- 著者
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スミルノフ V.I.
ボロダエフ Iu.S.
スタロスチン V.I.
- 出版者
- 資源地質学会
- 雑誌
- 鉱山地質 (ISSN:00265209)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.91, pp.284-291, 1968-09-18 (Released:2010-07-14)
- 参考文献数
- 5
日本の硫化鉄鉱鉱床*1の多くは,アルプス地向斜発展期初期段階のものである中新世のスピライトーケラトフフイア岩系の岩石帯に集中している.この種の鉱床の鉱体は,火山砕屑岩層に覆蔽された流紋岩質層の近辺に賦存し,累帯構造を示している.下位の熱水性変質作用を受けている流紋岩中には,交代成微脈―鉱染状硫化物鉱石(珪鉱)が発達している.その上位には塊状の硫化鉄鉱鉱石(黄鉱)が分布している.そしてさらに,海成の成層火山砕屑岩に整合的に覆蔽された高品位多金属鉱(黒鉱―чёрная руда,black ore)が,その上位に分布している.この鉱床は,火山源堆積作用の複合生成物と思われる.すなわち,鉱体下位のものは流紋岩に対する熱水溶液の作用によつて生成し,上位のものは中新世の海底にその熱水溶液が運んできた物質が沈殿して生成したものと思われる.1940年代になつて,A.ザヴァリツキーはウラルの硫化鉄鉱鉱床について新しい火山源生成説を提起したが,彼は,第三紀火山作用と結びつけた日本の「黒鉱」に関する日本の地質学者たちの考え方(木下亀城,1931)をその中にとり入れ支持していた.しかし硫化鉄鉱鉱床の生成条件に関する考え方が変つてきた現在,日本の硫化鉄鉱鉱床の地質に関するデータは,その火山源熱水―堆積性起源説(Theory of volcanogenic hydrothermal-sedimentary origin)の検討に基本的な支えとなり得るものである.そのために,日本のデータがソ連の地質学者の大きな関心を呼んでいるわけである.本論文を執筆するに当つて筆老らは次のように分担した.すなわち,1966年秋に日本の代表的な「黒鉱」鉱床を訪れて,研究試料を得てきたV.I.スミルノフは,地質の記載とその他のすべてのデータの全般的な総括(スミルノフ,1967)を行ない,Iu.S.ボロダエフは鉱石試料の顕微鏡的研究結果についてまとめ,V.I.スタロスチンはその試料の物理的性質の研究を行ない,そのデータを提供した.本論文の執筆は,東京大学の渡辺武男教授と立見辰雄教授,東北大学の竹内常彦教授,その他のきわめて熟達した著名な日本の鉱山地質学者との会合で,大いに刺激された結果である.また,同和鉱業株式会社社長新井友蔵博士とその補佐役の方々から,日本の硫化鉄鉱鉱床の巡検に積極的な協力と援助を受けた.これらすべての方々,および本論文を校閲して下さつたT.N.シャドルンとG.F.ヤユヴレフの両氏に厚く感謝申し上げる.著者はまた,日本の鉱石試料から得た硫化鉱物中の硫黄同位元素の分析を早く終了するために,V.I.ヴィノグラードフの高配を得た.当該鉱床の地質を説明する図葉は,日本の鉱山地質学者の資料から借用したが,遺憾ながら原図に明記してないため,その人々の名を示すことができなかつた.