や課題を紹介する。
著者
関 勝寿 宮崎 毅 中野 政詩
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.1996, no.181, pp.137-144,a3, 1996-02-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
18

土に長期的に栄養水が侵入すると, 土の間隙中の土壌微生物と微生物がつくり出す代謝生成物が水の通り道を塞ぐ現象, いわゆるclogging (目詰まり) 現象が生じ, 土の透水性が低下することが知られている. そこで, 栄養水飽和浸透条件下での透水係数の長期変動を調べ, 深さ0~1cmの層において, 118日間でほぼ2オーダー透水係数が低下することを示した.透水係数低下の第一の原因は, 糸状菌の長い菌糸と微生物の代謝生成物による間隙の閉塞であり, 第二の原因は, グルコースから発生したメタンガスが118日間に表層に最大14%の気相率相当量が溶解せず気泡となって間隙中に閉塞されたことによるものであると説明された.
著者
廣瀬 哲夫 内田 一徳 田中 勉 ファン ティハンチャン 石渡 洋子
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.251, pp.515-527,a1, 2007

浸透破壊は, 地下水位の高い地点における土木構造物の性能設計において重要な課題の一つである. ここでは, 二次元複列矢板内地盤の浸透破壊実験について, PIV (Particle Image Velocimetry) 解析を行い, 水頭差の増加に伴う地盤構成砂粒子の移動現象に関する考察から次の結論を得た:(1) PIV解析を用いることによって, 砂粒子の移動の領域や様子を把握することができる.(2) 水頭差が変形開始時水頭差<I>H<SUB>y</SUB></I>を超えると, 複列矢板内の矢板壁近傍の砂粒子の上方向への移動, 及び, 矢板壁から少し離れた部分の複列矢板中央へ向かう斜め上方への移動が認められる.(3) 水頭差が変形開始時水頭差<I>H<SUB>y</SUB></I>を超えた直後の, 砂粒子の移動の範囲は, おおよそ, 深さ<I>D</I> (矢板の根入れ深さ) 及び幅<I>D</I>/2の範囲である.(4) PIV解析による地盤構成砂粒子の塊としての移動開始時水頭差<I>H<SUB>PIV</SUB></I>, 流量急増時水頭差<I>H<SUB>d</SUB></I>, 及び, 変形開始時水頭差Hyはほぼ等しい.
著者
冨宿 一隆 福山 潤一
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.315-320,a1, 1986

大川ダムは, 県営畑地帯総合開発事業で農業用水と水道用水の共同事業として建設されたロックフィルダム形式の多目的なダムで, 昭和55年に完成した。当ダムは建設着手時から堤体を将来かさ上げすることを前提として建設条件が検討されており, かさ上げ工事は名瀬市上水道用水確保のため, 昭和58年から厚生省補助事業として工事実施中である。かさ上げダムの背景, 設計の経緯, 設計上の検討事項等についてその概要を紹介する。
著者
中村 好男
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.525-531,a1, 1992

中国では, 1980年代後半より農村企業の発展に伴う農業労働力の流出や, 政府による農業生産基盤投資の減少などの影響を受けて食糧生産が停滞気味となった。こうした情勢の中で, 中国当局による稲・麦の単収増加を図った「トン糧田」建設構想が打ち立てられた。トン糧田とは, 1ムー (0.066ha) 当り1tの食糧を生産できる水田のことをいうが, そのためには水利改良が絶対的な条件となる。そこで本稿では, トン糧田建設に係わる中国当局での取組みや, 技術, 管理などの課題について, 用水不足地帯である三河平原徐州市と, 排水不良地帯である太湖地区常州市の例を取り上げ紹介した。
著者
長利 洋
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.451-458, 1996-06-25
参考文献数
6
被引用文献数
4

圃場整備後の水田を対象に,農家が均平を確保するために負担している作業の量を,切盛り土量と運土距離の積で表す運土仕事量を定量的に求める方式を提案した. この運土仕事量を指標に,30a区画水田と大区画水田(60a)を対象に,熟田並の高低差4cmにするまでの均平作業量を検討した. その結果,30a区画水田と同精度の高低差7cmで造成された大区画水田では,30a区画水田に比べて均平に要する負担量が増大することが明らかとなった.<BR>したがって,大区画水田造成に際しては30a区画水田とは異なる,施工側と農家側の双方が折り合うことのできる,新たな均平管理基準が必要であることを提案した.
著者
久保 成隆 志村 博康
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.1981, no.96, pp.6-12,a1, 1981

開水路での高度な水利制御にとって, 段波の動態の分析は重要な課題であると考えられる。本研究では, 非粘性水'P水路において, ゲート前方に水位がない状態での4通りのゲート操作によって発生する負段波を, 理論的実験的に分析した。-A. ゲート急速全開放, B. ゲート急速部分開放, C. ゲート緩開放, D. 堰頂でのゲート急速全開放.-その結果, 理論値と実験値はよく符合し, その有効性が実証された。
著者
有田 博之 西口 猛 小川 一貴 本間 泰造
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1119-1124,a1, 1987

農業集落排水処理施設の維持管理についてのアンケート (1985.9) 結果の分析。<BR>本報では,(1) 使用料,(2) その他施設関連事項についてとりまとめ, 問題点を概括した。<BR>使用料は定額制を採用する地区が多い。一般家庭以外の使用料徴収体制は不十分で今後検討の余地が残る。市町村の要望には維持管理のマニュアル化を求めるものが多い。また, 施設の更新費に対する補助体制の整備要望も強い。
著者
足立 英夫
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.813-815,a1, 1984

できる限り調和のとれたエネルギ資源の使い方こそ現代テクノロジーに課せられた使命といえる。 これからの技術開発のあり方として, 自然環境にある昔ながらのコストのかからないエネルギに着目し, その利用開発こそ重要なテーマといえる。 その一例として, 無動力の雨水利用, ソーラー熱の土中蓄熱による温室栽培を提案し, 併せて雨水の利用法, 中水のリサイクルに関係ある材料 (ソフトセラミックス) を紹介する。
著者
内田 晴夫
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.69-74,a2, 1998

満濃池・香川用水掛かりの溜池の水質の調査結果について報告した。本地域では水質汚染が進み, 農業用水基準を満たさない溜池が多く, また, T-NとT-Pを主な指標とすると, 本地域の溜池は (1) 上流に位置する汚染が進んでいない池, 中下流に位置する (2) やや汚染している池,(3) T-Nによる汚染が進んでいる池,(4) T-Pによる汚染が進んでいる池および (5) 植物プランクトンの発生によりCODが高い池,(6) ECとpHが高い (塩基性イオンに富む) 池,(7) ECとpHが小さい (溶存イオンが少ない) 池,(8) TIPとT-Nによる汚染がともに進んでいる池,(9) T-Nによる汚染が極端に進み, 藻類が異常発生している池の9つのグループに分類できることが分かった。
著者
粟生田 忠雄
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.331-332,a1, 2000

1991年9月から1年間オランダのワーヘニンゲン農科大学に遊学した経験をまとめたものである。筆者の視点から, 日本とオランダ両国を比較して母国である日本を浮き彫りにする。<BR>明治期, 土地改良事業のためにオランダ人技術者が招かれた。しかし, 今日の両国のインフラ整備には大きな隔たりができた。インフラ整備などの方法論ではいまだオランダに学ぶ点があるように思われた。
著者
菊地 誠 濱口 大志 安井 章二 辻崎 徹
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.883-887,a1, 2008

南幌町の営農は, 泥炭地という劣悪な条件の下, 水稲, 小麦, 小豆等を中心に展開されてきたが, 圃場整備および農地の利用集積等を進め, 今日では戸当たり経営規模は, 稲作経営としては北海道一・の24haとなっている。また, 国営農地再編整備事業の実施により, 田植・収穫などの機械作業時間や水管理時間が大幅に節減され, 野菜類の積極的な導入も可能となった。一方, 町内には11の農業生産法人が設立されており, 地区内にも2つの農業生産法人が設立されている。<BR>本報では, 事業実施を契機として組織化が促進された農業生産法人の設立経緯と概要, 事業の評価, および地域農業の新たな取組みについて報告する。
著者
石垣 利浩
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.704-704,a1, 2008

6月14日午前8時43分頃, マグニチュード7.2の地震が岩手・宮城内陸部を襲った。震源地に近い宮城県栗原市では震度「6強」が観測され, 山間部を中心に甚大な被害が発生した。宮城県内では7月10日現在, 死者9名, 行方不明8名 (いずれも栗原市) の人的被害となっている。本報では, 農地・農業用施設の被害概要を報告する。
著者
服部 俊宏 高松 利恵子
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.183-190, 2009-04-25

大規模牧場の資源流動とそれに基づく窒素収支を明らかにすることにより,そこでの環境への負荷を軽減させるためのあり方を検討した.調査対象は,周年飼育を実施している青森県内の4公共牧場である.各牧場において,「牧場」「土壌」を集計単位として,年間の資源流動を把握することにより窒素収支を明らかにした.<BR>牧場を単位とした窒素収支は,いずれの牧場でも搬入超過であり,土壌単位の窒素収支でも,いずれの牧場も投入過多である.面積当たりの牧場窒素蓄積量の削減には配合飼料や化学肥料の搬入削減が,面積当たりの土壌窒素蓄積量の削減には,施肥の削減や投入/産出比を精緻に管理することがそれぞれ必要であるということが示唆された.
著者
小谷 康敬
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.917-924,a1, 1991

平成2年における主要な災害としては,<BR>(1) 6月2日から7月22日にかけて九州地方を中心とした地域に被害を与えた梅雨前線豪雨<BR>(2) 瀬戸内海地方を中心とした地域に被害を与えた台風19号 (9/11~9/20) および秋雨前線による豪雨<BR>(3) 九州および関東地方を中心とした地域に被害を与えた台風20号 (9/26~10/1) による豪雨<BR>の3災害が挙げられる。<BR>これら3災害をふりかえり, その概要と被害の内容を述べる。
著者
増野 途斗 中村 好男
出版者
The Japanese Society of Irrigation, Drainage and Rural Engineering
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.121-124,a2, 2005

花宗川における春水通水慣行は非灌漑期の春先において, 矢部川から分水する花宗川を瀬替して通水し, クリークに用水を貯水する慣行である。この通水期間は「四月上旬から八十八夜までの一ヵ月間」において実施されていたが, 現在では約20日間遅れで継続されている。このような慣行に関し, 旧通水期間と瀬替部分の横断水路敷設を視点に, 慣行の成立過程を検討した。その結果, 旧藩時代の初期に田中吉政氏の農業振興対策の一つである麦栽培の導入・奨励が契機となって, 瀬替水路は開削され春水通水慣行が成立したことを明らかにした。