著者
山田 剛史
出版者
日本老年行動科学会
雑誌
高齢者のケアと行動科学 (ISSN:18803474)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.35-55, 2020 (Released:2021-01-01)
被引用文献数
1

単一事例データの評価のため,様々な統計的方法が提案されている。本稿の目的は,単一事例データのために開発された効果量 (Effect Size) を解説することである。さらに,効果量を用いて行われる,複数の単一事例研究の統計的な統合の手法であるメタ分析についても紹介した。マルチレベルモデルを用いた単一事例研究のメタ分析,単一事例データへのベイズモデリングの適用についても述べた。
著者
佐藤 宏美
出版者
日本老年行動科学会
雑誌
高齢者のケアと行動科学 (ISSN:18803474)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.82-97, 2022 (Released:2022-12-30)

人生の後半の生活の質の維持向上に,創造的音楽活動への参加の有効性が確認されている。一方で,楽器演奏などの経験の浅い高齢者が,音楽活動に参加する際の障壁の大きさが課題としてあげられる。そこで本研究では,伴奏追随機能付きの楽器「だれもピアノ」を用いて,高齢者のためのレッスンプログラムを開発し,実際に参加者を募りその有効性を探索的に確認することとした。6人の高齢者を対象に全8回のレッスンシリーズを実施し,気分の変化と日常生活における変化を質問紙調査により把握した。その結果,レッスンシリーズ参加前後の気分の「活性度」および音楽活動や対人交流に,前向きな影響が示された。これらより,「だれでもピアノ」が短期間で高齢者の自律性と有能感を高めうる有効なツールである可能性が示唆された。
著者
堀口 康太
出版者
日本老年行動科学会
雑誌
高齢者のケアと行動科学 (ISSN:18803474)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.66-81, 2022 (Released:2022-12-30)

本研究の目的は,組織公平性,組織からのサポート,役割葛藤および役割のあいまいさという3つの職場要因と高齢労働者の仕事への自律的動機づけとの関連を検討することであった。本研究では,組織公平性と組織からのサポートは,自律的動機づけと正の関連を示し,役割葛藤および役割のあいまいさと自律的動機づけは負の関連を示すという仮説を検証した。調査は,企業に勤務する高齢労働者771名に対して行い,558名から回答を得た(Mage=62.00歳, SD=1.35歳,男性93.7%[n=523],女性4.3%[n=24],不明2.0%[n=11])。重回帰分析の結果,組織からのサポートが自律的動機づけ(「内発・貢献・自己発揮」,「獲得・成長」)と正の関連を示し,組織公平性は「内発・貢献・自己発揮」と正の関連を示した。一方,役割葛藤は自律的動機づけと負の関連を示した。したがって,本研究の仮説はおおむね支持された。本研究から高齢労働者の仕事への自律的動機づけの維持・向上のためには,上司からの公平な人事評価,上司・同僚との間の支援的な関係性,そして,業務上の役割を明確にできるようなサポート等,支援的な組織づくりをしていくことの重要性が示唆された。
著者
荒木 乳根子
出版者
日本老年行動科学会
雑誌
高齢者のケアと行動科学 (ISSN:18803474)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.2-24, 2020

筆者は 1990 年に高齢者のセクシュアリティについての調査研究をして以来,約 30 年にわたって中高年のセクシュアリティおよび高齢者の性と介護に関する調査研究・事例検討を研究テーマにしてきた。本論文では,これまでの調査研究について,年代に沿って概要を述べ,そこから見えてきたことをまとめた。さらに調査研究をベースに上梓した主著を紹介した。中高年のセクシュアリティについては,日本性科学会セクシュアリティ研究会 (代表:荒木) での調査から夫婦間のセックスレス化が明らかになった。筆者らは性的な触れ合いは人生の後半の生を豊かにすると考え,セックスレスの要因を分析し,男女双方にとってより良い性生活を築くための提案を試みた。高齢者の性と介護については,職員への性的行動,利用者間の好意・恋愛に基づく性的行動を中心に述べた。前者では,利用者の性的行動をただ問題行動として抑止するのではなく,心理的内的欲求の理解に基づいて対応する必要性を提案した。後者では,利用者の QOL の充実に軸足を置いて,他の利用者や家族との調整を図っていく姿勢が望ましいとした。
著者
伊藤 順子
出版者
日本老年行動科学会
雑誌
高齢者のケアと行動科学 (ISSN:18803474)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.42-52, 2019 (Released:2020-01-20)
被引用文献数
1

本研究の目的は,高齢者ボランティア活動の意義と課題について,とくに参加動機とボランティア活動満足感,活動から得た利益および生活満足度との関連を明らかにすることである。研究の方法は,調査研究で,島根県東部地域でボランティア活動をしている 60 歳以上の高齢者約 500 名を対象に郵送調査を行った。分析方法は,相関分析,多元配置分散分析で分析した。 効回答数は 229 名であり,回収率は 43%であった。分析をした結果,ボランティア活動満足感,ボランティアから得た利益には,活動動機の自己志向性と他者志向性に有意な関連があった。両志向性がともに高いほど,ボランティア活動満足感,ボランティア活動から得た利益が多いこと,両志向性がともに低いほど活動満足感も得られた利益も少ないことが示された。また,統制変数とした活動開始時期が 10 年以上前の者にボランティア活動から得た利益も大きくなることも明らかとなった。生活満足度は,活動動機と有意な関連はなかった。
著者
大川 一郎 上倉 安代 清水 良三 益子 洋人
出版者
日本老年行動科学会
雑誌
高齢者のケアと行動科学 (ISSN:18803474)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.41-56, 2021 (Released:2021-12-25)

このコロナ禍の中,高齢者施設等で行われていた体操やからだを使ったレクリエーション等が感染防止という目的の中で控えられている。また,世界中で会議・講演・講義・研修が Zoom や Microsoft teams 等のアプリケーションを用いて行われるようにもなってきている。このような現状を踏まえ,本研究では,高齢者支援する人を対象にして,健康動作法による心理的支援のための実習(講義・実技)をオンライン(同時双方向)で行う方法論について取扱説明書という形で提示することを目的とする。具体的には,説明と実技という実習形式で健康動作法を行うための方法を,その準備から説明,実技,参加者へのアンケートという一連の流れの中で構造化し,そのポイントを提示し,チェックリストを作成し,それらを取扱説明書としてまとめていく。併せて,高齢者に実施する際の支援者サイドの留意点についての考察も行う。
著者
荒木 乳根子
出版者
日本老年行動科学会
雑誌
高齢者のケアと行動科学 (ISSN:18803474)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.2-24, 2020 (Released:2021-01-01)

筆者は 1990 年に高齢者のセクシュアリティについての調査研究をして以来,約 30 年にわたって中高年のセク シュアリティおよび高齢者の性と介護に関する調査研究・事例検討を研究テーマにしてきた。本論文では,こ れまでの調査研究について,年代に沿って概要を述べ,そこから見えてきたことをまとめた。さらに調査研究 をベースに上梓した主著を紹介した。中高年のセクシュアリティについては,日本性科学会セクシュアリティ 研究会 (代表:荒木) での調査から夫婦間のセックスレス化が明らかになった。筆者らは性的な触れ合いは人 生の後半の生を豊かにすると考え,セックスレスの要因を分析し,男女双方にとってより良い性生活を築くた めの提案を試みた。高齢者の性と介護については,職員への性的行動,利用者間の好意・恋愛に基づく性的行 動を中心に述べた。前者では,利用者の性的行動をただ問題行動として抑止するのではなく,心理的内的欲求 の理解に基づいて対応する必要性を提案した。後者では,利用者の QOL の充実に軸足を置いて,他の利用者 や家族との調整を図っていく姿勢が望ましいとした。