著者
趙 成河 園山 繁樹
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 = Japanese Journal of Disability Sciences (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.227-236, 2018-03-31

本研究では、選択性緘黙の有病率に関する先行研究を概観し、有病率の推定値とその根拠資料を把握することを目的とした。対象とする先行研究は英文および和文の学術誌に掲載された選択性緘黙の有病率を調査した論文を選定した。選定基準に適合した16編の論文を分析対象とし、12の項目について分析した。調査研究の対象年齢は3.6~17歳で、有病率は0.02~1.89%であった。また幼稚園および学校で調査を実施した論文が12編、クリニックで実施した諭文は4編であった。選択性緘黙の診断基準としてDSM-III-Rを用いた論文は1編、DSM-IVを用いた論文は8編、DSM-5を用いた論文は1編、記載のない論文は6編であった。和文誌は4論文と少なく、最近の日本の選択性緘黙の有病率に関する大規模の調査は見当たらず、今後、日本における選択性緘黙の現状を把握する必要がある。また、今後の研究では選択性緘黙の発症時期について検討する必要がある。
著者
岩本 佳世 高橋 甲介
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 = Japanese Journal of Disability Sciences (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.43-53, 2018-03-31

本研究では、選択性緘黙を示す自閉スペクトラム症児童1名に対し、「人」「場所」「活動」ごとに発話状況をアセスメントし、その情報に基づいた順序で刺激フェイディング法を用いた発話指導を行い、通常学級場面での対象児の発話が改善するかどうか検討することを目的とした。このアセスメントでは、担任と母親へのインタビューや行動観察の結果から、対象児が話しやすい順序を決定した。第一段階として、発話が生起しやすい「遊び」の活動で発話指導を行い、指導の場所を大学のプレイルームから自閉症・情緒障害特別支援学級、通常学級へと段階的に移行した。この指導で発話が改善した後に、第二段階として発話が生起しにくい「スピーチ」の活動で発話指導を行い、指導の場所をプレイルームから通常学級に移行した。その結果、対象児は通常学級場面での遊びとスピーチの活動において、担任に対して発話できるようになった。本研究の結果から、選択性緘黙を示す自閉スペクトラム症児童に対する「人」「場所」「活動」ごとの発話状況のアセスメントに基づく支援は、通常学級場面での発話の改善に有効であることが示唆された。
著者
奥村 真衣子 園山 繁樹
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 = Japanese Journal of Disability Sciences (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.91-103, 2018-03-31

本研究では、選択性緘黙の経験者に学校生活上の困難と教師の対応に関する質問紙謂査を行い、選択性緘黙の児童生徒が抱える困難を明らかにするとともに、より望ましい対応を検討することを目的とした。対象者は、選択性緘黙の当事者会に所属する会員48名であり、回答のあった22名を分析対象とした。自由記述の質的分析から、困難:場面は音読や指名時の発言などの直接的な発言場面の他に、グループ活動や体育、休み時間、行事など、本人が主休的に行動したり、対人閲係が影響したりする活動にも困難があることが明らかになった。困難状況においては、クラスメイトからの孤立、身体動作の抑制、困難を回避するための欠席といった参加機会の制限が見られた。また、教師には選択性緘黙に対する正しい理解は言うまでもなく、発話や参加を強制しないこと、発話に代わる表現方法の許可、孤立を防ぐための働きかけ、自主的に動けないときの声かけ等を行う必要があることが示唆された。
著者
烏雲畢力格 柘植 雅義
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 = Japanese journal of disability sciences (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.29-42, 2018

本研究は自己調整方略の主炭な要素であるメタ認知の調整、行動の調整、環境の調整に含まれている6つの方略を用い、知的障害者の作業遂行力を促進する自己調整方略の尺度を作成することを目的とした。併せて知的障害者の就労における自己調整方略の使用の実態を検討した。既存の尺度や、職員に対する調査から項目を収集し、また内容的妥当性の検討を経て項目を選定した。このように収集・選定された項目を基に、成人期知的障害者366名を対象に調査を実施した。その結果、48項目からなる知的障害者の就労における自己調整方略尺度が作成された。因子分析の結果、この尺度は、(1)「目標設定」「柔軟的調整」「援助要請」「作業方略」「環境の管理」の5つの下位尺度から構成されていること、(2) 得られたα係数値から尺度の信頼性が示されたこと、(3)「作業方略」「援助要請」「柔軟的調整」「目標設定」「環境の管埋」の順に得点が高いことが、それぞれ確認された。Self-Regulation Strategy at Employment are important variables to promote work performance in people with intellectual disabilities. The purpose of this study was to develop a scale of Self-Regulation Strategy at Employment and to examine the current condition of Self-Regulation Strategy at Employment in people with intellectual disabilities. Strategy items were collected from an existing scale form and a questionnaire survey to Employee support staff. After the content validity, the selected items were completed by 366 people with intellectual disabilittes. As a result, a 48-item Self-Regulation Strategy at Employment Scale in people with intellectual disabilities was developed. (1)Factor analysis yielded 5 subscales: "goal setting" "Flexible regulation" "Help seeking" "Task strategy" "Environment structuring", (2)The scale was confirmed moderately reliability from Cronbach's alpha coefficient, (3)Using level was high in the order of "Task strategy" "Help seeking" "Flexible regulation" "goal setting" "Environment structuring".