著者
中川 郁太郎
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.25-35, 2018 (Released:2019-08-31)
参考文献数
14

本研究報告は, 第二次世界大戦後40年に亘って続いたドイツ民主共和国 (旧東ドイツ) において, 伝統的な西洋音楽の専門教育がどのようになされたのかを, 特に声楽家の育成に着目し, 先行研究および資料の調査とインタビューとを通して, その一端を明らかにする試みである。第1章においては, 旧東ドイツ時代の音楽専門教育に関する先行研究をたどり, 第2章2. 1では, 資料から確認できるワイマール高等音楽学校の事例を参照し, 旧東ドイツの音楽専門教育の歴史を概観する。2. 2および2. 3では, 声楽教育に関する一次資料である, 元ライプツィヒ高等音楽学校教授ヘルマン・クリスティアン・ポルスターへのインタビューをもとに, 高等音楽学校の中で日常的におこなわれていた教育の在り方を検証する。第3章ではそれらを通して, 実効性ある音楽専門教育はいかにして可能か, という問題研究への端緒を拓くとともに, 今後の研究課題に言及する。
著者
岡田 恵美
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.13-23, 2019 (Released:2020-04-02)
参考文献数
25

本稿では, 近年, なぜインドの若年層を中心に北インド古典音楽の学習者が増加しているのか, という問題を三つの要因から検証した。第一の要因は, 若年層対象の古典芸術の普及活動が興隆し, 学校公演を通して古典音楽に触れる環境が若年層に興味・関心を萌芽させていること, 第二の要因として, インドの経済成長に伴う教育熱の高揚によって, 放課後のお稽古事として北インド古典音楽の学習が拡大している点を指摘した。幼少から親しむ映画音楽が学習契機の媒介となり, 毎年の古典音楽資格試験が, 学習継続の動機として機能している。また第三の要因として, 古典音楽の学習が大学進学受験とも関連している点を指摘した。インド最大の中等教育統一試験CBSE試験では, 北インド古典音楽の科目受験者の増加が顕著であり, その学習内容が前述の古典音楽資格検定試験のカリキュラムを踏襲し, 受験対策が幼少からのお稽古事と関係していることも明らかとなった。
著者
藤波 ゆかり
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-11, 2007 (Released:2017-08-08)
参考文献数
26

本研究は, 箏曲教習における楽譜普及の過程を, 雑誌『三曲』誌上の楽譜をめぐる論をたどる中から, 明らかにしようとするものである。箏曲教習における楽譜の使用は昭和10年頃には普及し, 昭和13年には近い将来に箏も楽譜での習得が慣例となることが予測されていた。組織的・体系的・効率的教授が必要な学校教育の中で楽譜が用いられるようになったことが楽譜普及の一要因となった。また楽譜が学校以外の場にも普及した要因としては, 晴眼の箏曲家が増えたことも挙げられる。地歌箏曲家の大勢が視覚障害者から晴眼者に移行していく過程と楽譜が普及していく過程は, 重なり合っている。 昭和期には, 楽譜を使うことにより生じる弊害として, 安易に教授の効率化が図られること, 楽譜に頼りすぎることによって仕上げが疎漏になること, 楽譜を用いた教授と従来の教授法が噛み合わないこと等が論じられた。楽譜の普及のための課題としては楽譜知識の普及と, 記譜法の整理統一という課題も挙げられた。
著者
尾崎 祐司
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.13-24, 2019 (Released:2020-08-31)
参考文献数
30

本研究の目的は, 加賀谷哲郎が我が国の特別支援教育の黎明期に「音楽療法」と呼んでいた, 障害者に対する音楽科の活動概念を明らかにすることである。その活動は, 小中学校学習指導要領 (平成29年告示) の「連続性・関連性」の概念と捉えられるからである。彼の活動の動機は, 小学校教員としてマイノリティ立場の子どもを指導した経験にあった。彼は中でも知的障害者に対する教育行政に問題意識を抱いていた。そのため, 子どもの「情緒の安定」に意義を見出した「音楽療法」を開発した。筆者は, 特別支援学校の学習指導要領が無かった時代に, 加賀谷が子どものどのような困難に教育ニーズを見出したのか, 彼の「療法」の概念を考察した。その結果, 彼は現行の特別支援学校学習指導要領の「自立活動」の目標と内容に相当する考え方を音楽科の学習に反映する必要性を訴えていた, と明らかにできた。
著者
西島 千尋
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.1-7, 2008 (Released:2017-08-08)
参考文献数
17

近年, 学校教育における「国際理解」「異文化理解」が注目されるようになっているが, 日本の音楽科において「異文化」教育の問題点が議論されることは少ない。そこで本報告では, 日本の音楽科に「異文化」が導入される直前の1984年から1985年にイギリスで交わされた「異文化理解」のあり方を巡る論争を取り上げ, 「異文化理解」教育の問題点と基本的な視点を提示したい。この論争は, イギリスの学術雑誌においてK. スワニクとG. ヴァリアミー及びJ. シェファードにより交わされた。「音楽」と認識されないものを「音楽」の授業で取り上げること, また「学校」という場で「異文化」を扱うことの可能性など, 「異文化」を導入する際に浮かび上がってくるはずの問題を示唆するところに, この論争の重要性がある。彼らの論争は日本における「異文化理解」教育にも有効な示唆を与えると思われる。