著者
杉田 政夫
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.13-24, 2018 (Released:2019-08-31)
参考文献数
19

近年, 欧米を中心に音楽教育の「社会正義」論が活況を呈している。本稿は, 哲学的背景を異にしつつも深く関連する下記3論文を検討し, 音楽教育における社会正義論の意義や重層性を提示することを目的とした。ヴォジョア (2007) は当該領域における社会正義の理論的源泉となってきたリーマー, エリオット, ウッドフォードの著述を取り上げ, 近代主義, リベラリズムの傾向を, ポストコロニアル批評を基軸に批判した。デイル (2012) はデリダの脱構築に立脚してリーマー, ウッドフォードを論評し, また自らの実践を例に正義の (不) 可能性を描出した。ウッドフォード (2012) はリベラル民主主義論に依拠して米国音楽教育史を政治分析し, リーマーや美的教育論の批判を展開した。いずれも社会・文化的「他者」への関わりに焦点化しており, 「多文化主義」には批判的論調であった。また音楽の社会的, 政治的機能やその問題を音楽教育の文脈で扱うことの重要性が示唆された。
著者
小泉 恭子
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-10, 2002 (Released:2017-08-08)
参考文献数
32
被引用文献数
1
著者
関口 博子
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.12-22, 2006 (Released:2017-08-08)
参考文献数
22

本稿は, 19世紀前期ドイツ語圏スイスの音楽教育・音楽文化において顕著なペスタロッチ主義による学校音楽教育の改革と合唱運動という2つの視点から, H. G. ネーゲリ (1773-1836) の音楽教育思想とその活動の歴史的意義を再評価することを課題とする。ネーゲリは, 従来の音楽教育史研究においてはもっぱらペスタロッチ主義の方法論者としてのみ評価されてきた。しかし彼は, それだけにとどまらず, 人間形成をその目的として学校音楽教育を出発点に, そこから民衆レベルの芸術運動まで展望し, ポリフォニーの合唱作品による人間としての「自立」と他者との「共立」という, スイスの近代民衆像を構想した。そして, そこまで一貫した理論を構築して実践し, さらにその実践を協会運動として構想・展開しており, それがネーゲリの音楽教育と合唱運動の近代性を際立たせている。つまりネーゲリの音楽教育の改革は, 広義の民衆文化の改革と創造の運動であったと言うことができる。
著者
山内 雅子
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.11-23, 2011 (Released:2017-08-08)
参考文献数
8

平成20年告示の学習指導要領において, 日本の伝統的な歌唱の指導がさらに重視されたものの, 音楽教師の多くが日本の伝統的な歌唱について専門的な知識と技能をもっていないことから, 実践に広がりが見られない。そこで, 一般的な音楽教師が指導可能な長唄の指導法を明らかにすることを目的として, 本研究に取り組んだ。 長唄のスペシャリストによる指導と長唄の経験のない音楽教師による指導の比較を通して, 歌唱の到達度を統計的手法を用いて検証すると共に, スペシャリストの指導と児童の変容の観察を通して, 一般的な音楽教師も適切な音源を用いて, 歌うときの姿勢と発声の仕方についてポイントを押さえた指導を行うことで, 長唄の歌唱表現の指導を行うことができることを明らかにした。また, 五線譜を用いないことの重要性や音源を聴いて作成する歌詞譜の有効性, さらに日頃の合唱指導との関わりについても言及した。