著者
木村 祥紀 土屋 兼一
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.121-139, 2023-07-15 (Released:2023-05-09)
参考文献数
33

核検知や核セキュリティ事案の現場において,迅速かつ正確な放射性物質の判定は,検知警報や事案への迅速な対応を行うための重要な技術的課題の一つである。本稿では,携帯型ガンマ線検出器に適用可能な深層ニューラルネットワークモデルを用いた放射性核種の判定アルゴリズムを提案する。本アルゴリズムでは,シミュレーションで作成した模擬ガンマ線スペクトルで学習した深層ニューラルネットワークモデルにより,各放射性核種に起因する計数寄与率(CCR)を推定し,放射性核種を自動で判定する。この自動核種判定アルゴリズムにより,放射線測定の経験や知識が十分でない核検知や核セキュリティ事象の初動対応者を支援することが可能となる。2種類の異なる深層ニューラルネットワークモデルを用いたアルゴリズムを高エネルギー分解能及び低エネルギー分解能の携帯型ガンマ線検出器に適用し,提案アルゴリズムの性能を評価した。提案したアルゴリズムは,実際の測定ガンマ線スペクトルにおける人工放射性核種の判定で高い性能を示した。また,深層ニューラルネットワークモデルによるCCR推定値を解析することで,235Uの検知やウランの自動分類にも適用できることを確認した。さらに筆者らは,提案したアルゴリズムの性能を従来の核種判定手法と比較し,深層ニューラルネットワークモデルベースの核種判定アルゴリズムの性能を向上させる具体的な方策についても議論した。
著者
野口 正安
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.49-56, 1987-02-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
4
被引用文献数
6 4

原子番号が1から92までの元素に対して, 光子エネルギーが10keVから10MeVの範囲で, 光電効果, コンプトン散乱, コヒーレント散乱, 電子対生成の4種の相互作用断面積を計算する近似式を求めた。いくつかの例外を除いて, 近似式による計算値は文献値 (理論計算値など) とよく一致している。この近似式を用いることによって, 元素組成あるいは重量比のわかった物質の質量減衰係数を容易に求めることができる。
著者
川端 由美子 菊田 大介 安斉 拓 望月 芳和 渡邉 博子 木村 委津子 宮澤 敬子 渡辺 園美 高橋 樹里 浜本 恵子 中村 早美 西間木 昌美 金山 裕子 三森 はるみ 泊 貴美江 宇野 公一
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.145-152, 2005-05-15 (Released:2011-03-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1 2

Recently, the number of clinical PET centers is increasing all over Japan. For this reason, the monitoring and control of radiation exposure of employees, especially nurses, in PET-dedicated clinics and institutions are becoming very important issues for their health. We measured the radiation exposure doses of the nurses working at Nisidai Diagnostic Imaging Center, and analyzed the exposure data obtained from them. The exposure doses of the nurses were found to be 4.8 to 7.1 mSv between April 2003 and March 2004. We found that the nurses were mostly exposed to radiation when they had to have contact with patients received an FDG injection or they had trouble with the FDG automatic injection system. To keep radiation exposure of nurses to a minimum we reconfirmed that a proper application of the three principles of protection against radiation exposure was vital.
著者
佐伯 誠道
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.328-336, 1970-07-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
73
被引用文献数
1 1

アイソトープによる海洋生態学の研究に関して若干の研究例を示すとともに, 海洋生態学と原子力との結びっきによる必要性から海洋放射生態学 (marine radioecology) が生態学 (ecology) の一部門として新たに目ざましく発達し, 人類の放射線防護上に直接の基礎知識を与えつつあることに言及し, この新分野の研究の動向を紹介した。
著者
石橋 信彦 鎌田 薩男 石田 和男 片瀬 彬
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.7-12, 1964-01-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

フッ素化合物中のフッ素と塩化ナトリウム中の臭素を14MeV中性子で放射化分析する研究を行なった。速中性子はCockcroft-Walton型加速器を用い, D-T反応により発生させた.分析すべきフッ素試料にはテフロン (およびテフロンFEP) , フッ化ナトリウム, フッ化カルシウム, およびケイ・フッ化ナトリウムを用い, 臭素試料には臭化ナトリウムと塩化ナトリウムの混合物を用いた。衝撃時間はフッ素試料に対しては120分, 臭素試料は6分とし, 50~70rpmの回転台上で衝撃した。衝撃位置での中性子束は通常約106n/cm2・sec程度であった。128チャネル (またはシングルチャネル) γ線スペクトロメーターおよび減衰曲線で調べた結果, フッ素試料から放射される7線は0.51MeVのγ線だけであり, このγ線は19Fの (n, 2n) 反応で生ずる18Fからのものであることがわかった。純臭化ナトリウムの場合には大きな0.51MeVの光電ピークと小さな0.62MeVのピークが認められた。前者は79Brの (n, 2n) 反応で生ずる78Brからのものである。大量の塩化ナトリウムが臭化ナトリウムと混合した試料の場合は, 0.51MeVのγ線の減衰は通常の片対数プロットを行なうとき直線にならない。この直線からのかたよりは34Clからのγ線によるものと考えられるので, 分析の場合にはこのγ線の放射能を全計数から差引いだ。これには純食塩を放射化させたときの放射能を用いた。0.51MeVの光電ピークの放射能から計算したフッ素および臭素の含量は化学分析値とよく一致した。塩化ナトリウム中の臭素は0.8%程度の含量まで比較的精度よく分析できることがわかった。
著者
三宅 定明 茂木 美砂子 大沢 尚 中澤 清明 出雲 義朗 中村 文雄
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.419-426, 1997-07-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

既報, 137Csをとりこませたメダカ, Oryzias latipes, の肉と混入した肉 (対照) の, 各放射性餌料投与によるキンギョ, Carassius auratus auratus, の137Cs濃縮機構を解明するため, メダカにとりこまれた137Csの生化学的存在形態について調べた。メダカにとりこまれた137Csは, 事実上非蛋白態窒素化合物 (NPNC) 区に存在し (92%以上) , 対照である無機の137Csを混入したメダカの肉との違いはほとんどみられなかった。また, NPNC区にっきゲルろ過分離を行ったところ, 137Csをとりこんだメダカの肉では, 対照および137CsCl水溶液と同様一つの放射能ピークのみが検出され, しかも各ピークの位置はそれぞれ一致した。一方, 蛋白質の各ピークの位置は, 放射能ピークの位置と異なり, とりこまれた137Csの大部分は, 蛋白質と結合していないことがわかった。さらに, シリカゲルを用いた薄層クロマトグラフィや, 陽イオン交換樹脂による分離, リンモリブデン酸アンモニウムとの反応においても, 137Csをとりこんだメダカの肉は, 対照である無機の137Csを混入したメダカの肉と違いはほとんどみられなかった。
著者
梶原 康宏 梶原 正宏
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.37-48, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
18

安定同位体を利用した研究報告は数多くあり,今後,益々発展していくと思われる。今回,その安定同位体の分離・濃縮技術,1970年代から現在までの研究事例として13C-標識化合物を用いたビタミンB12の生合成研究,既に医療の現場で広く普及しているHelicobacter pylori感染診断のための13C-尿素呼気試法の概要について紹介し,医学・薬学における安定同位体の利用についてまとめた。

1 0 0 0 OA FLASH Radiotherapy

著者
岩田 宏満 芝本 雄太
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.279-289, 2021-07-15 (Released:2021-07-13)
参考文献数
47
被引用文献数
1

FLASH Radiotherapyは超高線量率照射のことであり,「障害が軽減される特性」を有している。そのため,放射線治療の今までの概念を覆すものであり,臨床応用ができれば,放射線治療分野でパラダイムシフトとなる潜在的可能性を秘めている。本総説では,背景,生物学的内容,メカニズムや臨床応用へ向けた取り組みなどについて紹介する。
著者
蔵 忍 吉田 淳子 吉永 春馬
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.28, no.10, pp.642-644, 1979-10-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
2

1) 国産品と外国製品の3Hサーベイメータについて汚染材質による検出効率のちがいを比較した結果, ガラス, デコラの表面汚染の検出効率は高く, リノリウムはやや下がり, ベニヤ板やポリエチレンろ紙ではさらに低くてガラスの約2%程度であった。2) 読みとれる計数率すなわち検出効率には両者間で約100倍の差があるが, 読みとり可能な指示値で比較すれば, その検出下限はスポット状汚染で, Aloka2×10-3μCi, Eberline6×10-4μCiであった。これを表面密度に換算すると, Aloka4.4×10-5μCi/cm2, Eberline2.7×10-5μCi/cm2となる。
著者
村山 賢太郎
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.453-460, 2018-09-15 (Released:2018-09-15)
参考文献数
8
被引用文献数
3 6

D-シャトルは,株式会社千代田テクノルと国立研究開発法人産業技術総合研究所が共同開発した小型・軽量長電池寿命の電子式積算線量計である。D-シャトルは東京電力福島第一原子力発電所事故後に開発が進められ,2013年3月より一般に供給されているが,線量計部分と表示器を分離したために,高い信頼性を有する線量計を1年間という長期間作動させ,1時間ごとの線量を記録し続けることに成功した。また,電池交換の際に校正を実施することで,線量計測の品質を維持しつつ,一般市民が簡便に自身の線量を記録し,被ばく線量の低減に活用することを可能にしている。本稿では,この新しい線量計の概要を示すとともに,これを活用した福島県内外での線量調査の実施例についても紹介し,環境測定への応用や医療への応用など今後の展望についても示した。

1 0 0 0 OA 5.食品

著者
林 徹
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.363-373, 1998-04-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
8
著者
中村 綾子 大崎 進 早渕 尚文
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.343-352, 2001-08-15 (Released:2011-03-14)
参考文献数
12
被引用文献数
3 2

2000年6月から11月までの福岡県久留米市中央浄化センターの放流水と下水汚泥中の99mTc, 123I, 67Ga, 201Tl, 111Inと131Iの放射能濃度を測定した。あわせて, 処理区域内の四つの医療機関に対して, 患者に投与した放射性医薬品の投与量の調査も実施した。処理場の放流水中には, 投与量の99mTcでは約1.1%, 123Iでは約1.5%, 67Gaでは約4.3%, 201Tlは約0.4%の放射能が検出された。これらの核種の濃度は, 法令で定められた濃度限度の約1/100000に相当した。131Iは, 処理場の汚泥中のみで検出され, 放流水中では検出されなかった。汚泥中の131Iの有効半減期は, 汚泥の連続測定から概算して約5.5日であった。下水処理システムにおける核医学で使用した放射性核種の移行過程を, コンパートメントモデルを用いて分析した。その結果, 下水処理場へ流入している排水中の放射性核種の濃度が, 濃度限度の約1/10000から1/1000程度であると推察された。
著者
新吉 直樹 清野 智史 上垣 直人 藤枝 俊 植竹 裕太 中川 貴
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.171-177, 2022-07-15 (Released:2022-07-07)
参考文献数
13
被引用文献数
1

放射線照射により誘起される反応を利用し,Sn系ナノ粒子を合成した。SnCl2水溶液に60Co γ線を照射すると,金属Snナノ粒子が生成した。照射により生成する還元性活性種によりSn2+イオンが還元され,ナノ粒子化したものと考えられる。カーボン担体を添加して照射すると,SnO2ナノ粒子が得られた。担体表面に金属Snナノ粒子が分散担持することで微細化し,酸化したと考えられる。放射線を用いた合成法がスズにも適用可能であることが示された。
著者
Katsuyoshi TATENUMA Koji ISHIKAWA Akira TSUGUCHI Yuko KOMATSUZAKI Yumi SUZUKI Atsushi TANAKA Kiyoko KUROSAWA Tomoya UEHARA Yusuke HIGAKI Hirofumi HANAOKA Yasushi ARANO
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.501-513, 2014-11-15 (Released:2014-11-28)
参考文献数
24
被引用文献数
8 11

A new method to produce highly pure 99mTc of maximum 500Ci(1.85e+13Bq) per batch from a low specific activity 99Mo made from natural-Mo(n, γ) method is presented in this study.Authors developed a novel procedure to provide 99mTc of high specific activity and purity from 99Mo with a low specific activity obtained by the(n, γ) method. This process named TcMM(technetium master milker) with a new principle found out by the authors involves the selective adsorption of 99mTc onto an activated charcoal column, followed by an elution of 99mTc by warm alkaline solution, and final purification through an alumina column, which would be applicable to routine production of a large amounts of 99mTc from natMo(with 99Mo) within a short processing time and with a low cost.By the experiment using a high radioactivity of 99Mo of 1e+12Bq levels, a highly pure 99mTc free from natMo(with 99Mo) was obtained in a sterile saline solution within 30 - 50min. as the chemical form of 99mTcO4−, and the average 99mTc milking rate repeated 10 times got 93.5% and the radiochemical purity of the range of 6N - 7N.In the labeling experiments using several radiopharmaceutical kits,99mTc collected from the TcMM process gave the target medicines in a highly radiochemical purity.As the result of investigating the disposition behaviors of the above-mentioned 99mTc-pharmaceuticals using small animals(mouse), 99mTc collected from TcMM gave the same result as it eluted from the conventional 99mTc generator.The findings in this study suggest that the present method using natural isotopic 98Mo(n, γ)99Mo reaction would constitute as an alternative to the Fission Method using HEU to provide 99mTc useful for clinical studies.
著者
小林 泰彦
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.63-83, 2022-03-15 (Released:2022-03-16)
参考文献数
45

食品照射は多くの国のニッチなマーケットで成功し,照射による植物検疫処理も急増している。日本の食品規制当局は,ニーズが見えないことと社会受容の未熟を理由に規制の見直しに消極的だが,国による安全性評価とその結果の周知がない限り,消費者の誤解を解くことは容易でない。今まず必要なのは,社会受容のための消費者教育ではなく,照射食品の安全性と有用性を正当に評価し,消費者の誤解を恐れてニーズを言い出せない事業者に正確な情報を提供することである。
著者
浅井 祥仁
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.43-54, 2017-01-15 (Released:2017-01-15)
参考文献数
4
被引用文献数
1

LHC(Large Hadron Collider)で2012年ヒッグス粒子が発見された。ヒッグス粒子の発見は,「標準理論」最後の未発見粒子が発見されたというだけの話ではない。真空の概念を変えるこの発見は,時空や真空への物理へとパラダイムシフトへの幕開けである。この新しいパラダイムでは,宇宙の暗黒物質や暗黒エネルギーの理解や,宇宙誕生の謎に迫ることが期待されている。本解説では,ヒッグス粒子の基礎と,実験でどのように発見したかを解説する。