著者
高津梓 佐藤知洋# 田上幸太# 柘植雅義 米田宏樹#
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

目 的 特別支援学校では,児童生徒一人一人に対して個別の教育支援計画および個別の指導計画が作成されている(文部科学省, 2009)。しかしながら,個別の指導計画の書式は自治体や学校によって異なっており,目標や手立ての設定も各教員にゆだねられている部分が大きい。実態から目標,手立てへの記述やつながりが適切ではないことが指摘されたり,評価の視点が定まりにくく次年度の担任へ継続されにくかったり,また,家庭との共有の困難さなどの課題も生じている。 本研究では,知的障害特別支援学校小学部において,児童の育ちについて段階的に目標を設定し,PDCAサイクルを繰り返すことのできる個別の指導計画の書式作りに取り組んだ。方 法対象: A知的障害特別支援学校小学部(1~6学年)の個別の指導計画方法: (1)目標の縦断的な分析および見直し 小学部6年児童の事例について,これまでの個別の指導計画計画の目標とその変化を縦断的に分析し整理した。従来の書式では,個別の指導計画で「目標」と「手だて」の欄,通知表で「目標」と「評価」の欄を設け,それぞれ並列して記述していた。その際,目標欄に長期的な目標を設け,手だて欄に細分化した目標と段階的な方略を挙げており,目標欄における目標の達成や変化が短期間では見え辛いという課題が挙げられた。また,包括的な目標に対しエピソードを交えた文章表記の評価を行っており,評価の視点が定まりにくく,教師と家庭で認識を共有することに困難が生じる場合もあった。このことから,個別教育計画の目標と手だての設定および記載方法を再検討した。(2)目標設定の方法及び評価の在り方の再検討 上記課題を踏まえ,目標設定および評価の方法や基準を検討した。個別の指導計画の書式については,「目標」「手だて」「授業」「評価(4期)」「備考」の欄を設け,目標から評価までが一枚で見えるようにした。通知表の書式は別途作成し,授業内容と活動の様子を記述するようにした。また,記述方法等の改善を行った(Table 1)。(3)新書式運用後の目標の変化の検討 新書式運用後の評価として,児童の目標量の変化について検討した。対象: X-1年度(前書式)およびX年度(新書式)の1~6学年在籍児童,各23名の個別の指導計画。方法: 各児童の前期評価時の目標欄から,「達成した目標」「新しく設定された目標」「修正した目標」の数を算出し,合算した。達成した目標については,「達成した」「できるようになった」という評価が記述されているものを対象とした。(4)保護者アンケートに基づく妥当性の検討改善した個別の指導計画について,X年度末に保護者アンケートを実施し妥当性を検討した。結 果 児童の目標の変化を,Figure 1に示した。達成したと明確に示された目標が20件から175件と大幅に増加し,新規に設定された目標についても増加した。さらに,修正された目標が31件あった。 保護者アンケートでは,新書式について96%が「満足」,目標の授業内容への反映について89%が「あてはまる」と回答があった。さらに,自由記述や連絡帳,面談において,「新しい書式は今できることや課題がわかりやすい。家庭でもがんばりたい」などのポジティブなコメントが寄せられた。考 察 個別の指導計画において,段階的な目標と手だて,短期間での評価機会を設定することで,児童一人一人の目標の達成と新規目標の設定が活性化された。また,児童に関する評価だけでなく目標や手だてに対する評価を行うことにより,実態に合わなかった目標や手だてについての振り返りが行われ,より実態に合った教育活動を提供できるようになった。達成した目標に加えて,修正した目標や手だては,児童の学びの過程の詳細な記録となると考えられる。付 記 本研究は筑波大学附属大塚特別支援学校小学部研究の成果であり,初村多津子氏,田中翔大氏,北村洋次郎氏,杉田葉子氏,菅野佳江氏,當眞正太氏,飯島徹氏,小家千津子氏,仲野みこ氏,新城理奈氏,との共同研究である。また,JSPS科研費18H1037による研究の一部である。
著者
田尻 由起 柘植 雅義
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.117-128, 2021-03-31 (Released:2021-09-30)
参考文献数
21

パリ在住邦人家庭の障害乳幼児の子育ての実態と支援課題を明らかにするために、6名の母親に対し半構造化面接を行った。インタビューを分析した結果、【フランスでの子育てに関する肯定的な捉え】、【フランスでの子育てに対する不安・戸惑い・困り感】、【言語・文化的障壁による情報収集・利用の制限】、【パリに住む邦人家庭障害乳幼児親子の子育て支援ニーズ】の4つのカテゴリーが示された。母親はパリでの子育てを肯定的に捉えつつも子育てに関する社会的資源については不安や戸惑いを感じていた。また支援ニーズとして言語的な支援の必要性、日本の医療や子育てに関する情報提供、発達に関する日本人専門家の存在が挙げられた。特に在留邦人であるが故の支援の脆弱さが、子育て困難さを増幅させ、邦人同士がつながりを持つための場と機会の提供は重要課題であった。今後は子育てに関する情報を発信しつつ、日系関連機関と連携しながら子育てを支援するシステム作りが必要である。
著者
烏雲 畢力格 柘植 雅義
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.11-24, 2021-05-31 (Released:2021-11-30)
参考文献数
54

本研究は、知的障害者95名を対象として、目標志向性と就労における自己調整方略および職務満足感の関連を検討した。因子分析の結果、目標志向性として「マスター目標志向性」と「パフォーマンス目標志向性」が、職務満足感として「外在的職務満足」と「内在的職務満足」が、それぞれ抽出された。パス解析の結果、(1)メタ認知的方略の「柔軟的調整」が行動・環境の調整方略を規定することが示唆された。(2)目標志向性と就労における自己調整方略の関連について、マスター目標志向性は「目標設定」と「柔軟的調整」及び「作業方略」と正の関連を有するほかは、「柔軟的調整」を媒介して間接的に行動・環境の調整方略を予測していると考えられる。(3)就労における自己調整方略と職務満足感の関連について、「援助要請」と「作業方略」は職務満足感と正の関連を有していた。また、目標志向性は職務満足感と正の関連を有するほかは、「援助要請」と「作業方略」を介して間接的に職務満足感を予測していると考えられる。したがって、知的障害者の職務満足感の向上に向けて、就労における自己調整方略に対する支援の重要性が示唆された。
著者
烏雲 畢力格 柘植 雅義
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.11-24, 2021

<p>本研究は、知的障害者95名を対象として、目標志向性と就労における自己調整方略および職務満足感の関連を検討した。因子分析の結果、目標志向性として「マスター目標志向性」と「パフォーマンス目標志向性」が、職務満足感として「外在的職務満足」と「内在的職務満足」が、それぞれ抽出された。パス解析の結果、(1)メタ認知的方略の「柔軟的調整」が行動・環境の調整方略を規定することが示唆された。(2)目標志向性と就労における自己調整方略の関連について、マスター目標志向性は「目標設定」と「柔軟的調整」及び「作業方略」と正の関連を有するほかは、「柔軟的調整」を媒介して間接的に行動・環境の調整方略を予測していると考えられる。(3)就労における自己調整方略と職務満足感の関連について、「援助要請」と「作業方略」は職務満足感と正の関連を有していた。また、目標志向性は職務満足感と正の関連を有するほかは、「援助要請」と「作業方略」を介して間接的に職務満足感を予測していると考えられる。したがって、知的障害者の職務満足感の向上に向けて、就労における自己調整方略に対する支援の重要性が示唆された。</p>
著者
末吉 彩香 柘植 雅義
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.19-32, 2020-03-31 (Released:2020-09-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究の目的は、自閉スペクトラム症 (ASD) 学生の就労支援の文脈で実施される就業体験を通した支援に関して、体験後の振り返りの面談の実態を明らかにすることである。ASD学生の就労支援に携わる支援者 (11名) に半構造化面接を行い、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ (M-GTA) を用いて分析した。その結果、 【支援者が感じる面談時のASD学生の特徴】【面談時の対応】【面談の対応方針 (事前)】【支援者が抱える支援上の困りごと】 の4つのカテゴリーが生成され、ASD学生の障害特性を含む特徴を考慮した面談中の具体的な対応や、具体的対応ではないが支援者が心がける留意点が整理された。特に、支援者は学生が自己を客観的な視点で振り返り、就業体験を肯定的に捉えられるような配慮を重視していた。同時に支援者が対応に苦慮する場合も示され、今後は本研究で得られた知見を生かし、就業体験をより効果的に提供するための振り返りの内容や方法の検討が必要だ。
著者
松村 暢隆 西村 優紀美 小倉 正義 田中 真理 桶谷 文哲 柘植 雅義
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

発達障害/学習困難児者の、得意・興味等の才能面を活かせる支援の体制・方法と、学校間の連携の在り方に関して、多方面の視点から調査、資料収集、プログラム実施を進めた。(1)シアトル市の教育委員会及び公立小中学校を訪問して、2E教育プログラムの実践研究の実態調査を進めた。2E教育として、才能教育と特別(支援)教育担当部署が連携して、家庭環境や障害の多様性のある児童生徒に公正なプログラムが実施されている様子が見て取れた。発達多様性のある「不協和感のある才能(GDF)児者」の特性を把握するために、自己評定「GDFチェックリスト」を開発して、6因子が見出された。(2)富山大学で発達障害のある高校生に向けた大学進学プログラム「チャレンジ・カレッジ」を開催した。「大学の障害学生支援」について説明を行い、発達障害学生から当事者の視点で大学の授業の一端が説明された。大会シンポジウムで、このような大学体験イベントは、支援ニーズのある高校生・保護者が大学に主体的に繋がれる貴重な場であることが共有された。また発達障害のある生徒の中で病弱や精神的な不調により入院・在宅を余儀なくされる生徒とその家族へのインタビューを行った。学習保障とクラスの仲間意識を育てるための取り組みの必要性を感じた。(3)一昨年度から実施してきた徳島県内の高校での教育相談体制・特別支援教育体制、および鳴門教育大学での体制整備・教職員への啓発・学外連携の在り方の検討を継続して行い、進展が見られた。加えて本年度は読み上げソフトなどのICTの通常学級への導入を促進するための研究、およびGDF児者に関する研究を開始し、一定の成果を得た。(4)大学進学を目指す中学生を対象として、自分の障害特性に関する理解とそれに基づいた事例検討を進めた。自己評価、他者に映る自己評価、他者評価との関連の中で、自己理解の様相を把握していくことの意義が示された。
著者
園山 繁樹 柘植 雅義 洪 イレ 酒井 貴庸 倉光 晃子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、知的障害特別支援学校に在籍する児童生徒の不登校について、主に次の2つのことを目的としている。第1に.知的障害特別支援学校における不登校児童生徒の実態を調査研究から明らかにする。第2に、知的障害特別支援学校において不登校になっている児童生徒の事例検討から、再登校や社会適応に向けた支援の在り方を明らかにするとともに、校内・校外における支援体制作りを提案する。平成29年度は主として以下の研究活動を行った。1.平成28年度に実施した知的障害特別支援学校を対象とした質問紙調査(不登校児童生徒の在籍状況や支援体制を明らかにするために、知的障害特別支援学校すべて(計865校)に質問紙を送付し、回収した)のデータを分析し、平成29年9月開催の日本特殊教育学会第55回大会でポスター発表した。現在、その詳細をまとめた論文を学術雑誌に投稿中である。2.知的障害特別支援学校において不登校になっている児童生徒の事例検討については、上記1の調査協力校10校を対象に実地面接調査を行い、不登校の児童生徒の状況の詳細、支援体制、具体的支援についてまとめた。その結果の概要については、平成30年9月開催の日本特殊教育学会第56回大会でポスター発表する予定である。3.知的障害児童生徒の不登校に関する先行研究のレビューを行い、その結果まとめた論文を学術雑誌に投稿中である。不登校の知的障害児童生徒を対象にした先行研究の数は非常に少ないことが明らかになった。
著者
烏雲畢力格 柘植 雅義
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 = Japanese journal of disability sciences (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.29-42, 2018

本研究は自己調整方略の主炭な要素であるメタ認知の調整、行動の調整、環境の調整に含まれている6つの方略を用い、知的障害者の作業遂行力を促進する自己調整方略の尺度を作成することを目的とした。併せて知的障害者の就労における自己調整方略の使用の実態を検討した。既存の尺度や、職員に対する調査から項目を収集し、また内容的妥当性の検討を経て項目を選定した。このように収集・選定された項目を基に、成人期知的障害者366名を対象に調査を実施した。その結果、48項目からなる知的障害者の就労における自己調整方略尺度が作成された。因子分析の結果、この尺度は、(1)「目標設定」「柔軟的調整」「援助要請」「作業方略」「環境の管理」の5つの下位尺度から構成されていること、(2) 得られたα係数値から尺度の信頼性が示されたこと、(3)「作業方略」「援助要請」「柔軟的調整」「目標設定」「環境の管埋」の順に得点が高いことが、それぞれ確認された。Self-Regulation Strategy at Employment are important variables to promote work performance in people with intellectual disabilities. The purpose of this study was to develop a scale of Self-Regulation Strategy at Employment and to examine the current condition of Self-Regulation Strategy at Employment in people with intellectual disabilities. Strategy items were collected from an existing scale form and a questionnaire survey to Employee support staff. After the content validity, the selected items were completed by 366 people with intellectual disabilittes. As a result, a 48-item Self-Regulation Strategy at Employment Scale in people with intellectual disabilities was developed. (1)Factor analysis yielded 5 subscales: "goal setting" "Flexible regulation" "Help seeking" "Task strategy" "Environment structuring", (2)The scale was confirmed moderately reliability from Cronbach's alpha coefficient, (3)Using level was high in the order of "Task strategy" "Help seeking" "Flexible regulation" "goal setting" "Environment structuring".